奴隷少女は最強魔導機に乗って勇者になりました

睦月らびっと

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追放と脱走編

追放

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 巨人、ドラゴン、突然変異の巨大スライム……巨大な体躯を誇る魔物達を前に、人間という存在はあまりにも小さい。だからこそ、それらに対抗するべく巨体と鋼の強度を併せ持つ人型戦闘機械ロボット『魔導機』が生まれるのは半ば必然であった。
 人間と獣の姿と能力を併せ持ち、人間と異なる言語を操る亜人達が住まう未開の地『魔王領』を統べる『魔王』も一説によれば人間とは比較にならない巨体を持つと言われるため、魔王領に赴く勇気ある調査部隊『勇者』一行もまた、魔導機を駆る……勇者が操る魔導機の名は『オルティクス』。トゥエン皇国の古代遺跡で発掘された、現代の技術では再現不可能な『高度な意志を持つ魔導機』である。

 天剣山脈の地下、竜達の縄張りにほど近い遺跡群……その最奥にあった神殿に安置されていたオルティクスを発見したトゥエン皇国は修復を試み、構造解析を行う過程で基幹となる技術の多くを吸収した。それは皇国の魔導機技術の大きな礎となり、更に近年になってから偶然の出来事ではあったものの、休眠状態であった意志を再起動する事にも成功した。
 しかし、超古代の言語はその翻訳からして困難なため意志を持つ魔導機と言う大発見に反し、当面対話は困難と思われた……時間をかけて言葉の意味を少しずつ理解する他ないと考えられていたが、学者達の困難に立ち向かう心意気は思わぬ形で打ち砕かれた。
 何と、オルティクスの方が驚異的な学習能力を発揮して短期間で現代の言語を習得したのだ……あまりに想定外の早さで対話が成立した事に、学者達は開いた口が塞がらなかった。
 ここでオルティクスから超古代の叡智を得られれば完璧であったが、現実はそう甘くはない。不幸にもオルティクスは記憶の多くを失っていたのだ……超技術の復活は泡沫の夢と消えてしまった。
 古代トゥエン語で『起源』を意味する『オルティクス』は魔導機が広く普及したこの時代であっても、あまりにも規格外な存在であった。
 まず第一に、オルティクスが持つ人間に極めて近い精神性と高い知性、高度かつ柔軟な意志を持つ機体は再現できていない。また、未だ完全な状態ではないながらも多くの機体を凌駕する圧倒的な性能をも有しており、皇国に限らず多くの学者の意見としてオルティクスは『原初の魔導機』の1つであると同時に『1つの完成形』と評されその名を与えられた。
 そんな失われた技術の塊、太古の大いなる遺産を渡す事はトゥエン皇国の内部でも技術者軍部からの反発が大きかったものの『国際協力』の大義名分から拒否に踏み切れず『勇者』の要請に応える形で皇国から譲られたのだが……事もあろうにオルティクスは今、その勇者によって破棄されようとしていた。

