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人間が獣人の圧倒的な力を欲し、獣人を支配下に置こうとした。そして獣人王の逆鱗に触れ、人間が逆に支配される側になった。数百年を遠く超えて、千年近くも前から始まった支配力は、いまだ衰えてはいなかった。
シーデリウム帝国は数年に一、二度、定期的にヌプンタ国から五十人ほどの人間を集める。国中から集められた人間は、帝国に貢ぎものとして献上され、二度と故郷の地を踏めない。獣人の命令は絶対だ。ヌプンタの王は、献上品として民を差し出すことで隷従の証とする。
「お、おれ…は………」
「すまない……私たちを助けてくれ、ルト」
ルトは震える拳を握り締めるだけに留まらず、薄い唇も噛み締める。何度か息を吸って、ようやく声を絞り出した。今、ルトが言うべき言葉を、同時に村長が望む言葉を。
「――いい…です。謝らないで、ください。俺が行くことで、それで、村の人たちが家族と離れ離れに、ならないのなら……」
ルトに家族はいない。この国に、大好きな村に帰ってこられなくても、本当にはルトの帰りを待ち続けてくれる人はどこにもいない。安い命だ。それをルトは知っていた。
そうだとしても、この村の人や、あんなに純粋な子どもたちを犠牲にするなど、ルトにはできなかった。
無情にも、出国の日はあっというまだ。ジャンがいつ獣人を見たかはわからない。だが、村人を差し出せと伝令を受けた村長は、おそらくぎりぎりまで悩んでいたのだ。
ヌプンタにも早馬はあるし、シャド村から少し離れた町には役所もある。わざわざ獣人が田舎村まで出向かなくても、ヌプンタの王命が下されれば町役場の人間が走ってくる。それを役場の人間とともに、獣人が足を運んでくるとは。バーラ狩りとは、獣人にとってそこまで重要な行事なのだろうか。
ルトはどこか冷静になりながら、王宮から遣われた馬車に乗った。馬車の前では村長をはじめ、アデラや子どもたちが、ルトとの別れを惜しむ。
「いかないで、ると、やだ、やだぁ、いなくなっちゃやだ」
舌足らずな言葉で泣きべそをかくのは、母親に抱かれたリドリーだ。まだ三歳で、好奇心が旺盛な子だ。どんなに難しい動作でもルトの真似をしたがって、とてとてといつもルトのあとを追ってくる。できないことがほとんどだが、たまにできると大喜びして、ルトに褒めてもらうのが大好きな子。
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