おとぎ話の悪役令嬢のとある日常(番外編)

石狩なべ

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リトルルビィ

クリスマスリースの奇跡(1)

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(*'ω'*)カップリング上、キッドとテリーは婚約解消しております。
 四章目以降の話です。キッドの正体を存じ上げない方はネタバレ注意です。
 ルビィ(11)×テリー(13)
 ―――――――――――――――――――――――――――――――















 12月25日。
 赤い服を着た魔法使いが、子供たちにプレゼントを配り回り、子供たちがそのプレゼントに喜ぶ日。
 皆がそわそわしだす、そんな冬の、年末前のロマンチック・イベント。

 そして――。

 12月23日、キッドの誕生日パーティーにて、リトルルビィがケーキをつまみながら、テリーに話を持ち掛けてきた。

「ねえ、テリー、明日のお昼って用事ある?」

 真面目な顔をするリトルルビィに、テリーがきょとんとして、首を振る。

「予定は特に無いけど」
「ちょっと」

 二人の横から、プレゼントを覗いていたキッドがむっとする。

「テリーってば、何言ってるの。明日のお昼は、夜に行われる王子様である俺の誕生日パーティーの準備をしなきゃ」
「キッドこそ何言ってるの。行くわけないでしょう」
「お前さ、勝負に勝って婚約解消したからって、冷たくない?」
「婚約解消したからこそ行かないのよ。もう関係ないわけだし。こっちのパーティーに来てあげただけでも感謝しなさい」
「傷つくなあ。俺とお前の仲じゃないか」

 キッドが怪しく微笑み、テリーにずいっと顔を近づける。

「明日の会場に来てくれたら、みんなの前でたくさん構ってあげるよ。ダンスして、その後ゆっくり夜空でも眺めながら二人のひとときを過ごすんだ。素晴らしい時間に、素晴らしい会場に、素晴らしい俺。お前も今度こそ俺に惚れるぞ。くくっ。我ながらいい名案だ。この俺が、口説いて、口説いて、口説きまくってやる」
「ほざけ」

 キッドを軽くあしらい、テリーがリトルルビィに振り向く。

「で? 何? リトルルビィ」
「明日、広場でちょっとしたイベントがあるらしくて。良かったら、メニーとテリーと行きたいと思ったんだけど」
「ん? 何それ」
「私も詳しくは知らないんだけど、クリスマス・イベントらしいから、良かったらどう?」
「何時から?」
「13時だったかな。それくらい」
「いいわね。帰ったらメニーも誘ってみる。どうせ暇だし、行きましょうよ」
「え、本当!? いいの?」
「ばかね。あたしがルビィの誘いを断ると思ってるの?」
「え、……えー……」

 リトルルビィが頬を真っ赤に染めた。ついでに口元をにやつかせ、マントの布で顔を隠し、もじもじする。

「…じゃ、じゃあ…待ち合わせは…」
「いいなー。クリスマスのイベント? 俺も行きたい!」

 キッドが笑顔で言った言葉に、テリーが横目でじとっと見る。

「あんたが来たら大問題でしょ。広場がとんでもないことになるわよ」
「……こういう時、王子って名乗り出たことを後悔するよ」

 キッドが顔をしかめて、ふーっとため息をつく。

「楽しんでおいで。二人とも」
「うん!」

 リトルルビィは嬉しそうに頷く。

「楽しみね! テリー!」

 わくわくした赤い瞳を、テリーへと向けてくる。

(帰ったら、メニーに相談しないと)

 嬉しそうなリトルルビィと羨ましがるキッドを眺めながら、テリーがケーキを頬張った。


(*'ω'*)