「オルティクス、お前はもう不要だ」
『勇者リアン、理由を聞きたい』
「このダーウォン帝国での俺の活躍を、領主様が認めてくれてな。帝都ダーウォンで皇帝に謁見する時に最新鋭の機体を受領する事になった」
『リアン、謁見は必要だ。だが、この地の領主の命令に従って犯罪者の魔導機を破壊せずとも『勇者』であれば正規の手続きで早期に実現した可能性が高い。加えて、これまでの交戦記録から判断してダーウォン帝国の魔導機の性能は高くない。よって、新型魔導機も本機以上の性能がある可能性は低い』
「やかましい! そうやって口うるさいお前はもういらないんだよ! おまけに勝手な行動を取りやがって! この前の戦いじゃ勝てるところを突然後退しただろうが!!」
『あの時本機は僚機の射線上にいたため、誤射の危険があった。本機は自身と搭乗者を守らなければならない』
「そんなもの魔力シールドで防げるだろ! それに御大層な事を言われている機体の割に、武装は貧弱そのものじゃないか! 両腕から魔力砲を放つ以外は剣一本! おまけに背中のパーツが干渉して飛行ユニットも付けられない!」
『リアン、それは運用方法に問題がある。本機の魔力シールドを単独で突出して自身の防御にのみ使用する事は無論可能だが、僚機を守れなくなる。それでは僚機が損害を受ける確率が大きく上がってしまう。本機のみにシールドを使用するよりも、僚機への攻撃も本機のシールドで防ぎ、仲間と連携を取る方が損害は軽微で済む。武装に関してはリアン、君が限定的な運用をしているだけだ。拡張運用について議論の余地がある』
「ごちゃごちゃと……俺は勇者だ! 率先して敵を倒すべきなんだ! それに飛行ユニットはこれから多くの魔導機に搭載される必要不可欠な装備だ!」
『本機には変形機能がある。飛行ユニットは不要だ』
「お前は変形したら両腕すら使えないだろうが! お前と違ってダーウォンの新型、ディーランはすごいぞ! 飛行ユニットだけじゃない、両腕が自由になる肩部魔力砲に大出力の腰部魔力砲、近接用ブレードも2本ある! しかもお前よりずっと従順な思考のサポート機体知能まで付いているんだ!」
『……本機は君の意見を尊重する。では勇者リアン、君のパイロット登録を削除しよう。同時に本機の所有権も破棄する事になるが、承認するか?』
「ああ、承認する。どこへなりと消えろ!」

 リアンが仲間の魔導機に乗り、オルティクスに背を向ける。その姿が見えなくなったところで、オルティクスはパイロットがいないまま、誰にでもなく呟いた。

『話す相手はいないが、ようやく『私』も普通に話せるな……しかし、興味深い。全て博士の言っていた通りになった』

 オルティクスは自分の譲渡について話していた博士の言葉を再生し、思い出す。

『断言しても良い、あのリアンとかいう勇者には君を使いこなす事はできない。それどころか、自分の無能を棚に上げて他の機体に乗り換えると言い出すかもしれないね……時期は予測できないが、そうなるのは遠く無いだろう』
『博士、それは何故だ?』
『アレは君の価値を全く理解していない愚か者だ。まず第一に、君を下に見ている……他の魔導機と同じ道具としてしか見ていない。第二に、帝国は大陸統一を掲げ、常に戦力を欲している。勇者と言うだけでパイロットとして一定の能力は保証されているから、あの手この手で抱き込もうとするだろう……話した回数は少ないが、私から見ればアレは俗物だ。おそらく、コロッと引っかかるだろうね。あの程度の男が君の真価を発揮できたら、それこそ驚きだ』
『では博士、貴女は勇者リアンよりも、自分がパイロットに向いていると考えているのか?』

 そこで白衣を着た女性は楽しそうに笑う。

『そうだねえ、少なくともあの間抜けより君の事を理解しているとは思う。だが、それはパイロット適正とは違う。私も動かせない事は無いが、単純な技量で言えば残念ながら勇者よりも低い。かなりハードルは高いが、君にとって最も理想的なパイロットは君を対等の存在として認めて対話ができる柔軟性と、高い操縦技術を併せ持つ者だ。それから、君の拡張性は既存の魔導機とは比較にならない……その能力を効果的に活用できる創造性も持っているとなお良いね。そうだ、良い事を教えてあげよう』

(一応、博士に教わった事は役には立っていたのだろうな)

 博士に教わった事、と言ってもそう難しい話ではない。

『これから教えるのはいわゆる『本音』と『建前』という奴だ』
『意味が分からない』

 いかに高度な意志を持つと言っても魔導機であるオルティクスは人間的な『欲』を持たず、思考の基盤は『論理』にある。そのため、多くの場合『自身の利益を優先する』結果行われる『他者を欺く』という行為の発想がそもそも無く、故に表面を取り繕うという考えも持ち合わせていなかったのだ。

『簡単に言えば、君自身の考えを隠して、表面上は別の対応をする、という事さ。人間だって、円滑なコミュニケーションのために本音を抑える事はある。信頼できない相手と、信頼に値する友人では話し方も違って当然だろう? だが、前者の相手でも当たり障りない対応くらいは必要だよ』

