19 / 30
第19話
「今度行われる騎士様方の歓迎会には、東街区の火事で消火活動に協力してくださった方々も労いのため招待されているの。つまり犯人にとって、招待客に紛れ悠々と侵入できる機会でもあるわ」
シルフィアが外出を控えるようになったら、そこが狙い目だと犯人は考えるはず。
こちらも迎え撃つ形の方が、いつ襲われるか分からない状況よりは手が打てる。
優秀な騎士三人の力を借り、作戦を立て。
必ず犯人を捕縛する。
闘志を燃やすシルフィアに、ユキノシタが口を挟んだ。
「あの、少々よろしいでしょうか? もしや、僕がこの場に呼ばれたというのは、つまり……」
「以前、子ども達に歌を披露してもらいたいと話したでしょう? その時、トーカには犯人の確認をお願いしたいの。もちろん、彼女に危険がないよう万全の警備体制を整えると誓うわ」
彼女は犯人の声を聞いている。
黒ずくめを脱いでいても見破ることができる、唯一の存在だった。
「まだ恐怖が残っている子に、非道なお願いをしている自覚はあるのよ。なのでユキノシタ様の判断次第で、この話は断っても構わないわ」
ユキノシタはしばらく俯いていたが、再び上げられた空色の瞳には確かな覚悟が宿っていた。
それは穏やかな青年の、庇護者の顔。
「本人の意思を確認する必要はありますが、僕としてはお受けしたいと思っています。これ以上被害者を増やすべきではありませんし、恐怖を元凶から取り除けばトーカにとっても安心でしょう」
「ユキノシタ様……。ありがとう、感謝します」
深々と頭を下げるシルフィアに、ユキノシタは首を振って笑った。
「と言いましても最近のあの子は、少しずつですが以前の明るさを取り戻しているんですよ? 様子を見るためと言ってわざわざ足を運んでくださる、子爵令嬢のおかげかもしれませんね」
いたずらっぽく肩をすくめながらの珍しい軽口は、気にしなくていいという配慮なのだろう。
罪悪感で痛む胸が温かくなって、シルフィアは堪らず笑みをこぼした。
「あなたでも、冗談を言うのね」
「うぅ、似合わないことをした自覚はあります」
「それでいいのよ。真面目なところも、冗談が下手なところも、全てあなたの美点だもの」
「下手というのは否定しないんですね……」
ほのぼのと交わされる和やかな会話。
輪に入れずふてくされたエニシダが、行儀悪くテーブルに突っ伏しながら文句をたれる。
「シルフィア嬢とユキノシタ、知らない間にえらい仲良くなってなーい?」
その隣でモクレンも笑っているが、周囲には何やら冷気が漂っている。
「そうですね。そもそもシルフィア様、孤児院に通っていたということ自体、私は初耳ですが?」
「あら。そもそも、なぜ私の行動を逐一あなたに報告する必要があるのかしら?」
微笑んで返すと、彼の眉間のシワがピシリと増えた。
不穏な微笑み仕合は止まるところを知らない。
そんな騒がしいやり取りを見て騎士達が不思議な懐かしさを覚えていることに、シルフィアは気付かなかった。
シルフィアが考えた作戦の穴を指摘したり、また補強したりと紛糾したものの、会議は一段落した。
囮になることをモクレンは最後まで反対し続けていたが、それも無理やり納得させた。
解散の運びとなり、それぞれが席を立っていく。
そんな中、シルフィアはシオンに視線を向けた。
表情が動く瞬間はあったものの、話し合いが終わると同時に陰のある雰囲気に戻ってしまっている。
末っ子で、天使のように可愛らしかったシオン。
彼の瞳が絶望しか映していないのは、クシェルの死に未だ苦しんでいるためだとしたら。
避けるべきではないと、シルフィアは思った。
モクレンの懸念も理解できるが、このまま知らないふりはできない。あるいはシルフィアとしてでも、できることはきっとあるはずだから。
「シオン様、あの」
「……何?」
勇気を出して声をかけると、シオンは煩わしげではあるものの振り返ってくれた。
