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第三章 ウスト遺跡編

第五十一話 紋章の岩

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 久しぶりにツカイ村へ入った一行。たまたま洗濯物を取り込んでいたトパーに鉢合わせた。

「あら、ラルド、おかえりなさい。またカタラ君たちと喧嘩したの? みなさん、カタラ君とその仲間たちを背負っていらっしゃいますが」
「母さん、こいつらに絶対僕たちがどこに行ったのか教えないでくれ。心の声も漏らしたらダメだよ」
「あら……同胞同士、仲良くしなくちゃ。仲間割れなんか起こしてたら、いつまでもサフィアは見つからないわよ」
「捜してもないくせに、そんなこと言うなよ。とにかく、黙ってて」
「そう……あなたがそこまで言うならそうするわ。でも、後で必ず仲直りしてね」

 ラルドはうなずくと、カタラを背中から下ろした。他の者たちも背中から下ろした。トパーは横になったカタラたちに近づき、薬草を身体中に塗りつけ始めた。

「それじゃあ母さん、行ってくるよ」
「あら、早いわね。お父さんには会わなくて良いの? 今日は珍しく暇そうにしてるから、たまには顔を合わせてあげたらどうかしら?」

 ラルドは一行と相談し、一人だけでルビーに会うことを決めた。一行が先にウスト遺跡に向かった後、ラルドはルビーの元へ向かった。
 家に入ると、リビングで机の上に足を組みながらボーッと天井を見つめているルビーがいた。ラルドは早速話しかける。

「父さん、久しぶり」
「おおラルド、とうとう帰ってきてくれたか。これでまた家が活性化するぞ」
「いいや、僕にはまだ行かなくちゃいけない場所がある。姉さんを見つけるために」
「そっか……俺としては、これ以上お前に辛い思いをさせたくないんだがな。どうしても行きたいのか」
「父さん、僕、この旅は辛くないよ。仲間もいっぱい出来たし、知らなかったことも知れたし、きっとこれからもそうだよ。だから、大丈夫。必ず姉さんを連れて戻ってくるから」
「ふーん……まあ、好きにしたら良い。お前の人生はお前の物だからな。でも、たまには帰ってきてくれ。最近は家が静かで寂しいんだ。出来た仲間たちを連れて、パーティーでもやろう。それじゃあな」
「さようなら、父さん」

 ラルドは家から出て、ウスト遺跡向け駆け出した。
 ウスト遺跡中央部に着くと、一行が一斉にラルドの方に顔を向けた。

「ラルド君、戻ってきたか。それじゃあ早速……と言いたいところだが」
「なんです?」

 レイフは斜陽を指さした。

「もうじき夜になる。エメ君の催眠がなくても寝られるだろうから、話は朝に聞かせてくれ」
「あれだけ寝たのに、まだ寝られますかね……」
「ラルド、俺の催眠は特別だ。通常の睡眠に悪影響を及ぼしたりはしない。信じられないか?」
「信じるよ。今は全然眠くないけど、日が落ちればきっと眠くなるはずだ」
「そこで夕食をどうするか話し合っていたんだが、どうやらオークたちが料理を持ってきてくれるらしい。今晩はそれをいただこう。そして、それを食ったらふかふかの布団で寝よう。夢の世界の旅を快適にするのに、寝具は重要らしいからな」
(さっきは草っ原で寝たけど、特に支障なかったけどなぁ)
「ダイヤ君とラルド君はフンス君の家で一緒に寝てくれ。近い方が夢の世界もリンクしやすいだろ、きっと」
「そうだな(別に近さとかは関係ないんだがな。ここは周りに合わせておこう)」
「俺たちは別のオークのテントに入れてもらうよ。明日、夢の内容を教えてくれ。それじゃあ、おやすみ」

 一行は解散し、明日へ備え始めた。ラルドとダイヤはフンスのテントに入る。

「ラルド、まーだサフィアの首は見つからないのか? どれだけ俺たちを待たせるんだい! えぇ!?」
「そう怒るなよ。今捜してるところだから」
「……まあ良い。どうせ契約してしまったんだ。俺は抵抗出来ない。ほれ、飯だ」
「ありがたくいただくよ」

 ラルドは夕食を一瞬で平らげた。ダイヤには口がなく、食事を必要としなかった。

「お前、食わなくて大丈夫なのか?」
「俺は普通の生物とは違うからな。バッテリーを積んでるんだ」
「なんだそりゃ」
「まあ、あまり気にするな」

 食事を終えた三人は、布団を敷いて横になった。フンスの寝息がうるさく、二人はなかなか眠れなかった。この機会にと、寝てしまう前にラルドはダイヤに質問をした。

「ダイヤ、君は最初、紋章の岩について何か知っていそうな素振りを見せていたよな。そのときには既に過去の記憶が戻っていたんじゃないか?」
「いいや、ぼやけて良くわからなかった。大事な岩だっていうのだけを覚えてた。まさか俺の元人格の死体が埋まってるとは思ってなかった」
「きっとあの岩には、下にお前が埋まってる以外の何かがあるはずだ。次の夢では必ずそれを訊きだすぞ」
「オッケーオッケー。にしても、寝にくいな。うるさくて。自分のいびきで目覚めたりとかしないのか? まったく」
「我慢しろ。とにかく寝ることだけに集中するんだ」
「そうは言ったって、こんなうるさいから寝られるわけないだろ。鼻を摘めば、止まるだろうか」

