駆け出し魔法学生はスタート地点を目指す(番外編)

石狩なべ

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水の魔法使い

求めて求められ

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 今日はすごいのだ。なんとなんと、あの固定概念の塊の頑固アンジェが部屋に人を入れたのだ。弟のダニエルもびっくり。

「別に、中学の頃も連れてきてたでしょ」

 いやいや、確かに数回程度あったかもしれないが、そんなにわくわくして掃除なんてしてなかっただろう。

「ルーチェ、こっち」
「おじゃ、お邪魔します。……あ、ダニエル君、こんにちは」
「……ちは」

 閉められて扉を見て、ダニエルは眉をひそませる。今日の姉ちゃん、変。

(わー! 綺麗! 理想の清楚系女子の部屋だー!)
「そこ座ってて」
「あ、うん」

 部屋を見回し、感じたことのない匂いに緊張して、ルーチェは背筋を伸ばした。

(初めてのアンジェちゃんの部屋。課題しに来たとはいえ……ドキドキするな……)
(やばい)

 アンジェが震える手でお茶を淹れる。

(ルーチェが、私の部屋にいる)
(アンジェちゃん、ぬいぐるみ好きなのかな。大きいのが並んでる……)
(ルーチェと二人きり。ダニエルはどうせ部屋で絵でも描いてるだろうし……)

 脳裏にいけないことを思い浮かべ、はっとして首を振る。

(ルーチェは、課題しに来ただけだから!)
(友達の部屋とかあんまり来たことないから緊張しちゃうな。粗相しないといいけど……)
「ルーチェ、砂糖とか入れる?」
「あ、う、……うーん。……入れ、い、入れてくれる?」
「ん」
「ありがとう」

 渡す時に指が触れて、平常心を保つふりをするアンジェの胸がきゅんと鳴った。ルーチェの指、あったかい。

「ごめんね。忙しいのに、か、課題、付き合わせちゃって……」
「んーん。こっちは毎日情報集めしないといけないから。こういう課題とか見ると逆に気分転換になる」
「すごいね……」
(だって、ルーチェの側にいられるし……)
「一問ずつやっていこう? 躓いたら横から教える」
「ありがとう! アンジェちゃん……!」
(はぁ……。感動して喜んでるルーチェも好き……)

 いそいそと鉛筆を走らせるルーチェを見つめる。ルーチェが自然に気付いてこっちを見てきたら課題を見てたふりをする。そして視線が逸れた時にまたルーチェを見る。その繰り返し。

(アンジェちゃん、迷惑じゃなかったかな。……隣にいてくれるのは嬉しいけど、こういうの繰り返して嫌われたらどうしよう)
(抱きしめたい。手繋ぎたい。ルーチェの横顔、いい)
(やっぱり課題は今度から自分でやるかな……。……あ、……げっ、わからん)
「……ここは」
「あ、ご、ごめん」
「んーん。私もこれわかんなかったから調べたもん」
「……ごめんね?」
「大丈夫だよ。ここは……」
(わー、アンジェちゃん、流石。年下なのにすごいなぁ……)
「だからつまり、この素材を組み合わせると……」
(まつ毛長いなぁ……。やっぱりこう見ると……美人さんだよなぁ……)
「……ってわけ」
「……」
「……わかった?」
「……ごめん。もう一回いい?」
「こら。(やばい。キス出来そう。近い。ドキドキする)」
「ごめんなさい……。(やばい。見惚れてる場合じゃなかった。ちゃんと聞かないと)」

 なんとか理解する努力を続け、課題を進めていく。計算はどうしても苦手であるが、アンジェが導けばなんとか答えまでに辿り着いた。気がつけば一時間が経っていた。

(よかった……終わった……)
「ここ、結構大事だから覚えてて損はないと思うよ」
「アンジェちゃん、本当にあ、ありがとう!」

 雑談もせず、あたし、よく頑張ったー! 偉いぞ! あたし! 宿題も終わらせた! これで怖いものはない!