そもそも足を止めると思わなかったので、もしかしたら今回の会議を通し少しは評価を修正したのかもしれない。
ひとまず一歩前進といったところか。
シルフィアは、そつのない笑顔を作った。
「先ほどは、貴重なご意見をありがとうございました。やはり、現役の騎士様にご助力いただけますと心強いです。この街に再び平和が訪れた時、領民はすべからくあなた方に感謝することでしょう」
貴族の作法に則って正しく礼を取るが、彼はどこか物言いたげにしている。しばらくじっと待ってみると、シオンはようやく口を開いた。
「かしこまらなくて結構です。獣のようだった時との振り幅がひどすぎて、違和感しかない」
「獣、ですか」
火が点いてうっかり地が出てしまったことは認めるが、年頃の令嬢に対し、いうに事欠いて獣とは。
前世が男性だった自分は、果たして今世で無事に結婚できるのか。一抹の不安はよぎるものの、シルフィアは厳しい現実を見ないことにして笑みを保った。
「ありがとうございます。ではシオン様も、どうぞ覚束ない敬語はおやめくださいませ」
全く友好的ではない返答に、シオンのこめかみがピクリと引きつる。
平民出身であることをわざと揶揄したのだ。
分かりやすい嫌みには、上品にくるんだ特大の皮肉を。これが貴族の常套手段だ。
階級で差別をする気持ちなど微塵もないが、敵意を向けられるとつい喧嘩腰になってしまう。
相手の一番嫌なところをあえてつつく。これは完全に、前世の影響だ。
ーー私に喧嘩を売るだなんて、上等じゃない。
表面上は微笑みつつ、圧を発する。
すると、彼は再び人間らしい感情の片鱗を見せた。中性的な美貌に浮かぶのは、戸惑いだろうか。
ふと、愛らしい幼少時代の面影と重なる。
体格は男らしくなったけれど、こうして見ると顔立ちはほとんど変わっていない。
懐かしさが込み上げ、自然に頬が緩む。
今なら、言える気がした。
「シオンーー」
唇を動かした瞬間、腕を強く引かれた。
振り向くとモクレンが立っている。
「先ほど作戦について、質問をし損ねたのですが」
「え? あぁ……」
モクレンに意識を向けた途端、シオンは背を向けて歩き出してしまった。
まるで何かを振り切るような乱れた足取りで、シルフィアは名残惜しく見送りつつも心配になる。
見送る羽目になった原因は、離すまいとするかのようにしっかり腕を握っていた。
モクレンはやけに性急に話を進める。
「気になるのはトーカのことです。わざわざ彼女に確認させる必要はあるんでしょうか? あなたは犯人の顔を知っているんですよね?」
「ええ。けれど、一つ気になることがあって……」
上の空で答えつつ、視線は彼に釘付けだった。
顔だけはいつも通り冷静そうなモクレンだが、どこか不安そうにも見える。
クシェルの記憶に加えシルフィアとしてもそれなりに過ごしてきたし、何より最近は彼を目で追うようになっていたから、見抜くのは容易だった。
「あなた、もしかして今わざと邪魔をした?」
シルフィアの問いは的を射ていたらしい。モクレンは何とも言えない表情で黙り込んだ。
視線を逸らそうとするので先回りをして逃げを封じ、銀縁眼鏡の向こうにある緑の瞳をじっと見つめる。
引き結ばれたモクレンの唇から、小さな声が漏れた。
「……あなたを、独り占めできたらいいのに」
あとから苦々しげに顔をしかめるから、それが偽らざる本音だと分かる。
シルフィアは穴が空くほど彼を見つめ、口を開いた。
「えっと、拗ねているの?」
「いけませんか」
間髪入れずに憎まれ口が返ってきて閉口するけれど、白皙の美貌が赤く色付くのを見て堪らない気持ちになった。
「ーー可愛い」
モクレンはもう、七歳の子どもじゃないのに。できるなら抱き締めて、とろけるほど甘やかしてあげたい。
頼りになる姿にももちろん胸が高鳴るけれど、弱さや情けない部分にまでときめいてしまうなんて。
ーー美形だから? それとも、モクレンだから?
