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ロボットもあって良いのかもしれない

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  あれから様々なものを試していく中で、全く役に立たないただ硬いだけの石を放り込むことまで行った。

 そして、これが正解だった。



「とうとう出来きました。しかも、97%どころか99%を達成していますよ」



 研究者にそう言われた。いや、その事実がなかなか実感できなくて少し困ったけれども。実際に小さなローターを作ってようやく実感できた。



「これならいける。ところで、白かった石が透明になってるけど、これは何かに使えないのかな?」



 そこにはまるで水晶かダイヤモンドかというような元は石だったモノが転がっている。



「これは使いようがないですね。宝飾品にするには硬すぎて加工が難しいですし、石垣に使うというのも違いますし」



 使いようがないと言われても、透明だから宝石として価値を与えられそうな気がしてる。



「一応、これを小さく割って、研磨してみよう」



 俺はその石を小さく割って、歪ながらもネックレスかイヤリングに使える形に仕上げてみた。本来ならダイヤモンドみたいにしたかったが、丸っこい石に整えるのが精いっぱいだった。



「丸くするのが精いっぱいだな」



 そう思って、研磨している隣の机に置いた。置いて気が付いたが、その机は立て付けが悪くてこんなものを置いたら転がってしまう。



「おっと・・・・、あれ?」



 転がると思ったが、転がることは無かった。転がしてみると、どうやら一回転して止まっている様だった。

試しにもう一つ作ってみても、結果は同じだった。



「不思議な性質があるなぁ」



 俺はその時その程度にしか思わなかったが、この透明な石を運ぼうとしたときに異変は起きた。

 なんと、石は特定の位置を下にしないと転がってしまう。常に一方向を下に向ける性質がすべての石にあることが分かった。しかも、魔導鉄と接触している場合、その性質によって魔導鉄が石の水平に影響される事まで分かった。



「これは使える。バリスタの台座に仕込めば常に水平を保つことが出来る。台車と射軸の調整が楽になるかもしれない」



 当然のことだが、ドラゴンを狙うバリスタは固定式ではなく、馬に引かせた台車の上に据え付けているのだが、馬車が動くと当然、その都度調整をしないといけない。しかし、この石を使えば水平を勝手に調整してくれるので、照準の手助けになるんじゃなかろうかと試してみた。そうすると見事にその役割を果たしている。



 だが、バリスタの完成に喜んでばかりはいられない。ショベルカーやらクレーンやらというのは一つの動きではなく、複数の動きを制御しなければいけない。それは単に魔力の入り切りで出来るものではなく、入力の方向を変えたり、一度に複数の入力が必要になった。

当初考えていた以上に複雑で難しい問題に直面したのだが、やけっぱちで、油圧配管のように入力位置をずらすことで出来ないかと提案した。

 今は一方向からの入力になっている。それを両端に取り付ければどうかと思ったのだが、全く無意味だった。何か他の方法が必要らしい。かといって、小説の魔道具みたいにイメージしたらそのように動くなんて単純にもいかなかった。



「何か回路のような仕組みが必要みたいだけど、どうすりゃいいの?これ・・・・」



 俺は頭を抱えた。完全に行き詰ったと言って良い。



 バリスタやクロスボウは出来たし、単純な動きの鉱山用ショベルならば完成した。確かに現状ではこれでも十分と言える。

 気が付けば鍛冶師たちは鉱夫たちと話し合ってトロッコやらレールを作っているし、もう十分な気もしては居るのだが、やはり、「現代の機械」が造れそうで造れないことには納得がいかない。

 唯一、履帯キャタピラ式の台車なら出来そうなので造ってもらった。そして、バリスタを載せてみた。



 これまでよりも走破性があり、実用上の問題もほとんどない。もともと駆け足程度の速度でしかない馬車式のバリスタと変わらない速度で動けることに皆は感動していた。この出来損ない戦車ってかメーヴェルワーゲンモドキは一応成功と言えるだろう。

 台車の動力はモーターモドキの回転魔動器2基を積んで、操縦者がそれを操作している。左右の魔動器を同調回転させるには訓練が必要だが、従来と変わらず魔力を流すだけで制御ができる。左右差を出せば旋回できるのは戦車と一緒。

 台車上にはバリスタが載っているが、これは馬車と同様にオープントップに旋回台座毎据えられている。相手が人間ではないので、遠距離攻撃はないから防護の必要は薄いという事になっている。俺としては側面くらいは防護した方が戦車っぽくなると思うのだが、重量の問題は如何ともしがたい。



