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なにがご褒美だ。調子に乗るな!
フィーロがゼンの一番弟子になった次の日から、シャノンを含めた三人は伯爵家の中庭に隣接する訓練所で魔術の練習を始めた。
小さな円形の的が五十メートルほど先に設置されている。指定の位置に立ったフィーロとシャノンが緊張した面持ちで的を見つめていた。
「よし、まずはあの的に向かって初級魔術を射つ練習から行う」
「「はい!」」
「手本を見せるぞ」
ゼンが手のひらに小さな炎の球体を生成すると、的に向かって放った。炎は真っ直ぐに飛んでいき、ど真ん中を射抜いて弾ける。
小さな的の真ん中に穴が空いて、的の向こう側の景色が見えていた。
「お兄様すごい!」
「あんなに正確に的を射抜くなんて……」
フィーロとシャノンが興奮気味に感想を口にする。
直接褒められることが少ないため少しだけ照れてしまったゼンは、照れを振り払うように一度だけ咳払いを行った。
「二人も練習すれば的に当てることができるようになる。射抜くには力量が必要だが燃やすことなら可能になるだろう」
「頑張ります!」
やる気満々のフィーロが鼻息を荒くしている。
はやく魔術を使いたいのか、猫じゃらしに食いつく前の猫のようで可愛らしい。
「相変わらずすごい魔法コントロールだね」
さっそく二人に魔術を使わせようと思ったとき、訓練所の入口から聞き覚えのある声で話しかけられて胃が痛くなる感覚がした。
近づいてくる人影を見てあからさまに眉間にシワを寄せてしまう。
「やぁ、ゼン。会いに来たよ」
「呼んでいない。今すぐ帰れ」
すかさず言葉を返すと、目の前まで歩いてきたルーカスが嬉しそうに顔をほころばせた。
ルーカスは出会ったときから、ゼンがなにを言っても嬉しそうにするため最近では無視することも増えてきた。
けれどフィーロとシャノンが見ている手前無視するのはよくないと思い、言葉を返したものの、やはりルーカスに笑みを向けられるのは慣れない。
彼の笑顔を見ているとむずがゆいような、落ち着かない感覚になってしまうからだ。
「訓練の邪魔だ」
「座って見ているから練習を続けて」
「お前の存在自体がうるさい」
「あはは、そんなことを言ってくるのは君くらいだよ。フィーロ君とシャノン君だったね。二人ともいい先生を持てて羨ましいな」
ルーカスが二人に話しかけたことに動揺してしまった。
フィーロとは関わらせたくなかったというのに、完全に油断してしまっていた。
「頼んできたって一番弟子の座は譲りませんから!」
頬を膨らませてジト目でルーカスを睨むフィーロ。
ルーカスはゼンの指導など必要ないほどの実力を持っている。そのため、フィーロの発言の可愛さにゼンは身もだえしそうになった。
シャノンは使用人という立場のため自分から話しかけることもできず、気恥ずかしそうにうつむいてしまっている。淑やかで可憐なシャノンは、まさに守ってあげたい主人公という感じだ。
ルーカスもじっとシャノンのことを見つめている。
(これはいい兆候だぞ。せっかくならルーカスにシャノンの指導を頼んでもいいんじゃないか!)
妙案を思いつき嬉しくなる。
どうにかシャノンと接点を持たせて婚約破棄を申し出てもらわなければ!
「暇ならシャノンに教えてやってくれ。初級魔術くらいならお前も使えるだろう」
「うーん。かまわないけれどせっかくならご褒美がほしいな」
「指導に褒美もなにもないだろう」
調子に乗るな!と言ってやりたいが一応話だけは聞いてみようと思い、あえて断らずにいると、ルーカスが近づいてきた。
慌てて距離を取る。今日はそんなにフェロモンを垂れ流してはいないようだが、あまり近づかれたくはない。
「せっかく婚約者になったんだからキスの一つくらいしてくれてもいいんじゃない?」
聞いてやろうと思った自分が馬鹿だった。
「調子に乗るな。指導しないなら座っていろ」
デコピンでも食らわせてやろうかと思っていたら、ルーカスがクスクスと笑う声が耳に届いた。からかわれているのは明白だ。
「お前を的にしてもいいんだぞ」
「それは怖いな。流石の俺でもゼンの魔術を当てられたら無事じゃすまないよ」
まだ笑みをこぼしているルーカスは、結局椅子に腰掛けて見学する体勢に入ってしまった。
シャノンと関わらせることは今回もできずガッカリしてしまう。
「お兄様……」
フィーロがゼンが羽織っていたマントの裾を軽く引いてきた。
待ちくたびれたのか、少しだけ拗ねた様子だ。
「すまない。待たせたな。二人とも魔術を使ってみろ。手のひらに熱を集めるイメージをするんだ」
気を取り直して指導を再開する。
二人が手のひらに魔力を集めるのを確認しながら、細かい部分を指摘する。その間も、ルーカスに見つめられていてあまり集中することができなかった。
