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リトルルビィ

キスしないと出られない部屋

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(*'ω'*)テリー誕生日企画。年齢設定はお好きにどうぞ。
 リトルルビィ→→→→→→→×テリー
 ――――――――――――――――――――


















 キスしないと出られない部屋に閉じ込められた。


「えーーーーーーーー!!!!」

 リトルルビィが叫んだ。

「そんな! キスしないと出られないなんて!」

 リトルルビィが目を輝かせた。

「なんて残酷で意地悪な部屋なの!」

 リトルルビィが鼻息を荒くした。

「テリーは、私が守る!」

 リトルルビィが頬を赤らめた。

「テリー!!」

 リトルルビィがテリーに唇を思いきり寄せた。

「むちゅううううううううううう!!」
「一体どうしてこんなことになったのかしらね」

 リトルルビィの頭を押さえつけて、テリーが扉を眺める。

(キスをしないと出られない部屋ね……)

 あたしの誕生日に、よくもこんな罠を仕掛けてくれたわね。一緒にいるのは小さな小さなリトルルビィ。

(この子はまだ子供なのよ。不安で泣いてしまうかもしれない)

 早めにここを出た方がよさそう。

「リトルルビィ、これは多分、誰かの悪戯よ」
「もう! 誰がこんなことしたのかしら! ぐっじょぶ!」
「リトルルビィ、この部屋から出る方法を考えるわよ」
「うん!!」

 リトルルビィがテリーの顔を掴まえて、ぐいっと自分の方へと寄せる。そして、自分はかかとを持ち上げ、背伸びをして、唇を思いきり寄せる。

「んちゅううううううううううう!!」
「そうじゃない!!」

 テリーの張り手がリトルルビィの顔に押し付けられる。

「むちゅっ!!」
「キスはしないわよ! 何考えてるの!」
「ええ……」

 リトルルビィが不満げに声を漏らす。すねたように唇を尖らせ、頬を膨らませる。

「だって、ここ、キスしないと出られないって、書いてるもん」
「あんたね、そうやって容易く唇をあげるんじゃないの」
「容易くじゃないもん!」

 テリーだから渡すんだもん!

「テリー、キスしよう? ね? ちゅってするだけ!」
「あんたね、そうやって簡単に唇をあげるんじゃないの。キッドみたいにキス魔になっても知らないわよ」
「ならないもん!」

 テリーだけだもん!!

「むううううううううう!!」

 怪人風船ほっぺたは、今日も健全である。

(さて、どうしようかしらね……)

 まさか、リトルルビィと閉じ込められることになるとは思わなかった。

(何とかメニーに連絡手段をとる方法はないかしら……)

 はっ。そうだ。

「リトルルビィ」
「ん?」
「あんた吸血鬼でしょ。テレパシーとか出来ないの?」

 出来るなら、キッドに送って。

「あたしのプレゼントをいそいそ包装してる暇があるなら助けに来いって」

 あとソフィアにも送って。

「この部屋からあたしとリトルルビィを盗み出せって」

 あとメニーにも送って。

「ガラスの靴の前に、ここからあたしとあんたを救い出せって」
「ガラスの靴? なあに? それ?」
「世間話はあとよ。さあ、早く送るのよ」
「無理だよ。テリー。私、吸血鬼だけど、テレパシーなんてすごい技、身に覚えがないの」

(ぐっ!!)

 文句を言いたいが、テリーは言葉を飲み込む。

(仕方ないわ。だってこの子は元々人間だもの)

 リトルルビィには何も言えない。言いたくない。

(この子には、健全でいてほしい)

「そうだわ!」

 テリーは思いつく。

「テレパシーなんか使わなくても! リトルルビィは吸血鬼じゃない!」

 吸血鬼の底力見せてやれ!

「あんたの供えられた人間には出せない怪力で何とかなるかも」
「おお!」
「リトルルビィ、扉を叩いて壊せる?」
「任せて!!」

 リトルルビィが目を光らせる。

「テリーが言うなら、やってみる!」
「リトルルビィ!」

 なんっっって良い子なの!!

(どこぞの腹黒王子と元怪盗と馬鹿妹といんちき魔法使いとは大違い!)

 テリーが端で様子を見る中、リトルルビィが義手の手にパワーを溜める。

「せーの!」

 リトルルビィが拳を入れる。

「えい!」

 ばごん!

「……」

 扉は壊れない。リトルルビィがぽかんとする。テリーがぽかんとする。試しに、もう一度叩いてみる。

「えい」

 ばごん!

「えい」

 ばごん!

「……」

 リトルルビィが叩きまくる。

「えいえいえいえいえいえいえいえい」

 ばごっどがっどんっばごごどーんどどどどどどばばばばばごごごごごごん!