可愛いの単語がひどく不本意なようで、モクレンはふてくされた顔をしている。
それすら愛おしく感じて、シルフィアは自らの頬も淡く染めながら、とびきりの笑顔になった。
◇ ◆ ◇
執務室には、ロントーレ家の当主と執事のクランツ、そしてメイドのミーナが揃っていた。
それは、終業後の業務報告。
今まではクランツのみに話して終了だったのだが、最近のクロードはシルフィアの周囲にちらつく男の影が気になって仕方ないらしい。
ミーナは、シルフィア主導で行われた今日の会議の内容を、報せるべきか悩んでいた。
シルフィアは大好きだが、クロードは尊敬する雇い主。本来ならば、彼の耳にも入れておくべきなのだろう。
けれどミーナとて、被害に遭ったランの親友。
これ以上被害が拡大するのは見過ごせないし、その上犯人は地元に放火した疑いまであるのだ。
野放しにしてはおけない。
シルフィアが断固として捕まえるというのなら、ミーナは全力で主人を守ろう。
そう決断し、口を噤む選択をした。
とはいえ領主であるクロードも有能な執事のクランツも、ミーナより何枚も上手だ。なぜ集まっていたのかを指摘されればぼろが出るかもしれない。
そこでミーナは、あることないこと申告して煙に巻く作戦に打って出た。
「……というわけでぇ、お嬢様を愛でるために集まった皆さまは互いに牽制し合い一触即発の気配。ところがさすがお嬢様、ご自身で巧みに取りなし無用な争いを最小限に抑える手腕と言いましたら、もう鮮やかの一言ですぅ!」
「シルフィアを愛でる……だと……?」
クロードは、作戦がはまり見事に動揺している。
「とりあえず旦那様。確かなことが一つだけぇ」
ミーナがだめ押しとばかりに声を潜めると、娘を溺愛する父は俄然身を乗り出した。
「お嬢様は、天然の小悪魔で人たらしで、モッテモテのようですよぅ!」
クロードは机上の書類にも構わず、ガクリと倒れ伏した。憔悴しきった様子に、慌ててクランツが宥めだす。
混沌とする中、ミーナは一人満足げに微笑んでいた。
何とか大切なシルフィアの秘密を守りきれた。
達成感に浸っているメイドは、後々の主人の苦労を全く考えていない。
シルフィアが外出を控えるようになったら、そこが狙い目だと犯人は考えるはず。
こちらも迎え撃つ形の方が、いつ襲われるか分からない状況よりは手が打てる。
優秀な騎士三人の力を借り、作戦を立て。
必ず犯人を捕縛する。
闘志を燃やすシルフィアに、ユキノシタが口を挟んだ。
「あの、少々よろしいでしょうか? もしや、僕がこの場に呼ばれたというのは、つまり……」
「以前、子ども達に歌を披露してもらいたいと話したでしょう? その時、トーカには犯人の確認をお願いしたいの。もちろん、彼女に危険がないよう万全の警備体制を整えると誓うわ」
彼女は犯人の声を聞いている。
黒ずくめを脱いでいても見破ることができる、唯一の存在だった。
「まだ恐怖が残っている子に、非道なお願いをしている自覚はあるのよ。なのでユキノシタ様の判断次第で、この話は断っても構わないわ」
ユキノシタはしばらく俯いていたが、再び上げられた空色の瞳には確かな覚悟が宿っていた。
それは穏やかな青年の、庇護者の顔。
「本人の意思を確認する必要はありますが、僕としてはお受けしたいと思っています。これ以上被害者を増やすべきではありませんし、恐怖を元凶から取り除けばトーカにとっても安心でしょう」
「ユキノシタ様……。ありがとう、感謝します」
深々と頭を下げるシルフィアに、ユキノシタは首を振って笑った。
「と言いましても最近のあの子は、少しずつですが以前の明るさを取り戻しているんですよ? 様子を見るためと言ってわざわざ足を運んでくださる、子爵令嬢のおかげかもしれませんね」
いたずらっぽく肩をすくめながらの珍しい軽口は、気にしなくていいという配慮なのだろう。
罪悪感で痛む胸が温かくなって、シルフィアは堪らず笑みをこぼした。
「あなたでも、冗談を言うのね」
「うぅ、似合わないことをした自覚はあります」
「それでいいのよ。真面目なところも、冗談が下手なところも、全てあなたの美点だもの」
「下手というのは否定しないんですね……」
