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俺の名前は……

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「怪我をしていないのなら先を急ごうか」

なんだか悔しくなって、背をこちらへと向けるダリウスに自分から抱きついてやる。こっちを見ろよ。綺麗な青い瞳に俺のことを映してほしい。

「……動けないのだけど」
「動けなくしてんだよ」

背におでこをくっつける。全身でダリウスの熱を感じていた。俺はこいつのこと好きでもなんでもない。この気持ちは運命の番だから感じるものだ。

未だに運命の番がなんなのかすらわからないのに、都合のいい言い訳を心の中で並べ立てて、ダリウスに抱きつく口実を作ってる。

「離して」
「やだ。お前の命令なんて聞かない。ムカつくし」

大きなため息が聞こえてきて、肩を揺らす。呆れられたか?
不安になって腕の力が緩んだ。その瞬間を見逃さなかったダリウスが、器用に俺の腕を剥がして、こちらへと身体ごと顔を向ける。
前のめりになった俺は、そのままダリウスの胸板へと飛び込む形になってしまった。

「いてっ」

鼻の頭を打って、微かな痛みに悶える。

「君はなにをしたいんだい」

困ったような声。俺と接するときのダリウスはいつも困っている。

「そんなの俺にもわかんねーよ」

愚痴をこぼすみたいに答えると、ポンっと頭に手が置かれた。あやすみたいに撫でられて心地良さに目を細める。

「もうすぐ森に入るし、敵も多くなるはずだ。あまり無茶はしないようにね」

なのに、そんなことを言いながら身体を離すから収まりかけていたモヤモヤが再発しだす。また背を向けて歩き出したダリウスの後を、不貞腐れた表情を浮かべながらついて行く。まるで俺だけが喧嘩のことを気にしてるみたいじゃないか。

一人で一喜一憂して馬鹿みたいだろ。ムカつく。


◇◇◇


森に着くとダリウスの言う通り魔物の出現率が増えてきた。オークやコボルトなんかのD級相当のモンスターも結構居て、ダリウスがほとんど一人で倒してくれている。
俺が剣をかまえたら、ダリウスが先に狙ってた魔物を倒しちゃうからなにも出来ない。

「こんな所にコボルトがいるはずはないのだけどね」
「そうなのか?」
「コボルトは洞窟やダンジョン内に巣を作って生活していることが多いんだよ。森の中心にはダンジョンと呼ばれる遺跡があって、ダンジョンを主軸として森全体が生態系で構成されているんだ。もちろん縄張りも決まっているからね。ゴブリンが森を出ていたのはコボルト達が洞窟から出てきたせいなのだろうね」

確かリアムもギルドで同じようなことを言ってたな。
最近モンスターの動きがおかしいとかなんとか……。

「気をつけて進もう」
「おう」

ダリウスに先導されながら、休憩を挟みつつ進んでいく。時々、目眩が起きることもあったけど一瞬だからダリウスに気づかれることもなかった。

幸いなことに森に入って二十分くらい進んだところで洞窟を見つけた。

「着いたね。洞窟内は安全なはずだけど注意して進もう」
「なんか光ってないか」

俺の知ってる洞窟は薄暗くて、ライトなしじゃ、進むのも一苦労だ。でも、この洞窟は至る所が青白く発光していて、明かりがなくても周りがはっきりと見える。

「光っているのは魔素石の結晶だよ。この洞窟の八割が魔素石で出来ているからね」
「へえ、綺麗だな」

洞窟内を進みながら辺りを見渡す。前世で住んでいた世界なら間違いなく絶景洞窟とかパワースポットなんかに認定されてそうなくらい神秘的な場所だ。

洞窟内は結構広いみたいで、歩いても歩いても道が続いている。

「なあ、悪かった」
「突然どうしたんだい」

謝るなら今しかないって思ったんだ。この洞窟内はいつもと現実離れした場所すぎて、まるで夢の中にいるような心地になる。だからこそ、今なら素直な気持ちを伝えられるんじゃないかって思う。現実に引き戻されたら、またひねくれた自分が出てくるから。

「この間喧嘩したとき酷いこと言いすぎたから……」
「気にしてないよ」

ダリウスの視線が俺の方を一瞬見て、すぐにそらされた。

「っ、ちゃんと話を聞けよ!気にしてないとか、そういう嘘を聞きたいわけじゃないっ」

腕を掴んで、思いっきり叫ぶ。声が洞窟内に反響して鼓膜を何度も揺らした。
どうしてこんなに泣きたい気持ちになるんだろう。ただ、ダリウスと話したいだけだ。俺のことちゃんと見て欲しいだけなのにさ。
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