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第二話 この男の正体

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柚月は自分の状況を聞いても理解できないでいた。
でもこの男からは絶対に逃げられない。そう確信はした。

「俺はお前のことが好きだから誘拐した。俺に惚れろ、とは言わない。だがしかし、一時も離れるな」

少し寂しそうに遠くを見つめながら言うこの男を放っておけなかった。いきなり自分を誘拐して好きだと言って、一時も離れるな、と無理難題を押し付けられたけど。
でも気になる。この人は寂しいのか。私と同じ空虚感があるのか、と。

「名前は?」

確かにこの人は寂しいのかもしれない。見渡す限りこの家に人はいない。この男以外。
足音、話し声、生活観が全くないのだ、ここには。しかし、その命令は聞けない。私はここから逃げ出したいから。
だからわざと、話題と変える。

「名前はない。好きに呼べ」

「タマでもいいですか?」

「ペット的なのはナシだ」

「エリザベス、マーガレットどっちがいいですか?」

「もうちょっとマシなのないのか」

文句が多い男だ。
好きに呼べって言ったのに!!

「なら、ロミオはどうですか。かっこいいですよ、名前」

「適当になってきたな」

苦笑いしながら最早スルー。名前については触れてこない。

「それより何者なんですか?」

「今さらだな。まぁ、吸血鬼だ。でもまぁ、人間と血は半々ってことだな」

「ひとつ気になるんですけど、日光浴びたら灰になるんですか」

「ならない。力は発揮出来なくて苦手だがな。しかし、普通に外出歩くことは出来る」

「なにそれ………無敵じゃないですか!!!」

だって、弱点がないってことだよね!?
手の打ちようがないじゃん、それ!!
どうすればいいの!!

「ちなみに弱点はありますか?」

「あるのはある。試してみるがよい。そのかわりしくじった時覚えておけよ」

「あ、間に合ってます」

少し様子を見ようとするか……。

「早く俺に惚れてくれ」

私を優しく愛しく見つめてくれるその瞳は私の全てを見透かされている気がした。
その瞳に映っている私はとても醜い顔をしていて、彼の瞳からわざと目を逸らした。
その瞳を私にむけないで、とでも言うように。
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