「うーーーーーん?」

 扉はへこむが、全く部屋から出られない。

「テリー……」

 リトルルビィが泣きそうな目でテリーに振り向いた。

「ごめん……。出られない……」
「いいのよ! リトルルビィ! あんたはよくやったわ!」

 テリーがリトルルビィを抱きしめて、よしよしと頭を撫でる。

(ひゃっ! テリーのおっぱい!)

 ふわふわおっぱいが自分の胸にくっつく。

(テリーの匂い!)

 テリーの血の匂いが、彼女の首筋から感じる。リトルルビィがじっと、テリーの腕の中で大人しくなった。

「すーはーすーはーすーはー……」
「チィッ! 思った以上に頑丈みたいね……」

 テリーが扉を睨みつける。

「リトルルビィ、こうなったら扉の横の壁を狙ってみない?」

(ああ、テリーの匂い……)

 甘い甘い血の匂い。

(どうしよう……。この匂い好き……)

 鼻をくんくん動かせば、すぐに嗅げるその匂い。

(あれ、なんか)


 ――飲みたくなってきた……。


(もう、私ったら、駄目駄目! テリーは今日お誕生日で、真剣にこの部屋から出たがってるのに!)

 血を飲むなんて。

(あれ、ちょっと待って)

 今は、テリーと二人きり。

(あれ……)

 邪魔者は誰もいない。

(……)

 リトルルビィの中の吸血鬼が、囁く。

「飲んじゃえ」
「だめ」

 リトルルビィの中の人間が、囁く。

「我慢しないと」
「飲んじゃえ」

 リトルルビィの中の吸血鬼が、再び囁く。

「飲んで、テリーを自分のものにしちゃえばいいんだ」
「だめよ」
「だって、せっかく二人きりなのよ? 邪魔者は誰もいないのよ?」

 キッドもソフィアも親友のメニーもいない。

「二人きり」

 テリーと私の二人だけの世界。

「飲んで」
「だめだよ」
「飲んで」
「だめ」
「飲みたい」
「テリーが怖がっちゃう」
「じゃあ」

 人間と、吸血鬼のリトルルビィが微笑んだ。

「「テリーに決めてもらおう」」

 リトルルビィの赤い目が、テリーに向けられる。

「壁を殴れば最悪穴が出来て、そこから出られるかも。ほら、人気書籍サイレントヒルシティシリーズの4番目覚えてる? あれもこういう構造の壁だった気が……」
「……テリー……」
「ん?」

 テリーが見下ろす。汗を流し、頬を赤らめたリトルルビィの赤い目が、眉をへこませてこちらを見ている。

(ん?)

 あら、なぁに? そのお風呂上がりのような顔。どこかで見覚えがあるような……。

「……」
「テリー……」

 こくん、と、リトルルビィが喉を鳴らす。

「あの、なんか……エネルギー使いすぎちゃったみたいで……」

 リトルルビィがテリーの腰を抱く。

「……飲みたい……」

(やっぱりかーーーーーー!!)

 テリーの血の気が下がる。

「リトルルビィ、あれは? 血の代わりのドリンクは!?」
「部屋に置いてきちゃった……」
「おま、ばか! なんで置いてきたのよ!」
「閉じ込められると思ってなくて……」

 猫のように、犬のように、リトルルビィがテリーの首に顔を摺り寄せる。

「テリー……」

 甘えてくるように、すりすりと摺り寄せてくる。

「ねえ、だめ? 飲んじゃだめ?」
「駄目!」

 テリーが一蹴。リトルルビィが少しむくれる。

「むう」
「むくれても駄目」

(痛いんだもん)

 テリーが扉を睨む。

「ここから出れたらあんたの家に真っ先に帰って、ドリンクを飲んで」
「んー……」

(テリーの血が飲みたいのに……)

 リトルルビィがテリーを抱きしめたまま離さない。

(テリーの匂い……。……甘い……)

 テリーは平然とした顔でリトルルビィの頭をぽんぽんぽんぽんと撫でる。

「リトルルビィ、今だけ頑張ってちょうだい。ほら、あそこの扉見える?」
「んぅ……」
「そうだわ。血に飢えてる今ならいけるかも。リトルルビィ、生き続けるために本能を呼び覚ますのよ! いけ! やれ!! 壁に穴を作るのよ!」
「……」