あの男と関わると調子を狂わされてしまう。
記憶を取り戻してからは破滅ルート回避のために関わらないように気をつけているというのに、なぜかルーカスの方から近づいてきて困っていた。
小さな円形の的が五十メートルほど先に設置されている。指定の位置に立ったフィーロとシャノンが緊張した面持ちで的を見つめていた。
「よし、まずはあの的に向かって初級魔術を射つ練習から行う」
「「はい!」」
「手本を見せるぞ」
ゼンが手のひらに小さな炎の球体を生成すると、的に向かって放った。炎は真っ直ぐに飛んでいき、ど真ん中を射抜いて弾ける。
小さな的の真ん中に穴が空いて、的の向こう側の景色が見えていた。
「お兄様すごい!」
「あんなに正確に的を射抜くなんて……」
フィーロとシャノンが興奮気味に感想を口にする。
直接褒められることが少ないため少しだけ照れてしまったゼンは、照れを振り払うように一度だけ咳払いを行った。
「二人も練習すれば的に当てることができるようになる。射抜くには力量が必要だが燃やすことなら可能になるだろう」
「頑張ります!」
やる気満々のフィーロが鼻息を荒くしている。
はやく魔術を使いたいのか、猫じゃらしに食いつく前の猫のようで可愛らしい。
「相変わらずすごい魔法コントロールだね」
さっそく二人に魔術を使わせようと思ったとき、訓練所の入口から聞き覚えのある声で話しかけられて胃が痛くなる感覚がした。
近づいてくる人影を見てあからさまに眉間にシワを寄せてしまう。
「やぁ、ゼン。会いに来たよ」
「呼んでいない。今すぐ帰れ」
すかさず言葉を返すと、目の前まで歩いてきたルーカスが嬉しそうに顔をほころばせた。
ルーカスは出会ったときから、ゼンがなにを言っても嬉しそうにするため最近では無視することも増えてきた。
けれどフィーロとシャノンが見ている手前無視するのはよくないと思い、言葉を返したものの、やはりルーカスに笑みを向けられるのは慣れない。
彼の笑顔を見ているとむずがゆいような、落ち着かない感覚になってしまうからだ。
「訓練の邪魔だ」
「座って見ているから練習を続けて」
「お前の存在自体がうるさい」
「あはは、そんなことを言ってくるのは君くらいだよ。フィーロ君とシャノン君だったね。二人ともいい先生を持てて羨ましいな」
ルーカスが二人に話しかけたことに動揺してしまった。
フィーロとは関わらせたくなかったというのに、完全に油断してしまっていた。
「頼んできたって一番弟子の座は譲りませんから!」
頬を膨らませてジト目でルーカスを睨むフィーロ。
ルーカスはゼンの指導など必要ないほどの実力を持っている。そのため、フィーロの発言の可愛さにゼンは身もだえしそうになった。
シャノンは使用人という立場のため自分から話しかけることもできず、気恥ずかしそうにうつむいてしまっている。淑やかで可憐なシャノンは、まさに守ってあげたい主人公という感じだ。
ルーカスもじっとシャノンのことを見つめている。
(これはいい兆候だぞ。せっかくならルーカスにシャノンの指導を頼んでもいいんじゃないか!)
妙案を思いつき嬉しくなる。
どうにかシャノンと接点を持たせて婚約破棄を申し出てもらわなければ!
「暇ならシャノンに教えてやってくれ。初級魔術くらいならお前も使えるだろう」
「うーん。かまわないけれどせっかくならご褒美がほしいな」
「指導に褒美もなにもないだろう」
調子に乗るな!と言ってやりたいが一応話だけは聞いてみようと思い、あえて断らずにいると、ルーカスが近づいてきた。
慌てて距離を取る。今日はそんなにフェロモンを垂れ流してはいないようだが、あまり近づかれたくはない。
「せっかく婚約者になったんだからキスの一つくらいしてくれてもいいんじゃない?」
聞いてやろうと思った自分が馬鹿だった。
「調子に乗るな。指導しないなら座っていろ」
デコピンでも食らわせてやろうかと思っていたら、ルーカスがクスクスと笑う声が耳に届いた。からかわれているのは明白だ。
「お前を的にしてもいいんだぞ」
「それは怖いな。流石の俺でもゼンの魔術を当てられたら無事じゃすまないよ」
まだ笑みをこぼしているルーカスは、結局椅子に腰掛けて見学する体勢に入ってしまった。
シャノンと関わらせることは今回もできずガッカリしてしまう。
「お兄様……」
フィーロがゼンが羽織っていたマントの裾を軽く引いてきた。
待ちくたびれたのか、少しだけ拗ねた様子だ。
「すまない。待たせたな。二人とも魔術を使ってみろ。手のひらに熱を集めるイメージをするんだ」
気を取り直して指導を再開する。
二人が手のひらに魔力を集めるのを確認しながら、細かい部分を指摘する。その間も、ルーカスに見つめられていてあまり集中することができなかった。
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