[完結]ワガママ悪役令嬢の布石

からあげ定食

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5、卒業式で断罪イベント![完]

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 学院で過ごすこと3年。18歳になったキャサリンたちは学院を卒業する。しっかり教養のついたアリシア嬢は立派な淑女に成長していた。それは卒業式のパーティでエドワード王子にエスコートされて入場する姿を見れば、一目瞭然である。
 しかしながらそれは同時に、キャサリンの失脚を宣言するものであった。
 卒業式のパーティに、本来であればエドワード王子からドレスやアクセサリーを贈られているはずのキャサリンは馴染みの針子に仕立てさせた深い緑色のドレスを身に纏い、厳かに入場する一組のペアを母親譲りの鋭い眼光で眺めている。

「キャサリン・アーチボルト辺境伯令嬢」

 アリシア嬢をエスコートする麗しの王子、エドワードが真面目な表情でキャサリンを見据える。その表情に、私はクスリと笑みが溢れるのを抑えられない。扇で口元を隠し、威圧感たっぷりの視線をエドワード王子に向けてやる。ふわりと扇をはためかせ、互いに視線を交わらせて火花を散らす。これが修羅場というものだろうか。

「君の企みは、全て把握している」
「あら、人聞きの悪いことを」

 3年間みっちりとヒロインをいびり倒したキャサリンの罪は如何程だろうか。流石に死罪判決を下された場合には、アリシア嬢や他の令嬢たちが反対してくれることを祈るばかりだ。なんせ本当に虐めていたわけではないし、よしんばアリシア嬢が虐められていたとしても私の知る由もない。万に一つということもある、油断はできない。
 私とエドワード王子は暫く視線を交差させて表情の読み合いをしていたが、不意に王子が目を伏せて打ち切ってきた。辺りは私たち三人を取り囲むように、人垣ができている。いつの間にか音楽も止まっていた。楽団はちゃんと仕事をしなさいよね、お給料貰ってるんでしょ。
 などと考えていると、エドワード王子が腰を折り、私にお辞儀をしてくるではないか。

「そのように頭を下げるなど、感心致しませんわ」
「君は、私の理解者だから」

 エドワード王子は私に頭を下げたまま、淡々と語り出した。初めてキャサリンを見た時、美しい姿に一目惚れしていたこと。逢瀬を重ねるたびに強く気高いキャサリンに惹かれていたこと。それと同時に、王子として、婚約者として、将来の夫として自分が頼りなく見えてしまうこと。それらを隠したくて、気取られたくなくてキャサリンに冷たく当たっていたこと。いや、聞いていてこちらが恥ずかしいのでやめてもらいたいのですが。
 そんな私の思いをよそに、王子の独白は続く。キャサリンに並び立てるよう頑張ったが追いつけぬまま学院に入ったこと。婚約者を持つ貴族令息と似たような悩みを共有していたこと。平民のアリシア嬢と出会い、貴族として気負う必要のない関係を求めてしまったこと。そしていつしか、アリシア嬢を愛しいと思うようになってしまったこと。

「君はそれに気づいて、彼女を私に相応しい女性になるよう教育してくれたのだろう」

 日に日に高い教養の頭角を表し始めるアリシア嬢に、キャサリンが重なってしまったのだという。確かに、私が教えていたのだから私の所作に似てしまうのは致し方ないことだとは思う。それにしても、私は思っていたよりエドワード王子には嫌われていなかったようだ。私がアリシア嬢を虐めていないことも理解しているようだし、これは断罪の余地もないだろう。

「済まない、君との婚約は破棄させてほしい」
「どうぞ、アリシア嬢とお幸せに」

 心からの祝福を告げると、私は美しくカーテシーをして見せ、ゆっくりと踵を返しパーティ会場を後にした。後ろでに扉を閉めると、中から「皆を騒がせたな、続きを楽しんでくれ」とエドワード王子の声が響き、ついで楽団の演奏が再開された。

「円満な婚約破棄、成就!」
「お嬢様、はしたないですよ」

 着替えに向かう途中で一人ガッツポーズを決めていると、頃合いを見計らったように侍女アンナが歩み寄ってきた。私はにんまりと口角をあげ、令嬢にあるまじき表情を称えてアンナに駆け寄り、強く彼女を抱きしめた。

 それは幼き日のワガママな悪役令嬢が、計画を実行すべく意気込んだ時の表情そのままだった。






 後日。
 エドワード王子より、新たな婚約者と両親たっての願いで、アーチボルト辺境伯令嬢を王妃の教育係、並びに王家の相談役に抜擢したいと要請があったのだが、それはまた、別のお話。

終わり。
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