お決まりの悪役令息は物語から消えることにします?

麻山おもと

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わがままな子への接し方

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 アーノルド・フュースト。この国レーベル王国に3つしかない公爵家門の当主として努める者だ。また、我がシューリッヒ公爵家は、その内の一つに連なる歴史的にも栄誉ある家門である。



 愛する妻に、子宝にも恵まれ、幸せな日々を送っている。

 子どもは4人おり、全員男だ。長男のアースヴァルドは、魔法に関して大人も舌を巻くほどの才を見せ、文武両道。次男のリカルドは武勇に優れており、こちらも我が家の騎士に劣らない能力を持ち合わせている。三男のシエルは、これといった特出した能力はまだ開花していなく、最近は我儘放題で、手が付けられない。四男のノヴァは、基本的に大人しく兄弟の中で一番愛嬌がある子で、最近は魔法と楽器に興味を持っている。


 子供たちはとても愛おしく、可愛らしい存在であるが、三男のシエルの接し方に戸惑っている。幼い頃からだったが、癇癪持ちで、わがまま三昧。他の兄弟たちは、そんな彼に対し、呆れたと言わんばかりの冷たい態度を取り、関わろうとしない。最近になって、無視までするようになり、その冷酷過ぎる態度に屋敷中の者が慣れつつある。妻と私は、良いことをしたら褒めるという躾を徹底しているため、シエルばかりを贔屓しないためにも傍観していた。しかし、何年たってもシエルの癇癪や我儘は矯正されることなく、𠮟っても聞き入れない。極めつけに、私の大切な書類をインクまみれにし、妻の食事をひっくり返したことで、私達も意地になって彼を放任している。

 









 いつも必ず家族全員集まる夕食の場で、珍しくシエルが来なかった。アースヴァルド達は、待たされることにイライラしているようだったが、妻と私は、一度も休んだことのないシエルの不在に違和感を抱いていた。

 メイド達やシエル専属の執事に聞いても、不在か遅刻なのか、こんな簡単な報告に誰も答えられずにいる。アースヴァルド達は、偶々でそんなこともあるだろうと、シエルに非があると決めつけている。しかし、私と妻は違う。どんな我儘を言っても、夕食の席だけは一度も、兄弟たちと喧嘩をしても、風邪をひいても休むことはなかったあの子がそんなことをするだろうか。

 ふと、少し前から報告に上がっていた、ある侍従たちの職務怠慢疑惑を思い出す。妻も不安そうに私の顔を見上げ、お互いに浮かんだ最悪の想定をする。

 彼女と目を合わせ、憤った感情を表に出さないように、シエルの専属の侍従達に尋ねる。




 「そういえば、最近シエルの様子を聞いていなかったのだが、今日は何をしていたのだ?」
 「......。おいっ、お前言えよ。」
 「何でだよっ、お前知ってるんじゃないのか?」
 「はぁっ?私が知ってるわけないでしょ?」
 「「「「「.......。」」」」」



 
 侍従たちは、お互いがお互いに顔を見合わせ、知っているか尋ねるも、誰も知らず、発言を擦り付けるようにして、責任転嫁を始める。誰も知らないとわかり、一斉に顔が真っ青になったのは彼らだけではない。




 「…もういいっっ。今日の昼食を用意した者は?」
 「「「「「「.......。」」」」」」
 「まさか、食事を与えていないとは言うまいな?」
 「…わ、私がっ......朝食を担当しました。」
 「昼食は誰も担当していない…と?」
 「で、ですがっ、シエル様は、...........食事のほとんどを残されますっ。」
 「そっそうです!朝食もほとんど手を付けられませんでした。」
 「だから何だ?それが職務怠慢の言い訳になるとでも?
  フリン、そんな報告は聞いてないぞ。お前、フュースト家の食事を責任する者、管理するものの一人として、何をしていた?」
 「申し訳ございません、ご主人様。しかしながら、私めは三食シエル様の分も用意し、侍従たちが回収しているのを確認しております。また、坊ちゃまの残飯も見かけておりません。」
 「......なんですって?」
 「ど、どういうことですか?」
 「どういうことだ?」





 衝撃の事実に、妻とノヴァ、リカルドが思わず声を上げる。アースヴァルドは瞬時に状況を理解しようと、頭を抱えながら考えている。私はというと、何とか冷静に状況を把握しようと頭を回す。毎晩、シエルの様子をしっかりと見ているわけではなかったため、完全とは言えないが、夕食の場では食事をほとんど残すということはなかったように思う。体型に関しても、小柄な子だという認識で終わってしまっていた。だが、意識してみると、2歳年下のノヴァと体格があまり変わらないように思う。ノヴァに関しては、リカルドのようにそんなに体力づくりをしているほうでもない。

