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1、スペシャルコース
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最近、腹回りが気になるようになってきたので、プチジムなるものに通うことにした。
つい先日、ちょうどよく新規ジム会員募集のチラシが、ポストの中に入っているのを見つけたのだ。
入会金がいらなかったことや、キャンペーン中ということで実際のトレーニングを体験できるお試しチケットなるものがチラシについていたことが、よいきっかけになった。
しかも、このジムに会員登録をする際、名前以外の個人情報は求められない。
普通なら登録するべき、連絡先や住所などを伝える必要が全くないのだという。
ただひとつ、偽名を使うことだけは禁止されていたが、それは当たり前のことだろう。
本人確認の際に提示する免許証も、コピーを取られるどころか、俺が持ったままただ見せるだけで終わった。
本当に名前を確認するだけのために、提示させているのだということが嫌でもわかるあっさりとした対応だった。
それに、高額な入会金だけで稼ぐようなジムではない、ということも、俺にとってはかなりの好印象だった。
高額な入会金だけ払って、あまり通えなかったとなれば、どうしたって損をした気分になってしまうものだが、その心配は最初からない。
何よりもチケット制ということで好きな時間に好きな分だけ通える、というのが怠けやすい俺にもぴったりのジムだった。
少なくとも、チラシについていたチケットの分はタダでトレーニングすることができるのだし、本当に嫌なら通わなければいいと思えば気楽なものだ。
連絡先も住所も知られていないのだから、行かなくなったとしてもジムから連絡が来る心配もない。
しつこい勧誘をされる心配がないというだけでも、通ってみようかと思えてしまった。
いつだって尻込みさせられるのは、やめたあとの関係の煩わしさだ。
ズボンのベルトに、簡単に乗っかってしまうようになったぽよぽよの贅肉を憎く思っていた俺は、珍しく即決してそのジムに行ってみることにしたのだった。
あわよくば、他のぷよぷよとしているところも一緒に引き締めたい、と思っている。
『プティカリーノ』では、マシントレーニングはもちろん、ちょっとした空き時に自宅でもできる簡単なトレーニングや、ストレッチまで教えてくれるのだという。
珍しいことに、男性専用ジムということで、ついつい気にしてしまう女性の視線がないというのが、何よりも嬉しかった。
みっともなく汗だくになっても、男同士なら人の目を気にせずトレーニングを続けられるというのは、ストレスがなくていい。
これまでにも何度か危機を感じ、動画などを参考にして自己トレーニングにはげんだことはあるのだが、ついつい忙しさを理由にしてすぐにサボってしまいがちだった。
そんなだらしない自分を監視してもらうためにも、ちゃんとしたところに通うべきだと思っていたのだが、まわりの目を気にするようなところではやはり続けられなかっただろう。
よくぞここを選んだと、何度目になるかもわからない自分の判断を褒め称える。
正直、自分のだらしなさはよくわかっていた。
お試しチケットを使ってですら、半分くらいは失敗すると思っていた。
「さあ、間宮さん。しっかりお腹の内側にある筋肉を意識しましょう。インナーマッスルを鍛えておけば、腰痛の防止にもなりますから、がんばりましょうね」
「はっ、はいぃっ」
簡単なトレーニングですら、すぐに息を荒くしてしまう俺だが、トレーナーの三田村くんは優しくはげましてくれる。
彼は、俺のようなぽっちゃりしたおっさんにも優しい。
おかげで、すぐにやめることになるだろうと思っていたプチジムも、お試しチケットを全部使い果たすだけでなく、本会員登録を経て通いはじめてから、もう半年を過ぎようとしていた。
「間宮さん、今日もしっかりトレーニングできてますよ。ほら、あと少しだけ、もう少しだけ、がんばってみましょう。大丈夫、がんばり屋さんの間宮さんなら、やりとげられますよ」
「はっ、はいぃっ」
俺を厳しく追い込みながら、にこりと笑うイケメンな三田村くん。
汗だくなおっさんの俺がもらうには、もったいないくらいの素敵な笑顔だが、この笑顔のおかげでがんばれている気がする。
