お決まりの悪役令息は物語から消えることにします?

麻山おもと

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みんなの勘違い

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 僕が彼に転生したと理解した時には、彼の今までの記憶の全てが露わになっていた。

 今までの言動の全てが、彼の悪意によるものではなかったと、自分が前世から唱えていた仮説が真実だと証明されたときだった。

 



 僕の前世の、BLにハマるきっかけが姉と妹によるものだった。3人ともがこの漫画にハマり、そして、3人ともが違う登場人物を推していた。姉と妹が無難に攻略対象達を推す中、僕だけ悪役令息シエルを推していた。よく、推しの良さについて、3人で語り合い、批判し合い、誰の推しが一番か、なんて、くだらない言い争いをしていた。

 悪役令息なだけあって、批判される所が多過ぎて、いつも彼の良さを認めさせられずにいた。僕自身の言い分も「でも、シエル様のやった悪事は.....本当は、何か事情があってのことかもしれないじゃんっ。全て、絶対的に悪意を持ってなくてやったことだとも捉えられるよっっ!!」と抽象的なものが多く、悪事に対してつつかれたら負けが確定するのだ。

 でも、僕自身は、シエルの悪事に関する反論ばかりを提示し、シエルの悪事の全てが悪意を持って行われていたことではない、と当時何故か信じていた。自分でも心の中で滅茶苦茶だとも感じていたが、シエルの言動全てに意味があると本心で思っていた。

 今思えば、あの頃から、シエルを何故か盲目的に信じていた。そして、僕の確実性の低い、無茶苦茶な負け確定の反論筋に、姉妹揃って呆れ顔を浮かべながらも、納得する言葉で一度は受け入れてくれていた彼女たちは、いつも僕を甘やかしてくれていたのだと、転生した今、気付いた。

 


 自分が見て、体験したシエルの記憶では、父の書類の一枚に焦点を当てると、視界がぐわんぐわんと回るような感覚が頭を襲い、耐えられなくなり、インクがその書類を覆うように意図的に溢していた。



 お決まりの転生ものの設定を受け継ぎ、僕自身は文字が読めるので、インクを溢す前に何とかその書類の内容を読み取っていた。どうやら僕宛の婚姻届で、ジェイソン・ブラッシュという名の男からの申し込みのようだった。




 この国では勿論、同性結婚が認められており、男でも妊娠する機能を魔法で作り出すことが出来るまでには、魔法で発展している世界だった。当然、それは女性同士の場合でも適用される。

 そのため、政略結婚も風潮的に残ってはいるが、お互いに好きな人ができたら解消する事例も少なくはないみたいで、恋愛結婚が当たり前となる時代ももうそこまできていた。





 シエルの悪事を弁明するが、そのどれもが視界や感覚に一瞬の痛みの感覚や不自然な違和感がある時に限って行動を起こしていた。母の食事をひっくり返したのも、母の食事に目をやると、腐った食物や生ゴミの匂いが漂ってきたからなのだ。その匂いは、体験した僕でさえ吐き気を催す程で、シエルは、そのまま自室に帰り、生理的な涙を流しながらしばらくえずいていた。


 これらの記憶から推測するに、シエルは、人の感情や感覚を何かしら受け取ってしまっているのでは、と思う。一つの具体的な例として、人の悪意や企みといった、強い感情に反応してしまうという点である。

 合っているかは置いておいて、シエルの言動には、何かしらの意味があったことを知ることが出来た。




 それを今まで誰にも知られることなく、シエルの悪意ある言動として受け取られていた。

 そうなると、余計に........考えてしまう。誰にも理解されなかった、理解を示されることすら、興味を持たれることすらなかった彼に.......。

 


 胸が締め付けられる。もし、僕が攻略対象の1人に転生していたのなら、彼を選んで幸せにしてあげられたのに.....と。

 しかし、シエル自身になれたことで、彼の真実を知ることが出来たと考えると、何とも複雑な気持ちを抱かざるをえない。


 今の僕に出来ることと言えば、彼にこの世界で沢山楽しんでもらうことだけだ。

 そのためには、お金が何よりも必要であり、この貴族という身分によるこれからの勉強時間や社交の時間の必要性を、改めて考えさせられる。

 しかし、前世で学ばなかったことを学べることは貴重なことだとも思う...。




 非常に悩む択ではあるが.....。


 僕はまだ子どもだ。一気にゴールまでいかなくても、時間はまだある。焦る必要はそんなにない気もする。

 楽な方を選びたいのは山々だが、いきなり庶民になったとこで出来ることも限られているため、計画的に行動する必要があるのかもしれない。家を出る計画が整ってからそれまで、学べることは学ばせていただくとしよう。








 「.....エル、.......ねが............きて.......。」
 「.......さい、もう.......から。」
 「「「シエルっっっっ」」」


