1 / 1
マグカップ割ったったー
しおりを挟む
ガシャァアン!
「わっ……!」
昼下がりのキッチン、食器棚の前。
俺の手の中から滑り落ちたマグカップが、
派手な音を立てて、床の上に砕け散った。
やべっ、これ、土井さんが、大事にしてる奴……!
幸い、彼は、外出中だ。
「石塚君、只今~」
「げ……」
フラグを一行で回収して、ルームシェア相手の、土井さんが帰って来た。
玄関を上がって、俺の居るキッチンに入ろうとするので、慌てて止める。
「土井さん、ストップ!」
「えっ?何、なに?」
「足元、気を付けて下さい」
「ん?……うおっ!忍者の撒菱みたい!」
彼は、大袈裟にポーズを付けて、跳び上がった。
「済みません、土井さんのマグカップ、割っちゃいました……」
「えっ、大丈夫?怪我しなかった?」
「……俺は、平気ですけど」
「そっか」
彼は、穏やかに笑う。
「でも、ご免なさい。土井さん、あれ、気に入ってたのに」
「うぅん、君が無事なら、いいんだよ。
死んだ曾お爺ちゃんの形見の品だけど、気にしないで!」
重っ!
てか、気にしなくていいなら、申告するなよ。
俺は、何とかして、割ってしまったマグカップを直したい。
でも、無理だ。
こんなに、木っ端微塵に砕けてしまった物を、元通りに直すなんて……。
「本当に、ご免なさい……」
「いいから、いいから」
「でも……」
「じゃあさ、こうしよう」
「●ン・ベルクさんに、
『鎧の魔グカップ』を、作って貰おうよ!」
「よ、『鎧の魔グカップ』……!?」
「うん!」
土井さんは、得意気に笑う。
「……何ですか、それ?」
「普段は、マグカップなんだけど、
『鎧化』の掛け声で、鎧になるんだ!」
「……どう言う用途で使うんですか、それ」
「これさえあれば、お茶を飲んでる時に、
万が一、敵に襲われても、安心だよね!」
満面のドヤ顔。
てゆうか、現代日本で暮らしていれば、そもそも、モンスターは、ティータイムで無くとも襲って来ない。
何と戦ってるんだ、この人は。
「そうと決まれば、材料の、金属を探しに行こう!」
「えっ?えぇ――!?」
それ、もう、曾お爺ちゃんの形見、関係無くない?
土井さんが、自分で欲しいだけじゃない?
「ちょ、ちょっと、土井さん!」
こうして、俺と土井さんは、野を越え山を越え海を越えて、
三年間、世界の果て迄、オリハルコンを探し回った。
旅を続ける内に、二人共、レベルが99迄、上がってしまった。
ステータスは、全パラメータ999でカンスト、
今なら、ゾー●でもデスピ●ロでも大魔王●ーンでも、小指で瞬殺出来る。
「はぁ……はぁ……。
ここか……!」
遂に、ギ●ガの大穴の火口付近で、オリハルコンを見付けた俺達は、
ロン・ベ●ク氏の武器工房に辿り着いた。
ドン、ドン
「頼もーっ!」
「だが断る」
「ええぇええ!?」
「ですよねー」
「そんな……材料探し、苦労したのに……!」
土井さんは、がっくりと膝を突く。
「そもそも、何で、魔界の名工、ロン・●ルク氏が、
個人のマグカップ、簡単に作ってくれると思ったんですか?」
無駄にレベルだけ上がってしまった。
鎧化するマグカップは諦めて、割れた元のカップを、直す事にした。
家族の形見の品を割ってしまうなんて、俺は……俺は、何て事を、してしまったんだ!
「土井さん、俺……マグカップ、必ず、直します!」
「石塚君っ!?」
俺は、拾い集めたマグカップの欠片を手に、家を飛び出した。
「はい、はい……だから、一ヶ月程、休みを下さい」
『ちょっと、石塚さん!?石塚さ……っ!』
ガチャン ツーツーツー
会社に、有給休暇を申請して、俺は、空港へ向かった。
日本を離れ、エジプトに居る、あの陶芸の神様の元を目指すのだ。
「ここか……!」
[クヌム 陶芸 工房]
やっとの思いで、工房に辿着いた俺は、門戸を叩いた。
ドン、ドン
「頼もーっ!」
「む?」
扉を開くと、羊の神様が居た。
工房の中には、器を捏ねる為の、ろくろがあり、そこらに土くれが転がっている。
「お前は?」
「俺は、石塚です。日本から来ました。
この、割れたマグカップを、直したいんです!」
「いいだろう。我が名は、クヌム。
私の事は、師匠と呼べ」
「はい、師匠!」
こうして俺は、陶芸の神様である、クヌム神に弟子入りした。
くるくる……
「うむ、石塚は仲々、筋が良いぞ」
「有り難うございます、師匠!」
ろくろを回す手を止め、額の汗を拭う。
俺は、日に日に、陶芸のスキルを上げて行った。
「違うッ!」
ガシャーン!
