今日から、契約家族はじめます

浅名ゆうな

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!コミカライズ発売記念!

今さらですが、コミカライズ完結記念! リクエスト楓if新婚編

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 十一月二十三日は、語呂合わせで『いい夫婦の日』とされている。
 この日、ひなこと楓は婚姻届を提出した。
 結婚式はまだ先になるけれど、これで二人は晴れて夫婦となった。
 長年一緒に暮らしているアパートに帰っても、何だか興奮が覚めやらない。
 いつもの玄関のはずなのに、いつもと違って輝いて見える。
「私達、本当に結婚したんだね。楓君と結婚なんて、全然実感が湧かないよ」
 笑いながら振り返ると、楓はどこか渋い顔をしていた。
「頼むから今すぐ実感しろ。つーか、俺以外の誰と結婚する気だよ」
「えっと、契約結婚とか?」
「もうそんなこと、絶対にさせねぇから。どんな事情があったとしても」
 雪人と偽装結婚をした過去を持ち出すと、楓はますます顔をしかめた。
 軽口のつもりだったが、婚姻届を提出したばかりで言うことではなかったか。『どんな事情があったとしても』という台詞に、やけに切実さを感じる。
 母を亡くしたひなこを助けたかった。何かしたかったのに、何もできなかった。
 そう悔やんでいるのを、以前に聞いたことがある。
 楓にとっては苦い記憶かもしれない。
 けれど、ひなこはあの日々があったからこそ今があると思っている。
 独りぼっちだったひなこを、三嶋家の全員が受け入れてくれて、支え合って。
 そうして家族として過ごす内に、楓の優しさや愛情深さも知っていったのだから。
 ――楓君を好きになってよかった。楓君に好きって思ってもらえる、私でよかった。
 泣いたり笑ったりしてきた、これまでの思い出も全て引っくるめて愛おしい。
 この幸せな気持ちを、はち切れそうな想いを、どうしたらもっと伝えられるだろう。
 ひなこは彼の胸元に頭を預けて、いたずらっぽく微笑んだ。
「せっかく夫婦になったんだし、これからは呼び方とか変えちゃおうか? ……『あなた』とか、どう?」
 楓はなぜか攻撃を受けたかのように、少しだけのけ反った。
「『あなた』……結構クルな」
「あれ? ごめん、嫌だった?」
「いや、逆。めちゃめちゃよかった。何気にちょっとテンション上がってるのとか、全部込みで可愛すぎる」
 ようやく彼に笑顔が戻ってきて、ひなこも一緒になって頬をゆるめた。
「何か楓君、昔に比べてよく可愛いって言うようになったよね」
 料理を作っている時、食べている時。寝坊して焦っている時、顔に寝跡が付いている時。ドラマに感動して泣いている時まで。
 本当に何でもない場面でいちいち『可愛い』と言うから、こちらも毎回律儀に照れてしまう。本当に可愛くなったと勘違いしそうになるからやめてほしい。
 楓は過去を思い出す素振りで、少し遠い目になった。
「まぁ、昔は思ってても我慢してたからな」
「え、そうなの?」
「初めて会った時は、まだ気になるとかそのくらいの感情だったけど……そうだな。御園学院の入学式であんたを見つけた時には、もう可愛いなって思ってたかも」
「えっ。それって、結構前じゃ……」
「髪が一束、ぴよって跳ねてたとことか」
 一瞬ときめきかけた直後に、愕然とする。
 よりによって、入学式で髪が乱れていたなんて。そんな恥ずかしい過去を、今になって知ることになるとは。
 ひなこは項垂れてやさぐれた。
「……分かってたけどね……楓君の『可愛い』が、『間抜け』とか『アホ』的な意味だってことくらい……」
「――楓」
「え?」
「『楓』って呼んでよ、ひなこ」
 どうやら、呼び方を変えようかという話が、まだ続いていたらしい。
 唐突なおねだりに胸がそわそわする。
 確かに、本当に呼び方を改める、いい機会かもいいかもしれない。付き合っている時も『楓君』と呼び続けていたから、もう癖になっていたのだ。
 楓が望むなら、叶えたい。
 ひなこは改まった気持ちで、彼の名前を口にしてみる。
「か、かえで……」
 もう何年も付き合ったというのに、結婚までしたというのに。
 本当にいつまでもドキドキが消えてくれない。慣れない。恥ずかしい。
 翻弄されている自覚はあるので、ひなこは俯いて顔を隠した。せめて赤くなっていることは気付かれたくない。
 楓がふと、笑みを含む吐息を漏らした。
「――ほら、そういうとこ。可愛い」
 伸びてきた長い指が、ひなこの輪郭をなぞるように頬をすべる。
 その、くすぐるような仕草が。
 見つめる眼差しの甘さが、柔らかな声が。
 楓の想いを全部ぶつけられているみたいで、頬といわず全身が熱くなった。
「……意地悪……」
「何でだよ」
 もう降参だ。
 ひなこは逃げるように、楓の懐に潜り込んだ。これで顔が見られる心配はない。
 いつまで経ってもこんなに好きで、こんなにも心を揺さぶられる。
 それなのに、楓の腕の中が、どこよりも安心できる場所なのだ。


 ……ぎゅっと抱き着いているひなこには、楓も赤くなっていることなど知る由もない。



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