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第五章
うるさい! うるさい! うるさい!(2)
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ついに、あたしはひとつの考えにたどりついた。もし心機一転、生まれ変わった気持ちで新たに人生を始めたいなら外国にでも引っ越すしかない。
引っ越そうってお父さんに何度も泣きついた。でも決して首を縦に振ってくれなかった。どうしてなのか、でもそのときは理解できなかったけど今ならわかる。なぜここから引っ越したくないのか……。
ここにお母さんがいたからだ。あたしにはそれほどたくさん記憶はないけど、それでもここにお母さんがいて、たしかに笑っていたってことはちゃんと覚えているし、いつだって思い出す。お父さんにとってはもっと山ほどあるに決まっていた。
そんな大切な思い出を置き去りにしてまで、新しい土地で、新しい「なにか」を始められるほど、あたしたちの心の傷は癒えてなんていない。
そのとき、金魚のフンが根本に耳打ちした。
「そういえば、椎名のほうは母さんがいないし、大和は父さんがいないよな?」
ふいにあたしの虫の居所が悪くなる。根本はそんなあたしの表情を見逃さなず、間髪入れずにいった。
「じゃあ、椎名の父さんと、大和の母さんが結婚すれば、おまえら姉弟じゃん」
「そんなこと、あるわけないでしょ⁉」
頭に来て根本に叫ぶと、騒がしかった教室が一瞬にして静まり返った。
「ごごごごめん、ごめん。そそそそんなにおお怒るなよ」
くやしくてなにもいえない。今、口を開いてしまえばきっと泣き出してしまう。俯いたままぐっと唇を噛み締めるので精一杯だ……。頑張れあたし、頑張れあたし! こんなこと全然大したことじゃない、泣いたって誰も心配なんてしない。余計くやしくなって、あたしひとりがとまらなくなるだけだ。だから頑張れ……!
そういい聞かせ、席にしがみついてあたしは耐える。
机の一点を瞬きもせずに見つめていると始業チャイムが鳴った。少しほっとしたのも束の間、教室へ入ってきた安西先生が教壇に一歩立つが早いか、友子がすかさず駆け寄って大声を上げた。
「先生! 根本くんたちが茜をいじめるんです!」
やめてよ……お願いだから余計なことしないでよ! あんたがそうやって騒いだら、あたしはまた注目の的になっちゃうじゃない!
「ほんとか?」
先生が教室の後ろへ視線を飛ばす。答えない根倉ペアの代わりに、かなえが席に座ったままつぶやいた。
「本当です」
「根本! 倉畑! おまえたちふたり、ちょっと廊下出ろ!」
安西先生が怒鳴りつけ廊下へ出るように促すと、ふたりは渋々席を立ち後をついて出ていった。
先生は扉をしっかり閉めたけれど、説教する声がしっかり聞こえる。先生は状況を確認しようと質問を繰り返していたけど、ふたりの返事は一切聞こえてこないからきっと黙り込んでいるんだろう。先生の声は徐々に苛立っていった。
「そんなことでお母さんのいない椎名をからかってはずかしいと思わないのか⁉ あとでちゃんと謝りなさい!」
――限界だ……!
静まり返っていた教室が、途端にザワザワと炭酸の泡が立つみたいにあふれた……。
みんなあたしの話をしてるんだ……!
最低だ! 最悪だ!
気がつけば机の上は涙で濡れている。
「茜ちゃん……ねえ大丈夫?」
机を見つめるあたしの視界に、ピンク色のレースがチラついた。そっとしておいてほしかっただけなのに……!
「ねえ、茜ちゃん……?」
恩着せがましく声をかける友子になにも答えられない。ただ、ただ、くやしいって感情だけに支配されていた。
引っ越そうってお父さんに何度も泣きついた。でも決して首を縦に振ってくれなかった。どうしてなのか、でもそのときは理解できなかったけど今ならわかる。なぜここから引っ越したくないのか……。
ここにお母さんがいたからだ。あたしにはそれほどたくさん記憶はないけど、それでもここにお母さんがいて、たしかに笑っていたってことはちゃんと覚えているし、いつだって思い出す。お父さんにとってはもっと山ほどあるに決まっていた。
そんな大切な思い出を置き去りにしてまで、新しい土地で、新しい「なにか」を始められるほど、あたしたちの心の傷は癒えてなんていない。
そのとき、金魚のフンが根本に耳打ちした。
「そういえば、椎名のほうは母さんがいないし、大和は父さんがいないよな?」
ふいにあたしの虫の居所が悪くなる。根本はそんなあたしの表情を見逃さなず、間髪入れずにいった。
「じゃあ、椎名の父さんと、大和の母さんが結婚すれば、おまえら姉弟じゃん」
「そんなこと、あるわけないでしょ⁉」
頭に来て根本に叫ぶと、騒がしかった教室が一瞬にして静まり返った。
「ごごごごめん、ごめん。そそそそんなにおお怒るなよ」
くやしくてなにもいえない。今、口を開いてしまえばきっと泣き出してしまう。俯いたままぐっと唇を噛み締めるので精一杯だ……。頑張れあたし、頑張れあたし! こんなこと全然大したことじゃない、泣いたって誰も心配なんてしない。余計くやしくなって、あたしひとりがとまらなくなるだけだ。だから頑張れ……!
そういい聞かせ、席にしがみついてあたしは耐える。
机の一点を瞬きもせずに見つめていると始業チャイムが鳴った。少しほっとしたのも束の間、教室へ入ってきた安西先生が教壇に一歩立つが早いか、友子がすかさず駆け寄って大声を上げた。
「先生! 根本くんたちが茜をいじめるんです!」
やめてよ……お願いだから余計なことしないでよ! あんたがそうやって騒いだら、あたしはまた注目の的になっちゃうじゃない!
「ほんとか?」
先生が教室の後ろへ視線を飛ばす。答えない根倉ペアの代わりに、かなえが席に座ったままつぶやいた。
「本当です」
「根本! 倉畑! おまえたちふたり、ちょっと廊下出ろ!」
安西先生が怒鳴りつけ廊下へ出るように促すと、ふたりは渋々席を立ち後をついて出ていった。
先生は扉をしっかり閉めたけれど、説教する声がしっかり聞こえる。先生は状況を確認しようと質問を繰り返していたけど、ふたりの返事は一切聞こえてこないからきっと黙り込んでいるんだろう。先生の声は徐々に苛立っていった。
「そんなことでお母さんのいない椎名をからかってはずかしいと思わないのか⁉ あとでちゃんと謝りなさい!」
――限界だ……!
静まり返っていた教室が、途端にザワザワと炭酸の泡が立つみたいにあふれた……。
みんなあたしの話をしてるんだ……!
最低だ! 最悪だ!
気がつけば机の上は涙で濡れている。
「茜ちゃん……ねえ大丈夫?」
机を見つめるあたしの視界に、ピンク色のレースがチラついた。そっとしておいてほしかっただけなのに……!
「ねえ、茜ちゃん……?」
恩着せがましく声をかける友子になにも答えられない。ただ、ただ、くやしいって感情だけに支配されていた。
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