「もう帰る?」
「あ、ううん! まだ大丈夫!」
「……そっ」
「……え? あの、えっと、なんか、よ、用事、あった?」
「いや、そういうわけじゃないけど」
「あ、そ、そうなんだ」

 その時、急に空気が変わった気がした。さっきまでは確かに友人同士の空間であったはずだった。

 けれど、今は――。

「……ちょっと、ベッド座らない? ルーチェ」
「え? あ、うん。いいよ」

 ルーチェがベッドに腰掛けると、もう耐えられなかった。アンジェがルーチェに飛びつくように抱きついた。

「わっふ!」

 二人でベッドに倒れる。

「ふふっ! アンジェちゃん!」
「動いちゃだめ」
「……だめなの?」
「だめ」
「……甘えたアンジェちゃんだ」
「やだ?」
「……ううん。……嫌な、わけない」

 ルーチェの両手がアンジェを抱きしめ、アンジェもルーチェをしっかりと抱きしめる。こうなったら世界は二人だけのもの。邪魔者はいない。自分のベッドにルーチェがいる。アンジェの胸がドキドキした。後ろからも前からも好きな人の匂いに包まれている。ルーチェの胸がドキドキした。少し離れ、互いの顔を見合わせる。その頬はどちらも赤く染まっていた。

 アンジェから近付いた。ルーチェが受け入れる。唇が重なる。唇が離れる。ルーチェの唇がアンジェの頬にキスをした。アンジェの唇がルーチェの首にキスをした。ルーチェが驚いて小さな声を上げた。色気のある声に、アンジェの心臓が射抜かれた。ルーチェが浅く呼吸する。アンジェが再度唇をルーチェの首筋に押し付けた。ルーチェの肩が少しだけ揺れるのを感じた。気持ちが高まっていく。ルーチェが慌ててアンジェの肩を押した。

「……ごめん」
「……っ、何が?」
「は、鼻息、う、うる、う、うるさくて……」
「うるさくないよ」
「ありが、あ、あの、き、緊張、しちゃって……」
「ルーチェ、大丈夫」
「……ご、めん……」
「大丈夫だから」

 背中をトントンと叩く。

「私も緊張してるから」
「アンジェちゃんも?」
「ん」
「嘘だ」
「本当よ」
「だって、だったら、こんな風に……甘えてこないでしょ」
「甘えたいから緊張してるの。慣れて、ないから」
「……(きゅん……)」
「今日も甘えていい?」
「……うん。あの……あたしで、良ければ……」
(あーーーもーーー)

 アンジェがルーチェの胸に顔を埋めた。ここまで甘える姿はルーチェ以外に見せられないだろう。なんだか子供みたいだと、ルーチェはアンジェの姿を見て、自分がしてもらったように彼女の背中をゆっくりと叩いた。アンジェがルーチェを抱きしめる。そんなにくっつかれたら、心臓の音が聞こえてしまう。恥ずかしい。けれど、

(もっとくっついてほしい)
(ルーチェの心臓の音が聞こえる)
(もっと、甘えてほしい)
(ルーチェが欲しい)
(嫌われたくない)
(ルーチェ……)
(アンジェちゃん)

 唇が重なり、指が絡み合う。目が合う。見つめ合い、頬を赤く染め、体を火照らせ、アンジェがルーチェの耳を甘噛みすると、ルーチェの体が揺れた。アンジェの手がルーチェの腹を撫でると――ストップがかかった。

「……聞こえちゃう、かも、しれないから……」
「……だめ?」
「だ、だ、ダニエル君に聞かれたら、あの、は、恥ずかしい、から……」
「……ちょっとだけ」
「だ……」
「ちょっとだけ……。……だめ?」

 ルーチェが黙った。だって、甘えてくるアンジェは――何よりも愛おしいから。ルーチェの決心が揺らいでぐらつき、やはり、脆く崩れた。

「……ちょ、……ちょっとだけ……なら……」
「じゃあ……ちょっとだけ」
「ちょっとだけ……」
「ちょっとだけね」

 再び二人の唇が重なった。


(*'ω'*)


 雨が降り始めたようだ。
 これはしばらく帰れそうにない。
 ルーチェが頭痛を感じた。紛らわせるには好きなものを見て、感じることが一番だ。

 だからだろうか。今日はいつもよりも、アンジェの温もりを感じる。

「……っ……」

 ルーチェが声を抑える。アンジェの手は、下着の中で動いている。指が敏感なところに触れ、ゆっくりと撫でてくる感触に、ルーチェの心臓の動きが速くなっていく。

「……ルーチェ……」
「っ……んぅ……」
「大丈夫だから……力抜いて……?」
「……ご……めん……」
「息、吐いて。ゆっくり」

 ルーチェが吸った息を大きくゆっくりと吐いた。吐き切ると、また体に力が入る。息を吸って、再び吐いても体に力が入る。アンジェが苦笑し、そんな姿を愛しく感じ、ルーチェの頬にキスをした。ぴくりと動く体も、なんとも恋しい。