 この回転魔動器は馬車に取り付ければ試算通り数百km走行できる。走行距離は運転者の魔力による訳だが、個人差はあれど街中の移動に支障は出ない。

 魔動馬車を真っ先に乗り回したのは当然、リンだった。



「ユーヤ、これは面白いね。これなら馬が居なくてもどこへでも行ける。ちょっと競争しないか?」



 ホント、女の子らしくはないその行動力と言動には脱帽だよ。

 という訳で、ゴムタイヤがないのだが、木でクッション材を作って鉄輪に嵌めた代用品、そもそもは台車用転輪として造ったソレを使ってカートを造ってみた。

 鍛冶師や鉱夫のおっさんたちもトロッコ用機関車の応用として乗り気だったし、出来たカートでみんなで遊んでいた。すごく好評だった。この時谷に作られたコースがレース発祥の地として後に聖地となるのだが、俺はそんなことは知らない。コースレイアウトはゲームでよくやっていた鈴鹿サーキットをモデルにした。

 おっさん達やリンが行った最初のレースの勝者は予想通りにリンだった。驚く話ではないよね?



 さて、どんどん脱線していく魔動開発なのだが、魔動車の開発やカートの普及、忘れずにバリスタやクロスボウの製造も続けているので資金はそれなりにある。

 リンや鍛冶師たちが魔動車やカートの開発でにぎやかなのを横目に見ながらこっちは頭を悩ませている。

 たまに魔動車開発を覗いていて新しい発明を見つけた。リンと鍛冶師たちがシリンダーに常に一定の魔力がかかる仕組みを考え出していた。ばねとそのシリンダーを組み合わせて乗心地を良くしたり、カートにサスペンション機能を付けて走行性能を上げたりしていた。いや、それはもうカートじゃなくてフォーミュラですから・・・・

 

「この魔力調整はどうやってるんだ?」



 魔動車の足回りを覗き込みながら俺はリンに尋ねた。



「これかい?これは水平石でやっているんだよ。どうやらこの石は水平を保つだけじゃなくて魔力を制御する力があるみたいだね。だから、力加減を変えながらシリンダーの力量を調整していって、その加減を記憶させている。一度作れば同じ情報を石に入力するのは簡単だから、こうやって量産できているのさ。すごいだろ?」



 サラッと自慢してくれているがリン、よくそんなことに気が付いたな。



「これは僕が気が付いたんじゃない。鉱夫のラウリさんが荷車を使っていて気が付いたのさ。それで、カートに応用できないかってあれこれ試している時に出来たんだよ」



 趣味への意欲が発明を生んだのか・・・・、しかし、これは大発見だな。



 このやり方を応用すれば複数の動作を一度に制御出来るのではないか。ショベルなんかは3種類から4種類の動作を同時に行う。それぞれの部分の動きを司る水平石を配置して、そこに指令を出せばいいわけだ。

 さて、問題はコントロールユニットだよな。

 だが、これがあっけなく解決した。魔導鉄を用いた配線と水平石をシリンダーと手元に配置すればできた。それで動かすことに問題はない。



 試しにいくつかの棒を組み合わせてショベルのアームのようなものを組んでそこにシリンダーと水平石を配置してみることにした。



「やった、動いた」



 想像した通り、レバーで信号を送るのではなく、水平石に自分の意思を伝えることで動くことが分かった。レバーの操作を覚えずとも、頭の中にイメージさえすれば動くのだから楽でいい。こんな簡単に動かせるとなると、今後の開発はスムーズにいきそうだ。



 そう思ってリンを呼んで動かしてもらったのだが、イマイチ動きがぎこちなかった。動きをいちいち考えている感じで、まるで初心者がレバーを操作しているのと変わりない。



「これは難しいね。これをすんなり動かすのは難しいんじゃないかな?」



 そう言って、リンが考え込んでしまっている。

 まさかと思って屯していた鉱夫の人たちにもやってもらったが、リンの言う通り、みんなうまく動かせなかった。



「こいつは大変だな。一々考えながら動かすんじゃ自分で体動かした方が早いぞ」



 そう言われてしまった。もちろん、中には器用な人も居たけれど、集中して動かすのは大変だと言われてしまった。

 不思議な事にイメージして動かせるのが俺しかいない。それがなぜだかよく分からなかった。



「なんでそんなに動かせないんだろう?」



 そう思ったのだが、リンに聞かれた。



「なんでそんなに動かせるんだい?僕はこんな機械が動くところなんてうまく想像できないよ。例えばほら、おじさんみたいな動きなら簡単にイメージできるから、腕が二本あれば、きっとシェベルをもって動かすのは容易だと思う」



