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闇の魔法使い

衝動が収まる気配はない

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 前までこの部屋はとても寂しいものだった。
 前までこの世界はとても寂しいものだった。
 孤独なベッドで孤独に眠りについて、明日も孤独。しかしこれが自分が選んだ道。闇魔法使いとしての人生。孤独。これからもずっと続くはずだった。
 寒い肌。冷たい手足。温まらない体。

 ――は、ぁ……!

 求めて、触れて、求めて、触れたら、

 ――ジュリアさん……。

 彼女の声をもっと聴きたくて、

 ――ひっ、あっ、ちょ、ちょっと、あの、まっ……!

 止まらなくて、止まらなくて、止まらなくて、

 ――ジュリア……さん……。

 その体に触れていれば、自分の体も温かくなった。抱きしめれば体温がこちらに移って、キスをすれば心臓が跳ねて、声を聞けば手が疼き、また彼女を抱く。

 ルーチェ。

 間抜けな魔法学生。

 間抜けちゃん。

 私の側にいても気が狂わないほど闇魔法の素質があるのに、光魔法使いになりたいとほざくお馬鹿な子。

「ルーチェ」

 涙目の彼女を見れば、自然と口角が上がってしまう。まるで恋に恋する小さな少女に戻ったかのように、心臓が激しく高鳴って、もっともっとと我儘になってしまう。

「私のルーチェ」
「ひゃ、そこ……やだっ……」
「え? ここですか?」
「やっ……、あ、あっ!」
「ふふ、ふふふふ!」

 可愛い。まるで私の手のひらで泳がされる人形。けれど温もりがあって、温かくて、声もあって、想いもあって、心もあって……。

「……ルーチェ……」
「……んむ……」

 唇がまた重なって――。

(……会いたい)

 書類の山に埋もれながら、ジュリアが思った。

(会いたい)
(抱きしめたい)
(潰れる顔が見たい)
(困った顔が見たい)
(今日は何曜日?)
(平日)
(あの子がバイトしてる日だ)

 会いたい。

(この書類を片付けられたら会える)

 会いたい。

(終わるかなー……)

 時計を見る。18時。

(……終わるかなー……)

 ジュリアがむくりと起き上がり、瞑っていた瞼を上げ、書類を見渡した。


(*'ω'*)


「お疲れ様ですー」
「ルーチェちゃん! お疲れ様! 気を付けて帰んなよ!」

(ふー。やっとバイト終わったー)

 今日は金曜日だー。

(明日はお休み♪ 土曜日だい♪ ちょっと小説書いて、絵描いて、発声練習する一日にしよーっと♪)

 ルーチェが店から出て、駅に向かって歩き出すと――。

「ふぇっ」

 手首を掴まれた。

「……」

 驚いて振り返ると、その相手を見て――ルーチェが瞬きした。

「びっくりしました」
「間に合ってよかったです」

 ジュリアが溜め息を吐いた。

「書類仕事に追われてこの時間まで仕事でした。ボンソワール。間抜けちゃん」
「おつ、お疲れ様です。ジュリアさん」
「間抜けちゃん、急ぎの用事でもありますか?」
「え?」
「今夜、泊まれませんか?」

(……帰って小説書きたかったんだよな……)

「……突然なので、あの、着替えもありませんし……」
「あ、それなら心配ありません。家にありますから」
「……あー……その……」
「パソコンもあります」
「えっと……」
「充電器もあります」
「ん……」
「ウイ。……シュークリーム食べませんか?」

 ジュリアの部屋でルーチェがシュークリームを頬張った。

(むはぁ……! このシュークリームうまぁ……!)