俺はゲイじゃないんだが、この笑顔を向けられるとときめいてしまうというか、顔がいいからなのか、褒められると嬉しくなっていつもよりもがんばれてしまうのだ。
ここに通うことにして、本当によかった。
◆◆◆
ある日、半年間、真面目に通ったご褒美に、スペシャルコースを無料で体験できるというので申し込んでみた。
スペシャルコースは個室で行うものらしく、ジムの個室に初めて入った俺は、思わずきょろきょろと辺りを見回してしまう。
思っていたよりも小さく感じるその部屋は、入り口を除くすべての壁が、天井から床まで全部鏡になっていた。
どこを見ても、自分の姿がしっかりとうつっているのがよく見える。
周囲の鏡を物珍しげに見てまわる姿は、まるで初めて都会にきたおのぼりさんだ。
何となく恥ずかしくなって、鏡を見れなくなってしまう。
そうなると、次に気になるのは、ほとんどがらんとしている個室の真ん中にある大きなブランコのようなもののことだ。
天井から頑丈そうな四本の鎖で吊り下げられているそれは、座面にあたる部分が平らではなく、横から見るとかまぼこのように盛り上がっていた。
大人が三人以上並んで座れそうなくらい長く、俺の膝くらいの高さで浮いている。
それほど高くない位置にあるのに、どこか不安定な印象を受けた。
近付いてみると、何でできているものなのか、表面はつるりとしている。
何故か、片側にだけ穴のようなものが三つ開いていた。
一直線に並んだ三つの穴には、しっかりとふたがされており、その中がどうなっているのかはわからない。
ただこれに座って、ブランコのようにゆらして遊ぶようなものではないだろう、ということだけはわかった。
この部屋にある以上、これはトレーニングに使うものなのは間違いないだろうが、実際のところ、どのように使うものなのかは見当もつかない。
これについては、三田村くんの説明を待つことにしよう。
彼ならきっと、初心者の俺にもわかりやすく教えてくれるはずだ。
あと気になるのは、奥の鏡の前に置かれた配膳用のカートに似たものくらいで、わかりやすいトレーニング器具のようなものは見つからなかった。
ここでは、どんなトレーニングをさせてくれるというのだろうか。
つい先日、ちょうどよく新規ジム会員募集のチラシが、ポストの中に入っているのを見つけたのだ。
入会金がいらなかったことや、キャンペーン中ということで実際のトレーニングを体験できるお試しチケットなるものがチラシについていたことが、よいきっかけになった。
しかも、このジムに会員登録をする際、名前以外の個人情報は求められない。
普通なら登録するべき、連絡先や住所などを伝える必要が全くないのだという。
ただひとつ、偽名を使うことだけは禁止されていたが、それは当たり前のことだろう。
本人確認の際に提示する免許証も、コピーを取られるどころか、俺が持ったままただ見せるだけで終わった。
本当に名前を確認するだけのために、提示させているのだということが嫌でもわかるあっさりとした対応だった。
それに、高額な入会金だけで稼ぐようなジムではない、ということも、俺にとってはかなりの好印象だった。
高額な入会金だけ払って、あまり通えなかったとなれば、どうしたって損をした気分になってしまうものだが、その心配は最初からない。
何よりもチケット制ということで好きな時間に好きな分だけ通える、というのが怠けやすい俺にもぴったりのジムだった。
少なくとも、チラシについていたチケットの分はタダでトレーニングすることができるのだし、本当に嫌なら通わなければいいと思えば気楽なものだ。
連絡先も住所も知られていないのだから、行かなくなったとしてもジムから連絡が来る心配もない。
しつこい勧誘をされる心配がないというだけでも、通ってみようかと思えてしまった。
いつだって尻込みさせられるのは、やめたあとの関係の煩わしさだ。
ズボンのベルトに、簡単に乗っかってしまうようになったぽよぽよの贅肉を憎く思っていた俺は、珍しく即決してそのジムに行ってみることにしたのだった。
あわよくば、他のぷよぷよとしているところも一緒に引き締めたい、と思っている。
『プティカリーノ』では、マシントレーニングはもちろん、ちょっとした空き時に自宅でもできる簡単なトレーニングや、ストレッチまで教えてくれるのだという。
