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絵描きの海(ト書き)
私は、一人で、海辺に居る。
私の前には、キャンバスが在った。
私は、一心不乱に、絵を描き付けている。
何を描いていると思う?
ある日、私の元に、一人の『大人』が訪れた。
大人「やぁ」
私「こんにちは」
大人「海を、描いてるの?」
私「はい。毎日、この場所で」
大人「真っ青、だね」
私「海、ですから」
大人「なぜ、絵の中に、誰も、人を描かないの?」
私「海を、描きたいので」
大人「そう」
私「絵を見てくれて、ありがとうございます。
お礼に、あなたを描きましょう」
私は、バッグから、スケッチブックを取り出し、『大人』の姿を、さらさらと描き付けた。
私「描けました」
大人「似てるね」
私「気に入ったなら、差し上げます」
大人「ありがとう」
私は、スケッチブックを一枚破り、『大人』に渡した。
『大人』は、礼を言って、帰って行った。
別の日。
私の元に、『老人』が訪れた。
老人「よう」
私「こんにちは」
老人「海を、描いておるのか?」
私「はい。毎日、この場所で」
老人「真っ青、じゃな」
私「海、ですから」
老人「なぜ、絵の中に、誰も、人を描かんのじゃ?」
私「海を、描きたいので」
老人「そうか」
私「絵を見てくれて、ありがとうございます。
お礼に、あなたを描きましょう」
私は、バッグから、スケッチブックを取り出し、『老人』の姿を、さらさらと描き付けた。
私「描けました」
老人「よう似ておるのう」
私「気に入ったなら、差し上げます」
老人「ありがとうよ」
私は、スケッチブックを一枚破り、『老人』に渡した。
『老人』は、礼を言って、帰って行った。
又、別の日。
私の元に、『子供』が訪れた。
子供「やぁ」
私「こんにちは」
子供「海を、描いてるの?」
私「うん。毎日、この場所で」
子供「青い、ね」
私「海、だから」
子供「どうして、この絵の中には、誰も、人が居ないの?」
私「海を、描きたいから」
子供「何だか、絵が、寂しそうだよ?」
私「はは……代わりに、別の画用紙に、君を描いてあげる」
私は、バッグから、スケッチブックを取り出し、『子供』の姿を、さらさらと描き付けた。
私「描けた」
子供「似てるね」
私「気に入ったなら、あげる」
子供「ありがとう」
私は、スケッチブックを一枚破り、『子供』に渡した。
『子供』は、礼を言って、帰って行った。
又、別の日。
今日は、私を訪ねて来る者は、誰も居ない。
私は、一人、海を描き続けた。
ザザーン……
子供『絵が、寂しそう』
昨日の、『子供』の言葉が、思い出される。
それでも私は、ひたすら、青い色を塗り続けた。
ザザーン……
青い絵の具のチューブの、真ん中が凹む。
他の色の絵の具は、一向に減る気配が無い。
私は、バッグから、新しい青い絵の具を取り出そうとした。
バッグの陰から、何か、白いものが飛び出した。
「ん……?」
見ると、真っ白い、小さな亀だった。
白い亀は、私の足元に擦り寄ると、小さく鳴いた。
「キュウ」
白い亀は、キョトンとした顔で、私を見上げている。
「……ふ」
私は、少し戸惑ったが、すぐに、ふっと微笑んだ。
「キュウ」
白い亀は、椅子に座る私の膝の上に、おずおずと這い上がった。
「ふふ」
私は、笑って、亀の甲羅を、ふわりと撫でた。
「この私の、膝の上に乗るのか。
お前は、どこから来たんだい……?」
ザザーン……
私の問いかけは、引いて行く波の音に、掻き消された。
「……いいよ。ゆっくり、お休み」
甲羅を撫でられて、白い亀は、気持ち良さそうに、眠り出した。
私は、絵筆を止めて、ふと、今まで描いていた、青い海の、
遠い遠い、彼方を見遣った。
「……私は、何が、描きたかった?」
私は、自分の膝の上で眠る、真っ白い、小さな亀を、再び、見つめた。
「君は、海の……」
私は、真っ青なキャンバスの上に、
初めて、ぽたん、と、白い絵の具を垂らした。
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