【完結】【百合論争】こんなの百合って認めない!

千鶴田ルト

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第一話(2/3)

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 死ぬ気で原稿を終わらせ、そのまま徹夜明けの状態で、午後一時約束した場所の都内某ファミレスに向かった。
「いやー、まさか茜音あかねがユリッターでこんなことになってるとはね」
 わたしは、大学で同じコースを専攻している友人の麻衣まいを連れてきた。相手は初めて会う人だし、何よりわたし自身が怒りで我を忘れないとも限らないと思い、付き添いを依頼したのだ。彼女も百合好き仲間であり、イラストを描くことを得意としているため話も合う。
「来てくれてありがとう。わたしが暴走しそうになったら止めて欲しいんだ。冷静に議論できないかもしれないから……」
「そんなに? どうしてそこまで、【ユリノキ】が気に入らないの?」
「……分からない。でも、あの人と話してると頭がカッとなっちゃうの」

 わたしたちは、ファミレスに入った。店内を見渡すと、こちらと目が合った女性の二人組がいた。
 その片方、眼鏡をかけている方。こっちが、おそらくユリノキだ。歩いて近づくと、二人も席を立った。彼女は眼鏡の奥から冷たい視線でわたしを見据えた。
 茶系のタートルネックニットにカーディガンを羽織り、ひざ下丈のギャザースカート。頭にはベレー帽なんか被っちゃって、文学少女気取りだろうか。身長はわたしよりも少し低く、年下に見える。わたしは一六三センチあるので高い方ではあるが。
「初めまして。【AKANE】さんですね? ユリノキです」
 向こうも、見ただけでわたしがAKANE(本名をアルファベットにしただけのハンドルネームを使用している)だと分かったらしい。
「はい、わたしがAKANEです。初めまして。会えて嬉しいです」
 ユリノキの眉がピクリと動いた。皮肉が気に障ったのだろうか。
「アカネさんは本名ですか? 私は白桜しろざくら女子大学三年、藤井ふじい悠乃ゆのです。どっちで呼んでもいいですよ」
 大学三年ということは、わたしより一つ年上だったのか。実はオフ会はそんなに慣れていないので、本名で呼んでいいならそうさせてもらおう。
「それじゃあ、悠乃さんと呼ばせてもらいますね。わたしは青波あおなみ女子大学二年の、宮下みやした茜音あかね
 そしてお互い、付き添いの友人も紹介し合った。向こうの付き添いは奈緒なおさんという人で、悠乃さんのゼミ仲間ならしい。主に百合関連のウェブ記事を書く、ライターをすることもあるそうだ。悠乃さんよりもさらに小柄で、柔和な雰囲気の可愛らしい人だ。
 自己紹介も終わり、悠乃さんが声を張り上げた。
「さて、では早速本題に入りましょう」
 仕切り始めた。年上だからって、偉そうに。何故か、この人を見てると心が落ち着かないんだ。
「これを見てもらえますか?」
 悠乃さんが、バッグから紙の束を取り出した。十枚以上はある。A4サイズの紙に、どうやら一枚あたり二ページ分ずつ印刷したもののようだ。
「私の書いた論文です。アカネさんの意見を聞いてみたいです」
「論文……ですか?」
 タイトルは、『対人感情の三軸マッピングに基づく百合作品の感情傾向分析――感情の種類・強度による構造的分類』
 うーん、何を言ってるのか分からない。わたしは、論文なんて一度も読んだことがない。ただでさえ寝不足でぼんやりしている脳みそだったので、注文したアイスコーヒーを流し込み頭をすっきりさせた。
「概要を簡単に説明しますね。三軸マッピングというのは対人感情を分類する手法のひとつで、感情の種類を二軸でマッピングし、さらに強度を層別します。百合作品に登場する感情をマッピングして、傾向を分析するのがこの論文のねらいです」
 悠乃さんは、わたしでも分かるように説明してくれた。
「収集したのは、ここ十年間の代表的な百合作品三十作。感情の肯定的か否定的かと、心理的距離が近いか遠いかの二軸。強度は弱・中・強の三段階で表します」
「……なるほど」
 説明を聞きながら、論文をペラペラとめくってみた。作品ごとに、どのシーンをもとに判断したかを記載したところがある。知っているタイトルも多く出てきたので少し読んでみた。すると、目に入ったある記載が気になった。
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