弟を溺愛していたら、破滅ルートを引き連れてくる攻めに溺愛されちゃった話

天宮叶

文字の大きさ
8 / 66

なにがご褒美だ。調子に乗るな!

フィーロがゼンの一番弟子になった次の日から、シャノンを含めた三人は伯爵家の中庭に隣接する訓練所で魔術の練習を始めた。
 小さな円形の的が五十メートルほど先に設置されている。指定の位置に立ったフィーロとシャノンが緊張した面持ちで的を見つめていた。

「よし、まずはあの的に向かって初級魔術を射つ練習から行う」

「「はい!」」

「手本を見せるぞ」

 ゼンが手のひらに小さな炎の球体を生成すると、的に向かって放った。炎は真っ直ぐに飛んでいき、ど真ん中を射抜いて弾ける。
 小さな的の真ん中に穴が空いて、的の向こう側の景色が見えていた。

「お兄様すごい!」

「あんなに正確に的を射抜くなんて……」

 フィーロとシャノンが興奮気味に感想を口にする。
 直接褒められることが少ないため少しだけ照れてしまったゼンは、照れを振り払うように一度だけ咳払いを行った。

「二人も練習すれば的に当てることができるようになる。射抜くには力量が必要だが燃やすことなら可能になるだろう」

「頑張ります!」

 やる気満々のフィーロが鼻息を荒くしている。
 はやく魔術を使いたいのか、猫じゃらしに食いつく前の猫のようで可愛らしい。

「相変わらずすごい魔法コントロールだね」 

 さっそく二人に魔術を使わせようと思ったとき、訓練所の入口から聞き覚えのある声で話しかけられて胃が痛くなる感覚がした。
 近づいてくる人影を見てあからさまに眉間にシワを寄せてしまう。

「やぁ、ゼン。会いに来たよ」

「呼んでいない。今すぐ帰れ」

 すかさず言葉を返すと、目の前まで歩いてきたルーカスが嬉しそうに顔をほころばせた。
 ルーカスは出会ったときから、ゼンがなにを言っても嬉しそうにするため最近では無視することも増えてきた。

 けれどフィーロとシャノンが見ている手前無視するのはよくないと思い、言葉を返したものの、やはりルーカスに笑みを向けられるのは慣れない。
 彼の笑顔を見ているとむずがゆいような、落ち着かない感覚になってしまうからだ。

「訓練の邪魔だ」

「座って見ているから練習を続けて」

「お前の存在自体がうるさい」

「あはは、そんなことを言ってくるのは君くらいだよ。フィーロ君とシャノン君だったね。二人ともいい先生を持てて羨ましいな」

 ルーカスが二人に話しかけたことに動揺してしまった。
 フィーロとは関わらせたくなかったというのに、完全に油断してしまっていた。

「頼んできたって一番弟子の座は譲りませんから!」

 頬を膨らませてジト目でルーカスを睨むフィーロ。
 ルーカスはゼンの指導など必要ないほどの実力を持っている。そのため、フィーロの発言の可愛さにゼンは身もだえしそうになった。
 シャノンは使用人という立場のため自分から話しかけることもできず、気恥ずかしそうにうつむいてしまっている。淑やかで可憐なシャノンは、まさに守ってあげたい主人公という感じだ。
 ルーカスもじっとシャノンのことを見つめている。

(これはいい兆候だぞ。せっかくならルーカスにシャノンの指導を頼んでもいいんじゃないか!)

 妙案を思いつき嬉しくなる。
 どうにかシャノンと接点を持たせて婚約破棄を申し出てもらわなければ!

「暇ならシャノンに教えてやってくれ。初級魔術くらいならお前も使えるだろう」

「うーん。かまわないけれどせっかくならご褒美がほしいな」

「指導に褒美もなにもないだろう」

 調子に乗るな!と言ってやりたいが一応話だけは聞いてみようと思い、あえて断らずにいると、ルーカスが近づいてきた。
 慌てて距離を取る。今日はそんなにフェロモンを垂れ流してはいないようだが、あまり近づかれたくはない。

「せっかく婚約者になったんだからキスの一つくらいしてくれてもいいんじゃない?」

 聞いてやろうと思った自分が馬鹿だった。

「調子に乗るな。指導しないなら座っていろ」

 デコピンでも食らわせてやろうかと思っていたら、ルーカスがクスクスと笑う声が耳に届いた。からかわれているのは明白だ。

「お前を的にしてもいいんだぞ」
「それは怖いな。流石の俺でもゼンの魔術を当てられたら無事じゃすまないよ」

 まだ笑みをこぼしているルーカスは、結局椅子に腰掛けて見学する体勢に入ってしまった。
 シャノンと関わらせることは今回もできずガッカリしてしまう。

「お兄様……」

 フィーロがゼンが羽織っていたマントの裾を軽く引いてきた。
 待ちくたびれたのか、少しだけ拗ねた様子だ。

「すまない。待たせたな。二人とも魔術を使ってみろ。手のひらに熱を集めるイメージをするんだ」

 気を取り直して指導を再開する。
 二人が手のひらに魔力を集めるのを確認しながら、細かい部分を指摘する。その間も、ルーカスに見つめられていてあまり集中することができなかった。
 あの男と関わると調子を狂わされてしまう。
 記憶を取り戻してからは破滅ルート回避のために関わらないように気をつけているというのに、なぜかルーカスの方から近づいてきて困っていた。

感想 8

あなたにおすすめの小説

(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? 騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

じゃない方の私が何故かヤンデレ騎士団長に囚われたのですが

カレイ
恋愛
 天使な妹。それに纏わりつく金魚のフンがこの私。  両親も妹にしか関心がなく兄からも無視される毎日だけれど、私は別に自分を慕ってくれる妹がいればそれで良かった。  でもある時、私に嫉妬する兄や婚約者に嵌められて、婚約破棄された上、実家を追い出されてしまう。しかしそのことを聞きつけた騎士団長が何故か私の前に現れた。 「ずっと好きでした、もう我慢しません!あぁ、貴方の匂いだけで私は……」  そうして、何故か最強騎士団長に囚われました。

真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~

水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。 アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。 氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。 「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」 辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。 これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!

悪役令息上等です。悪の華は可憐に咲き誇る

竜鳴躍
BL
異性間でも子どもが産まれにくくなった世界。 子どもは魔法の力を借りて同性間でも産めるようになったため、性別に関係なく結婚するようになった世界。 ファーマ王国のアレン=ファーメット公爵令息は、白銀に近い髪に真っ赤な瞳、真っ白な肌を持つ。 神秘的で美しい姿に王子に見初められた彼は公爵家の長男でありながら唯一の王子の婚約者に選ばれてしまった。どこに行くにも欠かせない大きな日傘。日に焼けると爛れてしまいかねない皮膚。 公爵家は両親とも黒髪黒目であるが、彼一人が色が違う。 それは彼が全てアルビノだったからなのに、成長した教養のない王子は、アレンを魔女扱いした上、聖女らしき男爵令嬢に現を抜かして婚約破棄の上スラム街に追放してしまう。 だが、王子は知らない。 アレンにも王位継承権があることを。 従者を一人連れてスラムに行ったアレンは、イケメンでスパダリな従者に溺愛されながらスラムを改革していって……!? *誤字報告ありがとうございます! *カエサル=プレート 修正しました。

ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!

由汰のらん
ファンタジー
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。 しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。 そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。 「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」 やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった。しかしハルの血が特殊だと知ったダンピールはハルを連れ帰って? いっそ美味しい『血』(治癒)と『体液』(バフ)と『癒し』を与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」