「13時から、広場で?」

 メニーの部屋の前で事情を話すと、メニーがこてんと首を傾げた。

「そう。リトルルビィに誘われちゃってね」

 テリーがメニーに微笑む。

「よかったら、一緒に行かない?」

 姉からの誘いに、メニーが笑顔で頷いた。

「うん! 行く!」
「暖かい格好しなさいよ。外は本当に寒いから」
「お姉ちゃんもね」
「うん。じゃ、そういうことだから」
「あ、お姉ちゃん」
「ん?」

 呼び止められたテリーが振り向く。

「何?」
「リトルルビィにプレゼントあげない? 隙を見て、サプライズで渡すの!」
「あら、悪くない提案ね」
「ふふっ。リトルルビィが喜ぶと思って! せっかくだしさ」
「……そうね。早めに出て、少し買い物して、ランチでも食べてから行きましょうか」
「賛成!」
「うん、じゃあ、寝坊しないように」
「お姉ちゃんもだよ!」
「あたしはいいの。サリアに起こしてもらうから。でも、あんたはだめ。ベックス家の三女として、ちゃんと自分で起きなさい」
「……お姉ちゃん、理不尽って言うんだよ。そういうの」
「結構」

 少し伸びた髪を払って、テリーがメニーの部屋を後にした。
 部屋には戻らず、そのまま真っ直ぐ開かずの間へ向かい、扉を開けてみれば、暖炉の前でドロシーが猫の姿で転がっていた。テリーが鼻から息を吐く。

「やっぱり」

(いると思った)

「明日、出かけるんだね」

 魔法使いの姿に戻ったドロシーが、にやにやとテリーを見つめる。テリーが肩をすくませ、暖炉の前にある椅子に腰をかけた。

「リトルルビィから誘われたのよ」
「いいじゃないか。三人で遊んでおいで」
「……なんでメニーが一緒なわけ? 行きたいなら二人で行けばいいのに。リトルルビィが一緒にって言うから誘ったけど、メニーとわざわざ昼間から二人で過ごさないといけないなんて、ああ、もうだめ。あたし、鬱になっちゃう!」
「え? 三人なんじゃないの?」
「……三人で出かける前に、リトルルビィにクリスマスプレゼントを買いましょーだって」

 あーーーーーーーやだやだやだ。

「リトルルビィのプレゼントを選ぶまではいいわ。でもね、それがメニーと、ってことなら話は別よ。さて、どうやって明日を乗り切ろうかしら……」
「君はまだそんなこと言ってるの?」
「言うわよ。いっぱい言ってやる。散々言ってやる。言ってるでしょ。嫌いなのよ。あいつ」
「君は成長がないね」
「メニーに言ってくれる? あいつ、気分がころころ変わって、本当に面倒くさいのよ。……それと比べて、リトルルビィはまるで天使だわ。いつだって、笑顔で照らしてくれるのよ。タナトスではあたしを助けるために、色んなことしてくれた。もう、感謝感激雨あられ。アリとクモだってあの子の善良な行いを見ているわ。あたしはね、あの子のことを思うと、心が穏やかになるの。全く。なんてことかしらね。このあたしがここまで心を癒されるなんて。あの子はどうしようもないくらいかわいくて心を癒してくれるレッドガールだわ」
「メニーにもそれくらいの愛情が欲しいものだな」
「この心は誰にも渡さないわ。これはメニーのものではなく、リトルルビィのものよ」

 テリーがでれんと頬を緩ませる。

「あの子ね、可愛いのよ。ドロシー。今日の話をしてあげるわ」
「聞きたくないんだけど……」
「あの子の誘いに、あたしが断ると思ってるの? って言ったら、ねえ、あの子なんて顔したと思う?」
「興味ないけど、聞いてあげよう。どんな顔してたの?」

 ふふん、とテリーが鼻で笑った。

「照れちゃって、顔真っ赤にしてたの。もじもじしちゃって、もう、ああ、可愛い」

 テリーがにやける。

「あたし、本当にあの子のお姉ちゃんになりたかった。毎日甘やかせたわ」
「テリー、その愛情を……」
「メニーなんかに渡すか!」
「まだ何も言ってないよ!」
「メニーの話なんてしないで! 今は、あたしの、可愛いリトルルビィの話をしてるのよ!」

