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プロローグ

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2点ビハインドで迎えた7回裏ツーアウト満塁

ナイター設備が21:00に消灯してしまうので実質最終回となったこの打席に俺は立っていた…チームメイトの声援ヤジが五月蝿い

相手チームのおそらく10歳は離れているであろうピッチャーの若さ溢れる投球は依然衰えを見せず、キャッチャーミットが小気味良い音を立てる

フルカウント、そして一打逆転のチャンス

舞台ステージは整った…チームメイトは反省会の会場ステージを探しているようだが

8番バッターの俺で仕留める気満々の若造が振りかぶる、躍動感のある投球フォームの後その指からボールが離れ勢い良く接近してきている筈なのだが、俺にはその動きが少しの既視感デジャヴと共にゆっくりと見えていた

時が遅くなったわけではない、自分の身体も同じ時間軸でゆっくりと反応しているのがわかるからだ

しっかりとボールを引きつけ右バッターである俺は左足をあげてタイミングよく踏み込むと
踏み込んだその足が盛大に滑った

緊急事態である

元々内野ゴロを転がして足で安打を稼ぐタイプの俺はこの打席で決めるつもりなど更々無く、繋ぐバッティングを心掛けていた

しかし体制が崩れたせいで右肩は下がってており、いつものように上から叩きつけると窮屈になってしまう為、開き直ってアッパースイングで振り切る事にした

幸いゆっくりとした時間は継続中だ、というかこの状態でなかったらこんなに頭が働く事は無かっただろう

ボールに向かってバットを振る、と言うより持っていくと言った方が感覚的には近い

バットとボールが重なるまでの短い間に、この状態が終わってしまう事が酷く悲しく、名残惜しく、愛しいとさえ思えた

ついにバットとボールが重なった瞬間、視界が別の物へと切り替わり、そして

『思い出した』

そうひとりごちるのだった
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