ほのぼのと交わされる和やかな会話。
輪に入れずふてくされたエニシダが、行儀悪くテーブルに突っ伏しながら文句をたれる。
「シルフィア嬢とユキノシタ、知らない間にえらい仲良くなってなーい?」
その隣でモクレンも笑っているが、周囲には何やら冷気が漂っている。
「そうですね。そもそもシルフィア様、孤児院に通っていたということ自体、私は初耳ですが?」
「あら。そもそも、なぜ私の行動を逐一あなたに報告する必要があるのかしら?」
微笑んで返すと、彼の眉間のシワがピシリと増えた。
不穏な微笑み仕合は止まるところを知らない。
そんな騒がしいやり取りを見て騎士達が不思議な懐かしさを覚えていることに、シルフィアは気付かなかった。
シルフィアが考えた作戦の穴を指摘したり、また補強したりと紛糾したものの、会議は一段落した。
囮になることをモクレンは最後まで反対し続けていたが、それも無理やり納得させた。
解散の運びとなり、それぞれが席を立っていく。
そんな中、シルフィアはシオンに視線を向けた。
表情が動く瞬間はあったものの、話し合いが終わると同時に陰のある雰囲気に戻ってしまっている。
末っ子で、天使のように可愛らしかったシオン。
彼の瞳が絶望しか映していないのは、クシェルの死に未だ苦しんでいるためだとしたら。
避けるべきではないと、シルフィアは思った。
モクレンの懸念も理解できるが、このまま知らないふりはできない。あるいはシルフィアとしてでも、できることはきっとあるはずだから。
「シオン様、あの」
「……何?」
勇気を出して声をかけると、シオンは煩わしげではあるものの振り返ってくれた。
そもそも足を止めると思わなかったので、もしかしたら今回の会議を通し少しは評価を修正したのかもしれない。
ひとまず一歩前進といったところか。
シルフィアは、そつのない笑顔を作った。
「先ほどは、貴重なご意見をありがとうございました。やはり、現役の騎士様にご助力いただけますと心強いです。この街に再び平和が訪れた時、領民はすべからくあなた方に感謝することでしょう」
貴族の作法に則って正しく礼を取るが、彼はどこか物言いたげにしている。しばらくじっと待ってみると、シオンはようやく口を開いた。
「かしこまらなくて結構です。獣のようだった時との振り幅がひどすぎて、違和感しかない」
「獣、ですか」
火が点いてうっかり地が出てしまったことは認めるが、年頃の令嬢に対し、いうに事欠いて獣とは。
前世が男性だった自分は、果たして今世で無事に結婚できるのか。一抹の不安はよぎるものの、シルフィアは厳しい現実を見ないことにして笑みを保った。
「ありがとうございます。ではシオン様も、どうぞ覚束ない敬語はおやめくださいませ」
全く友好的ではない返答に、シオンのこめかみがピクリと引きつる。
平民出身であることをわざと揶揄したのだ。
分かりやすい嫌みには、上品にくるんだ特大の皮肉を。これが貴族の常套手段だ。
階級で差別をする気持ちなど微塵もないが、敵意を向けられるとつい喧嘩腰になってしまう。
相手の一番嫌なところをあえてつつく。これは完全に、前世の影響だ。
ーー私に喧嘩を売るだなんて、上等じゃない。
表面上は微笑みつつ、圧を発する。
すると、彼は再び人間らしい感情の片鱗を見せた。中性的な美貌に浮かぶのは、戸惑いだろうか。
ふと、愛らしい幼少時代の面影と重なる。
体格は男らしくなったけれど、こうして見ると顔立ちはほとんど変わっていない。
懐かしさが込み上げ、自然に頬が緩む。
今なら、言える気がした。
「シオンーー」
唇を動かした瞬間、腕を強く引かれた。
振り向くとモクレンが立っている。
「先ほど作戦について、質問をし損ねたのですが」
「え? あぁ……」
モクレンに意識を向けた途端、シオンは背を向けて歩き出してしまった。
まるで何かを振り切るような乱れた足取りで、シルフィアは名残惜しく見送りつつも心配になる。
見送る羽目になった原因は、離すまいとするかのようにしっかり腕を握っていた。
モクレンはやけに性急に話を進める。
「気になるのはトーカのことです。わざわざ彼女に確認させる必要はあるんでしょうか? あなたは犯人の顔を知っているんですよね?」