「あ、ミランダ? さっき間抜けちゃんから電話ありましたよね? ええ。夜も遅かったので、今夜は泊めますので。終電も終わっちゃいましたし!」
『迎えに行くかい?』
「ノン! 結構です。泊めますので」
『私はいいよ。お前の側に居させるよりかはマシだからね』
「なんてこと言うんですかお前は……。だからお前なんて嫌いなんですよ……、泊めるだけって言ってるじゃないですか……」
『泊めるだけ、ねえ?』
「ええ! ご心配なく! 恋人に泊まっていただくだけですから!!」

(あ、動画更新されてるー)

 パジャマになったルーチェがジュリアの家のパソコンを弄る。

(音楽聞きながら作業していいかな? ……いっか)
「はあ! 全くあの光オタク! あの嫌味ったらしい言い方なんとかならないの!? あのピュタン! 馬鹿!! 砕けて消えろ!」
(あーまいぜ、は、飼い猫のハチを探した。あら、ハチがいないわ。どこに行ったのかしら。クモ姫さま、ハチを見かけませんでしたか?)
「……ん」

 眼鏡をかけてシュークリームを咥えながらキーボードを打つ姿はまるで作家のように見える。

(そういえばこの子の書く小説、見た事ないですね)

 後ろから作業風景を見てみる。

(ウイ。こういう時は集中出来るのね。ふむふむ。なるほど)

 オ・ララ!

(小説内で登場人物同士がキスしてる! あらあらまあまあ! この子ったら! こういうシチュエーションがお好みなの!? 言ってくれたらいいのに! もー!)

「……ふう」

 ルーチェが一息ついた。

(あ、喉渇いた)

 くるんと振り返ると真後ろにいたジュリアの存在に心臓が飛び出て、腰が抜け、声を失い、体が震え始めた。

「……っっっ……! っっっ……!」
「あ、お気になさらず。私の事は影だと思ってください。ウイウイ」
「っっっ……! っっっ! っっっ……!!」
「あ、大丈夫ですよ。別に。面白いと思いますよ。ウイ。続きをどうぞ」
「……いや、あの、ジュリアさん……」
「え?」
「見ないでください……」
「え、なんで?」
「恥ずかしいので……」
「……? 恋人なのに?」

 不思議に思って首を傾げると、ルーチェが画面を閉じた。

「恋人、でも、恥ずかしいものは恥ずかしいです」
「私は気になりませんよ?」
「あたしが気にしゅ、するんです」
「んー。そうですかー……」

 ジュリアがどこか腑に落ちない声で呟き、後ろからルーチェを抱きしめた。ルーチェの体に一瞬で力が入る。

「私は君の自然体が好きなので、別に何を書いてても気にならないですよ?」
「……文章、見られるのは、恥ずかしいです……」
「そうですか? でも物語を書けるのってすごいことじゃないですか。それに私、別に君の物語に興味があるわけじゃなくて、君の打ってるキーボードの音が心地好くて聞いてただけなので」
「……あ、そうなんですか?」
「そうですよ?」
(まー、内容もばっちり見てたけど)

 でも私は小説の内容よりも、キーボードよりも、パソコンよりも、パソコンを弄ってることに集中する君の姿を見ていたいだけなので。

「だから、作業続けて頂けます? 眠くなったらやめればいいじゃないですか」
「……お茶、飲みたくて……」
「あ、では間抜けちゃん。魔法で入れてくださいませんか? 棚はいつものとこ」
「あ、そっか。はい」

 ルーチェが杖を振り、魔法を唱えた。ティーカップがふわふわと宙を浮かび、ルーチェとジュリアの手に運ばれる。ルーチェがお茶を飲むと、きょとんと瞬きした。

「あれ、お、お茶、いつもと違います?」
「あ、よく気付きましたね! 紅茶専門店で買ったフレーバーティーです」
「美味しいです」
「ひひ、気に入って頂けて良かった」

 まろやかな味わい。温かい紅茶。気分が落ち着いてくる。

(はあ。……これ美味しい……。ミランダ様にも飲ませてあげたい……)

「どこのお店で買ったんですか?」
「えっとね……」

 ジュリアがキーボードを打って検索する。

「ここです」
「あ、近いですね」

 ルーチェがクリックしてみる。

「わ、種類もある」
「そりゃ、種類が無いと商売あがったりですよ」
「フルーツのお茶もあるんですね」
「ええ。これも美味しかったですよ」
「あ、これミランダ様が好きそうです!」
(ミランダ)

