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第三章 ウスト遺跡編

第四十三話 何かのボス

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「全員まとめてかかってくるが良い。一掃してやる」

 何かのボスは、光線を放つ部位をフル回転させ、光線の円を作り出した。ちょうどラルドの髪をかすめるほどの高さで、一行は避けるのに苦労する。

「しゃがんだは良いが、これじゃ攻撃出来ないな……」
「いつまでもそんな格好してて良いのか? 俺は近距離戦も強いぞ」

 少しずつ一行に近づいてくる何かのボス。情報屋たちはナイフを投げるが、それは弾かれてしまう。一行も風の呪文や火の呪文、爆発呪文で攻撃を繰り返すが、ちょっと後ろに下げる程度で、ダメージになっていない。

「あと少しで援軍が来る。そのときがお前たちの終わりのときだ」
「ジシャン、そいつらはお前に任せた。俺たちはこいつに集中させてもらう」
「わかったわ」

 ジシャンの爆発呪文で、後ろから走ってくる何かたちは志半ばで処理されていく。一方レイフは、攻撃の通せそうなところを探している。情報屋もボスを囲むように匍匐し、弱点を探す。下手に攻撃すれば、その瞬間に光線が一点に集中し放たれてもおかしくなく、緊張状態が続く。

「どうした? もう少しで俺の攻撃圏内に入っちまうぞ」
「やっぱり最初はあの光線を放つやつをなんとかしないとな……あの隙間にさえ攻撃を通すことが出来たら、きっと……」

 光線を放つ部位はところどころに隙間があり、そこを斬ってしまえば光線は無力化出来るとレイフは考えた。しかし、その隙間はどんな細い剣でも入らないほど狭く、物理攻撃は通用しないだろう。レイフは風の呪文を応用した空気の刃を飛ばす呪文を使った。すると、光線を放つ部位の隙間にほんの少しだけへこみが出来た。これだと思ったレイフは、ラルドとウォリアに同様の呪文を放つことをお願いした。

「ラルド君、これは習うより慣れろだ。何回か撃ってれば、そのうち刃になる。後ずさりながら、少しずつ削っていこう」
「わかりました。なんとかやってみます」

 部位を斬られそうになっていることにボスが気づいていないうちに、レイフたちは刃を何度も飛ばす。前の方が半分以上削れたのか、光線の狙いが下を向く。しゃがむだけでは避けられず、立っていれば足を攻撃されてしまう。ラルドが風の呪文を使い少し浮遊状態になることによって今のところはなんとかなっている。しかし、それを見たボスが部位を破壊されそうになっていることに気づき、部位を頭の中にしまった。その後一瞬で部位をまた出した。削られていたはずの部分が、完全に回復している。

「いやー、あと半分くらいだったのに、おしかったな」

 ボスはまた部位をグルグル回し始めた。

「せっかく削ったのに、一瞬で回復されるとは……」
「レイフ様、あいつ、頭が割れるとき無防備じゃないですか? 中身をわざわざ露出させてるので」
「問題は、あの一瞬だけカパッと開く頭をどう攻撃するかだな……」
「策はあります。またあそこに攻撃して、頭を割る瞬間を作り出しましょう」
「今度はそう簡単には食らわないだろう。情報屋のように散り散りになって、刃を放つんだ」

 三人は情報屋にも協力を求めた。ナイフの細さなら、部位の隙間に刺さるのではないかと考えたからだ。当然空気の刃も放つ。また削れてきたことに気づいたボスは、頭を開き、部位をしまおうとした。そのとき、ラルドは空に叫んだ。

「ニキス! 今だー!」
「たぁぁぁ!」
「な、これは、竜の声……」

 ボスは急いで割った頭を元に戻そうとする。しかし、慌てすぎて部位が邪魔をして元に戻せなかった。中身にニキスが渾身のパンチをかます。

「がっ……ピー、ピー。損傷率が高いです。回復に専念するため、一時的に停止いたします」
「ニキス、ナイスだ」

 ニキスとラルドはハイタッチする。ボスは頭が割れたまま、地面に横になった。一行と情報屋は急いでボスの元へ駆け寄った。

「停止するって言ってたな。今のうちに、こいつから武器になりそうな部位を剥がすか。みんな、それで良いか?」
「いっそトドメを刺した方が良いんじゃないか? また俺たちに攻撃してくるかもしれない」
「ウォリア、俺はこいつをラルド君にテイムしてほしいと思ってる。人の夢の中に入れる奴だ。そうぞうしんの言う通りなら、夢の世界も捜し回らなくちゃいけない。そのとき、きっと役に立つはずだ」
「そっか。なら、こいつから武器になるものを剥ごうか」

