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4、学院で悪役令嬢!
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時は流れ、キャサリン・アーチボルト15歳は、王立の学院に入学していた。
デビュタントはとっくに終え、勢力的な意味で顔が広く声の大きな令嬢として名を馳せている私は、学院でも上流貴族令嬢のグループの筆頭として振る舞っている。現時点では王子の婚約者であるので、実際の地位は高い。持ち前の美貌、気品、教養の高さで教師陣からの支持も厚い。
しかしながら運命は非情というか、婚約者であるエドワード王子はそんな私には目もくれず、平民から推薦枠で入学してきたヒロインことアリシア嬢に熱をあげている。
アリシア嬢は小説にあった通り、ふわふわしたストロベリーブロンドの髪とアメジストのように澄んだ紫の瞳をした、可愛らしい少女だった。転生悪役令嬢ものにありがちな空気の読めないエセ天然ぶりっ子でもなく、慎ましやかで心優しいヒロインの姿を見た私は、素直に「これはエドワード王子もアリシアを選ぶわ」と納得したし、金髪碧眼の美男子エドワード王子と仲良く並んでいる姿は輝いて見えた。そこまで小説に心酔していた訳ではないが、ファン冥利に尽きるというものだろう。
さて、そんなゆるふわ美少女であるアリシアを、私こと悪役令嬢キャサリン・アーチボルトは虐めなければならない。既に王子の心はキャサリンから離れてはいるのだが、婚約破棄するまでには弱い。どうにかして決定打を手に入れる必要があった。
そこで私は侍女アンナと、心強い味方である母ローレルに相談することにした。エドワード王子がアリシア嬢と結婚できるようお膳立てしたいこと、円満な婚約破棄のためキャサリンはなるべく悪女路線でいきたいこと、できればことを荒立てず平穏に済ませたいこと、などなど。
尚、母やアンナにはエドワード王子がアリシア嬢に惹かれている、というか小説の流れ通り見目麗しい貴族男子に囲まれた逆ハーレムを形成していることはしっかりと共有している。なにせ貴族男子たちの婚約者である令嬢たちが反乱を起こさないようハンドリングをする必要があったので、社交界で顔の利く母の力が必要不可欠なのである。故に、令嬢たちはアーチボルト家に感化されて「今は婚約者を自由にさせてあげると良い」と、嫉妬の火種を鎮まらせている。婚約者を譲ってやろうなどという殊勝な心掛けをしているのは流石に私だけだが。
「じゃあ、その娘にマナーを叩き込んであげたら良いのではないかしら」
母にアドバイスを求めるとそんな風に言ってきた。曰く、他人の目には嫉妬に狂った令嬢たちのグループがアリシア嬢を囲んで虐めているように見せ、その実、彼女に令嬢のマナーを教える、というものだ。一般的な社交会に平民は参加できないが、学院主催のパーティであればアリシア嬢も参加する。そこで気品ある佇まいができれば、より一層エドワード王子はアリシア嬢に惹かれ、王子の隣にアリシア嬢が立っても見劣りしなくなるだろう。
今後の展開のあらすじを理解している私はなるほどと納得し、早速周りの令嬢たちと作戦会議をした。平民の娘なぞにうつつを抜かすのは本来貴族令息として宜しくないのだが、その娘が立派な淑女として見劣りしないならば話は別である。しかもその娘が、彼らの婚約者である令嬢たちによって教育されたとあれば、掌で踊ってもらうようなもの。浮気な主人に首輪を着けるというわけではないが、彼女らのこれからの結婚生活がとても充実したものになりそうな予感があった。
早速、キャサリンたちは徒党を組み、威圧的にアリシア嬢を囲うことにした。やれ「平民の娘が」「下賤な」「マナーがなってない」と口うるさく囃し立て、予め使用許可を取っている空き教室に連れ込み、マナー教室を始める。初めのうちはアリシア嬢も困惑していたが、キャサリンを含む令嬢たちが取り巻きの婚約者であること、彼らとの付き合いには貴族と張り合えるだけの教養を身につける必要があること、学んだマナーは将来社会に出たときに絶対役に立つことなどを理解し、次第に熱心に取り組むようになった。
また、小説の中にあった、キャサリンがヒロインの私物を汚したり壊したりするといった悪行を踏まえて、思い出の品は大切に仕舞わせて、新しいものを取り巻きに買わせるように仕向けた。朽ち果てた私物に打ち拉がれるヒロインを見て誰かしらが買い与える、というシーンを再現するべく、壊しても良さそうな道具を与えてはそれらをこれみよがしに壊してやった。
ついでにアリシア嬢には、誰かに何かを言われたら「アーチボルト様は私を平民だからと厳しく当たって」と差し障りのない部分だけを答えるように言いつけておく。こうすることでキャサリンが主犯格になるし、婚約者を取られている令嬢たちが目を光らせているのだから他所の女生徒たちがアリシア嬢に下手に手を出すこともないだろう。