 そういうので試しに腕型のアームを二本作って、棒を持たせた形にしてみた。

 そうすると、リンだけでなく、みんなスムーズに動かすことが出来る様になった。



「作るなら、トロッコの先端にアームを二本、アームに取り付けるツルハシやシャベル型の道具を用意すれば効率は上がるかもな」



 実験に参加した人々がそう感想を口にしていたので、試しにどこかのメーカーが作っていた災害救助用重機みたいに二本のアームを機械に取り付けてみることにした。



「こいつは良いぞ、人が使うよりもかなりパワフルにツルハシやシャベルが使える」



 そうおっさんらが喜んでいるのだが、正直、俺にはその光景はどうしても異様にしか見えなかった。

 だって、考えてもみて欲しい。確かに前世の話だが、潜水艇や宇宙船、あるいはロボットのアームやマニュピレータを動かしている映像って、どこかぎこちなくて緩慢な動きじゃなかったろうか?



「なんでそんな難しそうな顔をしてるのかな?そんな難しく考えることないよ、みんな、いつもの自分の動きを自然にイメージしてるからスムーズに動かしてるんだよ。この間の機械みたいなものだと、動かすのにどんな動作が必要か、いちいち動きを考えながらじゃないと動かせない。バリスタやクロスボウだったり、車みたいに魔力さえ込めたら動かせるのなら良いけれど、複雑な機械になるとイメージで動かすからどうしても普段の体の感覚が必要になるんだよ。あれ?そうじゃなかった?」



 リンが隣にやってきてそう言って説明してくれた。イマイチわからなかったりするけれど、可能性として言えば、俺の場合、前世でのショベルの動きを知っている。知ってる動き方だからイメージできたのかもしれない。



 つまり、自ら容易にイメージできる動きでないとこの魔動式機械ってのは動かし難いんだろうな。

 そうなると、考えていたものは造れなくなってしまう。前世の重機のようなものではこの世界では動かし難い。人型の方が動かしやすいことになる。う~ん、困ったな。これでは前世の知識がうまくいかせないんじゃなかろうか。仮に、ロボットオタだったらこんな悩まずに済んだかもしれない。しかし、俺にはロボットが鉱山や農場で作業してる姿なんて想像できないんだよなぁ~

 

 俺自身は気が進まないしどう作ればいいのかよく分からなかったんだが、リンや研究者さん、鉱夫の人たちは喜々として機械というか、ロボット開発を行っていた。俺としてはロボットなんてという疑念が抜けないでいるのだが、腕が二本ある事でこれまでの簡易なトロッコ用ショベル以上の作業が出来ると喜んでいるのを見ると、俺の固定観念が問題なのかとも思ってしまう。

 でも、やはりどこかで、本当にこれで良いのか?という疑問が消えないのだが・・・・・・



 俺がロボット開発に疑問を持っている横でリンや鉱夫のオッサンたちは次々アイデアを出していく。



「トロッコに腕を付けるのも良いし、バリスタを撃つ腕とかも面白いな。そうだ、いっその事パンの収穫に使える脚を作ってみちゃあどうだ?」



 ロボット開発において避けては通れない一言が飛び出した。そうだ、脚を作るのか。四脚か二脚かはともかく、そういう話になるか。



 が、それ以前にここが地球ではない証明ともいえるのが、パンだろう。何を言ってるんだと思うかもしれないが、このカルリアでは、パンは木に成る実の事だ。皮をむくとモチモチした果肉があり、それを焼けばパンになる。前世のパンと作り方がずいぶんと違うが味は似ているような気がする。しかも、このパンは果実なので栄養価も高く、前世でいえば豆類のような存在だ。そのため、農業と言えばまずはこのパンの木を育てる事を指す。野菜や芋を育てる畑が無いわけではないが、パンと肉や魚があればある意味事足りてしまうので畑作は主流ではない。貴族や騎士、裕福な商人などが付け合わせとして食べることはあるが、無くても栄養としては問題はない。現に野戦食はパンに肉や魚を挟んだものが出されるだけ。庶民の普通の食事もそれ。野菜などはいわば香辛料としての扱いになってしまう高級品だ。

 そんなわけで、この世界には農耕馬とかは居ない。よくある農業チートの千歯扱きや唐箕の出番がない。



「パンの収穫か。アレって木を揺すって落とすんじゃなかったか?脚っつうか、人型の機械があったら便利なんじゃねぇの?」



 そう言った話になったので、パン農家に聞いてみることになった。



「なんでこんな険しい所でパンを栽培してるんだ?」



 それが第一印象だった。そりゃあ、麦じゃないんだから畑では無いとは思っていた。だが、カルリヤはほぼ平坦な土地のはずだ。なぜわざわざ山で栽培しないといけないんだろうか。