「ええ。けれど、一つ気になることがあって……」
上の空で答えつつ、視線は彼に釘付けだった。
顔だけはいつも通り冷静そうなモクレンだが、どこか不安そうにも見える。
クシェルの記憶に加えシルフィアとしてもそれなりに過ごしてきたし、何より最近は彼を目で追うようになっていたから、見抜くのは容易だった。
「あなた、もしかして今わざと邪魔をした?」
シルフィアの問いは的を射ていたらしい。モクレンは何とも言えない表情で黙り込んだ。
視線を逸らそうとするので先回りをして逃げを封じ、銀縁眼鏡の向こうにある緑の瞳をじっと見つめる。
引き結ばれたモクレンの唇から、小さな声が漏れた。
「……あなたを、独り占めできたらいいのに」
あとから苦々しげに顔をしかめるから、それが偽らざる本音だと分かる。
シルフィアは穴が空くほど彼を見つめ、口を開いた。
「えっと、拗ねているの?」
「いけませんか」
間髪入れずに憎まれ口が返ってきて閉口するけれど、白皙の美貌が赤く色付くのを見て堪らない気持ちになった。
「ーー可愛い」
モクレンはもう、七歳の子どもじゃないのに。できるなら抱き締めて、とろけるほど甘やかしてあげたい。
頼りになる姿にももちろん胸が高鳴るけれど、弱さや情けない部分にまでときめいてしまうなんて。
ーー美形だから? それとも、モクレンだから?
可愛いの単語がひどく不本意なようで、モクレンはふてくされた顔をしている。
それすら愛おしく感じて、シルフィアは自らの頬も淡く染めながら、とびきりの笑顔になった。
◇ ◆ ◇
執務室には、ロントーレ家の当主と執事のクランツ、そしてメイドのミーナが揃っていた。
それは、終業後の業務報告。
今まではクランツのみに話して終了だったのだが、最近のクロードはシルフィアの周囲にちらつく男の影が気になって仕方ないらしい。
ミーナは、シルフィア主導で行われた今日の会議の内容を、報せるべきか悩んでいた。
シルフィアは大好きだが、クロードは尊敬する雇い主。本来ならば、彼の耳にも入れておくべきなのだろう。
けれどミーナとて、被害に遭ったランの親友。
これ以上被害が拡大するのは見過ごせないし、その上犯人は地元に放火した疑いまであるのだ。
野放しにしてはおけない。
シルフィアが断固として捕まえるというのなら、ミーナは全力で主人を守ろう。
そう決断し、口を噤む選択をした。
とはいえ領主であるクロードも有能な執事のクランツも、ミーナより何枚も上手だ。なぜ集まっていたのかを指摘されればぼろが出るかもしれない。
そこでミーナは、あることないこと申告して煙に巻く作戦に打って出た。
「……というわけでぇ、お嬢様を愛でるために集まった皆さまは互いに牽制し合い一触即発の気配。ところがさすがお嬢様、ご自身で巧みに取りなし無用な争いを最小限に抑える手腕と言いましたら、もう鮮やかの一言ですぅ!」
「シルフィアを愛でる……だと……?」
クロードは、作戦がはまり見事に動揺している。
「とりあえず旦那様。確かなことが一つだけぇ」
ミーナがだめ押しとばかりに声を潜めると、娘を溺愛する父は俄然身を乗り出した。
「お嬢様は、天然の小悪魔で人たらしで、モッテモテのようですよぅ!」
クロードは机上の書類にも構わず、ガクリと倒れ伏した。憔悴しきった様子に、慌ててクランツが宥めだす。
混沌とする中、ミーナは一人満足げに微笑んでいた。
何とか大切なシルフィアの秘密を守りきれた。
達成感に浸っているメイドは、後々の主人の苦労を全く考えていない。
あなたにおすすめの小説
【完結】モブ令嬢としてひっそり生きたいのに、腹黒公爵に気に入られました
22時完結
恋愛
貴族の家に生まれたものの、特別な才能もなく、家の中でも空気のような存在だったセシリア。
華やかな社交界には興味もないし、政略結婚の道具にされるのも嫌。だからこそ、目立たず、慎ましく生きるのが一番——。
そう思っていたのに、なぜか冷酷無比と名高いディートハルト公爵に目をつけられてしまった!?
「……なぜ私なんですか?」
「君は実に興味深い。そんなふうにおとなしくしていると、余計に手を伸ばしたくなる」
ーーそんなこと言われても困ります!
