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悪役令息は助けられたようです
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誰かが僕を助けてくれたのは間違いない。キョロキョロと視線をさまよわせると、少女が男に覆いかぶさられる形で、地面に倒れているのが目に止まる。
「だ、大丈夫!?」
急いで二人に近づくと、覆いかぶさっていた男がエルヴィスだと気がついた。少女も僕の声を聞いて身体を起こすと、全員が無事なのを確認して安堵の息を吐き出した。どうやら、巻き込まれた人はいなかったようだ。
「怪我はないかい?」
エルヴィスが少女へと尋ねる。多分、僕を助けてくれたのは彼女だ。そして、彼女を咄嗟に助けたのがエルヴィスだったのだろう。
問いかけに、小さく頷いて立ち上がった少女は、僕と同じ歳くらいに見える。ハニーブラウンの緩くウェーブのかかった髪に、薄ピンクの瞳があどけない。全体を見れば、素朴な顔立ちに思えるのに、雰囲気のせいなのか、やけに可愛らしく思える。
「助けて頂き感謝致しますわ。そちらの方もご無事で良かったです」
「……ありがとう」
丁寧な挨拶を受けて、お礼を返せば、可愛らしく微笑んでくれる。
「カレンデュラを助けてくれたこと、なんとお礼を言ったらいいのか。本当に感謝する。後日、再びお礼をしたいので、名前を聞かせては貰えないだろうか?」
「そんな!とんでもありませんわ」
「私は、エルヴィス=ファン=クルークハイトだ。レディ、名前を聞かせて欲しい」
先にエルヴィスが名前を言うと、驚いた表情を見せたあと、少女が照れたように微笑みを浮かべた。それを見て、胸に小さなトゲが刺さったかのような痛みを覚える。
「ハルグランツ家の次女、ミーシャ=ハルグランツですわ。まさか王太子様だとは知らず、大変失礼を致しました」
「ハルグランツ家の者だったのだな。伯爵には世話になっている」
「とんでもありません。父はいつも、エルヴィス様のことを褒めておいでです」
ハルグランツ家は代々、この国の宰相を多く排出している家系だ。現当主のハルグランツ伯爵は現宰相であり、国王と仲が良く、エルヴィスの教育係も務めた方だと聞いている。
楽しげに会話を続けている二人を間近で見つめながら、少し落ち着かない気分になってきた。助けて貰った手前、エルヴィスと話すなとも言えず、そもそも、どうして話して欲しくないのかも分からない。
唇を一度だけ噛み締めて、恐る恐るエルヴィスの服の袖を掴んだ。気がついたエルヴィスが僕の方へと視線を向けてくれる。それに酷く安堵している自分がいた。
「すまない。話し込んでしまった。怖かっただろう。もう屋敷へ戻ろう」
「……うん」
優しくかけられた言葉と気遣いに、涙腺が緩む。
「引き留めてしまい、申し訳ありませんでした。私はこれで失礼致します」
美しいお辞儀をして、立ち去っていくミーシャさんを横目に見ながら、嫌な予感が過ぎった。けれど、それもエルヴィスに手を引かれたことで飛散する。
「行こう」
手から伝わる温もりが、恐怖ごと僕のことを包み込んでくれている気がした。直感で死ぬかもしれないと思った。死が迫り来る瞬間をよく覚えている。前世で命を絶った日のことを、思い出そうとしたことはなかった。けれど、忘れたこともない。
「だ、大丈夫!?」
急いで二人に近づくと、覆いかぶさっていた男がエルヴィスだと気がついた。少女も僕の声を聞いて身体を起こすと、全員が無事なのを確認して安堵の息を吐き出した。どうやら、巻き込まれた人はいなかったようだ。
「怪我はないかい?」
エルヴィスが少女へと尋ねる。多分、僕を助けてくれたのは彼女だ。そして、彼女を咄嗟に助けたのがエルヴィスだったのだろう。
問いかけに、小さく頷いて立ち上がった少女は、僕と同じ歳くらいに見える。ハニーブラウンの緩くウェーブのかかった髪に、薄ピンクの瞳があどけない。全体を見れば、素朴な顔立ちに思えるのに、雰囲気のせいなのか、やけに可愛らしく思える。
「助けて頂き感謝致しますわ。そちらの方もご無事で良かったです」
「……ありがとう」
丁寧な挨拶を受けて、お礼を返せば、可愛らしく微笑んでくれる。
「カレンデュラを助けてくれたこと、なんとお礼を言ったらいいのか。本当に感謝する。後日、再びお礼をしたいので、名前を聞かせては貰えないだろうか?」
「そんな!とんでもありませんわ」
「私は、エルヴィス=ファン=クルークハイトだ。レディ、名前を聞かせて欲しい」
先にエルヴィスが名前を言うと、驚いた表情を見せたあと、少女が照れたように微笑みを浮かべた。それを見て、胸に小さなトゲが刺さったかのような痛みを覚える。
「ハルグランツ家の次女、ミーシャ=ハルグランツですわ。まさか王太子様だとは知らず、大変失礼を致しました」
「ハルグランツ家の者だったのだな。伯爵には世話になっている」
「とんでもありません。父はいつも、エルヴィス様のことを褒めておいでです」
ハルグランツ家は代々、この国の宰相を多く排出している家系だ。現当主のハルグランツ伯爵は現宰相であり、国王と仲が良く、エルヴィスの教育係も務めた方だと聞いている。
楽しげに会話を続けている二人を間近で見つめながら、少し落ち着かない気分になってきた。助けて貰った手前、エルヴィスと話すなとも言えず、そもそも、どうして話して欲しくないのかも分からない。
唇を一度だけ噛み締めて、恐る恐るエルヴィスの服の袖を掴んだ。気がついたエルヴィスが僕の方へと視線を向けてくれる。それに酷く安堵している自分がいた。
「すまない。話し込んでしまった。怖かっただろう。もう屋敷へ戻ろう」
「……うん」
優しくかけられた言葉と気遣いに、涙腺が緩む。
「引き留めてしまい、申し訳ありませんでした。私はこれで失礼致します」
美しいお辞儀をして、立ち去っていくミーシャさんを横目に見ながら、嫌な予感が過ぎった。けれど、それもエルヴィスに手を引かれたことで飛散する。
「行こう」
手から伝わる温もりが、恐怖ごと僕のことを包み込んでくれている気がした。直感で死ぬかもしれないと思った。死が迫り来る瞬間をよく覚えている。前世で命を絶った日のことを、思い出そうとしたことはなかった。けれど、忘れたこともない。
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