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第四章 地下編

第七十六話 荷物

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 翌朝、一行はウスト遺跡で目を覚ました。早速レイフがエメに訊ねる。

「エメ君、どれくらいの量の荷物なら持てるんだい?」
「そうだなぁ……俺を中心とした円……ウォリアの身長分くらいなら持ってけると思う。それくらいあれば十分だろ?」
「試しに物を横になったエメ君の周りにたくさん置いてみよう」

 レイフたちは夢の世界に持っていきたい物を横になったエメの周りに置いていく。全部置き終えたところ、ちゃんと範囲内に収めることが出来た。

「しかし、こんな大量に持ち込むのか。運ぶのが大変そうだ」
「そこは俺たちも手伝うから大丈夫だ」
「俺の夢の世界には入ってくるなよ。プライバシーの侵害だからな。運ぶのを手伝うのは、俺の夢の世界から出た後だ」
「わかった。別に君の夢の世界に用事はないから、そこは安心してくれ。さあウォリア、夢の世界でしっかり戦えるように、修行するぞ。オークたちに協力してもらおう」
「そうだな。ニキスをイースから追い出したときよりも更に強くならねばな。しかし、練習相手がオークなのはちょっと弱くないか?」
「その言葉、聞き捨てならんな」

 フンスのテントからフンスが出てきた。

「俺たちは既にここに強欲な冒険者どもが入ってこられないように警備をしている。ハッキリ言って今のお前たちよりも強い奴だって相手にしてるんだぜ? だから、めんどくさいけど練習相手になってやるよ」
「でもフンス君、カタラたちはあっさり通してたよな? あれは負けたってことか?」
「あれは負けじゃない。そもそも戦っていないからな。でも、もし戦えば勝つのは俺たちだったろうな」
「なんで通したんだ? 一番通しちゃいけない奴だろ」
「ラルドの友達って言うからな。喜んで会わせてやった。結局は喧嘩になって終わってしまったみたいだがな」
「ふん。当然だ。あんな奴とまともに会話など出来っこない。さあ、そんな話はいいからさっさと修行だ。強いオークを二人ここへ連れてきてくれ。他の子たちは、自由時間としよう」

 ホウマ以外の者たちは、それを聞いて大人しく別の場所に行った。

「レイフ、僕も呪文の修行をしなくちゃいけない。ジシャン様と修行させてもらう」
「君の強さ、俺たちは未だ知らないからな。修行の傍ら、見せてもらおう。フンス君、ジシャンを呼んできてくれ」
「へーい」

 フンスはテントからジシャンを連れてきた。ジシャンは眠たそうに目をこすっている。

「ふぁーあ。ホウマ君、寝起きだから上手く指導してあげられないかもしれないけど、許してね」
「やってるうちに目覚めてきますよきっと。さあ、僕を指導してください」

 こうしてレイフ、ウォリア、ホウマの修行が始まった。
 一方他の者たちは、修行の様子を眺めていた。ラルドは、自分たちにも修行が必要なんじゃないかと思い始めた。

「ニキス、僕たちも修行しよう」
「なぜ私なんだ。元の力が弱いテイマーが鍛錬を積んだところでたかが知れてるぞ」
「テイマー自体が強いって姉さんは言ってたぞ」
「私が天界から眺めていて自身が強かったテイマーなぞお前の姉くらいしか知らないぞ」
「何かポテンシャルを引き出す物があるのかな。姉さんの本でも読んでみよう」

 ラルドは久しぶりにサフィアの本をカバンから取り出した。目次から、テイマー自身が強くなれる方法が書かれてないか探す。すると、それっぽいことが書かれていた。

「テイマーの強さを引き出す方法……ってある。きっとここに姉さんが見つけ出したテイマー自体の強さを上げる方法が書かれているんだな」
「驚いた。私にはそんなこと教えてくれなかったんだがな」
「とにかく読んでみるよ。みんなは修行するか?」
「俺は特に修行する必要ないかな。戦力というより睡眠の力でサポートする役割だし」
「私は……そうだな、破壊神に弱点がないか、創造神様に訊きにいくか」
「じゃあこれを貸してやる」

