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1、捨てられた俺
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「最っ低っっ! 地獄に落ちろっっ! この、クズ野郎っっ!」
「えっ! ちょっ! まって、まって!」
横綱だって真っ青になりそうな見事な突っ張りに押されて、押されて、流されて。
寝室から押し出されてきた俺が、たどり着いたのは玄関だった。
そのままドアにどこんとぶつかる。
普通に痛い。
一瞬、抱きしめにきてくれたのかな?って、勘違いするくらい近付いてきたかと思ったら、ちょうど腰のあたりからガチャっとノブのまわる音。
あれっと思わず見下ろした顔は、鬼だってびっくりしちゃう般若顔だ。
とどめどばかりに振り上げられた怒れる美脚に、どかっと部屋から蹴り出される。
俺はよろめいて、そのまま情けなくも尻もちをついた。
「これあげるから、いますぐ消えろっっ! どっか行けっっ!」
ついさっき、脱いだばかりの服が、丸められて後ろから飛んできた。
空中でふわっと広がって、シャツとスーツはばらばらになる。
一番重いコートだけが、俺の前にべちゃっと落ちた。
散らばってしまったシャツとスーツを、俺はコートを肩にかけながら、急いでかき集めていく。
いくらなんでもボクサーパンツ一枚で、真冬の真夜中はツラすぎる。
「ねぇ、ごめんっ! 謝るからっ、許してよっ!」
かき集めた服を抱えて部屋に戻ろうとする俺に、革靴まで飛んでくるのが見えて慌てて避ける。
俺に避けられた革靴は、片方ずつぼこぼこっとまぬけな音を立てながら、正面の壁にぶつかって落ちた。
マンションのコンクリ上で、裸足のまま踊るのは、誰も笑わない無様なタップダンス。
そこらじゅうに落ちてる砂利のせいで足の裏がとにかく痛いし、打ちっぱなしのコンクリはめちゃくちゃ冷たい。
靴下、靴下はどこだろう。
「二度と来んな! もう、顔も見たくないっっ!!」
最後に、びゅんと鞄が飛んで来て、今度は避けきれなかった俺の顔面に命中した。
ビジネスバッグは、何でできてんの!ってくらいかたくて痛い。
それから、俺が痛がってる間にドアが閉められて、無情にも鍵のかかる音。
ばたん、がちゃん。
その音は、俺の愛人生活終了の合図でもあった。
「……はは、地獄に落ちろ、だって……まあ、仕方ないか。本当にクズだもんな、俺」
自分が、クズだってことは、ちゃんと自覚してる。
これは、ダメなことだろうなと思っても、流されてしまう自分が悪いってことも。
今日、たまたま会って、昼飯を奢ってくれた女と寝た。
それが、彼女のライバル会社の女社長だと知っていたのに。
まあ、向こうも俺が彼女の秘書だとわかっていて声をかけてきてるのだから、間違えるはずもない。
きっと、たまたま会った、なんて事実はないんだ。
そこそこお高いご飯を食べてから、近くのホテルに連れ込まれた俺は、言われるまま女の中に入り込んで素直に腰を振った。
わざわざ、する前に鎖付きの首輪なんてはめるから何事かと思っていたが、さっき彼女が言っていた台詞で腑に落ちた。
「『あんたの犬は、誰にでも尻尾を振るのね』って言われたわ! 本当なの!」
なるほど、それが言いたかったのかと。
センスはないが、俺は好きだ。
振っていたのは腰だけれど、まあまあうまいことを言うものだと感心してしまった。
そのせいで、謝るタイミングを失して、彼女を怒らせてしまったのだが、どう返したところで昼間その女と寝てしまった罪は消えない。
俺は素直に頷いて、彼女の部屋から蹴り出されることになった。
いつからクズなのか、俺にだってわからない。
気が付いたらこうだったし、俺はこういう生き方しか知らない。
誰も、他の生き方を教えてはくれなかった。
誰かに施しを受けたら、それ相応の対価が必要になる。
ただでもらえるものなんてない。
なにもしなければ、勝手にむしり取られていくのだ。
この体にはそれが染み付いている。
染み付くまで、わからされた。
だから、俺が差し出せる対価なんて、最初からこの体しかないってことくらい、俺はちゃんと知っているのだ。
ガチガチ震えながら服を着て、出来るだけ風が当たらないように階段の隅に踞った。
こんな時間、終電なんてとっくに終わってるし、タクシーに乗るようなお金なんてあるわけがない。
それに、そもそもあの場所に帰りたくなくて、女の家に住ませてもらってたから、電車が動いていたって帰りたいとは思えなかった。
どこでもいい、あの場所に帰らなくて済むところなら。
朝まで居られそうな場所すら思い付かなくて、俺はそのまま座り込んだ。
