上 下
17 / 19
第1章 目隠し皇女

第17話 お話しましょう①

しおりを挟む
 シャノアの魔術教師を始めてから――早五日。
 その間に俺は、彼女の魔術の実力・知識を様々な方面からテストした。

 結果わかったのは……やはり彼女は、途方もない才女であったということ。

 魔力量は言わずもがな、魔術のコントロールもほぼ一級。
 知識においても文句なしで、試しに”知識の試練”で出題された過去問を音読して解かせてみたところ、全問正解。

 それどころか自主的に論文すら仕上げてしまっているほどで、その学力はアルヴィオーネの助教授レベルであることが判明した。

 恐らくは英才教育の賜物なのだろう。
 グレイとエステルは、自分が教えられることは全て教えてきたのだと思う。
 そして天才たるシャノアは、それを全て呑み込んでしまった。
 恐るべし、である。

 もしも視力の代わりになる魔術を発明できれば、彼女なら瞬時に会得してしまうのだろうが――

「う~~~ん……なにかいいアイデアはないものか……」

 肝心の”視力の代わりになる魔術”の研究は難航していた。

 現在、王宮の図書館で様々な本を読み漁っている状態。
 なにかインスピレーション得られれば、と思って。

 ――俺はかつて、千種類を超える新魔術を発明してきた。
 今でも閃きさえあれば新しい魔術を生み出せる自信はある。

 だがそもそも――何故俺がそれほど多くの新魔術を作れたのか。
 これにはちゃんと理由がある。

 一言で言ってしまえば、俺が転生者だから。
 転生前の俺は日本で暮らし、スマホやらPCやらゲームやらが当たり前に存在する時代に生きていた。
 それらを通して様々な知識を有しており、それを魔術で再現しようと試みたのである。

 例えば魔術で光の屈折率を変え、身体を透明にして潜入任務をやってみたり――
 例えば魔力を練り込んだ液体を地面にぶちまけ、その中を潜って敵の虚をつく縄張りバトルをしてみたり――
 例えばナイフに魔力を込めて宙に浮かべ、それを大量に操ってファンなネルのオールレンジ攻撃を可能にしたり――

 あとは規模が大きのだと、魔術で地下を空洞にして、敵の軍勢をまるごと地盤沈下で全滅させたこともあったな。

 まあとにかく、色々やったのだ。

 そしてこれら新魔術は、戦場でてきめんに効果を発揮した。
 透明になったり地盤沈下させたりといった概念は、そもそもこの世界になかったからだ。

 俺にとっては見知った知識だとしても、この世界の住人にとってそうとは限らない。
 発想の外側からの攻撃は、それはそれは効果的だったよ。

 例えるなら宇宙人が謎ビームで地球を攻撃してくるようなモノだからな。
 防ぎようがない。

 そうして種々様々な魔術を作ってきたからこそ、アイデアさえあれば大抵のことは実現できると思ってる。
 要は魔術という形式に落とし込めればいいのだから。

 だが……流石に今回は難問だ。
 なにせ”視力の代わりになる魔術”なんて考えたこともなかったからなぁ。
 これまで作ってきた魔術は、全部目が見えるの前提のモノだったし。

 現状考えているのは、視覚以外の五感を強化する方法。
 聴覚、触覚、味覚、嗅覚――このいずれかを魔術で補助するというもの。

 ……音をより詳細に聞き分けられるようにする?
 ……匂いを犬並に嗅ぎ分けられるようにする?

 いや、駄目だ。
 その程度じゃ視力の代わりにならないし、入学試験をパスできない。
 もっと明確に外界を把握できる方法じゃないと。

 なーんかアイデアが出そうで出ないんだよなぁ。
 いやはや、この世界にもスマホやネットがあれば……。

「――先生、なにかお悩みですか?」

 顔に本を被せて椅子にもたれかかっていると、そんな声が背後から聞こえる。
 本を退いて振り向くと、そこにはシャノアの姿があった。
しおりを挟む

処理中です...