 リトルルビィの中の吸血鬼が囁く。

「手加減してみたら?」
「そうね」

 リトルルビィの中の人間が囁く。

「手痛くなっちゃうし、手加減していいと思う」
「そしたら、テリーも血を飲ませてくれるかも」

 だって、

「「私はまだ、小さな女の子だから」」
「えい」

 ぺち、とかなり手加減した義手で壁を叩く。もちろん壁に穴は開かない。テリーがうなだれる。

「うーーーーーん……」
「テリー」

 リトルルビィの赤い目がきらきら輝いてテリーを見つめる。

「テリーが血を飲ませてくれたら、元気百倍になるかも……」
「大丈夫よ。あんた、血くらい飲まなくたって何とかなるわ」

 テリーは視線を逸らす。

(リトルルビィが本気で血に飢えた時の姿を知ってるから思うけど)

 この甘えてくる状態、これ、まだ大丈夫な方。

(むしろ、結構余裕があるやつ……)

 リトルルビィ、あたしは騙されないわよ。そう思って、テリーはリトルルビィの背中をぽんぽんぽんぽんと撫でる。

「リトルルビィ、頑張って。早くこの部屋から出るわよ」
「……んー……」
「ああ、そう。分かった」

 これでどうだ。

「この部屋から出て、あんたの家に着いたら、たぁあああくさん、甘やかせてあげてもよくってよ」
「……本当?」
「お泊りは無理だけど、門限ぎりぎりまでいてあげてもよくってよ」
「本当?」
「一緒にお風呂に入ってあげてもよくって」
「本当!?」
「それは言い過ぎた」

 とにかく、

「部屋から出れたらいいわよ。甘やかせて……」

 どごん!!!!!!

 リトルルビィが壁に穴を開けた。目はきらきら輝いている。

「これでいいのね!」

 リトルルビィの赤い目がまっすぐテリーを見つめる。

「テリー!!」

 リトルルビィがテリーに飛びついた。

「テリーーーーーー!!」
「ちょおおおおおおお!!」

 テリーが押し倒される。リトルルビィが上から鼻息を荒くさせ、テリーにかぶさる。上から小さな鼻をテリーの首に押し付けた。

「テリー……! はあ、くんくん! テリーの匂い……テリーの血……」
「でかしたわ! リトルルビィ! もういい! 壁に穴が開いたわ! これで出られる! さあ、行くわよ! 出るわよ! 帰るわよ! 早くあたしの誕生日ケーキを食べに……」
「それは、またあとでね」

 リトルルビィがにっこり笑う。テリーの血の気が下がる。

(おっと)

 こいつはいけねえやつだぜ。リトルベイビー。

「リトル」
「かぷ」

 首筋を噛まれた。

「いっ!」

 痛い!!!!!

「リト!」

 じゅう、と首から血を吸われる。

「ひゃ!」

 びくっ、と体を揺らして、テリーの手がリトルルビィの赤いマントにしがみついた。

「ちょ、リト、ルビィ、ま、まっ……!」

(ああ、テリーの血……)

 甘い甘いミルクのよう。
 ふわふわして柔らかい、白パンのよう。

(柔らかい……)
(甘い……)

 中毒になってしまいそうな、テリーの味。

(テリー)

 ちゅー、と吸っていく。

(テリー)

 ぺろぺろと舐めていく。

(テリー)

「……んっ」

 テリーが顔を背け、息を漏らす。長い、熱い吐息が吐き出される。

(この感覚、慣れない……)

 赤ん坊におっぱいを飲ませる母親のような感覚。その好意を慈しんでしまうような感覚。

(……慣れない……)

 血が巡って、頭がぼうっとしてくる。

(やばい……、ぼーっとしてきた……)

 ふと、リトルルビィの手が自分の手を握っていることに気付く。

(あ……手……)

 リトルルビィの生身の手が、自分の手に重なり、指を絡ませている。

(甘えん坊だものね……)

 テリーも指を絡ませる。すると、リトルルビィの指が、ぴくりと動いた。

「ん……?」

 リトルルビィの唇の動きが止まる。思わず、テリーが声を漏らす。

(ん? どうかした?)

 ちゅう。

「っ」

 リトルルビィの舌が、傷口に動き出す。

 ちゅ、ちゅ、ちゅ、

(ひゃっ)

 荒々しい舌に、テリーの背筋がびくりと揺れてしまう。

 ちゅ、ちゅ、ちゅ、

「る、ルビィ、……ま、って……」

 ストップをかけるが、リトルルビィが止まらない。

 ちゅ、ちゅ、ちゅ、

「あ、ま、ルビ、ま、うんっ、ルビ、ちょ、ま……」

 ちゅ、ちゅ、ちゅ、

「あ、それ、だめ、ルビィ、ねえ、一回、ね」

 ちゅ、ちゅ、ちゅ、

「あ、ま、あ、んっ、あ、あ……」

 ちゅ、ちゅ、ちゅ、

「ルビィ、ねえ、待って、あの、あの、えっと、あの」

 ちゅううううううううう。

「~~~~~~~~っっっっ!」

 テリーの腰がびくん、と揺れた。体が強張る。汗が噴き出る。呼吸が乱れる。頭がふわふわしてくる。快楽が押し寄せてくる。

(……やばい)