クヌム師匠に弟子入りして、数週間。
俺は、もう何個目だか分からない、出来損ないのマグカップを、床に叩き付けた。
「これじゃない……俺の、作りたいマグカップは、これじゃないんだ!」
土の破片が散らばる、床に突っ伏す。
俺には、矢張り、無理だったのか……!?
「馬鹿者ッ!」
ぷすっ
「あうッ!」
垂直ジャンプしたクヌム師匠に、顎下から、角で突かれた。
普通に痛い。
「お前の、土井のマグカップに注ぐ情熱は、その程度かッ!」
「師匠……」
角が刺さった俺の頬っぺたから、ポタポタと鮮血が滴り落ちる。
「何の為に、ここ迄、やって来たんだ!」
「…………!」
そうだ。
ここで止めてしまったら、俺は何の為に、本業の会社を休んで迄、エジプトくんだり迄、はるばるやって来たんだ。
「諦めんなよ!
もっと、熱くなれよ!」
「……はい!師匠!」
「ファイヤ――!」
「うぉおおぉお!!」
俺の、ろくろを回すスピードが、音速を超えた。
「で……出来た……!」
「うむ……見事だ、石塚よ」
完成した。
カップの底にこびり付いた茶渋迄 、見事に再現出来ている。
完璧だ。
ガシッ
俺は、クヌム師匠と、固い握手を交わした。
「有り難うございました、師匠!」
「達者でな」
俺は、師匠に見送られて、クヌム陶芸工房を後にした。
「土井さん!只今、帰りました!」
「お~、石塚君!お帰り!」
一ヶ月振りの我が家だ。
「これ、エジプト土産の、ハラワです」
「土井さん、それは……?」
土井さんは、ダイニングで牛乳を飲んでおり、
彼の手には、新品のマグカップが握られている。
「あ、これ?
石塚君の帰りを待つ間、牛乳飲むのに、マグカップ無いと、不便じゃん?
百均のダ●ソーで、買っちゃった!テヘ☆」
「………………」
ガシャァアアン!
俺は、エジプトから持ち帰ったマグカップを、勢い良く、床に叩き付けた――。
「石塚君――ッ!?」
「わっ……!」
昼下がりのキッチン、食器棚の前。
俺の手の中から滑り落ちたマグカップが、
派手な音を立てて、床の上に砕け散った。
やべっ、これ、土井さんが、大事にしてる奴……!
幸い、彼は、外出中だ。
「石塚君、只今~」
「げ……」
フラグを一行で回収して、ルームシェア相手の、土井さんが帰って来た。
玄関を上がって、俺の居るキッチンに入ろうとするので、慌てて止める。
「土井さん、ストップ!」
「えっ?何、なに?」
「足元、気を付けて下さい」
「ん?……うおっ!忍者の撒菱みたい!」
彼は、大袈裟にポーズを付けて、跳び上がった。
「済みません、土井さんのマグカップ、割っちゃいました……」
「えっ、大丈夫?怪我しなかった?」
「……俺は、平気ですけど」
「そっか」
彼は、穏やかに笑う。
「でも、ご免なさい。土井さん、あれ、気に入ってたのに」
「うぅん、君が無事なら、いいんだよ。
死んだ曾お爺ちゃんの形見の品だけど、気にしないで!」
重っ!
てか、気にしなくていいなら、申告するなよ。
俺は、何とかして、割ってしまったマグカップを直したい。
でも、無理だ。
こんなに、木っ端微塵に砕けてしまった物を、元通りに直すなんて……。
「本当に、ご免なさい……」
「いいから、いいから」
「でも……」
「じゃあさ、こうしよう」
「●ン・ベルクさんに、
『鎧の魔グカップ』を、作って貰おうよ!」
「よ、『鎧の魔グカップ』……!?」
「うん!」
土井さんは、得意気に笑う。
「……何ですか、それ?」
「普段は、マグカップなんだけど、
『鎧化』の掛け声で、鎧になるんだ!」
「……どう言う用途で使うんですか、それ」
「これさえあれば、お茶を飲んでる時に、
万が一、敵に襲われても、安心だよね!」
満面のドヤ顔。
てゆうか、現代日本で暮らしていれば、そもそも、モンスターは、ティータイムで無くとも襲って来ない。
何と戦ってるんだ、この人は。
「そうと決まれば、材料の、金属を探しに行こう!」
「えっ?えぇ――!?」
それ、もう、曾お爺ちゃんの形見、関係無くない?
土井さんが、自分で欲しいだけじゃない?
「ちょ、ちょっと、土井さん!」
こうして、俺と土井さんは、野を越え山を越え海を越えて、
三年間、世界の果て迄、オリハルコンを探し回った。
旅を続ける内に、二人共、レベルが99迄、上がってしまった。
ステータスは、全パラメータ999でカンスト、
今なら、ゾー●でもデスピ●ロでも大魔王●ーンでも、小指で瞬殺出来る。
「はぁ……はぁ……。
ここか……!」
遂に、ギ●ガの大穴の火口付近で、オリハルコンを見付けた俺達は、
ロン・ベ●ク氏の武器工房に辿り着いた。
ドン、ドン
「頼もーっ!」
「だが断る」
「ええぇええ!?」
「ですよねー」
「そんな……材料探し、苦労したのに……!」
土井さんは、がっくりと膝を突く。
「そもそも、何で、魔界の名工、ロン・●ルク氏が、
個人のマグカップ、簡単に作ってくれると思ったんですか?」
無駄にレベルだけ上がってしまった。
鎧化するマグカップは諦めて、割れた元のカップを、直す事にした。
家族の形見の品を割ってしまうなんて、俺は……俺は、何て事を、してしまったんだ!
