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第一話
しおりを挟む伯爵令嬢のエリヴィラには婚約者がいる。親同士が決めた婚約であり、エリヴィラは婚約者に恋愛感情を抱いていない。それは相手も同じだ。
彼女の婚約者は侯爵令息のフィクトルといい、エリヴィラの幼馴染である。親同士が仲が良く兄弟のように育った。そんな相手との縁談だったものだから、両親から初めてこの話を聞いた時にエリヴィラは困惑した。
「私たちはただの幼馴染ですよ?それなのに、いきなり婚約しろだなんて!」
両親に抗議をすると、父が豪快に笑った。
「気心の知れた相手と結婚した方が良いだろう!父さんも母さんも小さい頃から知ってるフィクトルくんが相手なら安心だ」
「私もそう思うわ。それにね、フィクトルくんってかっこいいでしょ?誰かにとられちゃう前に婚約しておいた方が良いわよ」
母の言葉にエリヴィラはため息をつく。エリヴィラはフィクトルに恋愛感情を抱いているわけではないし、特に彼をかっこいいと思ったことはない。
「あの人のどこがかっこいいって言うんですか?生意気だし、レディファーストのレの字もないような人なんですから、他の子にとられることはないと思いますが」
「あらあら、エリヴィラは分かってないわねぇ。まだまだお子様ってことかしら」
「私はもう十六になるんですよ。来月には魔法学校に入学しますし、もうお子様ではありません!」
ムスッとした顔で言い返すエリヴィラ。そんな彼女の様子を見て、父が宥めるように話し始めた。
「そうだね。もうお前はお子様じゃないんだから、将来のこともしっかり考えなくてはいけないよ。いずれ、この家は君の兄が家督を継ぎ、君は他家に嫁ぐことになる。それは分かっているよね」
「はい」
「父さんは最高の結婚相手を見つけてきたと思っているし、先方も同じように考えている。誤解がないように言っておくが、何も突発的に縁談の話が舞い込んできたのではないんだよ。両家でしっかりと話し合った結果、婚約が決まったんだ。君の意思だけではこの婚約を白紙にはできないんだよ」
「私たちも、エリヴィラと同じように親に決められて結婚したけれど、お兄ちゃんもあなたも生まれて幸せに暮らしているわ。恋愛結婚したからって必ずしも幸せになれるわけではないし、政略結婚が全て不幸だと決まったわけでもないのよ。エリヴィラ、あなたは今乗り気じゃないかもしれないけれど、実際に結婚してみたら意外と相性が良かったってこともあり得るんだから、この縁談に乗ってくれるわね?」
貴族の家に生まれた以上、自分で結婚相手を決めることはできないと思っていた。覚悟はできていたはずなのに、実際に縁談が持ち込まれると拒否感を抱いてしまう。
しかし、ここまで育ててくれた両親がこんなふうに言うのだから縁談を蹴るなんてことはできないだろう。
エリヴィラは渋々といった様子で首を縦に振った。
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