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第二章 空中編

第三十二話 悲報

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 闘技場から出た一行は、どこに行って休むか話し合っていた。

「なぁニキス、この国って宿はあるのか?」
「いや、ない。だから休むなら、地上に戻った方が良いだろう」
「私、門番さんにだけ正体を明かしてたから、サフィアちゃんみたいに行方不明って話題になってるかも。だから私は、サウスに行きたいわ」
「じゃあ、サウスに行きましょう。ニキス、背中に乗せてくれ」

 一行はニキスの背中に乗り、ニキスはサウスへと向かっていった。
 少しして、一行は地上にたどり着いた。

「さて、ここで良いかな。では、私は明日にお前たちが来ることを天界中に広めてくる。さらばだ」
「ニキス、お疲れ様。無理はするなよ」
「なぁに、あのくらいでぐったりするほど疲れるわけなかろう」

 ニキスは空へ去っていった。一行は、サウスの門に向かう。

「あ、ジシャン様。あれからどこに行ってたんですか。みんな心配してましたよ」
「ごめんなさい。あのときはちょっと忙しくて、正体を隠していたわ。今日こそは王様に会うつもりよ」
「そういえば、サフィア捜索会のおかげで賢者たちが解放されたとか聞きましたが、それに関係してるのですか?」
「ええ、そうね。それはもう、色んなことがあったわよ。さあ、通してもらえるかしら」
「あ、失礼いたしました。今、門を開けます」
「みんなは、私の家で待っていてね」
「ああ。晩ご飯までには帰ってきてくれよ」

 一行とジシャンは別れた。
 レイフは合鍵を使い、ジシャンの家に入った。他の者たちも後を追った。

「外が騒がしくなってきたな。ジシャン歓迎会でもやってるのか」
「そりゃあ魔王を倒したからな。それに、奴隷の解放も手柄になってるだろうし。下手したら晩飯に間に合わないかもしれないな」

 そんな話をしていると、扉をノックする音が聞こえた。

「僕が出ます」
「きちんと誰か確認してから開けるんだぞ」

 ラルドは扉の穴から覗き、何者かをうかがう。そこに立っていたのは、カタラだった。ラルドは扉を開けた。

「カタラ、何か用か?」
「ふふーん、これ、見てみろよ」
「あ! それは……」
「そうそう。俺たちも悪魔を引き剥がしたお礼としてこれをもらったんだ」

 カタラは自慢げにバッジを前に出す。

「どうだ? ほんの一瞬で追いつかれた気分は」
「ちょっと悔しいけど、良かったな。それで、お前たちも明日から天界へ行くのか?」
「ああ。どっちが最初にサフィア様を見つけるか、タイムアタックだ。時間は明日の八時スタートだ。覚えとけよ」
「わかった。話は終わりか?」
「俺たちはサフィア様を見つけた後にやるべきことがあるんだ。もしお前たちが負けたら、それを手伝ってもらうからな」
「わかった。……もう良いか?」
「ああ。話したいことは全部話した。それじゃあな」

 カタラはワイバーンに捕まると、空へ去っていった。

(あいつ、どこで寝泊まりするつもりだ?)

 ラルドは心配そうに空を見ていた。

「ラルド君、どうしたんだい?」
「ああいえ、カタラが勝負をしかけてきたんですよ」

 レイフの声で我にかえり、扉を閉めた。

「なるほど。つまり、カタラと競争するわけだな」
「そうですね。早いもん勝ちです」
「まったく、あいつは競うのが好きだよな。お前をとてもライバル視してやがる」
「まあ、同期だしな」
「ま、それはどうでも良い。さあ、晩ご飯まで魔王スゴロクやるか」
(どうでも良いのか……)

 ラルドはカバンから魔王スゴロクを取り出し、エメと遊び始めた。
 日が沈みかけの時間に、再度扉がノックされた。ラルドは扉を開けにいった。立っていたのは、ジシャンだった。

「ジシャン様、おかえりなさい。どうでした?」
「スピーチをさせられたわ。私、プレッシャーには弱いのに、ひどいわよね」
「どんなスピーチをされたのですか?」
「賢者たちの解放と、魔王討伐の二つのスピーチよ。喉が枯れるかと思ったわ」
「お疲れ様でした。料理、僕が手伝いましょうか?」
「あら、助かるわ。ありがとう」