 ジュリアの耳がぴくりと動く。

(二人きりなのにミランダですか)

 好きですねえ。懐かれてますねえ。あーあ、良かったですねぇー。いいですねー。ミランダ。はいはい。そうですかぁー。

(……)

 少しだけ、腕にギュッと力を込めてみる。しかしルーチェは気付かない。

「あの、ジュリアさんはどれが好きですか?」
「ん? 私ですか? えっとですねー」

 切り替えだけはお手の物。嫉妬した顔は見せません。

(だって、怖がられちゃう)

 クリックする。

「お気に入りはこれですね。美味しかったですよ」
「……」
「今度買っておきますね」
「え? あ、はい」
(そっか。そうだった。ミランダも紅茶好きだった)

 ジュリアが画面のページを閉じた。

(この子の頭には、光かミランダのことしかないのかしらねえ?)

 たまには私のことも考えてほしいな?

(……いや)

 本当は、ずっと私の事だけを考えていてほしい。
 私の事が大好きで、大好きで大好きで大好きで、どうしようもないくらい大好きで、離れられなくなってほしい。依存してほしい。私にでれんでれんに甘えられないと生きていけないような――それくらい愛してほしい。

(だって)

 私がそれ以上にこの子を愛してしまっているから。

「……? ジュリアさっ……」

 唇を重ねる。その一瞬で、ルーチェの体の動きがぴたりと止まった。慌てて目を閉じる。逆に、そんな彼女をジュリアは見つめる。

(……今夜、部屋に誘って正解だった)

 手が疼く。

(触りたい)

 パジャマの中に手を入れる。

「っ」

 息を呑むルーチェのキャミソールをめくり、その肌に直に触れる。

「んっ」

 お腹を撫でる。

「……」

 上に上がる。

「……っ」

 胸に触れる。

「……、……っ」

 触れる。ふに。

「わっ」
(あ)

 駄目だ。パソコンをルーチェの目の前でシャットダウンさせる。

「あ、ジュリアさ……」

 手首を掴んで引っ張り、無理矢理彼女を立たせた。

「あ、えっと? あ、の……」

 真っ赤な顔のルーチェを今だけ無視して、寝室に引っ張る。

「あの……」

 ベッドに座らせる。

「ジュリアさん……」

 ジュリアがベッドにルーチェを押し倒し、上から見下ろし、ゆっくりと近付き――明かりも付けない部屋の中、暗闇の中で、暗闇に紛れながら、再びルーチェと唇を重ねる。

(ルーチェ)

 手が動く。お腹に触れる。

「あっ、うっ……」

 でもやっぱり邪魔だと思って、パジャマのボタンを外し始める。その手はどこか忙しない。

「んっ……」

 はだける。キャミソールが見える。いらない。必要ない。ジュリアの手が動く。直接肌に触れ、体温を感じながら、触れながらルーチェの首筋に唇を落とす。

「ふぇ、ん、ん……」

 落ち着きのない手付きで自分の寝間着のボタンも外す。早々に脱ぎ、下も脱ぎ、下着のみの姿となり、ルーチェに体を重ね、キスを繰り返す。

「じゅ、りあ、さん……」
「……ごめんね。間抜けちゃん。あまり、私、今日、余裕、なくて……」

 触れたい。
 ただ、触れたい。
 触れたくて、もう、触れたすぎて、たまらなくて。

「痛くないように気を付けるからね」

 キャミソールをめくりあげ、あらわになった胸に触れ、愛しい頬や瞼にキスを落とす。

「んっ、ふう、はっ、ふう……」
「ルーチェ、可愛い。はあ。可愛い。私のルーチェ……」

 緊張で硬くなってしまった先端に触れれば、ルーチェの体が面白いほど跳ね、顔を真っ赤にさせる彼女を見る事が出来る。

「大丈夫。何も恥ずかしくありません。女同士じゃないですか」
「……すみませ、でも、これ、慣れなくて……」
「しー……。大丈夫。怖くありません。ゆっくり触りますから」

