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成人編
幸せの願いを(二年後)①
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二年の月日が経ち、異例の速さで人間と魔族の間に【人魔和平条約】が制定された。まだ、お互いの溝を埋めきることは出来ていないけれど、条約が制定された今、溝が平になるのも時間の問題かもしれない。
「ルーク!」
馬車から降りてきたルークに大きく手を振る。僕とノクスを視界に入れたルークが嬉しそうに微笑みを浮かべてくれた。
僕達が居るのは、ケリー子爵家の中庭。草やツタでお生い茂っていた敷地内は、美しく手入れされ花々が咲き誇り、子供達の笑い声が響いている。
「ここは相変わらず賑やかだね」
「ルークのおかげだよ」
「俺は君のお願いを聞き受けただけだから」
二年前、ケリー子爵家を、人間と魔族の子供が共に暮らせる孤児院として利用したいという願いを、ルークは一年かけて叶えてくれた。子爵家という肩書きをそのままにし、僕を当主に据えることで金銭的な面でも少しだけ優遇してもらえている。
子爵家の建っている土地は、もっとも森に近い場所に位置しており、人間と魔族の交流の場としても丁度いいんだ。
「正直、この場所は手に余っていたんだよ。森に近いこともあり魔獣被害を恐れる貴族は土地を引き取りたがらなかったからね。それに、子爵家の次男の死亡届が出されていなかったため、形上、当主が居るということで取り壊すこともできなくてね。まさか、ソルがその次男だとは思ってもいなかったけれど」
「僕も自分が当主になっているなんて思わなかったよ」
僕にとっては辛い場所だったけれど、今は子供達の明るい声に包まれて温かな場所へと変化している。その事が嬉しいと思えるんだ。
子供達を見守るように建っている兄様の墓へと視線を向ける。きっと、喜んでくれているよね。
「皆、クッキーを持ってきたからおやつの時間にしようね」
トーマスさんと一緒に作った、クッキーの入った籠を子供達へと見せる。キラキラと瞳が輝き、嬉しそうに大はしゃぎする姿は愛らしい。魔族と人間に違いなんてないんだって、この姿を見ていたらわかるんだ。
今でも、和平に反対する人達は一定数存在している。そんな人達にもいつか理解してもらえる日が来るって信じている。
「私が持とう」
「ありがとうノクス」
クッキーの入った籠を僕の手から受け取ったノクスが、子供達に囲まれる。微笑ましい光景に頬を緩めながら、皆で子爵家の中へと向かう。孤児院は、王達の交流の場としても有名で、多くの人々がこの場所に足を運ぶ。今や子爵家は、人間と魔族には欠かせない交流の場にもなっているんだ。
週に数回はそれぞれの領土から、剣術や魔術の稽古のために人が派遣され、子供達に学びの機会も与えられるようにとの配慮もされている。最初は渋っていたアランも、剣術の稽古を見てあげているみたい。ザインも渋るアランを連れて、楽しそうに子供達と魔法の稽古を行っている。
食堂でお菓子を配るノクスを見つめながら、この幸せな時間がずっと続けばいいのにと願う。子供達に囲まれて慌てているノクスは新鮮で、可愛いと思ってしまうんだ。
「魔王は人気者だね」
隣に来たルークの言葉に頷く。ノクスは子供達に大人気なんだ。もしかしたらノクスの宿す温かな光を、子供達も無意識に感じ取っているのかもしれない。
「ソルこっちに来い」
お菓子を配り終えたノクスが、僕を自分の方へと引き寄せる。そのせいか、ルークとの間に距離ができた。
「ふふふ、相変わらずの独占欲だね」
「あまりソルに近づくな」
「心配しなくてもいいのに」
二人の会話を聞きながら、少しだけ顔が熱くなった。こうやって独占欲を見せてくれるのは嬉しい。でも、子供達の視線が痛くて少しだけ恥ずかしくもある。
「ルーク!」
馬車から降りてきたルークに大きく手を振る。僕とノクスを視界に入れたルークが嬉しそうに微笑みを浮かべてくれた。
僕達が居るのは、ケリー子爵家の中庭。草やツタでお生い茂っていた敷地内は、美しく手入れされ花々が咲き誇り、子供達の笑い声が響いている。
「ここは相変わらず賑やかだね」
「ルークのおかげだよ」
「俺は君のお願いを聞き受けただけだから」
二年前、ケリー子爵家を、人間と魔族の子供が共に暮らせる孤児院として利用したいという願いを、ルークは一年かけて叶えてくれた。子爵家という肩書きをそのままにし、僕を当主に据えることで金銭的な面でも少しだけ優遇してもらえている。
子爵家の建っている土地は、もっとも森に近い場所に位置しており、人間と魔族の交流の場としても丁度いいんだ。
「正直、この場所は手に余っていたんだよ。森に近いこともあり魔獣被害を恐れる貴族は土地を引き取りたがらなかったからね。それに、子爵家の次男の死亡届が出されていなかったため、形上、当主が居るということで取り壊すこともできなくてね。まさか、ソルがその次男だとは思ってもいなかったけれど」
「僕も自分が当主になっているなんて思わなかったよ」
僕にとっては辛い場所だったけれど、今は子供達の明るい声に包まれて温かな場所へと変化している。その事が嬉しいと思えるんだ。
子供達を見守るように建っている兄様の墓へと視線を向ける。きっと、喜んでくれているよね。
「皆、クッキーを持ってきたからおやつの時間にしようね」
トーマスさんと一緒に作った、クッキーの入った籠を子供達へと見せる。キラキラと瞳が輝き、嬉しそうに大はしゃぎする姿は愛らしい。魔族と人間に違いなんてないんだって、この姿を見ていたらわかるんだ。
今でも、和平に反対する人達は一定数存在している。そんな人達にもいつか理解してもらえる日が来るって信じている。
「私が持とう」
「ありがとうノクス」
クッキーの入った籠を僕の手から受け取ったノクスが、子供達に囲まれる。微笑ましい光景に頬を緩めながら、皆で子爵家の中へと向かう。孤児院は、王達の交流の場としても有名で、多くの人々がこの場所に足を運ぶ。今や子爵家は、人間と魔族には欠かせない交流の場にもなっているんだ。
週に数回はそれぞれの領土から、剣術や魔術の稽古のために人が派遣され、子供達に学びの機会も与えられるようにとの配慮もされている。最初は渋っていたアランも、剣術の稽古を見てあげているみたい。ザインも渋るアランを連れて、楽しそうに子供達と魔法の稽古を行っている。
食堂でお菓子を配るノクスを見つめながら、この幸せな時間がずっと続けばいいのにと願う。子供達に囲まれて慌てているノクスは新鮮で、可愛いと思ってしまうんだ。
「魔王は人気者だね」
隣に来たルークの言葉に頷く。ノクスは子供達に大人気なんだ。もしかしたらノクスの宿す温かな光を、子供達も無意識に感じ取っているのかもしれない。
「ソルこっちに来い」
お菓子を配り終えたノクスが、僕を自分の方へと引き寄せる。そのせいか、ルークとの間に距離ができた。
「ふふふ、相変わらずの独占欲だね」
「あまりソルに近づくな」
「心配しなくてもいいのに」
二人の会話を聞きながら、少しだけ顔が熱くなった。こうやって独占欲を見せてくれるのは嬉しい。でも、子供達の視線が痛くて少しだけ恥ずかしくもある。
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