カレンデュラに愛を込めて〜悪役令息は美醜逆転世界で復讐を誓う〜

天宮叶

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悪役令息は拒否したようです②

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いつもこうだ。終わらない問答は平行線を生むばかりで、エルヴィスの思っていることの一欠片すらも理解できない。自分の気持ちすら曖昧だ。

「信じられないのは、僕が君をこれっぽっちも信用出来ていないからだよ。信じて欲しいなら、正直に思っていることを言って、僕のことを納得させてみなよ」

こんなことを言う僕の方が天邪鬼なんだと思う。本当は僕自身が知りたいことだから。僕がいじめられてしまった理由も、エルヴィスが僕のことを嫌う理由も、全て知りたい。

「……そうかもしれないな」

エルヴィスは一度浅く深呼吸をすると、手のひらを自身の膝の前で組んで、話をし始めた。揺れる緑石の瞳を見つめ続ける。

「あの手紙は捨てようと思っていた。ただ、なぜか捨てれずにずっと持ってたんだ。俺は、お前が羨ましかった……」
「どういうこと?」
「顔だけ見て寄ってくるやつは沢山居た。俺の中身なんて見てくれるやつはいなかった。転校が多くて、友達もろくに出来ない。毎日が退屈だったんだ。中学の時、追いかけてくる奴らから逃げていたらお前とぶつかった。どんくせえやつって思ったけど、そのときのお前は俺の顔じゃなくて中身を見て、礼を言ってくれたのが分かった。仲良くなりたいと思ったよ」

エルヴィスがなにを言いたいのか、いまいち理解できない。あの日、夏月が阿佐谷を好きになったように、彼も夏月に興味を持ったということだろうか?

「高校でお前を見つけて、嬉しかった。あの手紙を見るまではお前と本気で仲良くなりたかったんだ」
「ねえ、全く理解できないんだけど」
「手紙を見て、お前も俺のことを顔だけで見ているんだと思ってしまったんだ。話したのはあの日の一度きりだったし、俺のことを好きになる要素なんて顔くらいだろ。それが俺は許せなかった。でも、いじめるつもりはなかった」
「…………」
「俺が悪いんだ。なんとなく手紙を読んでいたときに、ツルんでいた奴らにそれを見られた。そのときの俺は、周りから人が離れていくのが怖った。それに、役者としても頑張りどきだったんだ。退屈でやることもないから、お前をいじめようと誘われた。断ったらゲイだと周りに言いふらすと脅されて、最初は渋っていたが、そのうちに俺は、お前が悪いと勝手に思い込むようになった。俺がお前をいじめたのは、俺の弱さのせいだ。周りから人が居なくなることがなによりも怖かった。だから、誰とも群れず、孤高に生きているお前が羨ましかった」

エルヴィスの告白に、どう返事を返せばいいのか分からない。そんなの、勝手な言い分だ。僕には関係ない。そう思うのに、言葉は出てこない。

なにか言わないといけないと分かっているのに、なにを言えばいいんだろう。僕のせい?違う……。誰のせいなんだ?分からない。なにも分からなくなる。頭痛がして、なんだか吐きたい気持ちになった。

「俺はお前と、もう一度やり直したい」

エルヴィスの言葉が脳内を反響する。もしも、僕達がもっと違う出会い方をしていて、過去のことがなければ、今頃はどうなっていただろうか。もしも、を考えれば考えるほどに、現実が形となって襲ってくる。

「む、無理だ」

口から零れたのは、弱々しい拒否の言葉だった。今更、エルヴィスと関係をやりなおすことなんて出来ない。だって、エルヴィスのことを許すことなんて出来ないから。

「そう答えることは分かっていた」

切なそうに眉を寄せたエルヴィスは、ため息を零すと僕の頬へと手を伸ばしてきた。その手を振り払うことだって出来たのに、そうしなかったのは、少なからずエルヴィスの話に動揺していたからだろうか。