(あたしの言うこと、全部聞いてくれるリトルルビィ)
(あたしのこと、テリー、テリーってしつこく呼ぶリトルルビィ)
(あたしのためなら、どんな状況でも動いてくれるリトルルビィ)

「ああ、まるで可愛い犬ね」

 ――リトルルビィが犬……。

「……」

 そっと、テリーが本棚からカタログ雑誌を取り出す。

「ん」

 ドロシーがぱちぱちと、瞬きした。

「何してるの? テリー」
「あの子がもしも犬だったら似合いそうな首輪を探そうと思って……」
「君、彼女を何だと思ってるんだ!」
「え?」

 テリーが首を傾げた。

「今さら何言ってるの?」

 決まってるでしょ。

「リトルルビィは、忠実なるあたしの犬よ!」
「人間扱いしてあげて!!」

 同情したドロシーが拳を机に叩きつけた。


(*'ω'*)


 12月24日。当日。

 一時間早く家から出た姉妹が雑貨店に入る。

 SOULD OUT!

「わあ……。……売り切れてる……」

 メニーが困ったままに眉をへこませた。

「今日だもんね……。……キッドさんの誕生日……」

(あのやろおおおおおおおお……!!)

 キッドの誕生日を祝うために、国中の人々が小さなものでもプレゼントをという気持ちから買いこみ、今日に備えているのだ。準備が遅れた人々は、当日の今日に買い求めているようだった。おかげで周りを見れば、棚中売り切れの札ばかり。

(畜生! こうなってるのは、全部キッドのせいだわ! あいつが王子って名乗ったりするから! むかつく! あの顔だけ良い王子様!! 婚約なんか解消して正解だった!)

「うーん……。何か役に立ちそうなものがいいよね……」

 メニーが棚にあるものを見て、考え込む。

「お姉ちゃんだったらどう思う? 一人暮らしで、何を貰ったら嬉しい?」
「……そう、ね」

 テリーが売れ残っているものを見て、考える。

(リトルルビィはまだ11歳。親はいない。保護者代わりはキッド。周りにいるのはキッドの部下の女性だけ……)

「……でも、11歳でしょ」

 赤ずきんの女の子と森に隠れる狼の絵が描かれたポーチを手に取り、テリーが口角を薄く上げる。

「これでいいんじゃない?」
「ポーチ」
「ええ。何でも使えるし、あって困らないわ」
「そうか。ペンケースにもなるし、生理用品の入れ物にもなるもんね」
「そうよ。女の子にポーチは必須なんだから」
「お姉ちゃん、リップクリームも買って行かない? ポーチの中に仕込んでおいて」
「あら、あんたにしては悪くない案だわ」

 ブランドもののリップクリームも手に取り、メニーが満足そうに笑った。

「リトルルビィ、喜んでくれるといいな」
「そうね」

(どんな顔するかしら)

 ――ええ? プレゼント、用意してくれたの……!?
 ――ありがとう。テリー。にぱぁー。

「うぐ!」

 テリーがその場に崩れ落ちた。メニーがぎょっと目を丸くする。

「お姉ちゃん!?」
「なんてこと……! 今、あたしの脳内に、太陽が現れたわ!」
「え? どういうこと? お姉ちゃん、一体何を見てるの!?」
「ダークサイドのあたしには、あの太陽は眩しすぎる!」

 ――テリー!

 その少女の笑顔を思い浮かべるだけで、眩しくて仕方ない。テリーが目を隠した。

「あああああああああ! やめて! そんな顔で笑わないで! 溶ける! あたし、溶けちゃうううううう!」
「お姉ちゃん! 大丈夫だよ! 何もいないし、お姉ちゃんは溶けないよ!」
「あたしが溶けたら、そのプレゼントをリトルルビィに渡すのよ! わかったわね! メニー!」
「お姉ちゃん! さっきから意味がわからないよ!」

 喚くテリーの肩を、真っ青になったメニーが必死に叩いていた。


(*'ω'*)