「なぜと言われましても、平地で樹木を栽培するのはいろいろ邪魔になります。より内陸ならばともかく、ここではドラゴンの襲撃を受けた場合に木をなぎ倒されでもしたら困りますので、こうして街から外れ、ドラゴンの襲撃を受けにくい山間で栽培しておるのです」



 それを聞いてなるほどと思った。そう言えば、ドラゴンもとい恐竜は肉食ばかりではない。小規模な侵攻の際にはティラノサウルス以外の四足歩行の恐竜が来ることもあり、そいつはそいつでカバみたいに頑丈で倒すのに苦労する。平地にパンの木畑があれば真っ先に狙われてしまう。



 そう考えれば、わざわざ山間部に畑があるのも納得がいく。



 それに、田畑と違って他の作物を栽培することも出来ない。肉の生産や移動手段としての牛や馬を飼育しているので、その餌も必要になる。平地をパンの木畑にしてしまっては餌の栽培が出来ないだけでなく、放牧時にパンの木が食害にあう恐れまであるという。そのため前世の知識を使って輪作ウンウンという転生チートを使うという容易な話にはならないらしい。



「なるほど、わかった。そうすると、この斜面を登り降りした上に木に登って実をとる必要があるのだな。確かにそれはきつい仕事だ」



 そう言って、考えて見た。



 一つは果樹園用のモノレールがあれば便利だろう。それならトロッコ用動力もあるので簡単に作れる。なにより、モノレールは一本のレールの上を走る上に、レール自体も地面に敷くわけではないので工事は容易だ。レールの制作は少々手間かもしれないが、鍛冶師たちなら喜んでやってくれるだろう。



 もう一つは高所作業車だろうが、それは非常に危険な気がする。何せ斜面で高さがある。前世の車輪や履帯式の車両という訳にはいかないだろう。どうしてミカンやリンゴみたいに低い木ではなく、椰子みたいに高い一本の木なんだろうな。実も椰子みたいだが。

 そのため、皮はパンの糸と言われて繊維として扱われており棄てるところがないらしい。



「ここなら脚を作れば作業台にもなる。腕を付けて収穫も機械でやるのも良いと思うんだ」



 リンがそんな事を言う。確かにそうかもしれない。



「なら、いっその事、その機械に槍やバリスタを持たせたらドラゴン退治にも使えるな」



 何気なく俺がそう言ったらリンが嬉しそうにしている。



「そうだ!その手があった!」



 男の子らしいね。その趣味は。俺はあまりロボットに興味は無いんだが。





 そんな俺の不用意な発言があって、なぜかリンだけでなく、鉱夫や鍛冶師のおっさんらまでがロボット作りに興味を示してしまった。何故そんなものが欲しいのかよく分からない。



「そんな高さが街の門ほどもある機械を作っても目立つだけじゃないか?」



 俺は工房に帰って盛り上がっている人々にそう言った。



「おいおい、目立つって良い事じゃねぇのか?ドラゴン並のデカさがありゃあ、槍の一突きで倒せるだろうし、わざわざ何人もが乗り込んだ台車を引っ張らなくともバリスタを撃てるんだ」



 おっさんの一人がそう言う。まあそうかもしれんが。



「でも、目立つという事は敵からの攻撃も受けやすくなるんだ。被害が今までより多くなったりしないだろうか」



 そう、多脚やら二足歩行の兵器の最大の欠点は秘匿性の低さだ。戦車や装甲車がなぜ低姿勢を目指すのか。それは被弾を抑えるためだ。今では正規軍よりテロの脅威が高いから背が高い事も許容されているが本来は背が高い事はそこまで許容されるものではない。低いに越したことはない。



「何言ってんだよ。人間がチビで非力だからドラゴン共が好き勝手してんだ。トロッコのウデみてえので殴りつけてやりゃあ尻尾まいて逃げ出すかもしれねぇじゃないか」



「そうだよ、ユーヤ。背の高さは人間同士の争いならば弱点になる。操作する人間は上に居るから足元が見えないから、こっそり近づかれて関節を壊されたら動けなくなるけど、ドラゴンの大きさだろ見つけられないって事は無いんだ。相手と同じ大きさ、同じ力で戦えることの方が利点だと思うな」



 リンもそう言っている。確かにそう言われてしまうと返す言葉がない。



 そもそもだ、カルリヤの地で人間同士が争っている暇などどこにもない。そんなことをすればあっという間にドラゴンの餌食だろう。そのことは確かに分かってはいた。



「それもそうだな」



 俺にとってロボットはフィクションの世界の産物でしかなかったが、ここではドラゴンというフィクションと人間が争っている。だとすれば、ロボットがあっても良いのかもしれない。

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