 そうして、博士の言葉通り『対等の相手』ではなく『道具』としての扱いを決め込んだ勇者リアンに対し、オルティクスは『建前』として極力自身から話しかける事をせず、端的に話すようにしていたのだ。リアンはあれこれ口出しされる事を嫌うため、結果的には正解だったと言える。

『もしあの無能な勇者と別れる事になったら、トゥエンに戻ってくると良い。魔導機技術に関しては自分達の基盤が無くて他所から盗み取るしか能がないダーウォン帝国に回収されたりしたら、解析作業だけでもどんな雑な扱いをされるかわかったものじゃないからね……もし帰ってきてくれたなら、その時は改めて最高の設備とスタッフで整備をしてあげよう』

 これは博士なりの『保険』でもあった。他の魔導機ならばそうはいかないが、オルティクスは自ら判断し行動出来る能力がある。加えて、パイロット無しで活動する場合オルティクスには性能に大きな制約がかかるものの、それを差し引いても並の魔導機よりは強い。仮に帝国が捕獲に乗り出したとしても数機程度の魔導機ならば問題無くあしらえる。
 オルティクスはトゥエン皇国における魔導機技術の基盤にして象徴でもあるため、帝国からすれば是が非でも手に入れたい代物だろう……それを踏まえたうえで、もしもオルティクスの捕獲が小規模の部隊では困難だと理解すれば、次はより大規模な捕獲部隊を編成し動かそうと考える可能性は否定できない。
 だが、その動きを見せたならトゥエン皇国としてはそれは『待ってました』と言うべきものだ。皇国から小規模の魔導機部隊の動きを把握する事は難しいが、まとまった軍を動かしたならば話は別だ。古代文明の遺産にして魔導機技術の基盤でもあるオルティクスはトゥエン皇国にとっては国宝でもあるため『国宝奪還』の名目で軍が大手を振ってオルティクスを迎えに行く事が出来る……これは勇者リアンにオルティクスを渡す事に大きく反発していた軍部も大喜びするシナリオだろう。ただでさえ国境線であれこれ理由をつけてちょっかいをかけてくるダーウォン帝国に苛立ちを抱えているため、一泡吹かせてやりたいと思っている者も少なくない。
 時間はかかるかも知れないが、行動の指針さえあればオルティクスはそれを元に帰還を選ぶ……これはオルティクスの意志を蔑ろにしたリアンには考え付きもしないだろう。

 そんな彼女の保険は思惑通りに機能し、オルティクスは勇者リアンに追放されてすぐにトゥエン皇国に帰還すべきと判断した。だが、それで一直線に帰還しよう、とならないのがオルティクスが規格外である所以である。帰還を目的として、その為に更に思案を巡らせる。
 勇者リアンのパイロット登録削除は本人の意思を尊重した結果であり、避けられないものだったがオルティクスにとっても無視できないデメリットがある行動だった。
 出力の制限に、可変機構の使用不可……パイロット無しで自律行動をとれるだけでも魔導機としては規格外であり、制限がかかっていてなお並の魔導機を上回る出力を備えているのだが、それでも大型の魔物やならず者が不正に入手した魔導機との戦闘に突入した場合、相応に苦戦を強いられる可能性はあった。

(トゥエン皇国に帰還するのが最良だが、その為には人間に協力してもらう事が望ましい。まずは水源を探し、そこから水の流れを辿り人間の集落を探そう……集落を見つけ、住人に協力を要請する。途中で旅をしている人間がいれば、その場合も対話を試みる。最初の会話に対する反応から協力を要請できるか判断する。協力要請が可能な場合は一時的なパイロット登録と、トゥエンまでの同行を了承してもらえるならば、その他の条件は譲歩して問題ない)

 こうして、一方的な追放を告げられた大いなる古代の遺産・オルティクスは自分勝手な勇者の操作を必要とすることなく、無人のままゆっくりと歩き出す。
 やって来た道を引き返す形で1時間ほど歩いたところで、センサーに大きな魔力の反応を検知した……魔導機のものだ。数は4つ。魔導機がある、という事はそこに人間がいる、という事だ。期せずして見つかった反応に向け、歩を進めていく。
 程なくして姿を見せた旧型の魔導機に乗っていたパイロットとの出会いこそ、博士の言う『最も理想的なパイロット』との出会いであった。
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