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ある日、祖父が消えた
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ある日祖父が消えた。亡くなったのではなく、消えた。
孫である俺からみた祖父は、いかつめらしい顔をしているが孫に甘い人だった。基本はずっと怒っているような顔をしているのに、俺が大人たちにほっとかれて部屋の隅で一人で遊んでいると声を掛けてくれた。「ちょっとこい」と言われてびびりながらついていくと、和室に将棋盤がドンと部屋の中央に置かれていて、言われるがまま将棋倒しをして遊んだ。俺が夢中になって遊んで、ふと顔をあげると祖父の顔がちょっとだけ緩んでいて、声を掛けられた時以上に驚いたのを覚えている。
祖父の実の娘、つまり俺の母から見た祖父は、やはり厳しい人だったらしい。仕事人間で、実際優秀だったらしく結構高い地位についていたから、あまり家にはいなかったらしい。お金はたくさん稼いでくれたけれど、あまり遊んだ記憶はないといつぞや母はこぼしていた。確かに、毎年くれるお年玉は親せき連中の中でも断トツに額が大きい。きっと、お金だけはいっぱいあったのだろう。
祖父の妻、つまり祖母いわく、かの大戦でいくつもの勲章を得ていた優秀な軍人だったらしい。祖父とは見合いで結婚した。色恋沙汰を孫に零すような人ではなかったけれど、「昔はみんなそうだったのよ」と言いながら笑った祖母は幸せそうだったので、悪い選択ではなかったのだろう。
祖父の義理の息子、つまり俺の父からあまり祖父の話を聞いたことはない。聞こうと思ったこともなかった。男同士、何か積もり話があったりしたんだろうか。
祖父含め、家族仲は悪くはなかったと思う。普段は遠方に住んでいる祖父母に会うのは楽しかった。家族での旅行先の定番だからというのもあった。子どもは現金だから、しつけだなんだと時に厳しい物言いをする両親より、ほとんど怒ることをしない祖父母は一等懐きやすい大人だった。お年玉をたくさんくれるから好き、というのも否定できないが。何であれ、家族仲は悪くなかったのだ。
まあ、今回の件に家族仲は関係ない。なぜなら、失踪したという話ではないのだ。文字通り、祖父が消えた。祖父はいないことになった。亡くなったわけでも、消息を断ったわけでもない。正真正銘、「いない人間」に、祖父はなった。
一体どういう原理でそうなったのかはわからない。昨今、時代を変える敵と戦うというゲームが人気だが、もしかしたらどこかの誰かが歴史を変えたとかだろうか。もしくは集団洗脳にかけられていて、元々いなかった祖父の存在を信じ込まされていたのかもしれない。あるいは、また、SFのような不思議なことが起きたのかも。そんな、非科学的なことばかり考える。
祖父が消えて何が起こったのか。祖父がいなければ、まず母は生まれない。否、もしかしたら別の生を受けているのかもしれないけれど、祖父と祖母の間に生まれた俺の母はいない。しかし、俺はここにいる。別の母の元に生まれた『俺』として。別の母が、全く父と関係のない男と結婚して生まれた、俺の見知らぬ『俺』が今ここにいる。
なぜ祖父が消えたと思ったのか。祖母が同じだったからだ。だけど、祖母は別の男性と結婚していた。お見合い結婚だったらしい。対戦の最中、たくさんの勲章を得た人で、微笑みを常に浮かべている温和な人だった。記憶の祖父とは別人だった。
祖母は同じでも、相手が違うのだから生まれた『母』は俺の母とは違う人で、だから違う人を選んで、違う『俺』が生まれて。
この記録もいつか改変されてしまうのか。祖父はどこだろう。戦争で死んだのか、お見合い相手として選ばれなかっただけでどこかで生きているのか。だけど祖父はいない。俺の祖父がいない。俺がいなくなっていく。どんどん記憶が塗り替えられていくどうして俺の名前、俺の名前は何だった、この記憶は何、俺は一体何を、俺は、おじいちゃん、どこに、何がどうな(ここで手記が途絶えている)