「ルーチェ、顔赤い……」
「……アンジェちゃんだって……」
「当然よ。ルーチェが……目の前にいるんだもん……」
「アンジェちゃ……ひゃっ!」
「ん……ここ?」
「あ、まって、あっ、やっ……!」
「あ、濡れてきた。……ここ、いいの?」
(さ、触り方が、えっちだ……!)
「ルーチェ、鍵してるから、大丈夫。……一応、防音の魔法もかけてるから」

 耳に囁かれる。

「声出して」

 そんな声で言わないで。

「ルーチェの声、聞かせて」

 胸が鳴ってしまうから。

「ねぇ、……だめ?」
「あっ」
「ルーチェ」
「やっ、アンジェちゃんっ、そこ、は、あっ!」
「ここ?」
「やっ! そこ、ばかり! あっ!」
「ルーチェ……」
「あっ、あ、あっ、だめ、イク、から!」
「うん。いいよ」
「だめ、っ、二人で、やっ、じゃないと……!」
「うん、後でね?」
「あ、そこ、だめ、あ、だめ、あ、あ、あ……あぁ~~っっ……! ……っ……あっ!!」

 その箇所を押し込むように腕を動かせば、ルーチェの体が面白いくらい仰け反った。気持ちよかったようだ。魔力が色を変えている。腰を痙攣させ……脱力する。

「……はぁ……はぁ……」
「ルーチェ……すごく可愛い……」
(……アンジェちゃんの方が、ずっと可愛いのに……)

 手を伸ばし、柔らかなアンジェの頬に触れる。こんな美少女と、こんな関係になると思わなかった。だから困る。熱のある目で見つめられたら、どうしていいかわからなくなる。

 アンジェがルーチェの胸に顔を埋めた。その行為が甘えてと言ってるみたいで、とても愛おしくなり、優しく頭を撫でる。アンジェがルーチェの胸にキスをした。ルーチェの肩が揺れた。アンジェの手がルーチェの背中をなぞった。ルーチェの体が震えてきた。アンジェの唇がルーチェの首筋にキスをした。ルーチェが小さく声を漏らした。たまらない。

「ルーチェ」

 ルーチェが目を逸らす。

「目、逸らしちゃだめ。……寂しい」
「……くっついてるのに?」
「ん」
「……あたしも、キス、していい?」
「……して?」
「……うん」

 なんでこの子はこんなに自分を好きでいてくれるんだろう。自分はこの子の活躍に、実績に、嫉妬して不快になることもあるのに。

「……時々ね」
「ん?」
「アンジェちゃんに、嫌われたらどうしようって、おも、か、考えたり……するんだ」
「……」
「アンジェちゃん、その、好き嫌い、はっきり、してるから」
「……私も考えるよ。ルーチェに迷惑がられたらどうしようって」
「……アンジェちゃんが?」
「考えるよ。……嫌われたくないもん」
「あたしは……き、嫌いに、なら、な、ならない……けど……」
「そんなのわかんないじゃん。……うざいとか思われたら、ショックで何もできなくなりそう」
「……そんなことないよ?」
「うざくない?」
「だって、あたしなんかに甘えてくれるの……すごく嬉しいもん」
「……私も、ルーチェが甘やかせてくれるの……すごく嬉しい」
「……」
「喧嘩したら、ちゃんと話し合おう? 話し合えば、すれ違いも少なくなるだろうし」
「……吃音症だけど、大丈夫?」
「ダニエルで慣れてるから」
「……ふふっ」
「……もっと、ルーチェのこと知りたい」
「……あたしも、……もっとアンジェちゃんのこと、知りたい」
「……続きしよ?」
「あ、……うん」

 抱きしめ合い、体に指をなぞらせ、キスをして、触れて、くっついて、重なって、互いの欲を満たしていく。甘えたい。甘えられたい。相手に求める。相手が叶えていく。まるで共依存のよう。少し怖くなって、ルーチェの手が離れた。しかし、その手をアンジェが掴んだ。紺色の瞳がルーチェの瞳を離さない。アンジェが求める。

「ルーチェ」

 甘えていい?