 物凄く瘦せていたかどうか、そんなことさえよくわからない。毎晩会っているというのにしっかりとシエルに意識を向けたことがなかったからだ。メイド達の職務怠慢の言い訳として、食事をよく残すと虚言をぬかし、毎日3食のうち2食を届けていないのだとしたら、、、、冷や汗が首を伝う。

 今更知ったシエルの現状に胸が締め付けられるような後悔が襲う。早くシエルのところに行かなければ。。

 妻もそう感じたのか、席を立ち、食事に構わずシエルの部屋に向かう。アースヴァルド達も顔を真っ青にして、妻の後を追う。


 シエル専属の侍従たちは、ようやく自分達のしでかしたことを悟ったのか、放心して逃げ出そうとする者が現れる。わざわざ口にしなくても騎士たちが瞬時に捕らえ、羽交い絞めにする。それを確認し、シエル専属の侍従達全員を地下牢に入れることを命じ、急いで自分も愛する息子の部屋に向かう。




 

 「一体どういうこと?兄さん、そんなこと一言も.....。」
 「わかんねぇ、何がどうなってるだよっっっ?」
 「うるさいっ。お前は少し黙れっっっ。」
 「はぁ?お前の方こそうるせぇんだよっ。」
 「ちょっと兄さん達やめてよっ。」



 

 あまり私達はシエルに関わってこなかった。末弟のノヴァの、年齢にそぐわない成熟した精神年齢と比べ、シエルの行動はあまりにも稚拙に見えたからだ。

 
 最初は、可愛い弟だとそれなりに構っていた。私の次に生まれたリカルドに比べ、愛らしく、か弱い存在に見えたからだ。シエルが言葉を話すようになり、歩くようになるまでは、普通に可愛がっていた。むしろ両親に呆れられるほど構っていたし、何なら私以外もそうだったように思う。しかし、いつの日かシエルが何をしても泣き止まず、泣き続ける日が何日も続き、私達は心配してあらゆる可能性を考慮し、様々な専門家を家に招いたが、一向に原因がつかめなかった。丁度その時期から私は学校に通いだしたりで、忙しく、構うことができなかった。父も母も領地や社交で忙しくしており、リカルドも早くから王宮の騎士団に皇子たちと一緒に見学に行ったりで、長く構うことができないでいた。

 今考えれば、いつの間にか泣き止んでいたシエルの当時の原因は、誰も知らないでいる。そして、ある程度余裕ができた今、気づくとシエルは我儘三昧で自分勝手にふるまうようになっていた。

 自分で自分が分からないが、それだけでシエルに冷たい態度をとってしまった。ノヴァやリカルドにもしないのに、何故かシエルのことが許せなくなってしまった。

 無視するきっかけは、半月前くらいに開かれた貴族の子供達のみでの茶会で、男爵家の令息ばかり構われていることに理不尽にも嫉妬して、本人にお茶をかけたことからだ。よく考えれば、シエルの言い分を誰も聞き入れず、自身もシエルに非があると調べもせずに決めつけていた。


 愚かすぎる態度をとってしまった今までに深く後悔する。リカルドもノヴァも同じ気持ちみたいで、お互いに顔を見合わせ、シエルに向き合うことを決意する。彼自身を見ようと。







 先に着いた母が膝をつき、少し開いた扉を前に、瞳を涙で今にも溢れんばかりにさせていることが分かった。


 私達は急いで母が留まる扉の隙間をそぉっと覗く。


 華奢な背中をこちらに向け、体を抱え込むような格好にして、頼りなく震えている。



 
 涙交じりに漏らすシエルの本音をはっきりと耳にし、誰もが声を出せないでいた。いつの間にか来た父も共に、苦しそうに顔をゆがめ、ノヴァはこらえきれずに涙を流していた。


 シエルの紡ぐ言葉を聞き逃さまいとするものの、その一言一言に胸打たれ、締め付けられるような思いを感じていた。今すぐに抱きしめて謝りたい。だが、私にその権利はあるのだろうか。今更兄貴面して許されるのだろうか。.....いいや、.....許されなくても行動で示し続けなければ。シエルも、私の可愛い弟の一人なのだから。


 誰もが踏み込めないでいる、その領域に、漸く決心して足を踏み入れる。その姿を見て、家族全員が我先にと急いで立ち上がる。
 


 その小さな背中に私が手を伸ばすと同時に、シエルの体がぐらりと力が抜けたように倒れるのが見えた。急いで倒れる前に受け止め、優しく抱きしめる。可愛い弟の顔を見られるように横抱きにする。その周りに、家族全員ぴったりと集まり、衣服で隠されていたその小柄な姿を確かに感じる。抱いているにも関わらず、年齢の割に軽すぎる感触に、優しく壊れ物を扱うかのような気持ちになる。


 湧き上がるのは愛おしいという気持ち。それは、家族の共通認識として、わざわざ言わなくてもお互いに感じていた。儚い、か弱い、尊い、そして胸が締め付けられるほど愛おしい存在だと。

 
 
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