 噴水前に向かえば、すでに赤いマントを翻すリトルルビィが立っていた。

「メニー! テリー!」

 リトルルビィが待っていた二人を見つけ、ぶんぶんと、大きく腕を振る。メニーも笑顔で大きく腕を振る。

「リトルルビィ!」

 メニーが駆け寄り、リトルルビィと手を握り合う。

「ハッピー・クリスマス・イブ! リトルルビィ!」
「ハッピー・クリスマス・イブ! メニー!」

 メニーから、ちらっと覗いて。

「……ハッピー……クリスマス・イブ……。…テリー」

 リトルルビィは本日も、ぽっと頬を染め、テリーが顔をしかめた。

「あんた、何分くらいに来たの?」
「今来たばかりよ!」
「……本当?」

 テリーが訊くと、リトルルビィは微笑んで、頷く。

「うん! お昼ご飯食べて、ぱぱぱって来たの! 二人も何か食べた?」
「お姉ちゃんとちょっとランチに」

 メニーが眉を下げて、リトルルビィを見た。

「誘えば良かったね。リトルルビィ」
「いいのよ! 私も誘ったの急だったし! 気にしないで!」

 リトルルビィが笑顔で首を振り、メニーから手を離した。

「今日ね、広場で無料のクリスマスリース作り体験させてくれるイベントが開かれてるらしいの! せっかくだから、二人と行きたくて!」
「わあ、楽しそう!」
「メニー、クリスマスリース作ったことある?」

 メニーが首を振る。リトルルビィがテリーを見上げた。

「テリーは?」
「あるように見える?」
「テリーは何でも作れそう!」
「残念ながら、リースはないわね」
「なら、丁度いいね。三人で可愛いの作ろう? 装飾するものとかも、全部用意してくれてるんだって」

 リトルルビィがうっとりとため息を吐いた。

「それで、三人の素敵な時間を過ごすの……!」

(……なるほど、クリスマスリースね……)

 テリーがにやりと口角を上げた。

(これはベックス家次女として負けられない……!)
(年上として負けられない……!)
(何でもない顔して、すっごい華やかで可愛いの作ってやるわ!)

 作れたら、メニーとリトルルビィが、目を輝かせて、

『えー! お姉ちゃんすごい! こんな素敵なものを作れるなんて、もうお姉ちゃんを絶対に死刑に出来ないね!』
『テリー! すごおーーい!! 私、テリーのこと、みんなに自慢したーい!』

(おーーーーっほっほっほっほっほっ!!!)

「お姉ちゃん、早く行こう!」
「ん」
「わーい! 行こう行こう!」

 楽しそうにリトルルビィが微笑み、足を軽やかに進ませる。メニーも微笑んで、リトルルビィについていく。

(クリスマスリースを作るなんて、一度目の世界でも体験したことないかも……)

 クリスマスのテリーとアメリアヌは、いつもプレゼントの取り合いだった。
 靴下に入っているプレゼントは、どちらのものか、綺麗で、好みのものを欲しがった。
 これはあたしのものよと。
 これもあたしのものよと。
 リボンを破って、ドレスを取り合って、そんな姉妹を見て、二人の母親も呆れていた。
 メニーは、その光景を遠くから見ていた。
 豪勢で華やかだけのパーティーに行き、そこでもテリーは喧嘩をして、高笑いして、平和に楽しくクリスマスを祝う街の人たちを嘲笑って、階級の低い身分の人達を嘲笑って、楽しいと思ってた。

 今、思えば、

(寂しいクリスマスだった)

 だって、

(友達なんていなかった)