 ニキスはラルドからコンパスを受け取った。

「あーあー。創造神様、聞こえますか?」
「えぇ、バッチリよ。でも、父に関する情報が果たして見つかるかしら。城の下にその情報があれば良いんだけど……」
「見つけ次第連絡ください。私は老いた竜たちに訊ねて回ります」
「あら、結局こっちに来るのね」
「座りっぱなしでいるわけにはいきませんから。ラルド、これ、しばらく借りてて大丈夫か?」
「良いよ。そのかわり、ちゃんと返してくれよ」
「オッケーオッケー。それじゃあ天界行ってくるわ」

 ニキスはコンパスを握りしめ、天界へ飛んでいった。残るはダイヤとシンジュの二人だ。

「二人はどうする?」
「俺は武器を復元するかな。出来れば戦いとかしたくないんだけど、破壊神相手じゃ俺の科学力なくして戦えないだろうしな」
「私、戦い、好きじゃない。心読むだけ。他はしない」
「わかった。それじゃあシンジュはゆっくりしていてくれ。ダイヤは、とうとう武器を復元するんだな」
「こんな剣と魔法の時代じゃ破壊神には勝てんだろ」
「確かに、あれだけ頑丈なニキスを痛がらせるくらい強いビンタを放てるそうぞうしん様、父親となると、そのくらい強くてもおかしくないな。ところで、剣と魔法の時代ってなんだ?」
「俺の夢の中で見ただろ。あの乗り物とか。ウスト王国には科学力という概念があった。尤も、お前の生きてるうちにあのレベルまで文明は進まないけどな」
「かがくりょくか……魔導機はどうだ? 機ってついてるくらいだし、お前の別の呼び名である機械と何か関係がありそうだけど」
「まあ、近いかもしれないな。だが、呪文止まりだろうな」
「呪文よりも凄い力……光線を出せるアレとかか」
「こんな話で時間を潰して良いのか? さっさとその本読んだ方が良いぞ」
「あ、そうだった。ごめんな、長話しちゃって」
「俺も武器の修理に時間をかけることにしよう」

 一行はそれぞれのやるべきことをやり始めた。

「レイフ、お前の剣術、同じ剣を持つ者に対しては非常に有効だ。だが、お前が戦う相手は剣を使わないのだろう? 巨大な生物で、武器は手のみなのだろう? 俺が巨大化して手だけで相手してやるから、かかってこい」
「オークにそんな力があったとは……」
「このくらいの大きさか?」
「ああ。それくらいだ。他の奴らの邪魔にならないと良いけどな……」
「さあ、改めて始めるぞ」
「ああ」

 レイフは再び剣を握りしめ、もう片方の手に呪文を宿した。

「ウォリア、お前の戦法は完成されていると思う。攻撃に徹するのではなく、敵を縛ったり、その頑丈な肉体と鎧で敵の攻撃から仲間を庇ったり。あとは呪文耐性だけだろう。俺はあいにく呪文が使えないから、あっちでやりあってる二人のところに行け」
「呪文耐性か……一日でどこまで耐えられるようになるか。いや、男として、戦士として、そんな悩みを抱えていてはダメだな。最大限やろう」

 ウォリアがジシャンとホウマの元へ向かうと、ジシャンがホウマに呪文を教えてもらっていた。

「ホウマ君、怨念が消え去ったから弱くなったって言ってたけど、十分出来るじゃない」
「え? これで十分なんですか?」
「ごめんね。的みたいなのを持ってきてたら全力を教えてあげられたけど、残念なことに的を持ってないの。だから「待て。俺が的になろう」
「ウォリア、どうしたの? 頭の筋肉が暴走してるの?」
「いや、オークから呪文耐性をつけろと言われてな。どんな呪文でも受け止められるように、お前たちと修行したいのだ」
「そう。でも、ホウマ君の呪文は凄いわよ。あなたに耐えられるかしら?」
「そんな脅しは通用しない。俺は戦士だぞ」
「あらそう。じゃあホウマ君、的が来てくれたから、本気の修行、しちゃおっか」
「はい!」

 ウォリアはホウマから放たれる七色の呪文を受け止める。威力が徐々に上がり、ウォリアの顔が苦痛に歪む。

「くっ……まだまだいける。もっと強くしろ」
「ウォリア、無理はしないでね。死んじゃったら困るから」

 ホウマは呪文の威力をどんどん上げていった。それと同時に、ウォリアの身体に呪文耐性が出来ていった。
 各々の修行は、日が暮れるまで続いた。
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