【完結】【R18】女騎士はクールな団長のお役に立ちたい!

misa

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本編

負けない!

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(敵だ!)



 即座に判断して身構える。

 アッシュブラウンの髪の男は――



「ちっ、邪魔な小僧だな」

「ゲラルト!」

「よお、アマーリエちゃん。奇遇だね」



 軽口を叩きつつ油断なく構えている。囚人用の白い簡素なシャツとズボンを着ている。



「あなた、収監されていたはずなのに、よく逃げてこられたわね」

「いっやー隙見て逃げ出すの骨だったんだぜ」



 王城に収監されて取り調べを数日受けたのち、二つある収容所のどちらかに収監されていたはずだ。囚人服を着ているということは直前まで収監されていたはずだ。



「たまたま逃げた先でアマーリエちゃんに会えるとは思ってなかったよ、さすがに」

「たまたま? ここはたまたま逃げてこれる場所じゃないわ。……あなた目的があってここに来たのでしょう?!」



 どちらの収容所に収監されていたとしても、伯爵家とは離れており警備もそれなりにされている。正面からも裏面からも潜り込むのは通常難しい。そこらの商家か貴族の屋敷を漁っていたという方が理に適っている。



「ここの伯爵グラーフもお友達ってわけ。いろいろしてあげたんだし、困った時に飯と着替えくらい用意してもらっても罰は当たらないでしょ」

「何? 売人までしていたっていうの?」

「売人ってほどじゃないよ。お客さん紹介しただけ。顧客を紹介して儲けさせてやったんだからさ」

「最低だわ」



 会話をしながらゲラルトの様子を観察する。右手はフリードリッヒに刺されてから二週間程しか経っていない。縫合の後も生々しい傷跡がある。あれでは強く握れない。

 ゲラルトはさっと足元の短剣――ヨハンが使っていたものだ――を左手で拾って握り込む。爪がはがされており、元の握力ほどはなさそうだが、しっかりと握り込めている。



「あなた、左利きね」



 拾う動作と踏み出しの足から察するに左利きなのだろう。アマーリエを常に抑えつけていた手は左手だったと思い出す。



「元々ね。剣は師匠が右利きだったから右で覚えたんだ。左手じゃ、あんまり使えない」



 ゲラルトの自己申告をどこまで信じていいのかはわからないが、構えは様になっている。油断はできない。

 アマーリエも短剣を構えて相対する。足さばきをよくするためドレスを掴んで引き上げる。



(もう二度と踏まれたくない)



 フリードリッヒにもらったものではないが、自分なりに選んだドレスを汚されるのは我慢ならない。

 アマーリエが奥手で、ゲラルトが扉に近い。だがゲラルトも扉まで距離がある。ここで戦うにはヨハネスが倒れており踏んでしまう恐れと、また木箱が邪魔となる可能性がある。



(倉庫から出たほうがいいかな。ゲラルトは取り逃がしたくないけど、ヨハンの身の安全を優先させたい)



 倒れ伏しているヨハネスが気になるが、素手で首筋に一撃入れて落とされただけであれば、命に別状はないだろう。



「っ……」



 鋭く踏み込んできたゲラルトに一撃をアマーリエはいなす。フリードリッヒに足を斬られていたが、踏み込みは以前程度に回復しているようだ。

 アマーリエが横に距離を取ろうとしたとき、ドレスの裾を掴んでアマーリエの動きを封じようとする。



「はっ」



 アマーリエも自分のドレスを掴んで引っ張ると、びりっと音を立ててドレスのスカートが破けた。

 ゲラルトが虚をつかれた顔になる。

 アマーリエは構わず短剣を振るう。スカートを斬りながらくるりと回転する。ダンスのターンのように回りながらゲラルトとも距離を取った。

 青基調のAラインドレスはスカートが膝のあたりで取れる仕掛けになっていた。膝から下の部分はボタンで引っかけているだけであるため、強く引っ張れば取れる。

 皮肉にも前回ゲラルトにドレスの裾を踏まれたことで生まれたドレスだ。ヒールだって前回ほども高くなく、じゃっかん太めに設計してある。ガーターでつりさげた薄手の靴下を身につけているので、ぎりぎり許してもらえるだろう。



「おいおい、仕込んでたってわけか……。いやーさすがヴェッケンベルグだねえ、あの常軌を逸したシスコン兄貴たちの好戦っぷりを思いだすわ」

「失礼ね! 常軌を逸したって何よ! お兄さまたちを馬鹿にしないで!」



 つくづく許しがたい男だ。



「おいおい、アマーリエちゃんの兄貴らのシスコンっぷりは有名だぜっ」

「ふっ……っ……」



 ゲラルトは軽口を叩きながらも鋭く踏み込んでくる。

 叩き込むような剣戟に声高らかに刃が交わる音が響く。叩き込んでくるゲラルトの剣には以前ほどの勢いはなさそうだが、やはり元々の技術の差はある。技術と経験の差があるが、収監されて膂力が削がれた分アマーリエでも十分に戦える。

 アマーリエも何度も剣戟を受け流すが、腕に響くような衝撃を感じる。同時にゲラルトにも負担になっているのだろう。爪を剥がれた左手の握りが甘くなっているのだろう、威力が削がれてきている。



「くそっ」



 ゲラルトがスカートの裾を再び掴む。Aラインで装飾少な目とはいえ、動きに合わせてひらひらと舞うスカートを穿いている分衣服を掴まれやすく、接近戦において不利な部分はある。

 だが――



「ぐはっ」



 アマーリエは拳を握って、一歩踏み出す。勢いのままに間を詰める。

 刀を握り固めた拳でゲラルトの顔面を殴った。

 ゲラルトの頬に上手く拳があたりゲラルトはよろける。

 上手く攻められないゲラルトが焦って、掴みやすいスカートを狙ってくるのは予想の範疇だった。

 よろけたゲラルトを追撃しようとしたところで、ゲラルトは転んでしまう。

 いや、誰かに転倒させられた。



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