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初めてのデート 3
しおりを挟む少しずつ雑貨やアクセサリーの屋台が減り、奥にある屋台の方から香ばしい、食欲をそそる匂いが漂って来た。「そろそろ昼だな。何か食べよう」とガイ様が言い、私達は飲食の屋台へ向かって歩き出す。
少し歩いたところで威勢のいい客引きの声が耳に入る。
「恋人同士にオススメだよー!」
「まだ出回っていない新しい商品だよー」
「さあさあ、見て行ってー!」
屋台を歩く人々に向かって呼び込みをしていて、私達を呼んでいる訳ではないけれど、『恋人同士』の言葉に頬が少し緩むのが分かる。ガイ様が揶揄うように「見て行くか?」と笑いながら聞くので、私は熱が集まった赤い顔で「……はい」と頷いた。
「わぁ、綺麗……!」
屋台の小さな一画に並べられたピンク色のアクセサリーに思わず息を呑んだの……! 淡い桜色の花びらをぷっくりさせたみたいなイヤリング、ネックレス、ブレスレットが太陽の光で煌めいていた。
「綺麗でしょう? これ実はね、桜貝って言う貝殻で出来ているんだよ。君の瞳の色にそっくりだから似合うと思うな。恋人とゆっくり見て行ってね? これね、俺の妹が作った新商品で『妖精の瞳』って名前なんだよ」
自分の瞳の色を『妖精の瞳』と言われるのは、お世辞でも面映ゆいが、それよりも他の人からガイ様と私が『恋人』と呼ばれる嬉しさを噛み締める……「こいびと……!」と思わず呟いてしまい、ふにゃりと頬が溶けていくのが分かる。目の前のお兄さんの顔色が赤色から一瞬で青ざめた様に変わったように見えたけれど……気のせいかしら? 先程から何度か同じ事があるような……? と考えていると、ガイ様が穏やかな声で「アリーに似合いそうだな」と頭に大きな温かい手をぽんと置くので、また頬に熱が集まるのを感じる。
「そ、そうだね!……桜貝は、幸せを呼ぶ貝なんだ。二枚の合わせ貝だから恋人同士にお勧めなんだ。こ、このブレスレットとかお揃いでどうかな?」
屋台のお兄さんが指差したブレスレットは、大きな桜貝がころんとして存在感がある物もあれば、革紐やチェーン、小さな他の石と組み合わせた物もあり男性でも付けれそうなデザインの物もあった。素敵なブレスレットに目が釘付けになってしまう。
ガイ様に似合う物はどれかしら……? と真剣に選び始めると周囲の音は聞こえなくなり、ガイ様と屋台のお兄さんが会話していた事は気付かなかった……。
どのブレスレットも素敵で見惚れてしまったが、私がガイ様に選んだのは、控えめ目に桜貝がひと粒揺れる緑濃淡色の二色の太めのサテンコードのブレスレットだったの。これならガイ様の手首で細すぎず格好いいと思ったの。「決まったのか?」とガイ様の穏やかな声が頭上から響いて来たので、こくんと頷いた。
「これに決めたわ……!」
屋台のお兄さんにお金を渡してブレスレットを受け取った。ここで初めてガイ様の好みや受け取って貰えるか確認していなかった事に気付き、あわあわと慌てていると……ガイ様が逞しい腕を目の前に差し出してくれる。
「……俺に選んでくれたんじゃないのか?」
少し照れた様に笑うガイ様にときめきが積もる。「着けてくれないのか?」と少し拗ねた様に言う可愛いガイ様に胸のときめきが止まらない。色々なガイ様を見つける度に好きな気持ちが降り積もって行くの。ほんの少し震える手でガイ様にブレスレットを着けると、「似合うか……?」と腕を上げて見せてくれた。「格好いいです……」感嘆のため息と共に本音がするりと口から漏れる。
ガイ様は嬉しそうに目を細めると、その色香に当てられ自分の頬が熱くなるのが分かる。恥ずかしくて、ほんの少し俯いた顎をガイ様の大きな手が掬った。
「次は俺の番だな?」
「えっ……?」
私の返事を待つこともなく、ガイ様の太い指が耳朶を掠める。熱い指の感触に肩が揺れてしまう。ガイ様の指が離れて行くと、私の耳には先程まで無かった僅かな重みを感じたの。思わず手で触れるとイヤリングが優しく揺れるのが分かった。
ガイ様が目を細めて私を愛おしそうに見つめる。「ああ、似合うな」と言うと、もう片方の耳朶に熱い指が掠め、ぷっくりした大きめの桜貝の上に小さな緑色の石が揺れるイヤリングを着けられる。触れられた熱とイヤリングの重みが愛おしくて、頬が熱くなる。
「うんうん、とっても似合っているね! よし、じゃあ二人であちこち歩き回って『妖精の瞳』を宣伝して来て貰おうかな!」
にこにこと笑う屋台のお兄さんに言われ、買い物を終えた屋台の前にずっと立っていた事を思い出した。
「買い物を終えたのに、いつまでもお店の前でごめんなさい……。素敵な作品を作った妹さんにもよろしくね?」
「沢山買ってくれたから少しくらい大丈夫だよ? あっ、妹ならあそこにいるよ。お昼の買い出しに行って貰ってたんだ」
沢山なのかしら……? と思いながら、屋台のお兄さんが指差した方向を見ると、ほんの少し先に両手一杯に食べ物を持った女の子が見えた。回りがよく見えていないのか、ふらふら歩く姿は見ていてハラハラしてしまう。何処かで見た事があるような……? でも水色の髪の知り合いは居なかったけれど……? と思い直した。何とか無事に食べ物を持って辿り着いた女の子は私を見た途端に、目を見開き、手に持っていた食べ物を手離した……!
「えっ、てへぺろ妖精……さま? えっ、嘘? まぼろし……?」
瞠目したまま固まったのは、マゼンタピンク色の髪と瞳では無くなったヒロインのルルだったの——
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