「……いいよ」

 求められるのが嬉しくて、つい、頷いてしまう。アンジェを受け入れる。挿入するものはないので、重ねて、擦らせ合うだけ。だが、その行為でとんでもない快楽が体を駆け巡る。一度果て、二度果て、その後も、何度も、限界まで、果てられなくなるまで何度も繰り返す。

(も……、もう……)

 流石に体力の限界。

(無理……)
「ルーチェ……」
「あっ……アンジェ、ちゃん、もう……」
「あと一回だけ……」
「やっ、あたし、あっ、あ……ああっ……!」
「ルーチェ……もっと……」
「ひぅっ、ま、まって、もう、イけない、っ、から……あっ、……あっ……!」
「はぁ……、……ルーチェ……」
「も、もぉ……むりぃ……! ん、んんっ!」
「ルーチェ……はぁ……ルーチェ……」
「あんしぇ……ひゃ……ぁっ……! もぉ……! んん……!!」

 日は暮れていく。しかし、部屋から二人が出てくる気配は、まだない。


(*'ω'*)


 ミランダの屋敷に到着し、ルーチェが振り返った。

「あ、ありがとう。送ってくれて」
「……怒ってる?」
「……怒ってないよ」

 腰が痛くて湿布買ったけど。

「怒ってない。本当に」
「……なら、……よかった」
(アンジェちゃん、不器用な子だからな。ああいう時しか気持ち爆発できないもんね。……あたしが、ちゃんと受け止めてあげないと)

 自分に甘えてくるアンジェが、愛しくてたまらない。

「それじゃあ、き、き、気をつけてね」
「うん。ありがとう」

 せめて見送ろうとルーチェが立っていると、アンジェが動かない。ルーチェはきょとんとした。アンジェもきょとんとした。

「……あの、アンジェちゃん、……帰らないの?」
「ルーチェこそ」
「あの、……見送ろうかなって……」
「や、見送るのは、私が」
「で、でも、ほら、夜一人は、危ないから、せめて……」
「ルーチェが屋敷に入ってくれないと……帰りたくなくなるから……」

 ルーチェとアンジェが黙った。俯いた。二人とも、互いの足元を見る。ふと、互いの手が見えた。アンジェから手を伸ばし、ルーチェの手を握った。ルーチェも握り返す。顔を上げれば、同時に目が合った。つい、クスっと笑ってしまう。

「……今日、えっと、こ、今夜は、あたしが見送り、たいんだけど……」
「……帰りたくなくなるから、やだ」
「アンジェちゃん、お願い」
「ルーチェのお願いでも、これだけはやだ」
「そんなこと言われたら、……あたしも帰りたくなくなるから……」
「「……」」
「……いつまでやってんだい。お前達」

 ぎょっとしたルーチェが振り返ると、何とも呆れた目でミランダが自分達を見ていた。うぎゃっ! 慌ててアンジェの手を離し――アンジェがミランダを思いきり睨んだ。

「す、すみません! ミランダ様!」
「アンジェ、夕食の時間だよ。さっさと帰りな」
「……クソババア……」
「アンジェちゃん、今夜はもう帰って? ね?」
「ん。わかった」

 ルーチェにのみ、しゅんと落ち込んだ可愛らしい姿を見せる。

「チャットするね。ルーチェ」
「……うん。あたしもするから……」
「……好き」
「……ありがとう。あの……あたしも……」
「ごほん」

 ミランダの咳き込みに会話が中断する。ルーチェに聞こえない程度に舌打ちして、アンジェがもう一度ミランダを睨んでから箒に乗って飛んでいく。それをルーチェが手を振って見送った。そんな若者の二人を見て、ミランダが優しく忠告する。

「ルーチェ、……遊びに行くのはいいけどね、家事をサボったら追い出すよ」
「も、申し訳ございません。ただいまやります!」
「頼むよ。全く。……はぁ……」
(あのババア、今夜も今夜とて邪魔しやがって)

 アンジェが夜風に当たりながら頭の中で愚痴を吐きまくる。

(早く独り立ちできるくらいになりたい。ちゃんと稼げるようになれば実家出て……ルーチェと二人暮らし出来るのに……)

 目標を達成するためにはどうしたらいいか、彼女は知っている。

(魔法、練習しないと)

 これからの未来のため、アンジェの箒が自分の家へと向かって真っ直ぐ飛んでいくのだった。





 求めて求められ END
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