 ダイヤはフンスの鼻を摘んだ。フンスは一瞬息を止め、いびきがおさまった。

「よし、今だ。夢の世界で落ち合おう」

 二人は夢の世界へと入っていった。
 ラルドはまたダイヤの夢の世界へ案内してもらい、花畑を切り裂き、割った。今回はどうやら落ちるときだったようで、二人ともかなり慌てる。

「こ、これ、ちゃんと着地できるんだよな? 間違って地面に激突したら、どうなってしまうんだ?」
(まあ、ゆ、夢の中だからなんとかなるだろ、多分……)
「多分って……」
(落ちてみなきゃわからないさ。今は流れに身を任せよう)

 二人は空中で少し泳ぎ、城門に降り立つようにした。まもなく、地面へと着く。

(念のため足を下向きにしよう。頭でもぶったら危ない)
「足だって安全じゃないだろ」
(それじゃあ今すぐにでも目覚めて落ちないタイミングを探すか? このチャンスを逃したら明日に向けて果報を届けられないぞ)
「……ちっ、仕方ない。ケガでもしたら責任とれよ」

 二人は足を下向きにし、無事に着地できるよう祈った。そして、ついに地面に着地するとき。膝を曲げ、着地する体勢に入った。しかし、降り立つ瞬間にとても強力な力で一瞬ふわっと浮き、何事もなく着地出来た。

(ほら、上手くいった。夢の世界をなめたらダメだぞ)
「一体今の浮力はなんなんだ……?」
(僕の風呪文を一瞬だけ本気で地面に向かって放ったんだ。現実だと疲れることでも、夢の世界ならへっちゃらだ)
「そうか。それじゃあ王に会いに行くか」
((感謝の一言もなしかよ……))

 二人は門番に事情を伝えて中に入れてもらおうとした。門番の一人が王に確認をとり、中へ入れてくれた。二人は応接室で王が来るのを待ち続けた。王を待つ間、二人で紋章の岩について考察する。

「この国にもきっと呪文……ダイヤたちの言うファンタジーな物が、昔はあったんだろう。その頃のための魔導機だと思うんだ」
「魔導機か。でも、普通、必要なくなった魔導機をわざわざ残しておくか? 下手したら戦争してる相手に有利になることだぞ」
「墓だから残してるんだろきっと。それまでとっておいたのは良くわからないけれど」
「うーん、ただで答え合わせするんじゃ面白くないよな。どうだ? 賭けごとでもしないか? お前の予想が当たってたら……えーっと……」
「思い付かないならやめておけ。足音が聞こえる。もうすぐ来るだろうし」
「ちっ。人間らしいことをしようとしただけなのに」

 扉をノックする音を聞いた二人は、会話をやめる。扉を開けて王が入ってきた。何やら片手に本を持っていた。

「待たせたな。すまない。ちょっと本を探していてな」

 王は持ってきた本を開き、紋章の岩について記されたページを見せてきた。ラルドは文字が読めなかったが、代わりにダイヤが文字を読んだ。

「この岩は、機械だ。中に様々なコンテンツが入っており、他の機械を動かせる範囲を制限したり、今は機能をストップしているが、魔導機としての機能を持っていたりする。しかし、何よりこの岩には……ここだけページが破られていますね」
「そうだ。他の本も読んでみたが、どの本もその部分だけ破られていた」
(禁忌術に凄く似てる)
「同じような物なのだろうな。なんとかここを歪めることは出来ないか?」
(やってみる)

 ラルドは頭に手をつけ、必死に念じた。しかし、破られた部分は復活しなかった。

「その力を持ってしても、ここはダメなのか。創造神なら、知っているだろうか」
(そうぞうしんを知っているのか?)
「私たちの世界を創ったとされる者だ。実際いるかどうかは知らない」
((そうか……ニキスを呼んで、この時代のそうぞうしんに会えば、わかるかもしれない))

 ラルドは立ち上がり、お礼を言ってから応接室を去っていった。後をダイヤが急いで追う。

「おいラルド! どうしたんだよ!」
(良いことを思いついたんだ。そのかわり、明日になってからじゃなきゃいけないけどな)
「良いことってなんだ?」
(この時代のそうぞうしんに会う。それで、破かれた部分に書かれていたことを訊くんだ。そのためには天界へ入る必要があるが、この時代にスカイ王国はない。だから直接行くしかないんだが、この時代の天界にでも入れる可能性がある奴がいるんだ。そいつを明日、呼ぶ)
「今日はこれで夢を終わらせるってことか?」
(ちょっとこの時代の物を見たいから、後の時間は観光だな。わからない物があったら、ダイヤが教えてくれ)
「あまり深入りしすぎるなよ。また争いの火種を生むことになる代物ばかりだからな」
(うんわかった)

 二人は目覚めるまで、夢の世界を楽しんだ。
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