 一行は武器になりそうな物をボスから剥ぎ取っていく。両腕にくっついた剣、腹部についた一瞬だけ出る槍、背中のアーム、頭の中につまった数々の武器、全てを剥がしていく。最終的には、丸っこい穏やかな見た目になった。他の部分に武器を隠していないか探したが、どうやらもうないようだ。

「ふぅ……これで済んだな。後は縄で縛り上げて、無理矢理テイムするだけだ」
「でも、レイフ様。僕に出来るでしょうか……姉さんの本に載ってなくて、どうやったら仲間になってくれるかわかりません」
「そうだそラルド。そいつをテイムするのは俺の方が向いている」
「あ、カタラ。まだ後ろをつけていたんだな」
「ラルド君がやたら後ろを気にしてたのは、お前たちが来てたからか。俺たちと会わないように黙っていたんだな。悪いが、こいつをテイムするのはラルド君だ。わかったら、とっとと帰れ」
「そう言われても、帰るわけにはいかねぇなぁ。お前たちがラルドのそばにいる限り、俺たちが監視しなければならない」

 そう話し合っていると、ボスから音が聞こえた。

「ピー、ピー。回復完了。人格システムを起動します……は! ここは!」
「ようやく目を覚ましたか」
「ちっ、縄で縛って、武器を奪って、なぜ生かしておいたんだ」
「お前の夢の世界に入る力がほしい。だから、俺たちの仲間になってくれないか? この子はテイマーなんだ」
「まだそんな夢を抱いていたのか。ダメだ。俺はこの遺跡の番人。外に出てしまえば木っ端微塵さ」
「それで、外に出る方法を探してたんだな」
「お前、あのときなんで笑ったんだ?」
「さあな。とにかく、外に出られさえすれば良いんだな?」
「それだけじゃない。俺の身体はお前たちとは全然構造が違う。それの説明もしなくちゃならない。でも、俺とお前たちじゃ文明が違いすぎて何も伝わらないだろう」
「じゃあ、古代文明のことを良く知れば良いんだな?」
「まあその二つだな。とてもお前のようなガキに出来たことじゃないと思うが」
「そうだよな。ここはやっぱり俺についてくるってことで……」
「お前も同じ穴の狢だろう? ラルドの記憶にいたから知っている」
「お、俺は自力でテイムしているんだ。ラルドは本に書かれたことを実行して無理矢理テイムしてるがな。だから、俺は同じ穴の狢じゃない」
「ほう、そうかい。だからって大人しくついていくと思うか? お前もラルドも、俺のことは諦めるんだな」
「じゃあ、一つだけ。ここにお宝が埋まってるってのは本当か?」
「ほう。外ではそんな噂がたってたんだな。そんな物はない。とっとと去れ」
「ちぇっ。だったら意地でもお前をテイムしてやる。覚悟しとけ。あとレイフ、いつどこにいても俺たちの目が輝いていることを忘れるなよ」
「はいはい。二度と俺たちの前に現れるなよ」

 カタラたちはワイバーンに乗り、どこかへ去っていった。日も沈んできており、ラルドたちも帰ろうかと考えていた。

「そろそろ帰るか……」
「そうだ。君の名前を書いておきたい。それくらい良いだろう?」
「俺の名前……? 名付けられたのが大昔だからもう忘れた」
「じゃあ、君の名前は……今日からダイヤだ。これからそう呼ばせてもらうよ」
「まだ俺を諦めていないんだな……その根性だけは認めてやるよ」
「いずれはテイムすることも認めさせてやる。覚悟しておけ」
「はいはい。さあ、日が沈む前にとっとと帰っちまえ」

 一行はニキスの背中に乗り、シリョウ村方面の道へ飛んでいった。情報屋たちは遺跡を調べるため残った。

(フフ……テイマー、か……。あの女もしつこかったな。あいつの弟か……)

 そのままダイヤは眠りについた。
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