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第五話(2/2)
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「では茜音さん、私たちの本気をどうやって表明しましょうか」
お菓子を食べたり世間話程度の百合語りなどをして一息ついた後、悠乃さんは切り出した。わたしは入れ直してもらった紅茶のカップを手に取り、目を落とした。
「……創作者なら、創作で表現するべき――というのは、わたしはあまり支持していません。創作はあくまでも創作。わたしは創作者である前に表現者です。目的が伝えることなら、誤解なく伝わりやすい方法を取るべきと思います」
「なるほど。私もそう思います」
「悠乃さんに……協力してもらいたいです。もちろん無理にとは言いませんが」
悠乃さんが続きを促す。わたしは息を吸って言った。
「発端となった、百合の定義論争。あれを二人で語り合うところを動画にして、公開したいです。そうしたらわたしたちが本気で語っていることを、みんなにも理解してもらえるのではないかと思います」
悠乃さんは、少し目を見開いてから、もう一度細めた。
「面白いですね。いいと思います。……しかし、どうしてその方法にしようと思ったんですか?」
「わたしは最初……悠乃さんが、百合作品を研究として見ているだけで、対象の作品をリスペクトしてない失礼な人だと思っていたんです」
「ふふ、随分な言われようですね」
悠乃さんは軽く苦笑した。怒っているわけではない。
「す、すみません……。でも会って言い合いをしたとき、悠乃さんの目を見たらハッキリ分かりました。この人は真面目に、本気で取り組んでいるって。こういうのって、伝わるんだと思ったんです」
「そうだったんですね……」
少し間が空いた。しばらく無言だったけど、気まずさはなかった。悠乃さんの理解を深めていくにつれて、わたしはもっと知りたくなった。
「悠乃さんは、どうして百合を研究しているんですか?」
「……話せば長くなりますよ」
「聞きたいです」
「私、小さいときから喜怒哀楽を表現するのが苦手で、『お前は感情がないのか?』と言われることも多かったんです。でも本を読むのは昔から好きで、絵本や図鑑から、教本、小説、辞書、家にあるものは何でも読みました」
何か、すごく想像できる。今の悠乃さんをそのまま小さくした感じの女の子が、静かに本を読んでいる様子。
「小学生のときに図書室で出会ったのが、小説の『ユリみて』でした。この作品はメインのストーリーに恋愛が絡むことはほとんどありませんが、少女たち同士の信頼関係や絆、憧れ、嫉妬……そんな感情が肯定的に描かれているのを読んで、私自身も感情を揺さぶられるのを感じました。今までに読んだどの本とも違う感覚。『ユリみて』は何周読んだか分かりません。そこから百合作品に、もちろんそのときは百合という言葉も知りませんでしたが、興味を持ったんです。男女の恋愛ものには興味が湧きませんでした。周りには趣味の合う人はいなくて、私は一層創作作品にのめり込みました。それは私自身の感情を分析することにもつながったと思います」
そこまで話して、悠乃さんは紅茶を一口飲んだ。続けていいかを確認するようにわたしの目を見たので、頷いてあげた。悠乃さんは少し目を伏せた。
「……中学のとき、女の子に告白されました。違うクラスだったけど、一緒に図書委員になった子。一番仲の良い友達でした。正直なところ、その子のことを恋愛対象として見たことはなかったし、私には恋愛経験自体がありませんでした。でも私は、深く考えずに付き合うことにしたんです。断ってその子を傷つけたくなかったというのもありますし、一緒にいるのが心地良い関係なのは本当でしたから」
淡々と語る悠乃さんだったけど、少し声が震え始めたような気がした。
「手を繋いだり、二人で遊びに行ったりするのは楽しかったです。でもある日、彼女に聞かれたんです。『悠乃ちゃんは私のことどう思ってるの?』って。……私、答えられなかった。私はその子を好きだったし、大切に思っていましたが、たぶん恋愛感情はなかったと思います。そのまま、自然消滅のような感じで疎遠になっていきました。そのとき、恋愛感情じゃなかったとしても、彼女に対する想いを言葉にできていたらと……今でも思い出すと胸がざわざわします。きっかけとしては、それが百合を研究する理由になると思います」
悠乃さんに、そんな過去があったんだ。語ってくれた内容を深く噛み締めて、それから少し心の痛みを感じた。
「……話してくれて、ありがとうございます。悠乃さんのこと、少し理解できてきた気がします」
悠乃さんは少しだけ微笑み、
「いえ。私の方こそ、聞いてくれてありがとうございます。話したことで、自分の中でも整理できました。やっぱり私は、百合が好きだし、百合に救われてきたということを実感しました」
「わたしも同じです。辛いとき、苦しいときに、奮い立たせてくれた百合作品のこと。大切にしたいという思いには自信を持っています」
お互いに、目を見合わせて笑った。そして、悠乃さんはノートを開き、ペンを握った。
「じゃあ、動画をどうするか考えていきましょうか。さっきの話も踏まえて、私たち二人が百合に対してどう思っているかを」
「はい。本気で語って、しっかり伝えましょう」
「ただし」悠乃さんがペンの後ろ側を自分の唇に当てた。
「キスで誤魔化すのは禁止ですよ?」
「ちょっ……! そんなことしないから!」
