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第四話(2/2)
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わたしのユリッターのアカウントは、まだ非公開のままだ。もう少し落ち着いて創作を再開したら、公開に戻そうと思っている。とにかく、いつも通りの生活に戻るのを先決にしたい。
――そうだ、次のイベント用の原稿に取り掛かろう。
前回のリリフェスは途中で離脱してしまったが、新刊は割と好評だった。続きの構想もあるので、描き始めようと思った。
わたしは、本棚からその同人誌を手に取って、開いてみた。
『当事者からするとすごく迷惑。』
――まただ。あの書き込みが頭に侵食してきた。わたしが創作で百合を描くことも、誰かを傷つける表現になるんじゃないか。そんな不安と戸惑いが、心を支配する。今まで平気で創作していた自分を、恨めしくすら思う。
結局、この日以降も原稿に手をつけることはできず、大学二年生の前期が終わろうとしていた。わたしは、まだ答えを出せないでいる。
「最近、描いてる?」
大学近くのファミレス。
期末試験が終わり、麻衣と軽く打ち上げをしていた。
わたしは、俯いてジェノベーゼパスタをいじくり回した。
「……進んでない。ずっと、描く気が起こらない」
麻衣はそれ以上何も聞かず、「そっか」とだけ呟いてアイスティーを一口飲んだ。
「私は知ってるよ。茜音が進んで人を蔑む表現をするような人じゃないって」
麻衣の言葉に、少し救われる。それでも。
「……うん。もちろん、わたしもそんなつもりで描いたことはないよ。でもつもりがなくても、結果的に暴力的だったり、人を傷つけたりしてしまうかもしれない。わたしは、今はそれが怖い」
「そうだね。それは茜音が、表現することについて真面目に考えてるってことだと思う。悪いことじゃないよ」
「ありがとう……。でもね、今は好きだった作品も素直に楽しめないし、楽しめないことが『創作の可能性を信じれてない』っていうことのような気がして、辛いんだ……」
「茜音……」
わたしが黙ると、麻衣も黙ってしまった。こんなこと言われても、どう声をかけていいか分からないだろう。困らせてしまっている自分に、さらに自己嫌悪した。
「ごめん。わたし帰るね」
この場の空気にわたしのほうが耐えられなくなり、椅子を引いて立ち上がった。
「……あのさ」
麻衣が、覚悟を決めて絞り出すように言った。
「悠乃さんにも相談してみたらどうかな? あの人も、きっと助けになってくれると思う」
わたしは、その名前が出てくるとは思っていなかったので咄嗟に反応できなかった。
「……悠乃さん?」
「実は、ユリッターで悠乃さんから連絡があったんだ。茜音は鍵にしちゃってるから連絡取れないでしょ? 茜音がどうしてるか心配して、私に聞いてきたよ」
わたしと悠乃さんのアカウントは、もともと相互フォロー関係でない上に、わたしが非公開にしてしまったので連絡できない状態になっていた。
「悠乃さん、か……」
そもそも、あの騒動の原因のほとんどはわたしにある。そのことをちゃんと謝る必要もあるんだった。
わたしは、帰ると悠乃さんのアカウントにDMを送った。
『突然ですが、またお会いできませんでしょうか。この前のこと、ちゃんと謝りたいです。勝手な申し出ですみません。』
すると、その日のうちに返信が来た。
『連絡ありがとうございます。あかねさんは悪くないので、謝る必要なんてありませんよ。それより、大丈夫ですか?』
涙が、溢れてきた。迷惑をかけたのはわたしなのに、心配してくれる悠乃さん。
わたしは、翌日に悠乃さんのゼミ室にお邪魔させてもらう約束をした。
その夜は、久しぶりに悪夢を見ずに眠ることができた。
――そうだ、次のイベント用の原稿に取り掛かろう。
前回のリリフェスは途中で離脱してしまったが、新刊は割と好評だった。続きの構想もあるので、描き始めようと思った。
わたしは、本棚からその同人誌を手に取って、開いてみた。
『当事者からするとすごく迷惑。』
――まただ。あの書き込みが頭に侵食してきた。わたしが創作で百合を描くことも、誰かを傷つける表現になるんじゃないか。そんな不安と戸惑いが、心を支配する。今まで平気で創作していた自分を、恨めしくすら思う。
結局、この日以降も原稿に手をつけることはできず、大学二年生の前期が終わろうとしていた。わたしは、まだ答えを出せないでいる。
「最近、描いてる?」
大学近くのファミレス。
期末試験が終わり、麻衣と軽く打ち上げをしていた。
わたしは、俯いてジェノベーゼパスタをいじくり回した。
「……進んでない。ずっと、描く気が起こらない」
麻衣はそれ以上何も聞かず、「そっか」とだけ呟いてアイスティーを一口飲んだ。
「私は知ってるよ。茜音が進んで人を蔑む表現をするような人じゃないって」
麻衣の言葉に、少し救われる。それでも。
「……うん。もちろん、わたしもそんなつもりで描いたことはないよ。でもつもりがなくても、結果的に暴力的だったり、人を傷つけたりしてしまうかもしれない。わたしは、今はそれが怖い」
「そうだね。それは茜音が、表現することについて真面目に考えてるってことだと思う。悪いことじゃないよ」
「ありがとう……。でもね、今は好きだった作品も素直に楽しめないし、楽しめないことが『創作の可能性を信じれてない』っていうことのような気がして、辛いんだ……」
「茜音……」
わたしが黙ると、麻衣も黙ってしまった。こんなこと言われても、どう声をかけていいか分からないだろう。困らせてしまっている自分に、さらに自己嫌悪した。
「ごめん。わたし帰るね」
この場の空気にわたしのほうが耐えられなくなり、椅子を引いて立ち上がった。
「……あのさ」
麻衣が、覚悟を決めて絞り出すように言った。
「悠乃さんにも相談してみたらどうかな? あの人も、きっと助けになってくれると思う」
わたしは、その名前が出てくるとは思っていなかったので咄嗟に反応できなかった。
「……悠乃さん?」
「実は、ユリッターで悠乃さんから連絡があったんだ。茜音は鍵にしちゃってるから連絡取れないでしょ? 茜音がどうしてるか心配して、私に聞いてきたよ」
わたしと悠乃さんのアカウントは、もともと相互フォロー関係でない上に、わたしが非公開にしてしまったので連絡できない状態になっていた。
「悠乃さん、か……」
そもそも、あの騒動の原因のほとんどはわたしにある。そのことをちゃんと謝る必要もあるんだった。
わたしは、帰ると悠乃さんのアカウントにDMを送った。
『突然ですが、またお会いできませんでしょうか。この前のこと、ちゃんと謝りたいです。勝手な申し出ですみません。』
すると、その日のうちに返信が来た。
『連絡ありがとうございます。あかねさんは悪くないので、謝る必要なんてありませんよ。それより、大丈夫ですか?』
涙が、溢れてきた。迷惑をかけたのはわたしなのに、心配してくれる悠乃さん。
わたしは、翌日に悠乃さんのゼミ室にお邪魔させてもらう約束をした。
その夜は、久しぶりに悪夢を見ずに眠ることができた。
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