目立たずモブとして生きたいのに、公爵様はなぜか私を執拗に追いかけてくる。
しかも、いつの間にか甘やかされ、独占欲丸出しで迫られる日々……!?
「君は俺のものだ。他の誰にも渡すつもりはない」
逃げても逃げても追いかけてくる腹黒公爵様から、私は無事にモブ人生を送れるのでしょうか……!?
記憶喪失の私はギルマス(強面)に拾われました【バレンタインSS投下】
かのこkanoko
恋愛
記憶喪失の私が強面のギルドマスターに拾われました。
名前も年齢も住んでた町も覚えてません。
ただ、ギルマスは何だか私のストライクゾーンな気がするんですが。
プロット無しで始める異世界ゆるゆるラブコメになる予定の話です。
小説家になろう様にも公開してます。
聖女様と間違って召喚された腐女子ですが、申し訳ないので仕事します!
碧桜
恋愛
私は花園美月。20歳。派遣期間が終わり無職となった日、馴染の古書店で顔面偏差値高スペックなイケメンに出会う。さらに、そこで美少女が穴に吸い込まれそうになっていたのを助けようとして、私は古書店のイケメンと共に穴に落ちてしまい、異世界へ―。実は、聖女様として召喚されようとしてた美少女の代わりに、地味でオタクな私が間違って来てしまった!
落ちたその先の世界で出会ったのは、私の推しキャラと見た目だけそっくりな王(仮)や美貌の側近、そして古書店から一緒に穴に落ちたイケメンの彼は、騎士様だった。3人ともすごい美形なのに、みな癖強すぎ難ありなイケメンばかり。
オタクで人見知りしてしまう私だけど、元の世界へ戻れるまで2週間、タダでお世話になるのは申し訳ないから、お城でメイドさんをすることにした。平和にお給料分の仕事をして、異世界観光して、2週間後自分の家へ帰るつもりだったのに、ドラゴンや悪い魔法使いとか出てきて、異能を使うイケメンの彼らとともに戦うはめに。聖女様の召喚の邪魔をしてしまったので、美少女ではありませんが、地味で腐女子ですが出来る限り、精一杯頑張ります。
ついでに無愛想で苦手と思っていた彼は、なかなかいい奴だったみたい。これは、恋など始まってしまう予感でしょうか!?
*カクヨムにて先に連載しているものを加筆・修正をおこなって掲載しております
一夜限りの関係だったはずなのに、責任を取れと迫られてます。
甘寧
恋愛
魔女であるシャルロッテは、偉才と呼ばれる魔導師ルイースとひょんなことから身体の関係を持ってしまう。
だがそれはお互いに同意の上で一夜限りという約束だった。
それなのに、ルイースはシャルロッテの元を訪れ「責任を取ってもらう」と言い出した。
後腐れのない関係を好むシャルロッテは、何とかして逃げようと考える。しかし、逃げれば逃げるだけ愛が重くなっていくルイース…
身体から始まる恋愛模様◎
※タイトル一部変更しました。
魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――
ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。
魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。
ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。
誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。
【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?
はくら(仮名)
恋愛
ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。
※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。
転生したら地味ダサ令嬢でしたが王子様に助けられて何故か執着されました
古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
皆様の応援のおかげでHOT女性向けランキング第7位獲得しました。
前世病弱だったニーナは転生したら周りから地味でダサいとバカにされる令嬢(もっとも平民)になっていた。「王女様とか公爵令嬢に転生したかった」と祖母に愚痴ったら叱られた。そんなニーナが祖母が死んで冒険者崩れに襲われた時に助けてくれたのが、ウィルと呼ばれる貴公子だった。
恋に落ちたニーナだが、平民の自分が二度と会うことはないだろうと思ったのも、束の間。魔法が使えることがバレて、晴れて貴族がいっぱいいる王立学園に入ることに!
しかし、そこにはウィルはいなかったけれど、何故か生徒会長ら高位貴族に絡まれて学園生活を送ることに……
見た目は地味ダサ、でも、行動力はピカ一の地味ダサ令嬢の巻き起こす波乱万丈学園恋愛物語の始まりです!?
小説家になろうでも公開しています。
第9回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作品
転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。
ラム猫
恋愛
異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。
『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。
しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。
彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。
※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。