慌てて否定すると、悠乃さんは楽しそうに紅茶をすすった。その柔らかな微笑みを見て、悠乃さんの新しい一面を見れた気がして、胸の奥が温かくなった。
お菓子を食べたり世間話程度の百合語りなどをして一息ついた後、悠乃さんは切り出した。わたしは入れ直してもらった紅茶のカップを手に取り、目を落とした。
「……創作者なら、創作で表現するべき――というのは、わたしはあまり支持していません。創作はあくまでも創作。わたしは創作者である前に表現者です。目的が伝えることなら、誤解なく伝わりやすい方法を取るべきと思います」
「なるほど。私もそう思います」
「悠乃さんに……協力してもらいたいです。もちろん無理にとは言いませんが」
悠乃さんが続きを促す。わたしは息を吸って言った。
「発端となった、百合の定義論争。あれを二人で語り合うところを動画にして、公開したいです。そうしたらわたしたちが本気で語っていることを、みんなにも理解してもらえるのではないかと思います」
悠乃さんは、少し目を見開いてから、もう一度細めた。
「面白いですね。いいと思います。……しかし、どうしてその方法にしようと思ったんですか?」
「わたしは最初……悠乃さんが、百合作品を研究として見ているだけで、対象の作品をリスペクトしてない失礼な人だと思っていたんです」
「ふふ、随分な言われようですね」
悠乃さんは軽く苦笑した。怒っているわけではない。
「す、すみません……。でも会って言い合いをしたとき、悠乃さんの目を見たらハッキリ分かりました。この人は真面目に、本気で取り組んでいるって。こういうのって、伝わるんだと思ったんです」
「そうだったんですね……」
少し間が空いた。しばらく無言だったけど、気まずさはなかった。悠乃さんの理解を深めていくにつれて、わたしはもっと知りたくなった。
「悠乃さんは、どうして百合を研究しているんですか?」
「……話せば長くなりますよ」
「聞きたいです」
「私、小さいときから喜怒哀楽を表現するのが苦手で、『お前は感情がないのか?』と言われることも多かったんです。でも本を読むのは昔から好きで、絵本や図鑑から、教本、小説、辞書、家にあるものは何でも読みました」
何か、すごく想像できる。今の悠乃さんをそのまま小さくした感じの女の子が、静かに本を読んでいる様子。
「小学生のときに図書室で出会ったのが、小説の『ユリみて』でした。この作品はメインのストーリーに恋愛が絡むことはほとんどありませんが、少女たち同士の信頼関係や絆、憧れ、嫉妬……そんな感情が肯定的に描かれているのを読んで、私自身も感情を揺さぶられるのを感じました。今までに読んだどの本とも違う感覚。『ユリみて』は何周読んだか分かりません。そこから百合作品に、もちろんそのときは百合という言葉も知りませんでしたが、興味を持ったんです。男女の恋愛ものには興味が湧きませんでした。周りには趣味の合う人はいなくて、私は一層創作作品にのめり込みました。それは私自身の感情を分析することにもつながったと思います」
そこまで話して、悠乃さんは紅茶を一口飲んだ。続けていいかを確認するようにわたしの目を見たので、頷いてあげた。悠乃さんは少し目を伏せた。
「……中学のとき、女の子に告白されました。違うクラスだったけど、一緒に図書委員になった子。一番仲の良い友達でした。正直なところ、その子のことを恋愛対象として見たことはなかったし、私には恋愛経験自体がありませんでした。でも私は、深く考えずに付き合うことにしたんです。断ってその子を傷つけたくなかったというのもありますし、一緒にいるのが心地良い関係なのは本当でしたから」
淡々と語る悠乃さんだったけど、少し声が震え始めたような気がした。
「手を繋いだり、二人で遊びに行ったりするのは楽しかったです。でもある日、彼女に聞かれたんです。『悠乃ちゃんは私のことどう思ってるの?』って。……私、答えられなかった。私はその子を好きだったし、大切に思っていましたが、たぶん恋愛感情はなかったと思います。そのまま、自然消滅のような感じで疎遠になっていきました。そのとき、恋愛感情じゃなかったとしても、彼女に対する想いを言葉にできていたらと……今でも思い出すと胸がざわざわします。きっかけとしては、それが百合を研究する理由になると思います」
悠乃さんに、そんな過去があったんだ。語ってくれた内容を深く噛み締めて、それから少し心の痛みを感じた。
「……話してくれて、ありがとうございます。悠乃さんのこと、少し理解できてきた気がします」
悠乃さんは少しだけ微笑み、
「いえ。私の方こそ、聞いてくれてありがとうございます。話したことで、自分の中でも整理できました。やっぱり私は、百合が好きだし、百合に救われてきたということを実感しました」
「わたしも同じです。辛いとき、苦しいときに、奮い立たせてくれた百合作品のこと。大切にしたいという思いには自信を持っています」
お互いに、目を見合わせて笑った。そして、悠乃さんはノートを開き、ペンを握った。
「じゃあ、動画をどうするか考えていきましょうか。さっきの話も踏まえて、私たち二人が百合に対してどう思っているかを」
「はい。本気で語って、しっかり伝えましょう」
「ただし」悠乃さんがペンの後ろ側を自分の唇に当てた。
「キスで誤魔化すのは禁止ですよ?」
「ちょっ……! そんなことしないから!」
慌てて否定すると、悠乃さんは楽しそうに紅茶をすすった。その柔らかな微笑みを見て、悠乃さんの新しい一面を見れた気がして、胸の奥が温かくなった。
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