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第12話 転生エルフ(100)、名無しの少女と再会する。
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――今から7年後も、キミの決意が変わらなければまたここで会おう。
あれは7年前。初めて転移魔法を使って誤作動を起こした時のことだ。
筋肉狼《マッスルウルフ》に襲われていた奴隷商の中から救い出した、一人の少女がいた。
透き通るような紅髪に、燃えるような紅い瞳。痛々しい胸の十字傷はどこか昔の国の奴隷紋だったはずだ。
他の仲間たちが死してなおも希望を失っていなかったあの目をした少女が、再び目の前に現れた。
強くなりたいと。俺に懇願してきていた不安と恐怖であどけなかった小さな少女は、いつの間にかとんでもなく強くなっていた。
大部分の記憶を抜かれてもなお、あの一言だけを7年間ずっと覚えていたというわけだ。
まさか本当に覚えているものとも思っていなかったし、彼女自身の話は風に乗って聞いていたからなおさら想定外なのだが……。
彼女は既に数々の武勲を上げる賞金稼ぎとして有名になっている。
神出鬼没に戦場に現れては魔獣を狩って日銭を稼ぐ。
どこのギルド所属なのか、誰の仲間なのか、本当の名前も誰も知らない。
高出力の火属性魔法と剣技で獲物を屠る。返り血に染まった紅の髪と瞳は見る者全てから畏怖の対象とされる。
人呼んで名無しの女。
と、聞いていたはずなのだが目の前の少女はそんな畏怖の対象とは程遠い存在で。
「お会いした時に渡そうと思ってて、良かったらこれ、受け取ってください」
ハッと何かを思いだしたかのように、少女は血濡れた剣を鞘にしまって草葉の陰から大容量の木箱を取り出してきた。
その中身は――。
「……木の実?」
「はい。エルフ様は木の実がお好きとのことでしたので、この日のために世界中の木の実を取り寄せました。西洋最果ての熱帯国家原産カチュラ果実から極北大陸の凍土の実まで、世界中の木の実を取りそろえております。お好きなものをお召し上がりください」
それはエルフの古代樹ですら見たことのない果実だった。
古い魔道書には、過去のエルフが治療と引き換えに手に入れたという果実も記載されていたが、目の前にはその果実そのものがある。
この量と出来と保存状態の良い実を見れば分かる。
相当高価で貴重なものばかりだ。
「こ、これを集めるのにどれほどかけたんだ?」
「今までの戦果報酬は全て宛がいましたが……不足でしたでしょうか……?」
「戦果報酬全て!?」
しゅん、と。
しおれた華のように寂しそうな表情をする無自覚な少女は、俺の胸をキュッと締め付けた。
木の実は好きだ。エルフになってから無性に美味しく感じるようになったのは事実だ。
だがそれにしても、俺の一言を覚えていたばかりか稼ぎの全てを貢ぎに捧げるこの子は俺と違う形で世間知らずで危ない気がする。
「い、いや、充分だ。充分すぎる。ありがたく受け取るよ」
「……っ。それではエルフ様の行く先にも連れて行ってくれるんですか!?」
聞いていた話とずいぶんと印象が違う。
打って変わってそんな無垢な瞳で見つめられると、誰も断ることなんて出来はしない。
「まぁ……そうだな。ちょうど外の世界を知らなさすぎたところだし、世情に詳しいヒトがいるのは助かるよ。キミの用事は問題ないのか?」
「わたしの今までは全てこの日のためでしたので、ご心配なさらず! エルフ様の行き先が、わたしの行き先です。エルフ様の強さを生涯身近で学び、わたしは強くなりたいのです」
屈託のない笑顔で言われてしまった。むしろ心配しかない。
生涯ってことは、単純計算でも40年ということだ。
というか40年後までは着いてくるつもりでいるということか……!?
……。
………。
…………まぁ、たったの40年か。
世情にも疎いエルフが単独行動するよりも、世界の大半を握るヒト族が近くにいるのは世間体からしても心強いかもしれない。
「リース・クラインだ」
あの時は記憶を消す前提で名乗っていた。
だが今は同じく旅を共にする者として
「リース様、リース様……。リース様!」
小動物のようにぴょこぴょこと頭の上の紅毛が動く。
「キミの名前は?」
「……わたしにはまだ名前がありません」
少女は瞳を閉じて、訥々と語る。
「エルフ様……リース様に助け出されたあの時に、わたしはこの世に生まれました。なので次に会う7年後にリース様からお名前をもらいたくて、ずっとお待ちしていたのです」
なんというか思ったことには底無しに一直線なんだな、この子は。
まさか親にもなっていないのに名付け親になるとは思わなかったな!
――ね、母さん。どうして俺を稔って名前にしたの?