「土井さん、俺……マグカップ、必ず、直します!」
「石塚君っ!?」
俺は、拾い集めたマグカップの欠片を手に、家を飛び出した。
「はい、はい……だから、一ヶ月程、休みを下さい」
『ちょっと、石塚さん!?石塚さ……っ!』
ガチャン ツーツーツー
会社に、有給休暇を申請して、俺は、空港へ向かった。
日本を離れ、エジプトに居る、あの陶芸の神様の元を目指すのだ。
「ここか……!」
[クヌム 陶芸 工房]
やっとの思いで、工房に辿着いた俺は、門戸を叩いた。
ドン、ドン
「頼もーっ!」
「む?」
扉を開くと、羊の神様が居た。
工房の中には、器を捏ねる為の、ろくろがあり、そこらに土くれが転がっている。
「お前は?」
「俺は、石塚です。日本から来ました。
この、割れたマグカップを、直したいんです!」
「いいだろう。我が名は、クヌム。
私の事は、師匠と呼べ」
「はい、師匠!」
こうして俺は、陶芸の神様である、クヌム神に弟子入りした。
くるくる……
「うむ、石塚は仲々、筋が良いぞ」
「有り難うございます、師匠!」
ろくろを回す手を止め、額の汗を拭う。
俺は、日に日に、陶芸のスキルを上げて行った。
「違うッ!」
ガシャーン!
クヌム師匠に弟子入りして、数週間。
俺は、もう何個目だか分からない、出来損ないのマグカップを、床に叩き付けた。
「これじゃない……俺の、作りたいマグカップは、これじゃないんだ!」
土の破片が散らばる、床に突っ伏す。
俺には、矢張り、無理だったのか……!?
「馬鹿者ッ!」
ぷすっ
「あうッ!」
垂直ジャンプしたクヌム師匠に、顎下から、角で突かれた。
普通に痛い。
「お前の、土井のマグカップに注ぐ情熱は、その程度かッ!」
「師匠……」
角が刺さった俺の頬っぺたから、ポタポタと鮮血が滴り落ちる。
「何の為に、ここ迄、やって来たんだ!」
「…………!」
そうだ。
ここで止めてしまったら、俺は何の為に、本業の会社を休んで迄、エジプトくんだり迄、はるばるやって来たんだ。
「諦めんなよ!
もっと、熱くなれよ!」
「……はい!師匠!」
「ファイヤ――!」
「うぉおおぉお!!」
俺の、ろくろを回すスピードが、音速を超えた。
「で……出来た……!」
「うむ……見事だ、石塚よ」
完成した。
カップの底にこびり付いた茶渋迄 、見事に再現出来ている。
完璧だ。
ガシッ
俺は、クヌム師匠と、固い握手を交わした。
「有り難うございました、師匠!」
「達者でな」
俺は、師匠に見送られて、クヌム陶芸工房を後にした。
「土井さん!只今、帰りました!」
「お~、石塚君!お帰り!」
一ヶ月振りの我が家だ。
「これ、エジプト土産の、ハラワです」
「土井さん、それは……?」
土井さんは、ダイニングで牛乳を飲んでおり、
彼の手には、新品のマグカップが握られている。
「あ、これ?
石塚君の帰りを待つ間、牛乳飲むのに、マグカップ無いと、不便じゃん?
百均のダ●ソーで、買っちゃった!テヘ☆」
「………………」
ガシャァアアン!
俺は、エジプトから持ち帰ったマグカップを、勢い良く、床に叩き付けた――。
「石塚君――ッ!?」
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
続・冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
の続編です。
アンドリューもそこそこ頑張るけど、続編で苦労するのはその息子かな?
辺境から結局建国することになったので、事務処理ハンパねぇー‼ってのを息子に押しつける俺です。楽隠居を決め込むつもりだったのになぁ。
十年目の結婚記念日
あさの紅茶
ライト文芸
結婚して十年目。
特別なことはなにもしない。
だけどふと思い立った妻は手紙をしたためることに……。
妻と夫の愛する気持ち。
短編です。
**********
このお話は他のサイトにも掲載しています
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
✿ 私は彼のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい
設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀
結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。
結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。
それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて
しなかった。
呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。
それなのに、私と別れたくないなんて信じられない
世迷言を言ってくる夫。
だめだめ、信用できないからね~。
さようなら。
*******.✿..✿.*******
◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才 会社員
◇ 日比野ひまり 32才
◇ 石田唯 29才 滉星の同僚
◇新堂冬也 25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社)
2025.4.11 完結 25649字
大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる