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第25話 転生エルフ(105)、《勇者》因子を発見する。
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「今日の夜ご飯はミノリスペシャルその34、岩喰魚の白ワイン蒸しですっ。フォルト川で捕まえてくると、ククレ城塞の漁師さんから買うよりもお安く仕入れられるのです」
岩喰魚はちょうど気候が涼しくなるこの時期に、海から帰って産卵する川魚だ。
岩を喰べて成長することで知られる魔物の一種で、川に流れる魔素を含む岩を喰って成長した個体ほど脂が乗って美味しいという。
前世で言うところの鮭に似ているが、不思議な魔物もいたものだ。
脂の乗りきった岩喰魚ともなると、オゥル皇国内市場では一尾買えば1週間は楽に暮らせる値段で取り引きされることもある。
そんな中でミノリは材料調達から調理までを一人でこなしているのだから、本当に頭が上がらない。
蒸した行程を経てほどよく柔らかくなった白身はぷるぷるの食感を楽しませてくれるし、ダシが染み出たスープは甘さと後から来るしょっぱさを口の中に広げてくれる。
いつものように食卓に並ぶミノリの食事が今日も美味しい。
「最近、前にも増してご飯が美味しくなったな」
「ふふふ、近頃はリース様がお好きな果実の風味を入れてるんです。具材も柔らかくなりますし、ちょうどいいかなと思いまして」
そしてこの数年で、完全に好みを把握されるようになってしまった。
今やミノリ無しでご飯を食べることなんて考えられない。
落ち着いた雰囲気を醸し出すも、嬉しそうに紅髪のてっぺんをぴょこぴょこ動かす所はいつまで経っても変わらないな。
修行の時、そしてククレ城塞に押し寄せる魔獣を倒す際は常に超級魔法を纏った剣を振るい、浴びる返り血をも気にしない戦乙女に。
家に帰ってきて後ろで髪を結んでいる時は落ち着いた美女へと変貌を遂げ、年々大人の魅力を付けていくミノリ。
透き通った白い肌に、大人びて更に整うようになった顔貌。無駄な肉一つついてない引き締まった身体はククレ城塞を二人で歩くと皆が振り向くほどの美貌の持ち主だ。
「ミノリは、今年の暮れで22歳になるんだっけ」
俺の問いにミノリはささやかな笑顔で頷いた。
「リース様と初めてお会いしたのが10の時、再会したのが17の時ですから、5年が経ちましたね」
「そうか、もう5年も経つんだな。ミノリの料理も年々増えて美味しくなってるわけだ。本当に継がなくても良かったのか? シルファ食堂」
「……シルファ様にもおっしゃっていただきましたから。『支えたいヒトを支えてあげなさい』、と」
台所に置かれた、年季の入った調理器具に目をやる。
かつてはククレ城塞の端に店を構えていた『シルファ食堂』のものだ。
グリレットさんの死から1年後、シルファさんも後を追うようにしてこの世を去って行った。
彼女は自分の死期を悟っていたかのように、綺麗に身辺整理をして逝った。
ミノリに形見として渡した調理器具の一式もそのうちの一つだ。
「いつかシルファ様と向こうでもう一度お会いしたときに、わたしが考案したレシピを見ていただくって決めたんです。ミノリスペシャルは今後も続々考案していきますからね、乞うご期待ですっ」
むきっと力こぶを見せるミノリ。
シルファさんの葬儀の時に大号泣をしていたミノリも、今は吹っ切れたような笑みを浮かべていた。
●●●
夜も深まり、静寂の世界が訪れるようになる。
ミノリの作ったご飯を食べて、夜の修行を終えて眠る。
この一連のルーティンが出来上がってから3年。まるで俺たちの間だけは時間が止まっているようにさえ感じられる。
――アンタが大往生遂げるまでに、向こう側の美味い地酒でも見つけて待ってるっスから。ゆっくり来てくださいよ。
――いつかシルファ様と向こうでもう一度お会いしたときに、わたしが考案したレシピを見ていただくって決めたんです。
シルファさんは、グリレットさんが死んでからというものめっきり元気がなくなってしまっていたのを覚えている。
皆の前では元気そうな表情をしていても、やはり長年連れ添ったグリレットさんを失った哀しみは深かったらしい。
彼女の生命の灯火は加速度的に小さくなっていき、あっという間に消えていった。
「――死、か」
エルフに転生してからというもの、『死』というものにあまりに縁がなさ過ぎて考えることもなかった。
「くぅ……くぅ……」
俺のすぐ隣では、ミノリが小さな寝息を立てながら眠っている。
頬にかかる紅髪を払ってやると、長いまつげがピクリとだけ小さく動く。
5年前から変わらない添い寝スタイルだ。
出会った時はまだまだ少女の様相だったが、5年も経てばこうも妖艶になってしまうものか。
ともすればここから数十年も経てば、ミノリもいずれ――。
「……りーすさまぁ……」
安心感を解放して、もぞもぞとこちらに身体を寄せてきたミノリを抱きしめようとした、その時だった。
「……戦闘?」
森の中に魔力の乱れを感知した。
複数の魔力反応が激突している。
夜の大円森林ヴァステラは、正規のギルド任務であるならば依頼が来ることは有り得ない。5年前と比べて特別に魔力の強い個体が多くうろつくようになったからだ。
森の中では5つの魔力と巨大な2つの魔力が激突し合って、し合って――。
「――見つけた」
「……どうされましたか、リースさま?」
思わず飛び起きると、寝ぼけ眼のミノリが目をこすりながら俺の袖を引っ張った。
広域範囲に鑑定魔法を敷けば、その5つの魔力反応の中にぽつんと因子を持っている者が現れた。
「《勇者》因子持ち、見つかったんだ」
5年間探し求めていたそれが、ついに姿を現したのだった。
岩喰魚はちょうど気候が涼しくなるこの時期に、海から帰って産卵する川魚だ。
岩を喰べて成長することで知られる魔物の一種で、川に流れる魔素を含む岩を喰って成長した個体ほど脂が乗って美味しいという。
前世で言うところの鮭に似ているが、不思議な魔物もいたものだ。
脂の乗りきった岩喰魚ともなると、オゥル皇国内市場では一尾買えば1週間は楽に暮らせる値段で取り引きされることもある。
そんな中でミノリは材料調達から調理までを一人でこなしているのだから、本当に頭が上がらない。
蒸した行程を経てほどよく柔らかくなった白身はぷるぷるの食感を楽しませてくれるし、ダシが染み出たスープは甘さと後から来るしょっぱさを口の中に広げてくれる。
いつものように食卓に並ぶミノリの食事が今日も美味しい。
「最近、前にも増してご飯が美味しくなったな」
「ふふふ、近頃はリース様がお好きな果実の風味を入れてるんです。具材も柔らかくなりますし、ちょうどいいかなと思いまして」
そしてこの数年で、完全に好みを把握されるようになってしまった。
今やミノリ無しでご飯を食べることなんて考えられない。
落ち着いた雰囲気を醸し出すも、嬉しそうに紅髪のてっぺんをぴょこぴょこ動かす所はいつまで経っても変わらないな。
修行の時、そしてククレ城塞に押し寄せる魔獣を倒す際は常に超級魔法を纏った剣を振るい、浴びる返り血をも気にしない戦乙女に。
家に帰ってきて後ろで髪を結んでいる時は落ち着いた美女へと変貌を遂げ、年々大人の魅力を付けていくミノリ。
透き通った白い肌に、大人びて更に整うようになった顔貌。無駄な肉一つついてない引き締まった身体はククレ城塞を二人で歩くと皆が振り向くほどの美貌の持ち主だ。
「ミノリは、今年の暮れで22歳になるんだっけ」
俺の問いにミノリはささやかな笑顔で頷いた。
「リース様と初めてお会いしたのが10の時、再会したのが17の時ですから、5年が経ちましたね」
「そうか、もう5年も経つんだな。ミノリの料理も年々増えて美味しくなってるわけだ。本当に継がなくても良かったのか? シルファ食堂」
「……シルファ様にもおっしゃっていただきましたから。『支えたいヒトを支えてあげなさい』、と」
台所に置かれた、年季の入った調理器具に目をやる。
かつてはククレ城塞の端に店を構えていた『シルファ食堂』のものだ。
グリレットさんの死から1年後、シルファさんも後を追うようにしてこの世を去って行った。
彼女は自分の死期を悟っていたかのように、綺麗に身辺整理をして逝った。
ミノリに形見として渡した調理器具の一式もそのうちの一つだ。
「いつかシルファ様と向こうでもう一度お会いしたときに、わたしが考案したレシピを見ていただくって決めたんです。ミノリスペシャルは今後も続々考案していきますからね、乞うご期待ですっ」
むきっと力こぶを見せるミノリ。
シルファさんの葬儀の時に大号泣をしていたミノリも、今は吹っ切れたような笑みを浮かべていた。
●●●
夜も深まり、静寂の世界が訪れるようになる。
ミノリの作ったご飯を食べて、夜の修行を終えて眠る。
この一連のルーティンが出来上がってから3年。まるで俺たちの間だけは時間が止まっているようにさえ感じられる。
――アンタが大往生遂げるまでに、向こう側の美味い地酒でも見つけて待ってるっスから。ゆっくり来てくださいよ。
――いつかシルファ様と向こうでもう一度お会いしたときに、わたしが考案したレシピを見ていただくって決めたんです。
シルファさんは、グリレットさんが死んでからというものめっきり元気がなくなってしまっていたのを覚えている。
皆の前では元気そうな表情をしていても、やはり長年連れ添ったグリレットさんを失った哀しみは深かったらしい。
彼女の生命の灯火は加速度的に小さくなっていき、あっという間に消えていった。
「――死、か」
エルフに転生してからというもの、『死』というものにあまりに縁がなさ過ぎて考えることもなかった。
「くぅ……くぅ……」
俺のすぐ隣では、ミノリが小さな寝息を立てながら眠っている。
頬にかかる紅髪を払ってやると、長いまつげがピクリとだけ小さく動く。
5年前から変わらない添い寝スタイルだ。
出会った時はまだまだ少女の様相だったが、5年も経てばこうも妖艶になってしまうものか。
ともすればここから数十年も経てば、ミノリもいずれ――。
「……りーすさまぁ……」
安心感を解放して、もぞもぞとこちらに身体を寄せてきたミノリを抱きしめようとした、その時だった。
「……戦闘?」
森の中に魔力の乱れを感知した。
複数の魔力反応が激突している。
夜の大円森林ヴァステラは、正規のギルド任務であるならば依頼が来ることは有り得ない。5年前と比べて特別に魔力の強い個体が多くうろつくようになったからだ。
森の中では5つの魔力と巨大な2つの魔力が激突し合って、し合って――。
「――見つけた」
「……どうされましたか、リースさま?」
思わず飛び起きると、寝ぼけ眼のミノリが目をこすりながら俺の袖を引っ張った。
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