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第1章 目隠し皇女

第7話 陰謀

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「なんだよ、それならそのまま教えてればいいだろう。どうして改めて俺を雇う?」

「……色々と訳あり・・・で、ね。それに僕たちは公務で忙しいし、常に勉強を見てあげられるワケじゃないから」

 どこか歯切れの悪そうに答えるグレイ。

 まあ言えないなら別にいい。
 皇王家ともなれば、そりゃ色々あるだろうしな。
 俺は話を変えるべく、

「っていうか、俺より適任がいるだろうに」

「へえ、例えば?」

「それこそマティアスの奴とか、学問って話も含めればイヴァンでもいいじゃないか。ラキは……ちょっとナシかもしれんが」

 ――”戦ラプ”の攻略対象メインヒーローであり、今や救国の大英雄と呼ばれる人物は五人いる。

 ”聖剣士”グレイ・エクレウス
 ”魔槍使い”マティアス・プラム
 ”召喚士”イヴァン・アザレア
 ”魔弓手”ラキ・スコティッシュ
 そして”魔術師”クーロ・カラム
 
 この五人は親友にして戦友であり、共に『アルヴィオーネ魔導学園』を卒業した者たちでもある。

 この面子に”治癒師”エステルを加え、俺たちはいつも仲良くつるんでいたものだ。

「……クーロ、彼らが今どうしているか知ってるかい?」

「え? そう聞かれると……もう永らく連絡を取ってないけど……」

「マティアスもイヴァンもラキも、今はアルヴィオーネで教師を務めている」

「!? そうなのか!?」

「しかも三人共結婚してお子さんもいるし、自由に動ける身じゃなくなってるんだ。彼らから聞いていないのか?」

 聞いてないよ。
 全然聞いてない。

 あいつら、今そんなことになってたのか……!?
 しかも結婚して子供までいるなんて……!?
 連絡の一つも寄越さないなんて、薄情な奴らめ……!

 …………いや、違うか……。
 たぶん気を遣われたんだろうな……。

 俺がいつまでも辺境の片隅で独身のまま不貞腐れてるから……。
 
 なんか逆に申し訳ない気分になってきたわ……。

「そういうワケでキミが一番適任なんだ。それに……彼ら以外となると、もうキミしか安心して任せられそうにない」

「? と言うと……」

「僕が今日お忍びで来た理由だよ。娘に専属の教師が付くことを、ギリギリまで内外に悟られたくないんだ」

「!」

 グレイの言い方を聞いて、俺はすぐに察する。
 彼が――いや彼ら皇王家が、なんらかの陰謀に巻き込まれていることを。

「グレイ……王宮で今なにが起きてる?」

「わからない。ただ一つ言えることは、国内に帝国残党のスパイが入り込んでるってことくらいだ」

「帝国残党の……?」

「少し前に、帝国から『サン・シエナ王国』が独立したことは知っているだろう。どうにも旧帝国の侵略思想を引き継いだ残党が、かの国に多くいるらしくてね」

「そいつらが、『エクレウス皇国』にスパイを送り込んでるって?」

「この国は帝国崩壊の引き金を引いたんだ。どれほど恨まれていてもおかしくはない」

 なるほど……。
 『サン・シエナ王国』は独立こそ果たした国だが、その国家規模はかなり小さい。
 俺たちと再び戦争できるほどの力は持ち合わせてはいないはずだ。

 そこでスパイを送り込み、内部からの崩壊を試みる。
 まあ戦争の常套手段ではあるな。

 先に戦争を吹っ掛けたのはそっちなのに、随分と逆恨みされたもんだ。

「おそらく、大臣たちの中にもスパイに買収された者がいる。僕やエステルはすっかり疑心暗鬼の状態なんだ」

「まさか……そのスパイ共に娘が狙われてるのか?」

「……たぶん、ね」

 ――なるほどな、ようやっと腑に落ちた。

 グレイは俺に教師役を任せると共に、身辺警護を任せたいと思っているワケだ。

 彼やエステルは立場上、四六時中娘と一緒にはいられない。
 だから護衛を付けたいが、王宮の中の人物は信用できない。
 そこで俺に白羽の矢が立ったのだ。

「だ、だが、それならどうして俺は信じられるんだ? 俺だってスパイかもしれないだろ!」

「この十数年、碌に皇都へ顔も出さず辺境に引きこもっていたキミが? 無理があるだろう」

「う……それは、その……」

「それにこれは、娘の望みでもあるんだ」

「娘さんの……?」

「当代一の魔術師であるクーロ・カラムに、ぜひ魔術のご教授を頼みたい――ってね。エステルもキミなら任せられると賛同してくれたよ」

 フッと苦笑するグレイ。

 ――母国と親友に危機が迫り、信ずる仲間として必要とされている。
 理屈抜きに考えても、断る道理はない。
 ない……けれど……。

 だけど――なんでよりにもよって――

 グレイとエステルの間に生まれた――

 ……正直、心の整理が付けられる自信がない。

「……グレイ、悪いが俺は――」

「先に断っておくが、これは皇王命令だ。キミに拒否権はない」

「は?」

「こっそり辞令書も用意してあるし、ここハーフェンは皇国軍が責任を持って管理することになった。今は隣接地域の紛争も沈静化してるしね」

「いや、あの――」

「もし拒否するなら財産と爵位を剥奪した上で、娘の専属秘書にさせる。ほら、これで心置きなく先生をやれるようになったろ?」

 心置きなく、じゃねーよ。
 そりゃ選択肢がないって言うんだ。

 もう、どう転んでも教師になるしかないじゃねーか!
 パワハラだろ! 職権乱用だ!
 
 グレイめ……こういう強引なところは本当に変わってないな……。

「それじゃ、後日迎えを寄越す。準備しておいてくれ」

 グレイはそう言い残し、「邪魔したね」と屋敷から去っていった。
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