貴方との婚約は破棄されたのだから、ちょっかいかけてくるのやめてもらっても良いでしょうか?

ツキノトモリ

文字の大きさ
上 下
1 / 14

第一話

しおりを挟む

伯爵令嬢のエリヴィラには婚約者がいる。親同士が決めた婚約であり、エリヴィラは婚約者に恋愛感情を抱いていない。それは相手も同じだ。
彼女の婚約者は侯爵令息のフィクトルといい、エリヴィラの幼馴染である。親同士が仲が良く兄弟のように育った。そんな相手との縁談だったものだから、両親から初めてこの話を聞いた時にエリヴィラは困惑した。

「私たちはただの幼馴染ですよ?それなのに、いきなり婚約しろだなんて!」

両親に抗議をすると、父が豪快に笑った。

「気心の知れた相手と結婚した方が良いだろう!父さんも母さんも小さい頃から知ってるフィクトルくんが相手なら安心だ」
「私もそう思うわ。それにね、フィクトルくんってかっこいいでしょ?誰かにとられちゃう前に婚約しておいた方が良いわよ」

母の言葉にエリヴィラはため息をつく。エリヴィラはフィクトルに恋愛感情を抱いているわけではないし、特に彼をかっこいいと思ったことはない。

「あの人のどこがかっこいいって言うんですか?生意気だし、レディファーストのレの字もないような人なんですから、他の子にとられることはないと思いますが」
「あらあら、エリヴィラは分かってないわねぇ。まだまだお子様ってことかしら」
「私はもう十六になるんですよ。来月には魔法学校に入学しますし、もうお子様ではありません!」

ムスッとした顔で言い返すエリヴィラ。そんな彼女の様子を見て、父が宥めるように話し始めた。

「そうだね。もうお前はお子様じゃないんだから、将来のこともしっかり考えなくてはいけないよ。いずれ、この家は君の兄が家督を継ぎ、君は他家に嫁ぐことになる。それは分かっているよね」
「はい」
「父さんは最高の結婚相手を見つけてきたと思っているし、先方も同じように考えている。誤解がないように言っておくが、何も突発的に縁談の話が舞い込んできたのではないんだよ。両家でしっかりと話し合った結果、婚約が決まったんだ。君の意思だけではこの婚約を白紙にはできないんだよ」
「私たちも、エリヴィラと同じように親に決められて結婚したけれど、お兄ちゃんもあなたも生まれて幸せに暮らしているわ。恋愛結婚したからって必ずしも幸せになれるわけではないし、政略結婚が全て不幸だと決まったわけでもないのよ。エリヴィラ、あなたは今乗り気じゃないかもしれないけれど、実際に結婚してみたら意外と相性が良かったってこともあり得るんだから、この縁談に乗ってくれるわね?」

貴族の家に生まれた以上、自分で結婚相手を決めることはできないと思っていた。覚悟はできていたはずなのに、実際に縁談が持ち込まれると拒否感を抱いてしまう。
しかし、ここまで育ててくれた両親がこんなふうに言うのだから縁談を蹴るなんてことはできないだろう。
エリヴィラは渋々といった様子で首を縦に振った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

皇太子から愛されない名ばかりの婚約者と蔑まれる公爵令嬢、いい加減面倒臭くなって皇太子から意図的に距離をとったらあっちから迫ってきた。なんで?

下菊みこと
恋愛
つれない婚約者と距離を置いたら、今度は縋られたお話。 主人公は、婚約者との関係に長年悩んでいた。そしてようやく諦めがついて距離を置く。彼女と婚約者のこれからはどうなっていくのだろうか。 小説家になろう様でも投稿しています。

婚約者に選んでしまってごめんなさい。おかげさまで百年の恋も冷めましたので、お別れしましょう。

ふまさ
恋愛
「いや、それはいいのです。貴族の結婚に、愛など必要ないですから。問題は、僕が、エリカに対してなんの魅力も感じられないことなんです」  はじめて語られる婚約者の本音に、エリカの中にあるなにかが、音をたてて崩れていく。 「……僕は、エリカとの将来のために、正直に、自分の気持ちを晒しただけです……僕だって、エリカのことを愛したい。その気持ちはあるんです。でも、エリカは僕に甘えてばかりで……女性としての魅力が、なにもなくて」  ──ああ。そんな風に思われていたのか。  エリカは胸中で、そっと呟いた。