 こんな風に、一緒に出掛ける人なんて、家族以外いなかった。メニーは使用人で、クリスマスもそれは変わらなかった。

 唯一の親友のニクスも、いなかった。

「……テリー?」

 ――テリーがはっとする。メニーとリトルルビィが、テリーに振り向いてた。リトルルビィが不思議そうに首を傾げる。

「どうしたの? 考えごと?」
「……ええ。ちょっと」

 ちょっと。

「……考えごと」

 微笑んで、テリーが二人の背についていく。

「何でもないわよ」
「そう?」

 リトルルビィがテリーの横を歩き、手袋をきゅっと、握り締めてきた。

「っ」

 テリーが目を見開く。リトルルビィは、ただ隣で微笑む。

「雪が降ると、物思いにふけっちゃうよね」

 リトルルビィが優しくテリーの手を引っ張った。

「行こう。テリー、早く」
「ん」

 テリーの頭から、過去が吹き飛んでいく。

(……流石ね。リトルルビィ)

 その手を掴まれた途端、テリーの脳内には、リトルルビィの笑顔で埋め尽くされてしまった。

 テリーがリトルルビィに微笑む。

「……リトルルビィ、あとでキャンディあげるわ」
「え?」
「お姉ちゃん、私も食べたい!」
「……あんたは家に帰ってからよ」
「……理不尽だ」

 何も知らないメニーが、むすっとむくれた。


(*'ω'*)


 イベント会場に辿り着く。

『無料クリスマスリース作り体験』という看板が掲げられ、親子や子供が友人同士で集まり、一緒にクリスマスリースを作っていた。

 イベントスタッフに案内され、三人も、リースや、リースに飾る装飾品を手渡される。

「リボンの色はどれにします?」
「飾りはこれくらいの量の方がいいですよ」
「これは見本だよ。ほら、綺麗だろ?」
「はい。これを組み立てれば出来るからね。楽しんで!」
「よぉーし!」

(あたしの腕が鳴るわ!)

 三人が案内された席に着く。柳のリースや、巻き付ける草や、松ぼっくり、その他個人で選んだ装飾品を置く。テリーが腕の袖をまくる。

(ふふん! ゴージャスで贅沢なやつを作って見せびらかしてやる!)

「ねえ、お姉ちゃん」

 突然、メニーが提案してきた。

「これ完成したら交換しあわない?」
「ん、交換?」

 テリーが訊き返すと、メニーが頷く。

「そう。クリスマスプレゼントを回すみたいに、お姉ちゃんのは私に。私のはリトルルビィ。リトルルビィはお姉ちゃんに」
「はあ。なるほど」
「さっき受け付けで貰ったチラシに書いてあったんだけど、リースを大切な人に贈るとお願いが叶うんだって。ほら、ここ!」

 チラシの端に、確かに書かれている。

『手作りリースを大切な人に送ると、君の願いが叶うかも! 是非、大切な人に渡してあげてね!』

(企業の罠ね)

 これで客を取るという戦法か。

(どこの会社かしら。クリスマスグッズを販売してる所みたいだけど……)

「ね? いいでしょ? せっかくだし、交換しようよ。リトルルビィもいい?」
「うん。私は大丈夫!」

 リトルルビィがちらっとテリーを見る。

「テリーに渡すなら……」

 ぐっと拳を握った。

「一生懸命作る!」
「その意気だよ! リトルルビィ!」

 メニーが楽しそうに拍手する。

「プレゼント交換みたいで楽しくなりそうじゃない? ね?」

(……メニーなりの気遣いかしら)

 リースを交換しあうことにより、リトルルビィが姉妹からプレゼントを貰っても、一方的にならないというわけだ。プレゼント交換はリースの時点で成立する。それを察したテリーが感心して、舌打ちした。

(むかつく。でも流石だわ。メニー。あんた、やっぱり腹が立つくらい優しいわね)

「上等よ。ま、あたしの手にかかれば? この程度のリースなんてね、簡単に素晴らしいクリスマスリースに早変わりよ」
「お姉ちゃんセンスいいもんね」
「テリー、草の巻き方逆じゃない?」
「何……!?」
「あ、本当だ。内に巻いちゃってるよ。お姉ちゃん」
「……んん……?」

 テリーの手がぴたっと止まる。メニーがリトルルビィのリースを指差した。

「ほら、お姉ちゃん、リトルルビィの見て。外に巻かれてるでしょ」
「……ああ、本当だ。草がちゃんと外に出てる」

 テリーが作業をやり直す。

「これを……こうして……?」
「テリー、こうだよ」

 リトルルビィの器用な手ぶりに、テリーが顔をしかめる。

「ん、うん……?」
「お姉ちゃん、私がやってあげる」
「……」

 テリーはにこりと微笑んだ。

(必殺、無意識不器用力!!!)

