【完結】【百合論争】こんなの百合って認めない!

千鶴田ルト

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最終話(3/3)

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「わたし、悠乃さんのことが、好きです……!」

 悠乃さんは、目を見開いてこちらを見ている。
 心臓の鼓動が、わたしを駆り立てる。ノープランで告白してしまったけど、脳が追いつかないくらい伝えたい言葉が溢れてきた。
「最初にユリッターで見たときは、あなたのこと、苦手でした。百合観が違うし、冷静過ぎて何考えてるのか分からないことも多くて。わたしとは違うタイプだなって……。でも、直接会って、話をして、分かってきたんです。悠乃さんは誰より真面目で、優しくて、ちょっと不器用なくらいに誠実で、本当は熱くて……」
 悠乃さんが、少し照れたように笑って目を伏せた。わたしは少し心が落ち着いてきて、あふれる思いを少しずつ言葉にしていった。
「わたしが感情的になっても、それを受け止めてくれた。冷静に受け答えてくれるから、全力で意見をぶつけることができた。……炎上して、創作できなくなっちゃったとき。不安だったけど、悠乃さんが心配してくれて、優しく対応してくれて。本当に救われたんです。それだけじゃなく、一緒に動画を撮ってくれました。一緒にサークルの準備をしながら、また議論して。でも、もう意見をぶつけ合うような口論じゃなく、お互いを尊重して、より高みを目指すような、そんな関係になれたと思っています。あなたといる時間が、すごく楽しい。わたしは、だからわたしは、悠乃さんが大好きで――これからも、もっとずっと、一緒にいたいんです」
 自分の心を、ここまで誰かに見せるのは初めてだった。変なことを言い過ぎてないだろうか。心臓はまだ激しく脈打っている。

 穏やかに聞いてくれていた悠乃さんが、ゆっくり頭を下げた。
「……ありがとう、茜音さん。そんな風に言ってもらえるなんて、思ってもいませんでした。本当に嬉しいです」
 顔を上げた悠乃さんが、まっすぐにわたしの顔を見た。わたしの名前を呼ぶその声は、いつもより柔らかく丁寧に思えた。
「でも、すみません。すぐに答えを出すことは……難しいです。少し、時間をください」
 目の奥が、少し重くなった。でも、これが悠乃さんの正直な答えなんだ。彼女の誠実さを感じる。
「前にお話ししましたが、わたしは昔、他の人に告白されたときに、自分の感情を理解できていなくて傷つけてしまったことがあります。でも、今は違います。茜音さんのおかげで、自分の気持ちを分析することができつつあるような、気がするんです」
「それって、もしかして……?」
 悠乃さんは頷いた。
「はい、お察しの通り、今書いている論文です。前にお見せした『感情マッピング』の反省を活かして、今は別の手法で感情の分析をし始めているところです。茜音さんとの議論が、新しい視点の研究を生み出してくれたんです」
 悠乃さんは続ける。冷静な表情ではあるが、熱のこもった研究者としての興奮が見受けられる。悠乃さんの、この情熱と冷静さのギャップが愛おしいな、と改めて思った。
「感情マッピングの弱点は、例えば恋愛感情が一〇〇パーセントだったらそれ以外の感情を含むことが出来ません。でも新しい手法は、パーセンテージではなくレーダーチャートのように感情を多角的に示せるようにしました。これによって、例えば尊敬と嫌悪、嫉妬と信頼など、複数の感情を複雑に記すことができます。例えば私は、茜音さんを議論相手として尊敬し、サークル仲間として友情を感じています。また、創作者として信頼できる相手だと思っています。でも、恋愛感情として捉えているだろうか、という視点も同時に存在するのです。恋愛感情というものも、実はグラデーションがあり、少しの恋愛感情なのか。大きな恋愛感情なのか。私は、茜音さんを好きと考えていいだろうか。まだまだ、解析の余地があります。もう少し、研究を進めて整理してからお答えしたいんです。申し訳ありません……って、茜音さん? 大丈夫ですか?」
「え?」
「私の顔を見たまま固まってしまって……」
 あまりにも不思議そうな顔をするので、わたしは思わず笑ってしまった。
「いえ、悠乃さんらしいなって。わたし、やっぱりそういうところが好きなんだと思います。……わたし、待ってますね。悠乃さんの、研究の成果報告を」
「はい。でも、茜音さんにもまた、議論に協力してもらいますよ。私の研究には、それが必要なんです」
 わたしは、悠乃さんのその熱心な研究姿勢がとても好きだ。感情に対する執着も、周りから『無感情』と言われることへの反発もあると思うけど、純粋な気持ちで興味を持って研究しているのが分かる。それって、わたしから見たらもうすでにすごく『感情的』だと思っている。でも、悠乃さんは悠乃さんの方法で研究し、理解して、いつかは教えてくれるだろう。わたしは、そのときを楽しみにしようと思った。
「さて、と」
 わたしと悠乃さんは立ち上がった。
「悠乃さん、また研究に協力させてください。いつでも呼んでくださいね。夏休みは、まだまだありますから」
「ええ、茜音さんも同人誌の続き、楽しみにしてます。二十歳になったことですし、お酒もご一緒できたらと思います」
 改札に入れば、向かうホームは別々。でも、わたしたちは同じ志で繋がった仲間だし、友人だし、同志だ。

 それは、『百合』という絆で結ばれた、不思議な関係だった――。


 こんなの百合って認めない! ――おしまい――
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