弟を溺愛していたら、破滅ルートを引き連れてくる攻めに溺愛されちゃった話

天宮叶

文字の大きさ
31 / 66

酔ってるよね?

「もしかして弱い?」

「弱くない」

 強気に出て持っていたグラスの酒を一気に煽った。
 ルーカスが制止する声が聞こえてくるが、意地っ張りのため今更止まれない。
 瞳を瞬かせることで緩れる視界をなんとか保とうとするも、結局酒に負けて隣にいるルーカスの肩に額を着けて寄りかかった。

「ゼ、ゼン?」 

 動揺したような声音が上から降ってくる。けれどそんなことにはかまっていられない。

「ずっと思っていたんだが……」

「うん」

「ルーカスはいい匂いがするな」

 やめろやめろやめろー!とまだ微かに残っている理性が叫んでいる。けれど、普段あまり喋らない反動が来ているのか、勢い付いた思考と言葉は止まらない。

「お前に近づかれると動悸がしてくる。わかっているのか?お前は俺をおかしくさせる」

「ゼ、ゼン?相当酔ってるけど大丈夫?」

「酔っていない」

「うん。酔ってるよ。これじゃ会場に戻せないな。休憩できる部屋に行こう。歩けるかい?」

 肩を揺すられた気がしたが、ルーカスから離れるのが嫌で彼の首に腕を絡ませた。
 こうして密着していると安心する。

「まったく……」

 ため息まじりの声音と共に、ルーカスがゼンを抱き上げた。
 ルーカスの首に抱きついたまま顔を肩にくっつける。
 早鐘を打つ心臓の音と、歩くたびに耳をくすぐる衣擦れの音が合わさり、とても心地よい。

「部屋についたよ」

「どこ?」

「俺の部屋。ここが一番ゆっくりできるから」

 部屋の扉を開けると、靴を取られてそのままベッドに寝かせられた。せっかくの高級スーツがシワだらけだ。

「ジャケットだけ脱げる?」

「脱がせてくれ」

「はいはい」

 呆れながらもどこか嬉しそうに表情を緩ませたルーカスが、ジャケットを脱がせてくれた。お酒のせいで少し苦しくなっていた首元を、ゼンはネクタイを緩めることで楽にした。それからルーカスの首に腕を回しなおし、そのままマットレスへ倒れる。

「ゼン、この状況はよくないかも」

「俺はこれでいい」

 ぷいっとそっぽを向くと頬を突かれた。
 ルーカスがゼンの上に覆い被さっている状態になっている。ゼンが腕を離そうとしないためルーカスは上から退くことができない。

「酔うと誰にでもこうなっちゃうの?」

 それはわからない。
 視界もぐらつくうえに、胃もひっくり返ったみたいに気持ち悪い。でも、ルーカスの匂いに包まれていると少しだけ楽になる気がした。
 フェロモンに鎮痛効果なんてあるわけはない。だから楽になるのはただの気のせいだ。
 冷静さなんてすでに散り散りになってしまっている。だから今は、こうしたいと思う気持ちに素直になればいい。

「ルーカスだけだ」

 『たぶん』という言葉が語尾に付くが、それをあえて言う必要はないだろう。

「好きな子にこんなことされたら、我慢できる男は何人いるのかな?」

「なにを我慢するんだ?」

「わかっていて俺の忍耐を試しているのなら、ゼンはかなり悪い人だね」

 顔が近づいてくる。
 受け入れたらどうなるのだろう。酒で酔った頭では冷静にその先を見通すことなどできない。

「ルーカス勘違いするな。俺は元から悪人だ」

 隠し事ばかりの悪役がゼン・レゲンデアだ。主人公達のための引き立て役で、いつかルーカスに殺される運命を背負っている魔術師。

「ゼン、作られた物語と現実は違うと思わない?」

「……?」

「ううん。なんでもない」

 そう言ったルーカスがゼンの唇を優しく食んだ。
感想 8

あなたにおすすめの小説

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? 騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

処刑エンドの悪役公爵、隠居したいのに溺愛されてます

ひなた翠
BL
目が覚めたら、やり込んだBLゲームの悪役公爵になっていた。 しかも手には鞭。目の前には涙を浮かべた美少年。 ——このままじゃ、王太子に処刑される。 前世は冴えない社畜サラリーマン。今世は冷徹な美貌を持つ高位貴族のアルファ。 中身と外見の落差に戸惑う暇もなく、エリオットは処刑回避のための「隠居計画」を立てる。 囚われのオメガ・レオンを王太子カイルに引き渡し、爵位も領地も全部手放して、ひっそり消える——はずだった。 ところが動くほど状況は悪化していく。 レオンを自由にしようとすれば「傍にいたい」と縋りつかれ、 カイルに会えば「お前の匂いは甘い」と迫られ、 隠居を申し出れば「逃げるな」と退路を塞がれる。 しかもなぜか、子供の頃から飲んでいた「ビタミン剤」を忘れるたび、身体がおかしくなる。 周囲のアルファたちの視線が絡みつき、カイルの目の色が変わり—— 自分でも知らなかった秘密が暴かれたとき、逃げ場はもう、どこにもなかった。 誰にも愛されなかった男が、異世界で「本当の自分」を知り、運命の番と出会う—— ギャップ萌え×じれったさ×匂いフェチ全開の、オメガバース転生BL。

悪役令息(Ω)に転生した俺、破滅回避のためΩ隠してαを装ってたら、冷徹α第一王子に婚約者にされて溺愛されてます!?

水凪しおん
BL
前世の記憶を持つ俺、リオネルは、BL小説の悪役令息に転生していた。 断罪される運命を回避するため、本来希少なΩである性を隠し、出来損ないのαとして目立たず生きてきた。 しかし、突然、原作のヒーローである冷徹な第一王子アシュレイの婚約者にされてしまう。 これは破滅フラグに違いないと絶望する俺だが、アシュレイの態度は原作とどこか違っていて……?

悪役令息上等です。悪の華は可憐に咲き誇る

竜鳴躍
BL
異性間でも子どもが産まれにくくなった世界。 子どもは魔法の力を借りて同性間でも産めるようになったため、性別に関係なく結婚するようになった世界。 ファーマ王国のアレン=ファーメット公爵令息は、白銀に近い髪に真っ赤な瞳、真っ白な肌を持つ。 神秘的で美しい姿に王子に見初められた彼は公爵家の長男でありながら唯一の王子の婚約者に選ばれてしまった。どこに行くにも欠かせない大きな日傘。日に焼けると爛れてしまいかねない皮膚。 公爵家は両親とも黒髪黒目であるが、彼一人が色が違う。 それは彼が全てアルビノだったからなのに、成長した教養のない王子は、アレンを魔女扱いした上、聖女らしき男爵令嬢に現を抜かして婚約破棄の上スラム街に追放してしまう。 だが、王子は知らない。 アレンにも王位継承権があることを。 従者を一人連れてスラムに行ったアレンは、イケメンでスパダリな従者に溺愛されながらスラムを改革していって……!? *誤字報告ありがとうございます! *カエサル=プレート 修正しました。

真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~

水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。 アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。 氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。 「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」 辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。 これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!