聞き分けよくしていたら婚約者が妹にばかり構うので、困らせてみることにした

今川幸乃
恋愛
カレン・ブライスとクライン・ガスターはどちらも公爵家の生まれで政略結婚のために婚約したが、お互い愛し合っていた……はずだった。 二人は貴族が通う学園の同級生で、クラスメイトたちにもその仲の良さは知られていた。 しかし、昨年クラインの妹、レイラが貴族が学園に入学してから状況が変わった。 元々人のいいところがあるクラインは、甘えがちな妹にばかり構う。 そのたびにカレンは聞き分けよく我慢せざるをえなかった。 が、ある日クラインがレイラのためにデートをすっぽかしてからカレンは決心する。 このまま聞き分けのいい婚約者をしていたところで状況は悪くなるだけだ、と。 ※ざまぁというよりは改心系です。 ※4/5【レイラ視点】【リーアム視点】の間に、入れ忘れていた【女友達視点】の話を追加しました。申し訳ありません。

見切りをつけたのは、私

ねこまんまときみどりのことり
恋愛
婚約者の私マイナリーより、義妹が好きだと言う婚約者ハーディー。陰で私の悪口さえ言う彼には、もう幻滅だ。  婚約者の生家、アルベローニ侯爵家は子爵位と男爵位も保有しているが、伯爵位が継げるならと、ハーディーが家に婿入りする話が進んでいた。 侯爵家は息子の爵位の為に、家(うち)は侯爵家の事業に絡む為にと互いに利がある政略だった。 二転三転しますが、最後はわりと幸せになっています。 (小説家になろうさんとカクヨムさんにも載せています)

「私が愛するのは王妃のみだ、君を愛することはない」私だって会ったばかりの人を愛したりしませんけど。

下菊みこと
恋愛
このヒロイン、実は…結構逞しい性格を持ち合わせている。 レティシアは貧乏な男爵家の長女。実家の男爵家に少しでも貢献するために、国王陛下の側妃となる。しかし国王陛下は王妃殿下を溺愛しており、レティシアに失礼な態度をとってきた!レティシアはそれに対して、一言言い返す。それに対する国王陛下の反応は? 小説家になろう様でも投稿しています。

【完】愛していますよ。だから幸せになってくださいね!

さこの
恋愛
「僕の事愛してる?」 「はい、愛しています」 「ごめん。僕は……婚約が決まりそうなんだ、何度も何度も説得しようと試みたけれど、本当にごめん」 「はい。その件はお聞きしました。どうかお幸せになってください」 「え……?」 「さようなら、どうかお元気で」  愛しているから身を引きます。 *全22話【執筆済み】です( .ˬ.)" ホットランキング入りありがとうございます 2021/09/12 ※頂いた感想欄にはネタバレが含まれていますので、ご覧の際にはお気をつけください! 2021/09/20  

私の療養中に、婚約者と幼馴染が駆け落ちしました──。

Nao*
恋愛
素適な婚約者と近く結婚する私を病魔が襲った。 彼の為にも早く元気になろうと療養する私だったが、一通の手紙を残し彼と私の幼馴染が揃って姿を消してしまう。 どうやら私、彼と幼馴染に裏切られて居たようです──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。最終回の一部、改正してあります。)

婚約者に心変わりされた私は、悪女が巣食う学園から姿を消す事にします──。

Nao*
恋愛
ある役目を終え、学園に戻ったシルビア。 すると友人から、自分が居ない間に婚約者のライオスが別の女に心変わりしたと教えられる。 その相手は元平民のナナリーで、可愛く可憐な彼女はライオスだけでなく友人の婚約者や他の男達をも虜にして居るらしい。 事情を知ったシルビアはライオスに会いに行くが、やがて婚約破棄を言い渡される。 しかしその後、ナナリーのある驚きの行動を目にして──? (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります)

処理中です...