モブに転生した俺。推しキャラのハピエンを拝むまで夜も眠れない

天宮叶

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推しと結婚ってどういうこと!?

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老人と話を終えてから目を覚ますまで、数秒にも満たないような感覚だった。
天蓋付きのベッドの上で眠っていたことに気がつく。身体を起こし辺りを見回してみた。やけに全身が気持ち悪いのは、着ている寝間着が汗で濡れているからかもしれない。
ベッドから降りて、目についた鏡を覗き込む。映ったのは、ブラウンのふわりとした短髪と、夕焼け色の瞳を持つ平凡な顔の青年だった。

「俺……だよな?」

転生するとは聞いていた。けれど、別人の身体に入るとは聞いていない。外国人なのだろうか。日本人にしてはくっきりとした目鼻立ちをしている気もする。

「ノエル様!?目を覚まされたのですか!」
「へっ、え!」

突然大声に振り返ると、メイド服を着た女性が驚きに目を見開いている姿が視界に入ってきた。

「高熱を出されてもう目を覚まされないかと思いました……。お医者様からも昨晩が峠だと……本当に良かったです」

涙目になっている彼女を見つめながら、穂は状況を整理する。
どうやら穂はノエルという人物の身体に転生したようだ。そして、身体の元の持ち主は高熱により昨晩命を落としている。根拠はないが、感覚でわかった。
つまりこれから先、穂はノエルとして生きていくということだ。ノエルがどのような人物なのかははっきりとしない。少なくとも彼女からは嫌われているという感じはなかった。それに、随分と裕福な生活をしていることも部屋を見てわかる。
調度品や着ている寝間着は、素人の穂にでも高価だとわかってしまう。

(ノエルって貴族とかなのか?)

ファンタジーで定番の異世界転生というやつだろうか。神様が勝手に選んだ世界のため、確信が得られない。

「一ヶ月後の婚姻にも間に合いそうですね」
「婚姻!?俺って誰かと結婚するの??」

驚いて聞き返すと、目を丸くされてしまう。

「ええ……ネイト・フローレス様との婚姻が決まっております。まさかお忘れに……っ、ノエル様記憶がないのですか?そういえば様子も少しおかしいような……お、お医者様をお呼びしましょう!」

大慌てて飛び出していった彼女のことなど、気にも止めている暇がなかった。ネイト・フローレスという名前に聞き覚えがあったからだ。
穂が前世でやりこんでいたBLゲーム【セイントナイト】に登場するキャラクター名だ。
セイントナイトは、光の魔力を扱う主人公と攻略キャラである五人の騎士が力を合わせて、魔王を倒す王道ストーリーのゲームだ。魔王は闇の魔力により魔族を生み出し、世界の滅亡を目論んでいる悪いやつ。
妹にレベル上げを頼まれたことをきっかけに、セイントナイトの沼に穂はどっぷりと浸かってしまった。そのゲーム内にお助けキャラとして登場するのがネイト・フローレスという魔術師だ。

(まさか本当にあのネイトなのか?)

半信半疑だけれど、ネイトの名前を忘れることなどありえないだろう。
ネイトは穂がセイントナイトで最も推していたキャラだ。顔良し、器量よし、最強キャラ、という三拍子が揃っていた。そのためユーザーからの人気も高かった。しかし、ネイトはユーザーから【永遠の二番手キャラ】という不名誉な異名をつけられていることでも有名だ。

(っ、新作はネイトがメインに来るって宣伝されてたからめちゃくちゃ気になってたのに~~)

トラックに轢かれる直前に楽しみにしていたゲームこそが、待望の『セイントナイト2~呪われた貴公子と輝きの力~』だった。
ネイトはとにかく不遇だ。
必ず主人公のピンチにいちはやく駆けつけるのに、最後は攻略キャラにすべて持って行かれてしまう。決して主人公の一番にはなれない。

『お前の幸せを守ることが、私の幸せだ』

永遠の二番手キャラにピッタリのこの台詞を、穂は何十回と聞いた。
二番手キャラにしては目立ちすぎているネイトは、一時期隠し攻略キャラではないかと騒がれたこともあった。しかし、すべてのキャラ、すべての選択肢を試してみてもネイトを攻略することは不可能だったのだ。
それが更にネイトの人気に火をつけた。何人ものユーザーが公式に直談判を行い、ネイトのストーリーを追加してほしいと頼み込んだ。
そのかいあっての新作。
穂はとにかく楽しみにしていた。推しキャラのハピエンを拝むことができると、夜も眠れない程だった。
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