[完結]ワガママ悪役令嬢の布石

からあげ定食

文字の大きさ
4 / 6

3、王子様と婚約したい!

しおりを挟む
 ワガママ令嬢を演じること5年。私、キャサリン・アーチボルトは10歳になった。その間に歴史だけでなくありとあらゆる勉学を最大限吸収し、一般的な生活魔法、ダンスや礼儀作法を叩き込まれ、幼かった顔は次第に母に似て美しい少女と成長する。
 ある日、娘にだけひたすら甘いという汚点を除けばとんでもなく有能な父が、私に婚約の話を持ちかけてきた。

「キャシーはお姫様になりたいといっていただろう? だから、王子様と結婚できるように取り計らった」

 演じたワガママの中には「私はお姫様になるの!」と豪語しながら少女趣味というか、幼稚なデザインのドレスを欲しがるものがある。ピンクや水色の、大きなリボンやフリルがたくさんついた子どもっぽいデザインを父に強請れば、仕事で一緒に買い物に行けない父が母に全てを託す。計画を知っている母はこともなげに「お父様の前でだけ子どもらしくしていればいいわ」と言ってのけ、父と過ごす時用のお子ちゃまデザインのドレスを適当に見繕うと、あとは洗練されたドレスを数着購入してくれた。なんだかんだ、母も私に甘いのだった。

 フリフリのロリータなドレスに身を包み父の膝に抱っこされながら、私は何も知らないと言った顔で「王子様?」と首を傾げて見せる。母は蕩けた顔の父の肩に手を添えて「素晴らしいわ」と褒め称えるのを忘れない。父は母のことも大好きなので、とても上機嫌だ。険しい顔の厳しい父しか知らない部下たちが見たら卒倒するだろう。

「ああ、お相手はエドワード・ロックウェル様。 お前も名前は知っているだろう、この国の王子様だ」

 小説の流れ通り、キャサリンは王子と婚約する。流石に国のトップの名前が出てきてしまっては、計画に賛同してくれていた母も掌を返すのではないかと不安に思ったが「王族相手なら、先方の有責が通れば莫大な慰謝料が手に入るわね」と守銭奴のような発言が出てきたので、杞憂だったと胸を撫で下ろす。母は美しい容貌とは裏腹にこんな性格なので、王族に血を連ねるという野心は持ち合わせていないようだった。聞けば父も、私のお姫様発言がなければ王子との婚約は見送るつもりだったらしい。というか「うちの娘は誰にもやらん」的な思考をしているらしく、王の頼みでなければ婚約話は蹴るつもりだったという。これは婚約破棄に期待が持てそうである。

 晴れて王子の婚約者となった私は、叩き込まれた教養とマナーで王族に取り入り、王と王妃にすっかり気に入られることに成功した。件のエドワード王子はというと、表面上婚約者に対し優しく接してはいるものの、有難いことにキャサリンには惹かれていないように見える。円満な婚約破棄にはもってこいの状況である。
 私は小説の内容をしっかり反芻させ、これでもかとばかりに婚約者・次期王妃アピールをし、エドワード王子がキャサリンを忌避するよう仕向けた。目を惹く派手な外見ばかりはどうしようもないが、貞淑な姫には程遠い、勝ち気で強引で、そしてワガママな令嬢に、王子様の心は目に見えて離れていくのだった。
 その頃、中身が父親似に育ってきた兄マシューは、若干のシスコン要素を窺わせていた。計画の一端を担っているため、マシューには外交的に「うちの妹はワガママで」と触れて回ってもらっているのだが、どうもバ可愛い妹を見守る優しいお兄ちゃんの立ち位置が確立されてきている。このままでは将来の逆ハーレムに支障をきたすと見て、兄に度が過ぎて甘やかされた際には冷たい態度を取るなどして適切な距離を保ち、矯正することにした。
 そろそろ侍女アンナも解放する頃かと思ったのだが、なんと彼女も自らの意思で私の元に留まった。マシューの件もあったので女同士ではあるが溺愛フラグに注意はしつつ、騎士団に赴かせるなどして、男性との接触を図った。父の職場である騎士団の団員と結婚すれば辺境伯の屋敷に勤め続けられる可能性が高いと進言すると、アンナは結婚に前向きになってくれた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私は愛する人と結婚できなくなったのに、あなたが結婚できると思うの?

あんど もあ
ファンタジー
妹の画策で、第一王子との婚約を解消することになったレイア。 理由は姉への嫌がらせだとしても、妹は王子の結婚を妨害したのだ。 レイアは妹への処罰を伝える。 「あなたも婚約解消しなさい」

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

真実の愛ならこれくらいできますわよね?

かぜかおる
ファンタジー
フレデリクなら最後は正しい判断をすると信じていたの でもそれは裏切られてしまったわ・・・ 夜会でフレデリク第一王子は男爵令嬢サラとの真実の愛を見つけたとそう言ってわたくしとの婚約解消を宣言したの。 ねえ、真実の愛で結ばれたお二人、覚悟があるというのなら、これくらいできますわよね?

【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます

なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。 過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。 魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。 そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。 これはシナリオなのかバグなのか? その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。 【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。 - - - - - - - - - - - - - ただいま後日談の加筆を計画中です。 2025/06/22

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

婚約者を奪った妹と縁を切ったので、家から離れ“辺境領”を継ぎました。 すると勇者一行までついてきたので、領地が最強になったようです

藤原遊
ファンタジー
婚約発表の場で、妹に婚約者を奪われた。 家族にも教会にも見放され、聖女である私・エリシアは “不要” と切り捨てられる。 その“褒賞”として押しつけられたのは―― 魔物と瘴気に覆われた、滅びかけの辺境領だった。 けれど私は、絶望しなかった。 むしろ、生まれて初めて「自由」になれたのだ。 そして、予想外の出来事が起きる。 ――かつて共に魔王を倒した“勇者一行”が、次々と押しかけてきた。 「君をひとりで行かせるわけがない」 そう言って微笑む勇者レオン。 村を守るため剣を抜く騎士。 魔導具を抱えて駆けつける天才魔法使い。 物陰から見守る斥候は、相変わらず不器用で優しい。 彼らと力を合わせ、私は土地を浄化し、村を癒し、辺境の地に息を吹き返す。 気づけば、魔物巣窟は制圧され、泉は澄み渡り、鉱山もダンジョンも豊かに開き―― いつの間にか領地は、“どの国よりも最強の地”になっていた。 もう、誰にも振り回されない。 ここが私の新しい居場所。 そして、隣には――かつての仲間たちがいる。 捨てられた聖女が、仲間と共に辺境を立て直す。 これは、そんな私の第二の人生の物語。

処理中です...