孫である俺からみた祖父は、いかつめらしい顔をしているが孫に甘い人だった。基本はずっと怒っているような顔をしているのに、俺が大人たちにほっとかれて部屋の隅で一人で遊んでいると声を掛けてくれた。「ちょっとこい」と言われてびびりながらついていくと、和室に将棋盤がドンと部屋の中央に置かれていて、言われるがまま将棋倒しをして遊んだ。俺が夢中になって遊んで、ふと顔をあげると祖父の顔がちょっとだけ緩んでいて、声を掛けられた時以上に驚いたのを覚えている。
祖父の実の娘、つまり俺の母から見た祖父は、やはり厳しい人だったらしい。仕事人間で、実際優秀だったらしく結構高い地位についていたから、あまり家にはいなかったらしい。お金はたくさん稼いでくれたけれど、あまり遊んだ記憶はないといつぞや母はこぼしていた。確かに、毎年くれるお年玉は親せき連中の中でも断トツに額が大きい。きっと、お金だけはいっぱいあったのだろう。
祖父の妻、つまり祖母いわく、かの大戦でいくつもの勲章を得ていた優秀な軍人だったらしい。祖父とは見合いで結婚した。色恋沙汰を孫に零すような人ではなかったけれど、「昔はみんなそうだったのよ」と言いながら笑った祖母は幸せそうだったので、悪い選択ではなかったのだろう。
祖父の義理の息子、つまり俺の父からあまり祖父の話を聞いたことはない。聞こうと思ったこともなかった。男同士、何か積もり話があったりしたんだろうか。
祖父含め、家族仲は悪くはなかったと思う。普段は遠方に住んでいる祖父母に会うのは楽しかった。家族での旅行先の定番だからというのもあった。子どもは現金だから、しつけだなんだと時に厳しい物言いをする両親より、ほとんど怒ることをしない祖父母は一等懐きやすい大人だった。お年玉をたくさんくれるから好き、というのも否定できないが。何であれ、家族仲は悪くなかったのだ。
まあ、今回の件に家族仲は関係ない。なぜなら、失踪したという話ではないのだ。文字通り、祖父が消えた。祖父はいないことになった。亡くなったわけでも、消息を断ったわけでもない。正真正銘、「いない人間」に、祖父はなった。
一体どういう原理でそうなったのかはわからない。昨今、時代を変える敵と戦うというゲームが人気だが、もしかしたらどこかの誰かが歴史を変えたとかだろうか。もしくは集団洗脳にかけられていて、元々いなかった祖父の存在を信じ込まされていたのかもしれない。あるいは、また、SFのような不思議なことが起きたのかも。そんな、非科学的なことばかり考える。
祖父が消えて何が起こったのか。祖父がいなければ、まず母は生まれない。否、もしかしたら別の生を受けているのかもしれないけれど、祖父と祖母の間に生まれた俺の母はいない。しかし、俺はここにいる。別の母の元に生まれた『俺』として。別の母が、全く父と関係のない男と結婚して生まれた、俺の見知らぬ『俺』が今ここにいる。
なぜ祖父が消えたと思ったのか。祖母が同じだったからだ。だけど、祖母は別の男性と結婚していた。お見合い結婚だったらしい。対戦の最中、たくさんの勲章を得た人で、微笑みを常に浮かべている温和な人だった。記憶の祖父とは別人だった。
祖母は同じでも、相手が違うのだから生まれた『母』は俺の母とは違う人で、だから違う人を選んで、違う『俺』が生まれて。
この記録もいつか改変されてしまうのか。祖父はどこだろう。戦争で死んだのか、お見合い相手として選ばれなかっただけでどこかで生きているのか。だけど祖父はいない。俺の祖父がいない。俺がいなくなっていく。どんどん記憶が塗り替えられていくどうして俺の名前、俺の名前は何だった、この記憶は何、俺は一体何を、俺は、おじいちゃん、どこに、何がどうな(ここで手記が途絶えている)
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