 ゆっくり、胸に触れる。
 ゆっくり、優しく、揉んでいく。

「あっ、……んぅっ……」
「ん、ルーチェ、我慢しないで良いですよ」
「ん、んんぅ……」
「私しかいませんから。ね? 気持ちいいなら声出していいですからね」
「で、でもっ、……あっ」
「でも、……なんですか?」
「は、恥ずかしい、です……」

(ああ、可愛い……)

 壊してしまいたくなる。

(ルーチェ)

 指を肌になぞらせる。

(ルーチェ……)

 下を脱がした。

「あっ」

 ジュリアの手がルーチェの下着に入った。

「あ、やっ……! そこは……!」

 ルーチェと唇を重ねる。舌同士を交ぜ合わせ、指は下着の中を弄る。

「んっ、ん! んぅ!!」
(あらあら、触っただけで興奮しちゃったのかな? ひひひ)

 もう濡れてる。指に粘り気のある水滴がくっつき、肌をなぞり、舌と唇をルーチェから離す。

「ふはっ、はっ……あ……う……」
「ルーチェ、大丈夫。これは恥ずかしい事じゃありません。むしろ、私はこれを見たかったのですから、我慢しなくていいんですよ」
「あ、ジュリアさん、指、あ……あっ!」

 指を入れたら、くぷりと音を鳴らして中に入っていった。

「く、う、んん……!」
「はあ、熱い。ルーチェ、はあ、中、すごく、熱くて、狭くて、はあ、興奮してしまいそうです」

 指をくの形にしてみた。ルーチェの腰がびくんっ! と揺れた。

「っ」
「オ・ララ、そこ気持ち良かった?」
「ち、ちが……」
「ここ?」
「あっ……」

 指が動けば、ルーチェの魔力がうごめき始めた。性的に気持ち良いのだろう。魔力の動きを見ればわかるけれど、でも、黙られたらつまらない。

「気持ちいいですか? ルーチェ」
「はっ、あ……あた、し……」
「こんなに濡れて、もう」
「あ、いや、あっ!」
「ふふふ! ……ここですね?」
「あ、や、そこ、ばっかり、あ、ジュリア、さん!」
「ちょっと早く動かしましょうか」
「え、ま、まぁ、って、まだ、あの、かぁ、くご、とか、準備とか……!」

 指が滑るようなピストン運動に変わる。そんなふうに動かれたら、ルーチェではどうしようもない。

「あ、あ、あ、あたし、あ、それ以上は、あ、だめ、くる、きちゃうから、あ、あ、あ、だめ、だめ、だめだめ、ジュリアさん、あたしき、きちゃ、うーーーー……!」

 指が奥へと入り込んだ。

「あっ……!!!」

 膣がぎゅっと締まった。痙攣してしまう。

「……っっっっ!!」

 体がぴくぴくと揺れ、震え、痙攣し――ぐったりとその場で脱力する。

「……、……」
「ん。可愛いですよ。ルーチェ」

 こめかみにキスをし、彼女の手を借りる。

「今夜もお借りしますね。君の手」
「……はい……」

 中指を陰部に触れさせる。くすぐるように優しく撫で、濡れるそこへと愛しい指を入れていく。

(あ)

 気持ちいい。

(ルーチェの指)

 私の中を触れてくる。

「……ルーチェ、気持ちいいです……」
「あ、え、っと、ん、は、はい」
「ふふっ、ここからはできますか?」

 ルーチェの手を離して、彼女に任せてみる。

「さっき私がしたみたいに、動かしてみてください」
「いたた、痛かったら、言ってください」
「ええ。もちろん」
「あの、それじゃ、う、動き、ますね……?」

 ルーチェの手が動き始める。不慣れな指使いで、ゆるゆると動いている。

(下手だなぁ)

 可愛い。

(仕方ないなぁ。もっと、私が教えてあげないと……)

「ルーチェ、もう一回お手本を見せますので」
「え、だ、駄目でした、か?」
「ええ。全然気持ちよくありません」

 がーーーーん!!