うー、コンクリ冷てぇ。
尻が凍りそう。
もう誰でもいいから、俺のこと拾ってくんないかな。
「えっ! ちょっ! まって、まって!」
横綱だって真っ青になりそうな見事な突っ張りに押されて、押されて、流されて。
寝室から押し出されてきた俺が、たどり着いたのは玄関だった。
そのままドアにどこんとぶつかる。
普通に痛い。
一瞬、抱きしめにきてくれたのかな?って、勘違いするくらい近付いてきたかと思ったら、ちょうど腰のあたりからガチャっとノブのまわる音。
あれっと思わず見下ろした顔は、鬼だってびっくりしちゃう般若顔だ。
とどめどばかりに振り上げられた怒れる美脚に、どかっと部屋から蹴り出される。
俺はよろめいて、そのまま情けなくも尻もちをついた。
「これあげるから、いますぐ消えろっっ! どっか行けっっ!」
ついさっき、脱いだばかりの服が、丸められて後ろから飛んできた。
空中でふわっと広がって、シャツとスーツはばらばらになる。
一番重いコートだけが、俺の前にべちゃっと落ちた。
散らばってしまったシャツとスーツを、俺はコートを肩にかけながら、急いでかき集めていく。
いくらなんでもボクサーパンツ一枚で、真冬の真夜中はツラすぎる。
「ねぇ、ごめんっ! 謝るからっ、許してよっ!」
かき集めた服を抱えて部屋に戻ろうとする俺に、革靴まで飛んでくるのが見えて慌てて避ける。
俺に避けられた革靴は、片方ずつぼこぼこっとまぬけな音を立てながら、正面の壁にぶつかって落ちた。
マンションのコンクリ上で、裸足のまま踊るのは、誰も笑わない無様なタップダンス。
そこらじゅうに落ちてる砂利のせいで足の裏がとにかく痛いし、打ちっぱなしのコンクリはめちゃくちゃ冷たい。
靴下、靴下はどこだろう。
「二度と来んな! もう、顔も見たくないっっ!!」
最後に、びゅんと鞄が飛んで来て、今度は避けきれなかった俺の顔面に命中した。
ビジネスバッグは、何でできてんの!ってくらいかたくて痛い。
それから、俺が痛がってる間にドアが閉められて、無情にも鍵のかかる音。
ばたん、がちゃん。
その音は、俺の愛人生活終了の合図でもあった。
「……はは、地獄に落ちろ、だって……まあ、仕方ないか。本当にクズだもんな、俺」
自分が、クズだってことは、ちゃんと自覚してる。
これは、ダメなことだろうなと思っても、流されてしまう自分が悪いってことも。
今日、たまたま会って、昼飯を奢ってくれた女と寝た。
それが、彼女のライバル会社の女社長だと知っていたのに。
まあ、向こうも俺が彼女の秘書だとわかっていて声をかけてきてるのだから、間違えるはずもない。
きっと、たまたま会った、なんて事実はないんだ。
そこそこお高いご飯を食べてから、近くのホテルに連れ込まれた俺は、言われるまま女の中に入り込んで素直に腰を振った。
わざわざ、する前に鎖付きの首輪なんてはめるから何事かと思っていたが、さっき彼女が言っていた台詞で腑に落ちた。
「『あんたの犬は、誰にでも尻尾を振るのね』って言われたわ! 本当なの!」
なるほど、それが言いたかったのかと。
センスはないが、俺は好きだ。
振っていたのは腰だけれど、まあまあうまいことを言うものだと感心してしまった。
そのせいで、謝るタイミングを失して、彼女を怒らせてしまったのだが、どう返したところで昼間その女と寝てしまった罪は消えない。
俺は素直に頷いて、彼女の部屋から蹴り出されることになった。
いつからクズなのか、俺にだってわからない。
気が付いたらこうだったし、俺はこういう生き方しか知らない。
誰も、他の生き方を教えてはくれなかった。
誰かに施しを受けたら、それ相応の対価が必要になる。
ただでもらえるものなんてない。
なにもしなければ、勝手にむしり取られていくのだ。
この体にはそれが染み付いている。
染み付くまで、わからされた。
だから、俺が差し出せる対価なんて、最初からこの体しかないってことくらい、俺はちゃんと知っているのだ。
ガチガチ震えながら服を着て、出来るだけ風が当たらないように階段の隅に踞った。
こんな時間、終電なんてとっくに終わってるし、タクシーに乗るようなお金なんてあるわけがない。
それに、そもそもあの場所に帰りたくなくて、女の家に住ませてもらってたから、電車が動いていたって帰りたいとは思えなかった。
どこでもいい、あの場所に帰らなくて済むところなら。
朝まで居られそうな場所すら思い付かなくて、俺はそのまま座り込んだ。
うー、コンクリ冷てぇ。
尻が凍りそう。
もう誰でもいいから、俺のこと拾ってくんないかな。
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