 何も、考えられない。



 そこで、リトルルビィがはっと我に返った。

「あ!!」

 リトルルビィがはっと口を離した。

「やっちゃった!」

 リトルルビィがはっと下で伸びてるテリーを見下ろす。

「きゃ! テリー!!」

 ぞっと顔を青ざめ、正気に戻ったリトルルビィが唾を溜め、テリーの首筋に垂らす。すると、みるみる傷口がふさがっていく。テリーの肩が、ぴくりと揺れる。

「……ん」
「テリー! ごめん! 大丈夫!?」

 ぎゅううううううううう! と上から抱きしめる。

「はあああ! 私、なんて悪い子!」

 テリーの血の誘惑に負けちゃうなんて!

「美味しくいただきました! ご馳走様!」

 てへぺろ!

「テリーーーー! しっかりしてぇーーー!」
「ううううう……」

 テリーが青ざめながら、リトルルビィの腕をぽんぽんぽんぽんと撫でる。

「リトルルビィ……早く……部屋から出て……キッドのところに……」

 け、献血……。

「くらくらする……」
「おっけー! 任せてテリー!」

 テリーの血を飲んで、リトルルビィは元気百倍。テリーを大切に腕に抱える。リトルルビィがテリーの顔を覗き込んだ。

「テリー、ごめんね。本当にごめんね……」
「大丈夫。大丈夫だから……早く献血……」
「ちょっとだけなんだけど、少しエネルギー分けてみるね!」
「え?」

 リトルルビィがテリーの顔に顔を寄せる。

(えっ)

 唇が、唇に押し付けられる。

「んっ!」
「っ」

 唇が重なる。
 途端に、体がふわりと、少しだけ軽くなった気がした。

「ふう」

 リトルルビィが唇を離した。

「ね、ちょっと軽くなったでしょう?」
「……リトルルビィ」
「ん?」
「今、キス……」
「キス?」

 リトルルビィが首を振った。

「違うよ。テリー。今のはキスじゃなくて」

 人工呼吸ってやつよ!

 笑顔で言うリトルルビィに、テリーが顔を青ざめた。

「あんた!! 誰にそんなこと教わったの!」
「キッド!」
「あいつかぁあああああ! あんたの可愛い唇にキスをしたのもあの不届きものかぁああああああ!!」
「テリー、キスじゃないよ」

 これは、

「人工呼吸よ!」
「ああ! 可哀想に!!」

 リトルルビィの頭をなでなでなでなで。

(ひゃっ! テリーに、頭なでなでしてもらっちゃってる!)

 でれんと、リトルルビィの頬が緩み、リトルルビィが歩きだす。部屋から出て行く。テリーの足がゆらゆらと揺られる。

「テリー、せっかくのお誕生日なのに、災難だったね」
「全くよ! 誰よ! こんなところに変な部屋を設置した馬鹿な奴は!」
「献血しに行かないとね。血を飲んじゃってごめんね。テリー」
「いいのよ。あんたは悪くないわ。部屋からあたしを出そうとしてくれたんだから」
「えへへ……」

 リトルルビィがテリーに微笑む。

「テリー」
「うん?」
「……お誕生日おめでとう」
「……ん」

 テリーの手が、またリトルルビィの頭を撫でる。

「ありがとう」
「プレゼント、いっぱい用意してるの! 気に入ってくれるといいな!」
「あんたからのプレゼントは何だって受け取るわ」
「だめ。気に入ってもらわないと、意味がないの!」
「ああ、はいはい」

 呆れたように微笑むテリーの顔にも、つい、リトルルビィは目を奪われてしまう。

(また、大人になっちゃった)

 また一歳年を取ってしまった。

(追いつけない)

 自分も成長するとはいえ、まだ小さいまま。

(追いつけない)

 リトルルビィが、ふと、顔を寄せる。

「ちゅ」

 テリーの首筋に、キスをする。

「っ」

 テリーがびくりと、体を強張らせる。

「な、何?」
「何となく!」

 なんとなく、キスが、してみたくなっただけ。

(テリー)

 リトルルビィがテリーを見つめる。

(……大好き)

 愛しく、恋しく、自分の腕に大切なテリーを抱え、キッドの家に向かうべく、リトルルビィはまた一歩ずつ歩き始めた。








 キスしないと出られない部屋 END
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