 ここで発揮されるなんて!

(くそ! 最悪! もうやだ! あたし帰りたい!)

 メニーが器用に草を巻いていき、テリーに手渡す。

「はい」
「……ありがとう」

 テリーが笑顔でメニーにお礼を言って受け取り、じっとリースを睨みつける。

(まあ、いいわ。どうせ何があってもメニーに渡すんだし)

 ……

(メニーに……渡す……?)

 ――もし、酷いものを作ってしまったら、どうなるだろうか。

『お姉ちゃん、流石にこれはないよ! これを私にプレゼントするって言うの!? いらないよ! こんなの! こんなものしか作れないお姉ちゃんなんて、死刑にしてやる!!』

(メニー!! てめ、このやろーーーー!!)

「メニー、今日のテリーはなんだか忙しそう。顔は笑ってるのに、青くなったり赤くなったりしてるの」
「いつものことだから、気にしないで。リトルルビィ」

 リトルルビィとメニーが会話をする横で、テリーは一人で燃えていた。彼女なりに手を動かす。

(これをこうして……)

 リースを置いて、周りに飾る材料を並べていく。

(で……)

 並び終えて、

(それから……)

 ボンドをリースにつけていく。

(まずは……)

 松ぼっくりを手に取り、

(バランスを考えて……)

 貰った数を均等に設置する。

(あとは……)

 きらきら輝くクリスマスボール。

(それと……)

 赤いリンゴを飾り、

(それと……)

 綺麗で小さい作り物の薔薇を飾り、

(それと……)

 テリーがリボンを結ぶ。大きな蝶々の形が出来上がる。

「こうなると」

 ……どうだ?

(あ、そうだ)

 ここに鈴をつけておけば、

「……こんなもんかしら」

 テリーがリースを眺める。
 それなりのクリスマスリースが出来上がる。リボンを蝶々の形にしてボンドで止めたことから、リボンが際立つクリスマスリースが完成した。

(ま、『リサイクル』くらいには出せる代物でしょ)

「わっ。お姉ちゃんすごい!」

 メニーが驚きの声を上げる。

(あら、意外といい反応じゃない?)

 テリーがにやりと笑う。

「そんなそんな! あたしなんかよりも、メニーやリトルルビィの方がぁ……」

(うっ!!)

 メニーの手によって作られたリースを見て、びぐっと、テリーの目が痙攣した。

(売り物!?)

 手作りとは思えないそのリースの飾りつけに、目が見開く。

(こいつ、何から何まで器用ちゃんね……! むかつく……! むかつくむかつくむかつくむかつく!!)

「まーあ! メニーったらすごーい!」
「……あの、私も、こんな感じ……」

 ぽっと、リトルルビィが頬を染めて、リースを手に持ち上げた。

「わあ! すごい、リトルルビィ!」
「あーーー……」

 テリーが言葉を失う。

(クリスマスツリー!?)

 赤い服を着た魔法使いもびっくりしそうなクリスマスリース。星とクリスマスボールがいい具合に並べられ、草も、白い草を使っていることから、ホワイトクリスマスのような作り。雪で白く包まれたリースの草に、並べられた星と光達。

(リトルルビィ……! うぐ……! 侮れない……!)

