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嫌がらせ
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「ええと、では、嫌がらせというのは?」
今のところ、アザロスの私生活に関する報告書に、そう言った記述は見られていない。ということは、おそらくリリアーシャとその特待生のみで構成された状況なのであろう。
アザロスの私生活について秘密裏に報告書を送らせているが、リリアーシャについてもある程度の報告を義務付けている。こちらについてはリリアーシャ及び伯爵にも承知してもらっている。
「わたくしが特待生を、庶民だからという理由で迫害したり」
おっと、早速雲行きがおかしい。
「それは、貴族教育に馴染んでいない部分を指摘したというものではないのか」
貴族主体の学校生活ゆえ、特待生が慣れないことをした、あるいは貴族の常識と知らず特待生がヘマをやらかしたのを、リリアーシャが模範解答とともに適切な補助を行なっていると、何度か報告書で見た。更にその後、アザロスがやってきて特待生を庇い、リリアーシャに対し一方的に支離滅裂なことを喚いて去っていくという姿も報告されていた。
「サロンや食堂を使わせなかったり購買で物を買えなくしたり」
「学院内で貴族に混じって生活するには特待生であっても金銭的に無理があるからな」
特待生は学費と寮の滞在費が無償で貸し出されるが、消耗品や食事代は一定額まで国が肩代わりしている。一定額を超えればもちろん支払いの義務が発生するので、アザロスと食事や茶会をしようものなら簡単に小遣いが吹き飛ぶのは火を見るよりも明らかだ。
それらの費用は月毎に彼らの各家庭に請求が行くので、無料で行われているものと考えている学生は多い。食堂や購買を管理する人間は学生の顔と家を覚えており、食堂で「奢る」等の発言が見られない限り、請求はしっかり個別に行われている。
そのことに気づいたのか見兼ねたのか、リリアーシャは特待生にそれとなく提言したのだろう。そして特待生がアザロスに相談し、アザロスは勘違いして勝手に憤慨しているらしい。
「取り巻きをけしかけて殿下との仲を引き裂こうとしたり」
「君の幼馴染みのご令嬢たちかね?」
「ええ、殿下と仲の良いご学友たちの婚約者たちですわ」
リリアーシャを愛でる会、もとい幼馴染みの令嬢たち。彼女たちはそれぞれ宰相の息子や王国騎士候補、神官候補といった地位を持つ青年たちの婚約者でもある。令嬢たちは自分たちがアザロスと同い年の同級生であること、また将来の夫がアザロスの幼馴染み、学友であること、そしてリリアーシャがアザロスの婚約者で正妃になることを叩き込まれている。ゆえにアザロスやリリアーシャに幼いころから粉をかけていた。始めは彼女たちも打算的な考えの付き合いだったが、交流を重ねるうちに、リリアーシャが人付き合いが苦手なだけの勤勉な少女であることと、アザロスが顔がいいだけの残念な男だという事実に気付いてしまっていた。
令嬢たちはリリアーシャをチェスの棋譜に囲まれた部屋から引っ張り出し、明るい街へ連れ出し、勉学以外の楽しみを教えた。リリアーシャの表情が変わることはなかったが、その頃から口数が増えたと聞いていたような気がしなくもない。
「……まさかと思うがその仲の良い学友というのも」
「ええ、特待生に興味を持たれております」
「……成る程なぁ……」
令嬢たちが婚約者を取られまいとその特待生に詰め寄っている。それは正しい。正しいが。
───どうしてその中にリリアーシャが居てはくれぬのだ……
今のところ、アザロスの私生活に関する報告書に、そう言った記述は見られていない。ということは、おそらくリリアーシャとその特待生のみで構成された状況なのであろう。
アザロスの私生活について秘密裏に報告書を送らせているが、リリアーシャについてもある程度の報告を義務付けている。こちらについてはリリアーシャ及び伯爵にも承知してもらっている。
「わたくしが特待生を、庶民だからという理由で迫害したり」
おっと、早速雲行きがおかしい。
「それは、貴族教育に馴染んでいない部分を指摘したというものではないのか」
貴族主体の学校生活ゆえ、特待生が慣れないことをした、あるいは貴族の常識と知らず特待生がヘマをやらかしたのを、リリアーシャが模範解答とともに適切な補助を行なっていると、何度か報告書で見た。更にその後、アザロスがやってきて特待生を庇い、リリアーシャに対し一方的に支離滅裂なことを喚いて去っていくという姿も報告されていた。
「サロンや食堂を使わせなかったり購買で物を買えなくしたり」
「学院内で貴族に混じって生活するには特待生であっても金銭的に無理があるからな」
特待生は学費と寮の滞在費が無償で貸し出されるが、消耗品や食事代は一定額まで国が肩代わりしている。一定額を超えればもちろん支払いの義務が発生するので、アザロスと食事や茶会をしようものなら簡単に小遣いが吹き飛ぶのは火を見るよりも明らかだ。
それらの費用は月毎に彼らの各家庭に請求が行くので、無料で行われているものと考えている学生は多い。食堂や購買を管理する人間は学生の顔と家を覚えており、食堂で「奢る」等の発言が見られない限り、請求はしっかり個別に行われている。
そのことに気づいたのか見兼ねたのか、リリアーシャは特待生にそれとなく提言したのだろう。そして特待生がアザロスに相談し、アザロスは勘違いして勝手に憤慨しているらしい。
「取り巻きをけしかけて殿下との仲を引き裂こうとしたり」
「君の幼馴染みのご令嬢たちかね?」
「ええ、殿下と仲の良いご学友たちの婚約者たちですわ」
リリアーシャを愛でる会、もとい幼馴染みの令嬢たち。彼女たちはそれぞれ宰相の息子や王国騎士候補、神官候補といった地位を持つ青年たちの婚約者でもある。令嬢たちは自分たちがアザロスと同い年の同級生であること、また将来の夫がアザロスの幼馴染み、学友であること、そしてリリアーシャがアザロスの婚約者で正妃になることを叩き込まれている。ゆえにアザロスやリリアーシャに幼いころから粉をかけていた。始めは彼女たちも打算的な考えの付き合いだったが、交流を重ねるうちに、リリアーシャが人付き合いが苦手なだけの勤勉な少女であることと、アザロスが顔がいいだけの残念な男だという事実に気付いてしまっていた。
令嬢たちはリリアーシャをチェスの棋譜に囲まれた部屋から引っ張り出し、明るい街へ連れ出し、勉学以外の楽しみを教えた。リリアーシャの表情が変わることはなかったが、その頃から口数が増えたと聞いていたような気がしなくもない。
「……まさかと思うがその仲の良い学友というのも」
「ええ、特待生に興味を持たれております」
「……成る程なぁ……」
令嬢たちが婚約者を取られまいとその特待生に詰め寄っている。それは正しい。正しいが。
───どうしてその中にリリアーシャが居てはくれぬのだ……
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