こうして私は女生徒から一定の信頼を得て、男生徒からは忌避される悪役令嬢へと成長していくのだった。
デビュタントはとっくに終え、勢力的な意味で顔が広く声の大きな令嬢として名を馳せている私は、学院でも上流貴族令嬢のグループの筆頭として振る舞っている。現時点では王子の婚約者であるので、実際の地位は高い。持ち前の美貌、気品、教養の高さで教師陣からの支持も厚い。
しかしながら運命は非情というか、婚約者であるエドワード王子はそんな私には目もくれず、平民から推薦枠で入学してきたヒロインことアリシア嬢に熱をあげている。
アリシア嬢は小説にあった通り、ふわふわしたストロベリーブロンドの髪とアメジストのように澄んだ紫の瞳をした、可愛らしい少女だった。転生悪役令嬢ものにありがちな空気の読めないエセ天然ぶりっ子でもなく、慎ましやかで心優しいヒロインの姿を見た私は、素直に「これはエドワード王子もアリシアを選ぶわ」と納得したし、金髪碧眼の美男子エドワード王子と仲良く並んでいる姿は輝いて見えた。そこまで小説に心酔していた訳ではないが、ファン冥利に尽きるというものだろう。
さて、そんなゆるふわ美少女であるアリシアを、私こと悪役令嬢キャサリン・アーチボルトは虐めなければならない。既に王子の心はキャサリンから離れてはいるのだが、婚約破棄するまでには弱い。どうにかして決定打を手に入れる必要があった。
そこで私は侍女アンナと、心強い味方である母ローレルに相談することにした。エドワード王子がアリシア嬢と結婚できるようお膳立てしたいこと、円満な婚約破棄のためキャサリンはなるべく悪女路線でいきたいこと、できればことを荒立てず平穏に済ませたいこと、などなど。
尚、母やアンナにはエドワード王子がアリシア嬢に惹かれている、というか小説の流れ通り見目麗しい貴族男子に囲まれた逆ハーレムを形成していることはしっかりと共有している。なにせ貴族男子たちの婚約者である令嬢たちが反乱を起こさないようハンドリングをする必要があったので、社交界で顔の利く母の力が必要不可欠なのである。故に、令嬢たちはアーチボルト家に感化されて「今は婚約者を自由にさせてあげると良い」と、嫉妬の火種を鎮まらせている。婚約者を譲ってやろうなどという殊勝な心掛けをしているのは流石に私だけだが。
「じゃあ、その娘にマナーを叩き込んであげたら良いのではないかしら」
母にアドバイスを求めるとそんな風に言ってきた。曰く、他人の目には嫉妬に狂った令嬢たちのグループがアリシア嬢を囲んで虐めているように見せ、その実、彼女に令嬢のマナーを教える、というものだ。一般的な社交会に平民は参加できないが、学院主催のパーティであればアリシア嬢も参加する。そこで気品ある佇まいができれば、より一層エドワード王子はアリシア嬢に惹かれ、王子の隣にアリシア嬢が立っても見劣りしなくなるだろう。
今後の展開のあらすじを理解している私はなるほどと納得し、早速周りの令嬢たちと作戦会議をした。平民の娘なぞにうつつを抜かすのは本来貴族令息として宜しくないのだが、その娘が立派な淑女として見劣りしないならば話は別である。しかもその娘が、彼らの婚約者である令嬢たちによって教育されたとあれば、掌で踊ってもらうようなもの。浮気な主人に首輪を着けるというわけではないが、彼女らのこれからの結婚生活がとても充実したものになりそうな予感があった。
早速、キャサリンたちは徒党を組み、威圧的にアリシア嬢を囲うことにした。やれ「平民の娘が」「下賤な」「マナーがなってない」と口うるさく囃し立て、予め使用許可を取っている空き教室に連れ込み、マナー教室を始める。初めのうちはアリシア嬢も困惑していたが、キャサリンを含む令嬢たちが取り巻きの婚約者であること、彼らとの付き合いには貴族と張り合えるだけの教養を身につける必要があること、学んだマナーは将来社会に出たときに絶対役に立つことなどを理解し、次第に熱心に取り組むようになった。
また、小説の中にあった、キャサリンがヒロインの私物を汚したり壊したりするといった悪行を踏まえて、思い出の品は大切に仕舞わせて、新しいものを取り巻きに買わせるように仕向けた。朽ち果てた私物に打ち拉がれるヒロインを見て誰かしらが買い与える、というシーンを再現するべく、壊しても良さそうな道具を与えてはそれらをこれみよがしに壊してやった。
ついでにアリシア嬢には、誰かに何かを言われたら「アーチボルト様は私を平民だからと厳しく当たって」と差し障りのない部分だけを答えるように言いつけておく。こうすることでキャサリンが主犯格になるし、婚約者を取られている令嬢たちが目を光らせているのだから他所の女生徒たちがアリシア嬢に下手に手を出すこともないだろう。
こうして私は女生徒から一定の信頼を得て、男生徒からは忌避される悪役令嬢へと成長していくのだった。
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