タンポポの花束

神崎翼

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タンポポの花束

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 初めて君に恋を告げた十の頃、渡せた『それらしい』贈り物といえば、道端で摘んだタンポポぐらいだった気がする。週に百円しかお小遣いのなかった時期だったし、そのお金もだいたいが漫画かガチャガチャに費やされては消えていた。そもそも、小学校のたった十分の休憩時間に運動場へ駆け出すような、遊ぶことしか頭になかった時代である。女の子に贈り物をしようと思ったところで、持っているのはほぼ空の財布と「女の子はお花が好き」という聞きかじりの知識だけ。素敵な贈り物の入手先なんて遥か彼方だったのだ。
 それでもなんとか知恵を絞り、人のあまり来ない草むらで、なるべく綺麗で大きなタンポポをいくつも摘み、母がもったいない精神で残していた包装紙とリボンで見様見真似の花束を作ったところまではいい。だけども、気恥ずかしさに半ば押し付けるように渡して、最初から最後まで顔をまともに見ることもできずに走り去ったのは、今思い出しても頭を抱えたくなる。あと恋を告げたと最初に言ったけど、告げられていないことに今気づいた。
 大人から見れば一目瞭然だったかもしれないし、ませた子なら同い年でも伝わっただろう。だけどだいたい大人も子供も興奮したり揶揄ったり、盛り上がりはすれども適切なフォローなんて望めるはずもない。きっと、渡された側も親や友達にたくさん色々言われただろうと思う。何も言わずにただ野草を押し付けた男の子。気を引きたくていじめに走る野郎に比べれば万倍マシだろうけど、もうちょっと、何とかならなかったのか。
「嬉しかったけどなあ」
「そうかよ……」
 なんで、そんな、十年以上も前のことを今さら考える羽目になっているかといえば、この目の前の彼女である。彼女、そう、彼女だ。恋人関係の彼女である。まともに恋も語れなかった男の何が良かったのか、なんやかんやで彼女になってくれた、あくる日のタンポポの少女。
「金色の折り紙とか、ちょっといい感じの枝とか、色々もらったけど、男の子にお花をもらうのはやっぱりときめきが違うんだよ」
「そうか……」
 力なく同意する。「そういえば」の言葉と共に幼い日の思い出を赤裸々に語られて、返す言葉もない。その代わりと言わんばかりにあの頃の恥ずかしさが諸共甦って叫びたいような衝動が襲ってくるのを気力で抑え込む。
 小学四年生の男子が思い描く素敵なものを無言で押し付けられた少女は、あの頃から大人で、自分の想像以上に強かだった。揶揄いにも、その延長のいじめにも遭うことなく、馬鹿みたいにあの頃からずっと一途に己を思う男の不器用な好意を受け取って、すっかり隣にいることを当たり前にした。
 もう、タンポポを摘んで渡すような年ではない。もし花が贈りたくなれば花屋に行くし、何なら植物園にデートしに行く。こちらは相変わらず、贈るときも誘うときもまともに顔が見れないが、そういうときは彼女が自分で顔を引き寄せたり、笑って流したりするようになっている。
「ダンデライオンって言うんだって」
「?」
「タンポポだよ。ライオンみたいに見えるでしょう?」
 くすくす笑み零しながら、すっかり彼女のペースで言葉がこぼれていくのを、星屑を眺めるような気持ちで耳を傾ける。あの頃の日々を綺麗に整えて、ずっと彼女は楽しそうだ。
「かっこいいし、可愛いなんて、まるであなたみたいね」
「そうか……」
 馬鹿の一つ覚えみたいな言葉しか返せない男に、それでもずっと彼女は笑っていたのだった。
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