最近はめったに思い出さなくなってきた、前世の記憶が頭を過ぎる。
――ヒトとして時間をかけて、誰よりも大きく稔ってほしいって思ってつけたの。
結局、前世では俺は何も為し得なかったし、何も稔らせることも出来なかったな。
「――ミノリ」
ぽつりと呟いた俺の言葉を少女は聞き逃さなかった。
「……ミノリ。素敵な名前です。えへへ、ありがとうございますっ」
来るかも分からない俺のことを待ち続け、7年も自分を磨き続けたこの少女なら――それを成し遂げてくれるかもしれない。
こうしてエルフの古代樹を飛び出して最初に出会ったヒト族の少女、ミノリ。
これが、今後900年で何度も聞くことになる「ミノリ」の名を持つ者とのファーストコンタクトとなるのだった。
あれは7年前。初めて転移魔法を使って誤作動を起こした時のことだ。
筋肉狼《マッスルウルフ》に襲われていた奴隷商の中から救い出した、一人の少女がいた。
透き通るような紅髪に、燃えるような紅い瞳。痛々しい胸の十字傷はどこか昔の国の奴隷紋だったはずだ。
他の仲間たちが死してなおも希望を失っていなかったあの目をした少女が、再び目の前に現れた。
強くなりたいと。俺に懇願してきていた不安と恐怖であどけなかった小さな少女は、いつの間にかとんでもなく強くなっていた。
大部分の記憶を抜かれてもなお、あの一言だけを7年間ずっと覚えていたというわけだ。
まさか本当に覚えているものとも思っていなかったし、彼女自身の話は風に乗って聞いていたからなおさら想定外なのだが……。
彼女は既に数々の武勲を上げる賞金稼ぎとして有名になっている。
神出鬼没に戦場に現れては魔獣を狩って日銭を稼ぐ。
どこのギルド所属なのか、誰の仲間なのか、本当の名前も誰も知らない。
高出力の火属性魔法と剣技で獲物を屠る。返り血に染まった紅の髪と瞳は見る者全てから畏怖の対象とされる。
人呼んで名無しの女。
と、聞いていたはずなのだが目の前の少女はそんな畏怖の対象とは程遠い存在で。
「お会いした時に渡そうと思ってて、良かったらこれ、受け取ってください」
ハッと何かを思いだしたかのように、少女は血濡れた剣を鞘にしまって草葉の陰から大容量の木箱を取り出してきた。
その中身は――。
「……木の実?」
「はい。エルフ様は木の実がお好きとのことでしたので、この日のために世界中の木の実を取り寄せました。西洋最果ての熱帯国家原産カチュラ果実から極北大陸の凍土の実まで、世界中の木の実を取りそろえております。お好きなものをお召し上がりください」
それはエルフの古代樹ですら見たことのない果実だった。
古い魔道書には、過去のエルフが治療と引き換えに手に入れたという果実も記載されていたが、目の前にはその果実そのものがある。
この量と出来と保存状態の良い実を見れば分かる。
相当高価で貴重なものばかりだ。
「こ、これを集めるのにどれほどかけたんだ?」
「今までの戦果報酬は全て宛がいましたが……不足でしたでしょうか……?」
「戦果報酬全て!?」
しゅん、と。
しおれた華のように寂しそうな表情をする無自覚な少女は、俺の胸をキュッと締め付けた。
木の実は好きだ。エルフになってから無性に美味しく感じるようになったのは事実だ。
だがそれにしても、俺の一言を覚えていたばかりか稼ぎの全てを貢ぎに捧げるこの子は俺と違う形で世間知らずで危ない気がする。
「い、いや、充分だ。充分すぎる。ありがたく受け取るよ」
「……っ。それではエルフ様の行く先にも連れて行ってくれるんですか!?」
聞いていた話とずいぶんと印象が違う。
打って変わってそんな無垢な瞳で見つめられると、誰も断ることなんて出来はしない。
「まぁ……そうだな。ちょうど外の世界を知らなさすぎたところだし、世情に詳しいヒトがいるのは助かるよ。キミの用事は問題ないのか?」
「わたしの今までは全てこの日のためでしたので、ご心配なさらず! エルフ様の行き先が、わたしの行き先です。エルフ様の強さを生涯身近で学び、わたしは強くなりたいのです」
屈託のない笑顔で言われてしまった。むしろ心配しかない。
生涯ってことは、単純計算でも40年ということだ。
というか40年後までは着いてくるつもりでいるということか……!?
……。
………。
…………まぁ、たったの40年か。
世情にも疎いエルフが単独行動するよりも、世界の大半を握るヒト族が近くにいるのは世間体からしても心強いかもしれない。
「リース・クラインだ」
あの時は記憶を消す前提で名乗っていた。
だが今は同じく旅を共にする者として
「リース様、リース様……。リース様!」
小動物のようにぴょこぴょこと頭の上の紅毛が動く。
「キミの名前は?」
「……わたしにはまだ名前がありません」
少女は瞳を閉じて、訥々と語る。
「エルフ様……リース様に助け出されたあの時に、わたしはこの世に生まれました。なので次に会う7年後にリース様からお名前をもらいたくて、ずっとお待ちしていたのです」
なんというか思ったことには底無しに一直線なんだな、この子は。
まさか親にもなっていないのに名付け親になるとは思わなかったな!
――ね、母さん。どうして俺を稔って名前にしたの?
最近はめったに思い出さなくなってきた、前世の記憶が頭を過ぎる。
――ヒトとして時間をかけて、誰よりも大きく稔ってほしいって思ってつけたの。
結局、前世では俺は何も為し得なかったし、何も稔らせることも出来なかったな。
「――ミノリ」
ぽつりと呟いた俺の言葉を少女は聞き逃さなかった。
「……ミノリ。素敵な名前です。えへへ、ありがとうございますっ」
来るかも分からない俺のことを待ち続け、7年も自分を磨き続けたこの少女なら――それを成し遂げてくれるかもしれない。
こうしてエルフの古代樹を飛び出して最初に出会ったヒト族の少女、ミノリ。
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