 かなりショックを受けた顔も愛おしい。だから――また濡れ始めていた彼女の陰部に手を伸ばした。

「わっ! じゅ、ジュリアさん!」

 指がするんと入った。

「あ、わっ、わ、わ……」
「動かす時はこうして……」
「あっ」

 小刻みに動かせば、ルーチェがその場で悶えだした。

「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ……!」
「ね? ここ気持ちいいでしょう? 覚えましたか? ルーチェ」
(待って、気持ちよすぎて意味分かんない。ジュリアさんにしてあげたいのに、覚えたいのにっ……!)

 気持ちいい。気持ちいい。気持ちいい。

「あっ」
「イッていいですよ」
「あ、いや、あ、まだ、あ、……あっっ……!!」

 ルーチェがジュリアの体にしがみつくように抱きつき、グッと体を力ませ、また、脱力する。

「はぁ、はあ……はあ……」
「ふふっ。しょうがない子ですね。テストはまた今度」

 ジュリアが闇の中で優しく微笑む。

「起きて」
「……ぁっ……」

 体を起こさせ、枕を背もたれにし、陰部同士を当てさせながら、抱きしめ合う。

「動きますねー?」
「あ、待って、ジュリアさ……」

 腰を動かせばルーチェが可愛くなる。

「あ♡」

 敏感なところをより刺激されて、お互い濡らしていき、より滑りやすくなり、心臓が高鳴り、お互いを求め合う。

(女同士でもこういうことができるのが未だ驚きなんだけど、結構気持ちいいものなんだよなぁ)

 ルーチェの声なんか、すごくそそられるし。

「あーーーー♡」
「ん、気持ちいい?」
「きもち、いい、ですぅ……♡!」
「ルーチェ、腰が止まってますよ」
「ごめ、ら、はい……♡」

 お互いの腰を動かせば、より快楽は強まる。体温を感じる。自分以外の匂いを感じる。魂を感じる。ルーチェを感じる。

「あ♡ あ♡ あ♡ あ♡ イク、イク、イクぅ……!」
「ん」
「んんっ……♡!」
「……。……。……もういいですね? 動きますねー」
「あっ! まっ、あ、イッた! イッたのにぃ!」
「私がまだなので」
「あ♡ また♡ あ♡ あん♡ あんっ♡!」
「腰動かして」
「あっ、ぁっ……あああーーー♡!」
「そうそう。上手ですよ。ルーチェ」
「はあ♡ はあ♡ はあ♡ はあ♡」
「ん、はぁ、……ルーチェ……」
「あ♡ また、あたし、あ……♡ また、きちゃう……♡ あ♡」
「ええ。一緒にイキましょうね」 
「ジュリアさん……♡!」
「あ、ルーチェ、はぁ、私も、そろそろ、ん、あっ」
「あ、あーーーー……♡!!」

 熱い。
 熱が移る。
 冬から夏が来た気分。
 熱い。
 汗が吹き出る。
 絶頂する。
 快楽が体を駆け巡る。
 何度か絶頂したのに、まだ体が熱い。求めてる。目の前の子と、もっと、もっと重なり合って、もっと、触れていたいのに。もっと、ずっと、重なっていたいのに。

「……ルーチェ」

 彼女はあまりの気持ちよさに、既に気を失っている。だから今日はここまで。

「今夜も可愛かったですよ」

 その額にキスをする。


(*'ω'*)


(……重たい……)

 ルーチェが目を覚ますと、後ろから抱きしめられ、少しだけ乗っかられていた。

(……何時だろ……)

 暗闇はまだ続く。深夜だろう。

(……今回も……恥ずかしい声を出してしまった……)