 リトルルビィがクリスマスリースをテリーに差し出した。

「はい! テリー!」
「ん?」
「プレゼント!」

 俯いたリトルルビィが、目玉だけテリーに動かす。

「て、テリーを、イメージしたの……」
「クリスマスリースに、イメージとかあるの?」
「その……飾りを貰う時から、ずっと考えてたの……。テリーみたいなクリスマスリースを作りたいって」

 雪に包まれた光。
 ぬくもりのあるその存在。

「ど、どうぞ! 受け取って!」
「はい」

 テリーが受け取る。リトルルビィが息を止めた。

「っ」
「リトルルビィ、呼吸はしなさい」

 リトルルビィが呼吸を始めた。テリーが続けて、完成したクリスマスリースをメニーに手渡す。

「はい。メニー」
「わーい! 受け取ります!」

 メニーが喜び、自分のリースをリトルルビィに渡す。

「はい、リトルルビィ!」
「えへへ。ありがとう!」

 リトルルビィが受け取る。

「わぁい!」

 リトルルビィが嬉しさに笑みを零す。

「素敵なクリスマスリース!」
「リトルルビィのも素敵だよ」

 リトルルビィとメニーが話す傍で、テリーが渡されたクリスマスリースを眺めていた。

 綺麗な飾りつけ。星と、雪と、光。

(これがあたしね?)

 テリーが鼻で笑った。

(大袈裟な子)

 美しすぎるクリスマスリースから、テリーが視線を外す。

「さ、順番もあるだろうし、そろそろ行きましょう」
「そうだね。行こうか、リトルルビィ」
「うん!」

 三人が席を立つ。クリスマスリースが完成した事をイベントスタッフに伝えると、クリスマスリースをしまうための、トナカイの絵が描かれた紙袋が渡された。紙袋にクリスマスリースを入れながら、リトルルビィが紙袋に見惚れる。

「この袋可愛い。本当にプレゼント貰えたみたい」
「「……」」

 テリーがチラッとメニーを見ると、メニーもテリーを見て、二人が頷いた。メニーが声をかける。

「リトルルビィ、あのね」
「ん? 何? メニー」
「これ、私達から!」

 メニーがラッピングされたプレゼントを鞄から取り出し、リトルルビィに差し出す。それを見たリトルルビィが、ぽかんとした。

「え?」
「クリスマスプレゼント!」

 メニーが微笑むと、リトルルビィが目を見開いて、顔を青くした。

「え……? あ、え!? どうしよう! あ、あの、私、何も用意してなくて……!」
「クリスマスリース貰ったから、もういいよ」
「そ、それは私も貰ったから……」
「いいの! これは私達からの気持ち!」

 そう言って、メニーが無理矢理リトルルビィに手渡す。リトルルビィが困惑の表情で、メニーとテリーを見た。

「あの……でも……」
「リトルルビィ」

 テリーが腕を組んで目を向けると、戸惑うリトルルビィの目と目が合った。

「ソフィアの件で、あたしやメニーを助けてくれたでしょ? そのお礼よ」
「いや、でもあれは……私の独断で……」
「クリスマスだし、これからも仲良くしてねっていう、あたし達の想いなのよ?」

 テリーの目が鋭くなる。

「……まさか、受け取らないわけないわよね? あたしも選んだのよ? それ」

 テリーが脅すように、じいいいいっとリトルルビィを見続けると、リトルルビィが慌てて首を振って、プレゼントを握りしめた。

「も、貰います! 喜んで貰います!」
「よろしい」
「お姉ちゃん、流石……!」
「ほら、リトルルビィ。あたし達に何か言うことは?」

 リトルルビィがプレゼントを抱きしめる。ぎゅっと、大切に胸に抱き、メニーとテリーに顔を上げた。

「……あの、……ありがとう……」

 リトルルビィが微笑んだ。

「大切にする……」
「それでよし」

 テリーが頷き、メニーも頷く。二人の顔を見たリトルルビィの頬がふにゃりと緩んでしまう。

「えへへ……。やった……。……プレゼントだ……」
「プレゼントも渡したところで、どこか移動しようか。ここは寒いし、喫茶店とかどう? リトルルビィ」
「あ…」

 メニーの提案にリトルルビィが首を振った。

「ごめんね。メニー。このあと用事があって……」
「あ、そうなの?」
「うん……」

 リトルルビィが眉をひそめ、目を逸らし、低い声で呟いた。

「……キッドの誕生日パーティーの会場に行かなきゃいけなくて……」
「「あー……」」

 テリーとメニーの声が重なる。リトルルビィが肩をすくませ、テリーに目を向ける。

「テリーは行かないんでしょ?」
「当然」
「え、お姉ちゃん行かないの?」
「行かない」
「……お姉ちゃんが行かないなら、私、仮病使って行かないって言おうかな……」
「あ、メニーってば。テリーと同じこと言ってる」
「え?」