ゆっくりと近づいてくるエルヴィスの顔を、瞬きもせずに見つめ続ける。合わさった唇から感じるのは、エルヴィスの温もりと、微かな切なさ。

どうして、エルヴィスは僕にキスをするのだろうか。
お互いにお互いを嫌っているはずなのに、まるで好かれているかのような錯覚を覚えるんだ。そのまま、手がシャツの中へと入ってくる。

「逃げなくていいのか?」

その問いかけに、やっぱり僕はなにも答えられなかった。これじゃまるで、立場が逆転したみたいだと思ってしまう。エルヴィスの思いの片鱗を垣間見たからなのか、すごく緊張していて、コクリと喉が鳴った。そんな僕の様子に気がついたみたいに、エルヴィスの手がシャツから出ていった。

「冗談だ。もう休め」
「え……」

エルヴィスの行動の意味が上手く理解出来なくて、困ってしまう。エルヴィスは僕とやり直したいと言うけれど、肝心なところで本心を隠してしまう。
思わずエルヴィスの服の裾を掴んでしまったのは、見え隠れする本心を探り当てたいからだった。

「君は僕のことが嫌いなんだよね?」

確かに前にそう言っていたのを覚えている。それなのに、どうしてそんな顔をするんだ。眉を垂れさせて、困ったように笑うエルヴィスが、僕へともう一度身体を向けた。

「嫌いだと言ったのはお前が俺にそう言ったから、腹が立ち言い返してしまっただけだ」
「え、待ってよ……」
「待たない。俺はお前のことを嫌ってなどいないし、お前のことは大切にしたい。それが俺なりの前世への償い方だ」
「っ、やだ……そんなの聞きたくない!僕はっ、僕は……」

僕は君のことが嫌いなんだ。復讐しないといけないんだよ。だから、だからこそ君は僕のことを嫌いなまま、酷いやつのままで居てくれなくちゃ困るんだ。
パニックに陥ってしまった僕を、エルヴィスが抱きしめてくれる。前世で何度も想像したエルヴィスの腕の中は、想像以上に温かくて涙が出てくるんだ。

「僕は君のことが嫌いだよ」
「ああ、知っている」
「復讐しようとしてるんだよ」
「それも分かっている。好きにすればいい」
「っ、なんで……」

やっと分かった気がした。僕がエルヴィスを憎みきれないのは、彼が阿佐谷であって、阿佐谷ではないからだ。彼も僕と同じ、前世の記憶があるだけで、エルヴィスという一人の人間だということに変わりはない。

僕は前世を忘れられずに復讐することを決めたけれど、エルヴィスは前世は前世だと割り切っているんだと思う。僕達の違いはきっとそれなのだろう。だから、こんなにも彼の腕の中は温もりで溢れているんだ。

「お前が俺を嫌うというのなら、俺がお前をそれ以上に愛そう」
「っ、やめてよ!!」
  
思い切りエルヴィスの胸を拳で叩く。そんな言葉、今は聞きたくなんてない!!お願いだから……

「お願いだから、僕のことを嫌いだと言って」

そうしてくれないと僕は僕じゃなくなる気がするから。

「カレンデュラ、それは無理だ。この先、お前が俺になにをしようとも、お前のことを嫌うことはない。たとえ殺されたとしてもだ。なにも変わりはしない」
「……酷いよ……」

前世であれだけ僕のことを苦しめたくせに、たった一つの願いすら叶えてくれず、また僕を苦しめる。エルヴィスと一緒にいると、心をかき乱されて、辛いんだ。
ポロポロと涙が溢れてきて止まらなくなる。涙が流れる頬にエルヴィスがキスをしてきて、頬から唇へとキスが流れてくる。

それを受け入れながら、エルヴィスの胸元を固く握りしめた。エルヴィスの心が潰れてしまえばいい。そうすれば、悩まなくてもいいはずなんだ。
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