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謎の記憶
次の日、ゼン、フィーロ、シャノンの三人は公爵家の玄関前でルーカスにお礼を伝えていた。
「世話になった」
「俺達は婚約しているんだからいくらでも遊びに来ていいんだからね」
「……遠慮しておく」
一瞬ルーカスの言葉を受け入れかけて言葉を詰まらせた。昨夜なにがあったのか覚えていないが、どうしてかルーカスを拒否することが難しい。
「今度一緒に街に行こう。買いたいものもあるし、もっと俺のことを知ってほしいからデートしたいんだ」
「……考えておく」
「ふふ、それは了承と捉えていいのかな。予定が決まったら手紙を送るよ。またね」
ふわりと笑ったルーカスに「わかった」と答えてからフィーロ達と馬車に乗り込んだ。
「断ると思っていました」
「世話になったから一緒に出かけるくらいしてやらないといけないだろう」
もっともらしい理由を口にしてみたものの、自分でも了承した理由はわからない。
(作られた物語と現実は違う……)
ふとそんな言葉が頭に浮かんだ。
この言葉を言ったのは誰だっただろうか……。
その答えを探り当てるように記憶を辿っていく。その瞬間、ひどい頭痛に襲われて眉間にシワを寄せた。
「大丈夫ですか?」
頭を抑えるゼンにシャノンがいたわりの声をかけてくれる。フィーロも慌ててハンカチーフで額の脂汗を拭ってくれた。
まるで思い出すことを拒否しているかのように、頭痛はひどくなっていく。
「……シャノン、すまないが治癒魔術を使ってくれないか?」
「は、はい!」
シャノンが治癒魔術を使い、手で押さえている箇所を癒やしてくれた。そのおかげか少しずつ痛みが引いていく。
「……っ、助かった。ありがとう」
お礼を伝えて頭から手を離した。刹那、覚えのない映像が頭の中に流れ込んできて動きを止めた。
──これは俺?なぜ俺はフィーロを見ているんだ……?
わがままを言って使用人を困らせているフィーロは、まるで小説の中の悪役令息そのものだ。そんなフィーロのことを、ゼンは注意することもなくただ遠巻きに見つめていた。
小説の内容を思い出すときの感覚とは違う。これはもっと現実的で、生々しい。
「お兄様、早く帰って休みましょう」
動揺して動けないでいるゼンの手にフィーロが触れてきた。心配そうに揺れている青い瞳を見つめ返すと、心がゆっくりと落ち着きを取り戻していく。
「……そうしようと思う」
素直に頷くと、安心したようにフィーロが微笑みを向けてくれた。
どうしてだかそんな彼のことをいますぐ抱きしめてあげたいと感じた。
心臓が早鐘を打ち続けている。
きっと動悸が収まる頃には屋敷についているだろう。ついたらゆっくりと休もう。いろいろなことがあったから疲れているのかもしれない。
そう思いながら、いまだに手のひらに乗せられているフィーロの手を握り返した。
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