 あの行為はなかなか慣れない。
 だって我を忘れて、目の前にいる恋人を求めてしまうから。

(……ジュリアさんが魔法で何かしてる、……とかではないよね。流石に)

 認めろ。あれは自分だ。快楽を求めて相手にすがりつく自分の姿だ。

(うわ、やだ、もう……)

 また恥ずかしい思い出が出来てしまった。この先、何度も反芻することになるのだろう。

(まじだるすぎ……)
「……ん……」
(あ)

 ジュリアが動いた。もぞもぞ動いて、ルーチェを抱きしめていることを確認して、お腹に触れて、にやけて、また深い眠りにつく。

「間抜けちゃん……」
「……」

 だからルーチェも向かい合い、ジュリアの側で眠りにつく。
 彼女は温かい。まるで自分を飲み込もうとする闇のように温かい。
 側で眠れば、不思議と心が安らんだ。
 さらにルーチェが近づき、眠るジュリアの頬に唇を押し付けた。残念なことにジュリアは眠っている。ルーチェは瞼を閉じて、包まれる温もりを堪能することにした。


 ――翌日、ランチを済ませた後、ルーチェが昨日見た紅茶屋に行きたいと言ってきた。

(ミランダにおみやげですか。はいはい。そうですか)

 顔ではにこにこしているが、胸中は穏やかではない。

(あのクソ魔女。さっさとルーチェを手放せばいいのに。なんでずっと側に置いてるんですかね。あの光オタク……)

「すみません、お待たせしました」
「はーい」

 ルーチェが戻ってくれば、胸中の闇を奥へと隠す。

「欲しいものは買えましたか?」
「はい。これ、昨日言ってたやつ……」

 ルーチェが――ジュリアに差し出した。

「です」

 ……。
 ジュリアがきょとんとして、ルーチェを見た。

「あの、……一番好きなやつって、言ってたので……」

 ジュリアがじっと、ルーチェを見た。

「昨日、その、給料日だったので……」

 ルーチェが差し出した。

「気持ち、です」

 ジュリアがルーチェの手首を掴んだ。

「え、ジュリア……」

 大股で路地裏に歩いていく。

「え、っと、あの……っ」

 狭い路地裏で彼女を抱きしめる。ルーチェはきょとん。

「……ジュリアさん?」
(離したくない)

 強く抱きしめる。

(このままずっと傍に居たい)

 私が抱きしめても私がキスをしても私の魔力が包んでも、平気なルーチェ。貧乏学生なくせに紅茶をプレゼントしてくれる優しいルーチェ。

(私の間抜けた間抜けなルーチェ)

「……あの、ジュリアさん」
「大好きです」
「うぇ」
「愛してます」
「あ、ああ……ありがとうございます……」
「今夜も泊まりませんか?」
「あの、今日は流石に……。魔法の練習がしたいので……」
「私が教えます」
「でもジュリアさん、この後仕事……」
「休みます」
「や……そ、それは、駄目なので……」
「休んで、君と一緒にいたい」
「……あの、じゃあ、また……また今度……」
「明日は?」
「明日は……動画投稿の日なので……」
「うちのパソコンでやればいいです」
「データは屋敷にあるので……」
「嫌です!! そばにいたいです!!」

 むぎゅ。
 このままではルーチェが潰されてしまう。しかし、ジュリアは離さない。

「こうしましょう。金曜日の夜、またうちに泊まる。ね? それならいいでしょう?」
「あ、わ、わかりました。金曜日。わかりました。メモしておきます」
「絶対ですよ。ルーチェ?」
「あ、は、はい……(小説書きたいのに……)」
「ルーチェ、ちゅ」
「んむ」
「ちゅう! ちゅううううううう!」
「んむ、ん、んん!」

 会えば会うほど好きになっていく。
 会えば会うほど欲望が溢れてくる。

(まだ触れてたい)

 影は一つになる。
 君への衝動が収まる気配はない。





 衝動が収まる気配はない END
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