 ラルドは奥の部屋へ案内された。そこはまるで魔女の部屋のようだった。巨大な鍋が部屋の真ん中にあり、中は黄緑の液体で満タンになっている。

「やることは簡単。この鍋の中に入れる前に調理方法を頭の上に思い浮かべて、食材を入れる。少しして出せば、想像したとおりの料理が出来あがるわ。今日はサウスウオを焼いちゃいましょう」
「凄い鍋なんですね」

 ラルドは焼けたサウスウオを想像しながら、鍋に入れた。少しして引き上げてみると、完璧に焼けていた。それを皿に乗せていく。

「さあ、食卓に持っていきましょう」

 二人は皿を手に持ち、リビングへ持っていった。既に待機していたレイフとウォリアとエメは、鼻をひくつかせていた。

「うーん、良い匂いだ。さぞ美味いんだろうな」

 一行はサウスウオを食べ始めた。
 食べ終えた後、一行は明日に備え寝る準備を始めた。

「それじゃあ、おやすみ、ラルド君」
「はい。おやすみなさい」

 レイフとウォリアは二階で、ラルドとジシャンとエメは一階のソファで寝始めた。

「エメ、もっと端っこにいけないか」
「そんなにソファを広々使いたいのか。じゃあ俺は床で寝るよ」
「ありがとな」

 今度こそ、二人は眠りについた。

(……お、夢だ。今回はあの光の壁、突破できるかな)

 ラルドは空を泳ぎながら、光の壁の方へ進んだ。

(カタラたちに先を越されないように、天界がどんな場所か予習しておこう)

 光の壁を越えて天界に入ることが出来たラルド。更に上に泳ぎ、天界を見下ろす形になった。

(姉さん、どこにいるかなー?)

 ラルドは天界を見渡す。天界はまるで遺跡のような場所で、どこにも生物の気配を感じない。遠すぎたと思ったラルドは、少しずつ下に泳ぐ。

(そういえば、竜はどこにいるんだろう。ニキスの仲間がいるはずなのに、全然見当たらないや)

 ある程度下がったところで、ラルドは襟を何者かに掴まれた。その影響で、ここより下に泳ぐことが不可能になった。
ラルドが振り返ると、そこには竜がいた。気がつくと、周りを竜に取り囲まれていた。ラルドを八つ裂きにしようと、大量の竜が集まってくる。

(しまった、これは悪夢だ)

 ラルドはバッジを竜たちに見せつけた。それを見た竜たちは、大人しく離れていった。

(とにかくニキスか姉さんを探そう。話はそれからだ)

 ラルドはそこら中を泳いで、サフィアとニキスを探し始めた。悪夢なので、いるとは思えなくても、目覚めるまで希望を捨てない。

(ニキスー! 姉さんー!)

 夢の中で叫ぶが、一向に何者かが来る気配はない。

(ちっ、今回の夢は大ハズレか……)

 ラルドが目覚めようとしたそのとき、どこから現れたか、ニキスがこちらに向かって急接近してきた。

「ラルド、待て! 話さねばならないことがある!」
(えぇ、もう目覚めちゃうよ)
「……ならば目覚めたらすぐに私を呼べ。場所はこの前の大きな岩のある場所で良い」
(わかった。それじゃあ、また後で)

 翌朝、一番に起きたラルドは、大きな岩のある場所へ向かおうとする。しかし、門はまだ閉まったままで外に出られなかった。時計を確認すると、まだ五時だった。朝が早い門番でも六時までは寝ている。ラルドはどうやってニキスから話を聞くか迷い始めた。

(とりあえず、ジシャン様の家へ戻ろう)

 ジシャンの家へ戻ると、ジシャンが出てきた。

「ラルド君、どこに行こうとしてたの?」
「いや、あの大きな岩のある場所に行こうとしてたんです。だけど、まだ門が閉まってて行けませんでした」
「なんであそこに行こうとしたの?」
「ニキスを呼ぶためです。夢の中ですぐに呼び出してくれって言われたんです」
「うーん、それなら人間に化けた状態でここに呼び出せば良いんじゃないかしら」
「わかりました。それでやってみます」

 ラルドは人間の形になる指示を魔法陣に書き込み、ニキスを召喚した。

「お、ラルド、とうとう呼び出したか……って、ここはどこだ? なぜか身体も人間っぽくなってるし……」
「ここはジシャン様の家だ。まだ門が開いてなくてあそこに行けなかったから、ここに呼び出した」
「そうか。ラルド、夢の中で言ったように話さねばならぬことがある」
「どうしたんだ?」
「天界から、お前の姉、サフィアが姿を消したんだ」
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