一緒に暮らしてみたら楽しい

うしお

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2、拾われた俺

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「誰でもいいんですか?」

「……えっ?」

気が付いたら、誰かが俺を見下ろしていた。
すぐ近くにいるはずなのに、逆光だからなのか、黒っぽい人影となった人物の顔は良く見えない。
けど、声からすると男だろう。
一瞬、なんと言われたのかわからなくて、まぬけな声が出た。

「貴方、いま、誰でもいいから、拾ってほしいと言いませんでしたか」

「え……? 言った、のかな? 俺、いま、口に出してた……? 確かにそう思ってはいたけど……言った、のかな……? ねぇ、アンタは、誰?」

どうやら無意識に呟いていたらしい。
寒すぎて、おかしくなってたのかな、と思いつつ男を見上げる。
もし、万が一これで、男がいきなり俺を蹴るような人間だったら逃げないといけない。
俺はお腹を蹴られても大丈夫なように、鞄を抱えている腕に力を込めた。

「拾ってあげましょうか?」

「え?」

「貴方のこと、拾ってあげましょうかと言ったんですよ。ここは、寒いでしょう?」

「寒い、けど……俺なんか拾ってどうすんの?」

これまで、何度も誰かに拾われてきたが、男に声をかけられるのは初めてだった。
女なら、対価として体で支払い慣れている。
それなりに、いいところもわかるし、どうしたら悦ぶかも知ってるから安心だ。
だけど、男は?
いままで、男としたことはないし、どこがいいのかさっぱりわからない。
男でも、俺に抱かれたいと思うのだろうか。

「どうしましょうか? 貴方は、何をされたいですか?」

「なにそれ、決まってないのに俺を拾うの?」

「だって、貴方は拾って欲しいのでしょう? だから、拾うんですよ。でも、目的がないと駄目なら、少し困ってしまいますね。ただ拾いたいから拾うのでは駄目ですか? 私は拾ったものでも、ちゃんと大事にしてあげますよ」

こてんと首を傾げたその男が、軽くあごを撫でながら、すごく真剣な声でそんなことを言うから、少しだけ、そうほんの少しだけ気になってしまった。
ちゃんと大事にしてもらえる。
それって、どんなことなんだろう。

「……本当に?」

気が付いたら俺はそう聞き返していて、その時点ですでに、ちょっと拾われてもいいかなって気持ちになっている自分がいた。
まだ、顔もよく見えていないのに、鞄を掴んだ手からは少し力が抜けている。
こんな風に無防備にしてたら、不意打ちで蹴られて痛い目をみるかもしれないのに、どうしてなのか、警戒心がほどけてしまう。
なんでだろう、不思議な感覚だ。

「ええ。私は、貴方が何処の何方と性交してきてもかまいませんよ。それが、私の知り合いでも、ライバルでも、どんなモノでも気にしませんから」

「もしかして、……さっきの、全部、聴こえてたりする……?」

俺が追い出された事情を全部知ってるとわかる言葉に、ちょっと恥ずかしくなって顔が火照った。
確認する言葉だって、もしょもしょといまにも消えちゃいそうな小声になる。

「ええ、私の家は、すぐ隣ですので」

「俺……クズなんだよ」

「ご自分でクズだとおっしゃるんですか? 面白い方ですね」

「……だって、みんなからそう言われるし、俺もそうなのかなって思うし」

「いいですよ、貴方がどのような方でも。私は、見捨てたりしませんから」

「……変な人」

「そうですか? まあ、そうかもしれませんね。でも、面白い貴方と変な私なら、案外釣り合いが取れると思いませんか? さあ、ここは寒いですし、そろそろ私に拾われてはいかがでしょう?」

「そろそろ拾われたら……って、本当に、変な人」

けど、俺は拾われちゃってもいいかなって、思ってしまった。
男が差し出してくれる手を、躊躇いながらもしっかりと掴んだ。
寒いからなのか、すごく冷たい手だ。
こんなになるまで付き合ってくれたのか、と思うと申し訳なくなる。

「じゃあ、拾ってください」

「ええ、拾いますね」

「お願い、します?」

「こちらこそ、よろしくお願いいたします」

立ち上がって見た男の顔は、すごく綺麗で思わず息を飲んだ。
男とも女とも、見ようによってはどちらにも見えてしまうような中性的な顔立ち。
異国の血でも混じっているのか、灰色がかった髪と青灰色の瞳は日本人らしくない色だけど、この男にはすごく似合っている。

「どうかしましたか?」

「……っ、お、男の人で合ってる?」

「ええ、性別は男ですよ。良く女性に間違われますが」

「そうなんだ。……綺麗だもんね」

「……綺麗、ですか? まあ、貴方がそう感じるなら、この顔で良かったです」

青灰色の瞳が、長いまつげの向こうから、俺を優しく見つめている。
あまり見られたことのない目だ。
もしかして、俺、もう大事にされはじめてるのかな?

「さあ、ここは寒いですから、部屋へ行きましょうか?」

繋いだ手を引かれ、引き寄せられた腰に手が回される。
まるで、女の子みたいにエスコートされながら、俺は男の部屋に足を踏み入れた。
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