【完結】鈍感令嬢は立派なお婿さまを見つけたい

楠結衣

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番外編

ご褒美

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 私の部屋に入ると今までのテストやノートを見せてと言われエドと向き合った。

「エド、私の話を聞いていた?」
「もちろん――俺の婚約者が勉強を頑張りたいなら、教え合わないとな」
「えっ、でも、私がエドに教えられることなんてなにもないと思うけど……」

 エドの言葉に首をかしげてしまうと大きな手が伸びてきて、ぽんぽんと頭をなでられる。髪に触れられるのも恋人になったら嬉しくて、子猫みたいにエドの手のひらにすり寄せてしまう。

「エリーは詩が好きだろう? 俺は詩が苦手だからエリーに教えてもらえたら助かる」
「たしかに詩は好きだけどテストの得点配分はわずかだよ……」

 これではエドにふさわしくなりたいのに、迷惑をかけてしまう。エドに頼ってばかりになるのはよくないから、きちんと断ってお父様に家庭教師をお願いしてみようと決めた途端。

「それなら、エリーのご褒美をもらえる?」

 にやりと口の端を持ち上げて、意地悪そうな瞳にからかわれる。

「ご褒美?」
「そう。俺はエリーのご褒美が欲しくて勉強を教えるからエリーが気にする必要はないってこと――あと、この程度の内容なら今さら勉強する必要ないしな」
「で、でも……」
「エリーに教えると復習になるからちょうどいいんだよ」

 頬に手を添えられて紫色の瞳に見つめられると思考も奪われていく。

「エリー、うなずいて」

 掠れた低い声が耳元でとても色っぽく響いて、からかわれているとわかっているのに、どんどん顔に熱が集まってしまう。そのまま熱に焼かれるみたいな瞳で見つめられ、思わず小さくうなずいた。

「ん、いい子」

 おでこに優しく口付けを落とされ、エドの腕の中に囲われるようにきつく抱きしめられたーー。


◇◇

 放課後は学校の空き教室で勉強を教えてもらう。
 隣に座るエドが赤ペンをさらさらと走らせる音が部屋に響いていき、音が鳴り止むとうかがうように見つめていた私とからかうような瞳と見合った。

「エリーはあほだな」
「えっ、どこか違ってた?」
「いや、全問正解」
「エドのいじわる……っ」

 エドをにらむと蜂蜜のような甘さのにじむ視線と絡んだ。

「今日はここまで」
「うん、ありがとう」

 エドの大きな手のひらに頬や耳をすりすりなぞられる。くすぐったくて、そわそわした気持ちになってしまう。

「んっ、エド、それくすぐったい……」
「わざと」
「いじわる」
「ん、かわいいからつい」

 腰に腕が回され、エドのくちびるが耳をかすめるから身体が跳ねてしまう。

「や、くすぐったい。耳、やっ、やだあ……っ」
「耳じゃなかったらいい?」
「だ、だめ……もうさわるのおしまい」
「聞こえないな」

 エドのくちびるが私の顔に、たくさんのキスの雨をふらす。

「もう、エドのばか……っ! 誰かに見られたらどうするの?」
「それなら続きは馬車の中でな」

 そんなことを耳元でさらりと言われ、どきりとしてしまう。
 エドの言葉の通り、馬車の中でいつもより長すぎるキスに頭がふわふわして、うまく力が入らなくてエドのシャツにすがってしまう。はふはふと肩で息をしながらエドをにらむのに嬉しそうにほほえんでいる。

「エドのばか……っ」
「ん、かわいいからついな」

 こうしてテストまでエドに勉強を教わる日々が過ぎていったーー。
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