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お出かけしよう

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「よう、クリス」
「なんで屋敷に居るんだ?」
「エド王子から手紙を届けて欲しいと頼まれたんだ」

差し出された手紙を受け取ろうと手を伸ばしたら、ダリウスが先にジェイデンから手紙を奪い取った。

「なにしてんだよ」
「これは俺が処分しておくよ」
「中身も見てないのに捨てるのはダメだろ!てか、俺宛なんだからお前に決める権利はない!」

次は俺がダリウスの手から手紙をひったくり、急いで中を確認する。手紙には、今度一緒に街の外へ出かけないかという誘いが書かれてあった。

「街の外に遊びに行こうだってさ。行っていいか?」
「駄目だよ」
「またそれかよー。そうだ!ダリウスも一緒に来たらいいじゃん。それなら心配ないだろ?」

提案すると、少し思案したあとに了承の返事をくれた。それに気分を良くして、ジェイデンに返事を伝えてくれるよう頼む。

「了解。伝えておくよ。てかクリス、今度俺と二人で飲みに行こうぜ」
「駄目だよ」

間髪入れずにダリウスからNOサインが降りる。

「ジェイデンは俺に聞いてんだって」
「ツバサは俺の番だよ。口を出す権利はある」
「は!?クリスがダリウスの番!!?てか、ツバサってなんだよ」

俺たちの会話にジェイデンが割り込んできて、ダリウスの瞳が鋭く細められた。そういえば、エドとジェイデンには俺の本名教えてなかったよな。

ダリウスに一番最初に名前を呼んでもらうことは出来たし、もう教えてもいい気がする。いつまでもクリスって呼ばれるのも、なんか嫌だしな。

「悪るい、俺の本名はツバサっていうんだ。クリスはあだ名っていうか……」

流石に肉体はクリスで中身は別人なんて言えないし。
本名を黙っていた罪悪感から、声が尻窄みになる。

「なにか事情があったんだよな。これからは俺もツバサって呼ばせてもら「駄目だよ」

笑顔でそう言ってくれたジェイデンの言葉に被せるようにダリウスが言う。相変わらずの独占欲と過保護さに呆れて苦笑いが漏れた。それはジェイデンも同じみたいだ。

「あんた相変わらずだな。いや、前よりも酷くなったか?あんまり過保護すぎると嫌われるぜ~」
「君には関係ないことだよ。そもそも俺は昔から君のことが嫌いだったんだ。クリスの幼馴染だから、彼に触れることを許していたけれど、あの日君もクリスを残して逃げた。エド王子と変わらない。そんな君がツバサと仲良くするなんて俺は反対だよ」
「……確かに俺たちはクリスを残して逃げた。でもそれは、そうすることが最善だと俺も王子も、勿論クリスも判断したからだ。その場に居すらしなかったあんたに文句を言われる筋合いはないね」

呆れたような口調でジェイデンが言葉を返す。ダリウスは眉間に皺を寄せたままジェイデンのことを睨みつけている。

「……だからこそ、今度は選択を間違えたりなどしない」

酷く重い響きを持った言葉に感じて、胸が痛くなった。ダリウスの背負っているものを俺だけが知らない。だから、その言葉に隠された意味を理解できなかった。

「なら、少しは自由な時間を与えてやるべきだ。君は番を籠の中の鳥にしたいのか?」
「……わかっているさ」

そこで会話が途切れて、沈黙が流れ始めた。

「ジェイデンっ、あの……エドによろしく言っといてくれ。それから、今度皆で飲みに行こうぜ」

気が効いたことは言えないから、当たり障りのない言葉を伝える。ジェイデンはそんな俺にニカッと歯を見せて笑いかけてくれながら「約束だぞ」って手を差し出してくれた。その手を取って固く握手をする。

この手の感触を俺は知っていた。俺達は任務の前に、こうやってお互いの健闘と無事を祈りあっていたからだ。ジェイデンはクリスの大事な親友であり戦友だった。
手を離すと、一礼してジェイデンは屋敷を去っていく。

「こらっ」

姿が見えなくなったのを確認すると、ダリウスの頭にチョップを食らわせてやる。微かに痛そうな素振りを見せたダリウスが、困った顔を向けてくる。その顔には弱い。
でも、ここはビシッと言ってやる。

「なんですぐ周りの人達に噛みつくんだよ。ダリウスだって二人が悪いやつじゃないことくらいわかってんだろ」
「……心配なんだ」

叱られた犬みたいに落ち込みながら、抱きついてくるダリウス。額を擦り寄せられて、思わず彼の頭に手を伸ばしてしまう。撫でてやりながら、やっぱり大型犬みたいだなと思う。犬耳と尻尾がついてる幻覚が見える。

「過保護だよな本当に」

ため息を零すと、俺のことを抱きしめる腕の力が強くなった。
まいった。こんなことされると、怒るものも怒れない。なんか俺、ダリウスに甘いのかもしれないな。

エドもジェイデンも本当に良い奴だと思う。だけど、二人とダリウスの間には深い確執があって、それを俺に話せるほど皆に信用されてないのかも。
いや……もしかしたら、気を使われてるのかもしれない。

「朝ごはん食おうぜ。めちゃくちゃ腹減ってるんだ」
「そうだね。今日は兎肉にしようか」
「いいな!あれ上手いんだよ~」

そういや、初めて依頼をこなしたときに兎肉を食ったよな。めちゃくちゃ美味くて手が止まらなかったのよく覚えている。
思い出したらよだれが出てきそうだ。
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