 急に、名前を呼ぶ声がはっきりと聞こえて、びっくりして目を開ける。


 アルス   「…はっ、シエルっっ.......起きたのか?」
 母(エリス)「か、体.....大丈夫かしら?」
 父     「ど、どこか、痛いところは...ないか?」
 リカルド  「お前....よかった…。」
 ノヴァ   「た、体調....どうですか?」


 一斉に話しかけられる。何故かこちらを気遣っているような顔を向けて、ベッドに体を乗り出してくる僕の家族たち。…これは一体どういうことだろう。

 シエルの家族は、作中で一度も彼を気にかけたことがなかった。シエルに無反応な顔や怒った顔以外、向けたことがなかった。こうした顔すら初めて見た。


 「な、なに....何で....。」


 声が震える。どうしたら....何が正解なんだろう。何で彼らが僕の周りにいるのだろう。僕というイレギュラーの存在に気付かれたのだろうか。折角、彼のための今後の方針を立てたばかりだというのに....。



 アルス     「シエルっっ、どうした?」
 父・母(エリス)「.......。」


 いや、落ち着け。何も悪いこととはまだ決まっていない。

 僕は多分、シエルが今まで作中で受けていた態度をとられることが、そうして孤独を感じることが、恐いのだと思う。だからこそ、こんなにも身構えてしまうのだろう。


       「ど、どうか…されましたか?」
 父     「.....今まで、すまなかった。
        シエルが寂しがっていることなどつゆ知らず、親としてあるまじき行動を取っていた。
        今後、挽回していくつもりだ。
        だから、どうかこれからもそばにいることを許してもらえないだろうか。」
 母(エリス)「私も、あなたに寄り添おうとしなかったことを後悔しているの。今まで本当にごめんなさい。」

 ・・・・・・






 彼らに謝られる日が来るとは思わなかった。兄様達にもノヴァにも謝られるし、こんなこと本来ありえないのに…。


    「こちらこそ、今まで我儘言って、....迷惑かけてごめんなさい。」
 アルス「お前が謝る必要はない。父上から話は聞いた。」
    「んぇっ?....はなし?」
    「「「「「....っ.。」」」」」
    「...?どうか、されましたか?」

 
 予想外の話の展開に思わず変な声を出してしまう。

 何故か下を向いて、手で口を押える彼ら。アルスヴァルド兄様が手だけこっちに向け、大丈夫だとジェスチャーをしている。



 どうやら、僕の癇癪や我儘な言動に何か深い理由があるという結論に至ったらしい。その証拠に、シエルがひっくり返した母の料理の痕跡をテーブルクロスから発見して調べると、毒が検出されたみたいだ。他にも、貴族子息達のパーティーで、シエルがひっくり返し、投げつけたクッキーや紅茶には、下剤や睡眠薬が混入していたようで、他にも、シエルのほとんどの言動のもとに、何かしらの問題が確認された。

 
 そして、なぜ今更調べるに至ったかというと、僕が夕食の場に来なかったことで、専属の従者達の職務怠慢が発覚した。僕の部屋へと向かったところ、泣きつかれて意識を落としてしまった僕をアルスヴァルド兄様が受け止めてくれたみたいだ。そこで、僕が栄養失調になりかけの状態であることを確認し、僕に関わること全てを調べ出したということのようだ。


 
     「あの...けほっ...僕もう大丈夫なので...。」
 リカルド「何言ってんだ。咳出てるじゃねぇか。」
 ノヴァ 「兄さん、四日も眠ってたんだよ?大丈夫なわけないよ。」
     「よよ四日っ?!...ですか。」
 父   「ちょっところ...拷問に.....コホンッ...侍従達の聞き込みがあと少しだったからすぐに終わらせくる。
      シエル、心細いだろうが少し待っていてくれ。」



 心配そうに母から直々にお水を渡される。父に関しては、お怒りモードの顔をして、侍従達のいる地下牢に向かったようだ。アルスヴァルド兄様は、僕の右頬を片手で包み、指で頬を掠めるようにして優しく、壊れ物を扱うように触れてくる。罪悪感を抱えた顔で、どこか安心した様子も混在した、複雑な表情を見せる。リカルド兄さまは、何をしたらいいのかわからないのか、ウロウロと、僕の周りを心配した表情で、犬のようにいったり来たりしている。ノヴァは、僕のベッドに潜り込み、腰に抱きつくようにして手を回し、引っ付いている。

 あまりの状況の変わりように戸惑わざるを得ない。だけど、シエルの言動の真実が知られ、家族にやっと意識を向けられ、嬉しい温かな感情が胸いっぱいに広がる。





 この気まぐれは、きっと長くは続かないだろう。だけど、この時だけでも縋っていたいと思ってしまった。

 後々、寂しくなるのは自分自身だというのに、馬鹿なことをしてるのは十分わかっている。でも、どうして、この温もりの存在を知って、手放すことができるだろうか…。


 
 
 
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