珍しいことに、男性専用ジムということで、ついつい気にしてしまう女性の視線がないというのが、何よりも嬉しかった。
みっともなく汗だくになっても、男同士なら人の目を気にせずトレーニングを続けられるというのは、ストレスがなくていい。
これまでにも何度か危機を感じ、動画などを参考にして自己トレーニングにはげんだことはあるのだが、ついつい忙しさを理由にしてすぐにサボってしまいがちだった。
そんなだらしない自分を監視してもらうためにも、ちゃんとしたところに通うべきだと思っていたのだが、まわりの目を気にするようなところではやはり続けられなかっただろう。
よくぞここを選んだと、何度目になるかもわからない自分の判断を褒め称える。
正直、自分のだらしなさはよくわかっていた。
お試しチケットを使ってですら、半分くらいは失敗すると思っていた。
「さあ、間宮さん。しっかりお腹の内側にある筋肉を意識しましょう。インナーマッスルを鍛えておけば、腰痛の防止にもなりますから、がんばりましょうね」
「はっ、はいぃっ」
簡単なトレーニングですら、すぐに息を荒くしてしまう俺だが、トレーナーの三田村くんは優しくはげましてくれる。
彼は、俺のようなぽっちゃりしたおっさんにも優しい。
おかげで、すぐにやめることになるだろうと思っていたプチジムも、お試しチケットを全部使い果たすだけでなく、本会員登録を経て通いはじめてから、もう半年を過ぎようとしていた。
「間宮さん、今日もしっかりトレーニングできてますよ。ほら、あと少しだけ、もう少しだけ、がんばってみましょう。大丈夫、がんばり屋さんの間宮さんなら、やりとげられますよ」
「はっ、はいぃっ」
俺を厳しく追い込みながら、にこりと笑うイケメンな三田村くん。
汗だくなおっさんの俺がもらうには、もったいないくらいの素敵な笑顔だが、この笑顔のおかげでがんばれている気がする。
俺はゲイじゃないんだが、この笑顔を向けられるとときめいてしまうというか、顔がいいからなのか、褒められると嬉しくなっていつもよりもがんばれてしまうのだ。
ここに通うことにして、本当によかった。
◆◆◆
ある日、半年間、真面目に通ったご褒美に、スペシャルコースを無料で体験できるというので申し込んでみた。
スペシャルコースは個室で行うものらしく、ジムの個室に初めて入った俺は、思わずきょろきょろと辺りを見回してしまう。
思っていたよりも小さく感じるその部屋は、入り口を除くすべての壁が、天井から床まで全部鏡になっていた。
どこを見ても、自分の姿がしっかりとうつっているのがよく見える。
周囲の鏡を物珍しげに見てまわる姿は、まるで初めて都会にきたおのぼりさんだ。
何となく恥ずかしくなって、鏡を見れなくなってしまう。
そうなると、次に気になるのは、ほとんどがらんとしている個室の真ん中にある大きなブランコのようなもののことだ。
天井から頑丈そうな四本の鎖で吊り下げられているそれは、座面にあたる部分が平らではなく、横から見るとかまぼこのように盛り上がっていた。
大人が三人以上並んで座れそうなくらい長く、俺の膝くらいの高さで浮いている。
それほど高くない位置にあるのに、どこか不安定な印象を受けた。
近付いてみると、何でできているものなのか、表面はつるりとしている。
何故か、片側にだけ穴のようなものが三つ開いていた。
一直線に並んだ三つの穴には、しっかりとふたがされており、その中がどうなっているのかはわからない。
ただこれに座って、ブランコのようにゆらして遊ぶようなものではないだろう、ということだけはわかった。
この部屋にある以上、これはトレーニングに使うものなのは間違いないだろうが、実際のところ、どのように使うものなのかは見当もつかない。
これについては、三田村くんの説明を待つことにしよう。
彼ならきっと、初心者の俺にもわかりやすく教えてくれるはずだ。
あと気になるのは、奥の鏡の前に置かれた配膳用のカートに似たものくらいで、わかりやすいトレーニング器具のようなものは見つからなかった。
ここでは、どんなトレーニングをさせてくれるというのだろうか。
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