 リトルルビィの言葉にメニーがきょとんと瞬きをし、目を逸らすテリーに振り向いた。リトルルビィがくすっと笑う。

「ふふっ。血は繋がってないのに、本当に姉妹みたいね」
「当然! 姉妹ですから!」

 メニーがテリーっぽい真似をして、胸を張る。内心テリーが舌打ちするが、リトルルビィは心から微笑む。

「将来、私達もそういう関係になりたいね! メニー!」
「何言ってるの。リトルルビィ。ふふっ! 私達、もう姉妹同然に仲良しでしょ」
「ううん。そうじゃなくて」

 リトルルビィが、平然と答えた。

「将来、私、テリーと結婚するから」

 そうしたら、メニーは私の妹でしょ?

「私の方が誕生日先だし。メニーは早生まれの二月」

 ね? 私の方が、お姉ちゃんで、メニーは妹!

「だから、これからも仲良くしようね! メニー!」

 リトルルビィが、純粋で無垢な瞳を輝かせて、メニーを見つめる。――メニーは、にこりと微笑んで、口を開く。

「リトルルビィ」
「うん!」
「その話は、また二人の時に『ゆっくり』話そうね?」
「うん! そうね!」

 きらきらと赤い瞳を輝かせたリトルルビィが、テリーを見つめた。

「テリー! 良かったね! 許可が下りたよ!」
「許可してないけど」
「え?」
「え?」
「許可」
「してないけど」
「え?」
「え?」

(……寒いわね)

 テリーが空を見上げた。

(なんか雪降りそう……)

 噛み合わずに盛り上がる二人に、ようやくテリーが目を向けた。

(……リトルルビィが楽しそう)

 メニーと会話してる時のリトルルビィは、いつも笑顔だ。

(……)

 テリーが口を開いた。

「メニー、リトルルビィを送ってあげて」
「え、お姉ちゃんは?」
「あたしもう帰る」

 テリーが後ろに下がった。

「二人で楽しく話してなさい」
「え」
「テリー!」
「帰りはロイを呼ぶのよ。メニー」
「え、お姉ちゃん……!」
「じゃ、また」

 テリーが颯爽と振り向き、帰り道に向かって歩いていく。

(ああ、寒い寒い)

 用事は終わった。

(さあ、一人で帰りましょう)

 二人は同い年で仲良しだ。それに女子が三人一緒にいれば、一人がのけ者にされるパターンは数多い。嫌な思いをする前に帰った方がいいだろう。そう思ってテリーは足を進める。

(……思えば、最初からお邪魔だったかも)

 メニーと行けばいいのに、気を遣って誘ってくれたのかもしれない。ちらっと手元を見れば、リトルルビィから貰ったクリスマスリースの入った紙袋。

(……部屋の扉にでも、飾ろうかな)

 真剣に作っていたリトルルビィを思い出す。

(真剣に作ってたわね)

 自分をモデルにしたクリスマスリース。

(あたし、こんなに綺麗じゃないのに)

「ばかな子ね」

 テリーが無意識に、ふっと笑った。

「いいわ。大切に使わせてもらうわね」

 呟いて、振り向くことなく進ませた。











「……。……。……。……。……。……。……。……」
「ん? リトルルビィ?」
「……あのね、メニー。私、吸血鬼だから、耳がいいの」
「うん」
「……だから、あの……今……」
「え?」
「……ううん。……何でもない……」

 顔を真っ赤に染めたリトルルビィが、俯いた。

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